女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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ツギノ町編 第二章 色んなやつら、襲来

魔王様ってぶっちゃけ友達少ないですよね

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 魔王城と呼ばれるその城は、険しい山に囲まれた地にそびえている。
 周囲は生命が存在する事すら叶わぬ環境……かと思えば、実際はそうでもない。
 モンスターを始めとして様々な動物が思い思いに暮らしていた。

 宵闇と共に静けさにその身を包んだ魔王城からは松明の灯りが漏れる。
 ぽつぽつと光を発する窓の数はそんなに多くはなかった。

 そんな魔王城のとある一室。
 部屋主の趣味なのか、全体的に薄暗い。

 壁には巨大な鏡が設置されているが、そこに映っているのは明らかにこの部屋の風景ではない。
 どこかの草原を歩く一組の男女だ。

 鏡をソファに座って観ている一人の男が、悔しそうに顔を歪めた。

「んもぉ! また邪魔されちゃったじゃん! 何なのあいつ!?」

 男はそう言いながら横に視線を向ける。
 そこには黒い馬に乗り、全身に黒い鎧を纏った男がいた。
 しかしその男には頭部がない。
 見れば、それは男が自身の右手で抱えていた。

 鎧と同じ色をした兜に覆われたその頭部から声が発せられる。

「魔王様。あれはモンスターテイマーズという精霊部隊の者ではないかと」
「……まあ、そうだろうね……」

 魔王は腕を組み、何事かを思案し始めた。
 そして再び首を横に向けて首無し男に語り掛ける。

「ところでウォード。君、部屋の中にいる時くらい馬から降りたら? ていうかよくここまで入って来れたな」
「いくら魔王様の命令でもそれは出来ません」
「何で?」
「馬が何か悪い事をしましたか?」
「いやだって……さっきからブルル……とかヒヒィン……とかうるさいじゃん」
「はあ」
「それににおいとかも気になるしさ」
「はあ」
「…………」

 ウォードと呼ばれた男は話をしている間も不動だ。
 一向に命令を聞く気配が見えない部下に、魔王は頭を抱えた。

「まあいい。私は休むから、部屋から出て行ってくれ」
「えっ……もうお休みになるのですか……」
「どうした。俺に何か用事でもあるのか?」
「いえ、この後暇になってしまうのでどうしようかと」
「友達とかと遊んだりすればいいだろう」
「私は友達が少ないので……そもそもデュラハン自体そんなに多くありませんし」

 そう言ってからウォードは、頭部を魔王の方に向けては戻し、向けては戻しを繰り返している。
 恐らくは「チラッチラッ」のつもりなのだろう。

 魔王はため息を吐きながら言った。

「わかったわかった。後でチェスでもしてやるから、今は休ませてくれ」
「かしこまりました」

 ウォードは扉の前まで行くと一旦馬から降りた。
 扉を開けると先に馬を通す。
 そして自身も通ると、ウォードは静かに扉を閉めた。

 ようやくウォードが出て行った事を確認すると、魔王は立ち上がる。
 長机まで歩いて行って引き出しを開けた。
 その中から小さい鏡を取り出すと、それに向かって喋り始めた。

「おい、聞こえるか」

 それだけ言うと魔王は鏡を持ったまま机の椅子に腰かける。
 少しの間があった後、鏡に若い女性の顔が映し出された。

『何の御用でしょうか?』
「女勇者の側にモンスターテイマーズの精霊が張り付いているようだが?」
『はい。それはこちらでも把握しております』
「だったら何故放置してるんだ」
『放置しているのではなくどうにも出来ないのです。彼は精霊が成長出来る限界レベルのステータスやスキルを持っていますから、どうにかしようと思って出来る様な強さではありません』
「…………」

 魔王は難しい顔をして鏡から視線を外した。
 対して女性の表情には終始変化がない。

『どうして貴方がその様な事を気に掛けておいでなのですか?』
「だって不公平じゃないか」
『不公平?』
「俺が勝つか勇者が勝つか。そんな事はこの世界の誰にもわからないはずなのに、勇者にだけ強い味方がつくのはおかしいだろう?」
『…………』

