女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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ツギノ町編 第二章 色んなやつら、襲来

……知りたいっす

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「これで準備も万端だね!」

 意気込むティナの鼻息は荒い。
 町の出入り口に近付くにつれ、テンションもどんどん上がっている様だ。
 
 ふと大通りを行く馬車とすれ違った。 
 この町に来た日、ティナが馬車を見ながらはしゃいでいたっけ。
 そのうち馬車にも乗せてやりたいな……。

 出入り口に到着。
 申し訳程度に立っている門番の横を通って町を出る。

 下界において門番の仕事は少ない。
 モンスターは街に入る事が出来ないからだ。
 
 神々によって作られた結界が街の周辺に張られていて、その内側に入ろうとすると何か見えない壁の様なものに当たり、「あれ? 何かここから先に進めなくね? まあいいや」となって帰って行く。
 だから門番の仕事は怪しい人間がいないかと見張ったり、欠伸をしたりするくらいのものだ。

 ちなみにその結界はモンスターだけじゃなくて人間にも認識は出来ないから、人間はモンスターが街に入って来れないのを当然の事の様に思っている。
 
 呑気なものだなと思うかもしれないけど、人間に罪はない。
 悪いのはそういう仕組みを作ったゼウスのジジイなのだから。
 別に悪くはないか……。

 もう見慣れた、ツギノ町を囲む草原地帯をのんびりと歩く。
 ティナは今日の戦いの事ばかりを考えているのか、口数が少ない。
 気のせいか、その透き通った瞳には炎が宿っている様にも見えた。

 街道から少しだけ外れたところにスライムがいた。
 するとティナがすかさずそちらに寄って行った。
 それからこちらを振り返って聞いて来る。

「ねえねえ、スライム倒して行ってもいいかな?」
「ああ、予行演習か?」
「うんっ」

 返事をすると、ティナはこんぼうとおなべのふたを取り出す。
 そう言えば盾は新しいのを買ってなかったな。
 また明日にでも買い物に行くか。

 ティナはスライムに駆け寄ると、迷いのない動作でこんぼうを振り下ろす。

「やぁっ」
「ピキーッ」

 スライムは一撃で沈んだ。
 身体が一瞬だけ光ると、粒子状になって空気に溶けていく。
 こちらを振り返ったティナの顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「わあっ、ジン君見てくれた? 一撃で倒せたよっ!」
「もちろん見てたぜ。ティナも強くなったなあ」

 そう笑顔で言ってやると、照れ臭そうにはにかむティナ。
 スライムはHPが少ないから、ひのきのぼうをこんぼうに変えただけで、一撃で倒せるようになったりする。
 これならゴブリンも倒せそうかな。

 ティナは気をよくしたのか、遭遇する度にスライムを倒していった。
 そんな感じでゆっくりと進み、今日の現場となるソノヘンノ村に到着。

 今回のクエストは、依頼主の村長から条件を達成した事を証明する書類をもらって、それをギルドに渡す事で完遂となる。
 その為一度挨拶がてら村長のところに顔を出し、スライムやゴブリンを討伐し終わったら確認してもらう手はずになっていた。

 村に入り、歩いている住民に適当に声をかける。
 主婦っぽい見た目をしているおばちゃんだ。

「あのさ、村長の家がどこにあるかを知りたいんだけど」
「…………」

 こちらを睨みながら無言で通り過ぎて行った。
 あれ、俺何か悪い事でもしたかな……。
 横にいたティナに聞いてみる事にした。

「俺、何か悪い事でもしたか?」
「ううん」

 ティナは首を横に振って否定する。
 そして少し考える仕草をして、こちらの顔色を窺いながら言った。

「でも、敬語は使った方がいいかも……」
「敬語?」
「うん。ほら、初めて会った人からいきなり友達みたいに話しかけられるの、嫌がる人だっているじゃない?」
「そういうもんなのか」

 小さい頃から同じ年の友達とばかり絡んでいた俺には、あまり敬語を使う習慣がなかった。
 加えて、さすがに一応は神であるゼウスに敬語を使わないのはしょっちゅう注意をされてはいるものの、例えば年上の精霊とかを相手に敬語を使わないからといって文句を言われた経験はない。
 人間と精霊の文化や習慣の違いというのもあるのかもしれないな。

「私はジン君が優しい人だって知ってるけど、初めて会った人にはそういう事ってわからないから……ね?」

 ね? の部分で可愛らしく首を傾げるティナ。
 敬語を使いなさいと、優しく注意してくれているのだろう。
 ティナが年上のお姉さんっぽく見えてドキッとした。
 
 ちなみに俺は人間でいえば17歳にあたる。ティナより一つ年上だ。
 思わず照れてしまい、そっぽを向きながら答えた。

「わかったよ、ティナがそう言うなら」
「ふふっ、ありがと」

 その声に視線だけを正面に戻す。

 すると微笑むティナが目に入り、時が止まった。
 突然どこかから聞こえる教会の鐘の音。
 それは天使の笑顔と共に俺の脳を揺さぶって来た。

 脳……? そうか、これは俺の脳内で響いているのだ。
 鼓動が高鳴るあまり、ティナと結婚し、更にはその後の未来まで思い描こうとしていた。
 この鐘の音は、恐らく俺とティナが結婚式を挙げる際の会場のものだろう。