 魔王には魔王軍幹部という非常に強い味方がいる。
 正直何言ってんだこいつ子供かよと女性は思ったがツッコミは入れないらしい。

「それにほら。あの女勇者って結構可愛い顔してるし、精霊がナンパ目的で近づいている可能性もあるだろ?」
『…………』

 実際にほぼその通りだからか何なのか。
 女性は鏡の向こうで沈黙を保っている。
 魔王はそれを肯定と受け取ったのか、言葉を重ねていった。

「だからさ、不当にこちらの邪魔をされても困るし。女勇者の側にいるモンスターテイマーズの精霊を何とかしてくれ」
『善処いたしましょう』

 そこで会話は終わり、鏡は何も映さなくなった。
 魔王はどこか納得のいっていない表情で腕を組み、何事かを考え込む。

「……まあいいか」

 独白してから、魔王は長机の上にあったベルを鳴らす。
 そして部屋の中央にあるテーブル付近まで歩み寄った時だった。
 ウォードの乗っていた馬が単身で扉を破って部屋に入り、そのままの勢いで魔王に突進を仕掛けて来た。

 数少ない調度品をも全て蹴散らして進む馬。
 魔王はそれを止めようとするも叶わず、吹き飛ばされて壁にぶつかる。
 すると馬の後を追う様に部屋に入って来たウォードが悲鳴をあげた。

「ああっ!! 魔王様!! 申し訳ありません!!」

 立ち上がりながら、魔王は舌打ちをする。
 そしてウォードを睨みつけながら言った。

「どうして馬だけが入って来た!!ていうかお前、いつでも馬に乗っているところにこだわりがある的な雰囲気を漂わせていただろうが!!」
「それはあれです、馬に乗っていた方がかっこいいからです。私と馬だけの時は正直いつも降りてるんですよ。それで通路を歩いてたら、魔王様に呼ばれた喜びのあまりこいつが一人だけ突っ走っていったんです」

 どうやらあのベルはウォードを呼び出すためのものだったようだ。
 馬は鼻を魔王にこすりつけていて、随分と懐いている様に見える。
 魔王は馬が苦手なのか、顔をしかめて一歩後ずさった。

「くっ……とりあえず馬をどうにかしろ」
「かしこまりました。ほらチェンバレン! おいで!」
「ブルヒヒヒン!」

 どうやら馬の名前はチェンバレンというらしい。
 チェンバレンは主の方に歩み寄って行った。
 馬の鼻を撫でながら、ウォードが口を開く。

「それで、どういったご用件でしょうか?」
「いや、やはりチェスがやりたい気分になったからな」
「私は別にもうそこまでやりたくはないのですが……」
「いいからやるぞ!」

 そう言って魔王は長机まで戻り、引き出しからチェス用具一式を取り出す。
 どうやら準備は魔王がやるようだ。

 テーブルまで行ってソファに腰かけ、チェスの用意を済ませる。
 顔を上げると、ウォードが再び馬にまたがっていた。

「それでは始めましょうか」
「いや待て、お前馬に乗りながらチェスをする気か?」
「だめですか?」
「だめだとかそういう問題ではなく出来ないだろうが」
「やる前から諦めていては何も掴み取れませんよ?」
「かっこいい台詞みたいな事を言うな」

 ウォードは肩をすくめてから、渋々馬を降りた。
 魔王はその仕草に少し苛立った様子を見せながらも駒を動かす。
 テーブルを挟んで向かい合って座る形でチェスが始まった。

 数分も経つと、既に勝敗は決していた。
 魔王はチェスがかなり弱いらしく、悔しそうな顔で盤を見つめている。

「ぐぐぐ……ウォード、何でお前はこんなにもチェスが強いんだ」
「う~ん、そうですね。駒にはそれぞれ役割がありますから、使い方も違うんですよ。そう言った事を考えて戦略を……」

 ウォードの言葉を受けた魔王は、何かに気付いた様に顔をあげた。
 その表情は驚きと期待に満ちている。

「おい。お前今何て言った?」
「魔王様ってぶっちゃけ友達少ないですよね、と」
「余計なお世話だ。というかそれはお前も同じだろうが」

 言い合いをしている間にもチェスは続いている。
 盤上における魔王の命は風前の灯ではあるが。

「駒にはそれぞれ役割があるから使い方も違う、ってとこですか?」
「そうだ、駒にはそれぞれ役割が……使い方が……そうか、ふっ、ふはははは!」
「チェックメイト」

 ウォードの宣言を無視して魔王は額に手を当てて身体を揺らす。
 そして次の瞬間天井を仰ぎ見ながら狂ったように笑い叫んだ。

「わかったぞ! これで女勇者もあの精霊も! 合わせて息の根を止めてくれるわ! ふはははは!」
「ブヒヒヒヒィーーーーーーン!!!!」
「つられてチェンバレンまで興奮してるんで、ちょっと落ち着いてください」

 こうして魔王城の夜は更けていくのであった。
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