 ところが驚くべき事に、それはただの妄想だった。
 ティナの声が何とか俺を現実に引き戻してくれる。

「あっほら、また誰か来たよ。次はあの人に聞いてみようよ」

 ティナの視線の先には、中年のおっさんがいた。
 中肉中背で顎と鼻の下に髭を蓄えている。

「よし、任せとけ」

 意気込んでおっさんに歩み寄る。
 さっきと変わらない態度で、けれど敬語で話しかけてみた。

「あの、村長さんの家がどこにあるかを知りたいんすけど」
「ん? おお、冒険者か。それにしては若いね」
「若い、ですかね。みんなこんなもんっすよ。それで村長の家を……」
「いやいやこんな若い冒険者なんて滅多に見ないよ。そうだ、ちょっと家に寄っていかんかね。よければ話を聞かせてくれ」
「えっと」

 やばい、思わず「爆裂剣」で吹き飛ばしてしまいそうだ。
 敬語を使ったら使ったで今度はめちゃくちゃフレンドリーじゃねえか。
 これどうすりゃいいんだよ、と思い後ろを振り返った。

 ところがティナは、うんうんと頷きながら温かい目でこちらを見守っている。
 おっさんも俺の仕草でティナに気付いた様だ。
 ティナの方を見ながらおっさんが口を開いた。

「そこの可愛いお嬢ちゃんも、よかったらうちでご飯を食べていかんかね?」
「え、いいんですか? それじゃお邪魔します」

 ぽんっと手を合わせて言うティナ。おいおい嘘だろ。
 そんな嬉しそうな表情をされると、俺にはもう止める事なんて出来ない。
 おっさんの申し出を渋々受ける事にした。

 案内された先は、他よりも少しだけ大きい民家だ。
 でも違うのは大きさだけで、辺境の村らしく素朴な感じの見た目をしている。

 中に入ると、一人の女性が食事の準備をしているところだった。
 彼女を手で示しておっさんが紹介してくれる。

「これが妻のジョセフィーヌだ」
「あら、お客様ですか。こんなところまでようこそおいでくださいました」

 おっさんよりも先に奥さんの名前を聞いてしまった。
 とりあえず俺たちも自己紹介をしておこう。

「ジンです」
「ティナです。お招きいただき、ありがとうございます」

 ティナは丁寧に一礼をした。
 俺も軽く頷く様な感じで礼をしておく。
 おっさんが椅子を手で示して言った。

「とりあえず座ってくれ」
「もうすぐ準備が終わりますからね」

 奥さんの言葉を聞きながら椅子に腰かけた。
 厨房からは中々美味そうな匂いが漂ってくる。
 そう言えばティナは朝飯をがっつり食べていたけど大丈夫なんだろうか。

 気になって横をチラ見してみた。
 ティナは厨房の方を見て目を輝かせている。
 どうやら胃袋の心配はしなくてもいいらしい。

 おっさんが俺の正面に腰かけてから口を開いた。

「それで、今日はどんな用でこの村に?」
「冒険者の仕事でクエストをこなしに来たんすけど、まずは村長のところに挨拶に行こうと思って」

 俺の言葉に、おっさんは一つ頷いてから言った。

「うんうんなるほど、それで村長の家がどこかを聞いて来たんだね」
「そうなんすよ」

 そこで飯が運ばれて来たので奥さんにお礼を言った。
 どうやらちゃんと人数分あるらしい。何で?
 全員でいただきますをすると、早速ティナが勢いよく食べ始めた。

 俺もゆっくりと食べていると、またおっさんが話しかけて来た。

「今どうしてちゃんと人数分あるんだろう……とか思わなかったかね?」
「全然思ってないっす」

 思ったけど何だか癪なので嘘をついてみる。
 でも、どういうわけかおっさんの耳には俺の言葉が届かない様だ。

「そうか思ったかね……ふっふっふ、どうしてだと思う?」
「……わかんないっす」
「知りたいかね?」
「いえ特には」
「そんな事を言わずに! 知りたいだろう!?」
「……知りたいっす」

 うぜえ。ティナがいなければ家屋ごと吹き飛ばしているところだ。
 そしておっさんは間を空けて、散々もったいぶってから答えた。

「それはね……私が村長だからだよ!!!!!! はっはっは!!」
「薄々わかってました」

 クエストの依頼主だから冒険者が来るのをわかっていた。
 だから食事も人数分あらかじめ用意しておいた……そういう事だろう。
 何で一緒に食事をする事前提なのかはこの際置いておく。

 すると、飯に夢中になっていたティナがなぜか食いついた。

「ええっ、あなたが村長さんだったんですか!?」
「そうだ! 私が村長だ! がっはっは!」

 段々帰りたくなって来た……。
 この場を見渡してそう思いながら頭を抱えた。
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