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王都ミツメ編 後編 恋する乙女と炎の竜
王都への帰り道にて
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「それでねそれでね、竜がこうぐわーって来たのをラッド君がこんな感じでどーんって受けてね、すごかったんだよ」
全員の治療を終えると、ジンたちはミツメへの帰路についた。
炎竜一家がもう周辺にいないとわかっているので特に急ぐわけでもなく、のんびりと談笑をしながら歩いている。
今は山を下りながら、ティナが先ほどの火竜戦での感動や興奮といったものを、身振り手振りを交えてジンに伝えようとしているところだ。
どうやら気分が高揚していて少しばかり言葉遣いが幼くなっているらしい。
ジンはたまにうんうんと頷きながら、言葉足らずなティナ……いいな。とほっこりした様子である。
エリスは歩き疲れたとまた肩車を要求し、今はジンの肩の上からティナを観察しているようだ。
ラッドとロザリアは少し後ろから、久々に全力ではしゃぐティナを笑顔で見守っている。
やがて肩を寄せ合い声を潜めて話し始めた。
「ティナちゃん、楽しそうですわね」
「ああ。なんでだろうねえ」
そう言いながら、互いに顔を見合わせてにやにやする二人にも気づかない様子でティナは話を続けている。
「私も後ろに回って攻撃したりはしたんだけどね、何もできなかったんだ。だからもっと強くなりたいなって」
「ラッドたちの方がレベルも装備も上なんだから、その辺はしょうがないだろ」
「よーし、じゃあ帰りもたくさんモンスターを倒しながら帰ろう!」
「そうだその意気だ! いいぞティナ!」
おー! と拳を突き上げて盛り上がる二人に、ラッドが後ろから声をかけた。
「だけどね、ティナは今回僕たちの命を救ってくれたじゃないか」
そこでぴたっと止まり、ジンは後ろを振り返り、次に横に視線を向けて不思議そうな表情で問いかけた。
「そうなのか?」
問いはティナに向けられたものだったが、答えたのはラッドだ。
「ああ。僕が瀕死になってロザリアも気絶していた時、ティナが僕たちの前に立ってブレスを受けてくれたんだ。……そういえばあの時ティナを中心にして何か光の膜みたいなのが発生してたけど、あれは何のスキルだったんだい?」
ティナは顎に指を当てて視線を躍らせると、唸りながら答えた。
「自分でもよくわからないんだよね。何だかみんなを助けたくて必死になってたらこう、光がぽわーってなって、それで火がぶわーってなっても大丈夫だったの」
ぽわーのあたりでティナは両手を大きく広げる仕草をした。
そちらに気がいってしまい、話の内容が今いち頭に入って来ないジンである。
「とにかく、ティナがいなければ今頃僕もロザリアも死んでいたよ」
「ラッド様の仰る通りですわ」
「へえ~そうなのか、やっぱりティナはすげえなあ」
両手を組んではにかみながらジンが褒めると、ティナは照れくさそうに両人差し指を合わせてうつむきがちに言った。
「そ、そうかなぁ。えへへ……」
そんなティナを見てますます笑顔の深まる一行。
徐々に茜色に染まりつつある空を背景にしたその様子は、夜に向けて冷えつつある空気とは相反するものだ。
エリスはそんな一行を無表情のまま静かに眺めてから顔を上げると、どこか遠い空の一点を見つめた。
ようやく麓まで下りると、そこではジバクイワの大量発生や炎竜の出現によって山を下りたものの、エリスの姿が見えずおろおろとする兵士たちがいたが、ジンたちを見るなりこそこそと逃げていく。
エリスに「ついてきたらクビ」と言われている以上、表向きはそこにいてはいけないということだろう。
疲れた一行はあえてそれを気に留めるようなことはせずに歩き出した。
すでに夜の帳が下りた空には星が宝石のように散りばめられている。
並んで歩くティナ、ラッド、ロザリアの後ろで、エリスがジンにぼそっと話しかけた。
「あんたってほんっとティナが好きなのね」
「ばっ、おま、恥ずかしいだろやめろばかやろぉ!」
その声に驚き、前の三人が一斉に振り向いた。
三人を代表してティナが口を開く。
「ジン君、どうしたの!?」
「いやごめん、何でもない!」
ぱたぱたと手を振りながらジンが答えると、ティナは首を傾げながら前に向き直った。
そしてジンはエリスとの会話に戻っていく。
「お前、本人に聞こえたらどうするんだよ」
「あんたが大きな声さえあげなきゃ大丈夫よ」
エリスは呆れた声を出している。
そして一つため息をついてから話を続けた。
「ティナはすげえなあとか言ってたけど、あんたの方がすごいじゃない。ていうかむしろ今回は全部あんたがやったわよ」
ジンはぴたりと止まり、訝しむような表情になって口を開く。
「は? 俺が何をやったんだよ」
「炎竜も魔王軍幹部とかいうのも倒したじゃない。普通の人間なら太刀打ちできないんじゃないの?」
「ん~そうかもな。でもティナは結局自分の身に迫った危機は自分でどうにかしたじゃねえか。俺はチビ竜との戦闘に参加できなかったし、意味ねえよ。結局はお互いに降りかかる火の粉を払ったってだけだ」
「……まあいいけど」
三人から話を聞くと、どうもジンと炎竜との戦闘がティナたちと火竜との戦闘に様々な影響を及ぼしたようにも思えたのだが。
肝心のジンがこんな感じで深く考えてはいないようなので、エリスはこれ以上の抗弁を諦めることにしたらしい。
そして一区切りとばかりにせきばらいをすると、ためらいながらも意を決したように口を開いた。
「それでその……あんたたち、今日は城に泊まっていきなさい」
「別にいいけど、何かあんのか?」
「そういうわけじゃないけど。今日はもう遅いし、護衛してくれたことのお礼もしたいしね」
「ほ~ん。ま、ティナ次第だな」
「……ティナ、来てくれるかな」
ぼそりと呟かれたその一言をジンはうまく聞き取れなかった。
「ん、何か言ったか?」
「べっ、別に何でもない」
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「うるさい! このっこのっ」
「だからいちいち頭を叩くなっての」
肩車をされたままで上からぺしぺしと頭を叩くエリス。
いつの間にか振り返ってその光景を眺めていたティナが、微笑みを浮かべながら言った。
「ふふ。ジン君とエリスちゃん、もうそんなに仲良しになったんだね」
「仲良しじゃなくてこいつは私の家来だから」
「ま、そういうことだ」
「家来? へえ」
そこを深く追求されるとちょっと困るな、と思ったジンは話題を変えた。
「そういえばよ。エリスが今晩は城に泊まれっていってるけど、どうする?」
「えっ、お城に? いいの?」
首を傾げるティナにエリスが何かを言いそうになると、ラッドが跪いて右手を前に差し出した体勢で滑り込んで来た。
「おお、エリス様! お城へのご招待ありがたき幸せにございます! この不肖ラッド=クリスティン、全身全霊を以て伺いましょう!」
「まあいけませんわラッド様! それではお城に着いた時点で力尽きてしまうではありませんか」
ラッドを追いかけるようにロザリアもこちらにやって来た。
若干引き気味なエリスの下で、ジンが呆れながら誰にともなく口を開く。
「とにかくみんなでわいわい遊びたいってことだろ。美味い飯も食わせてもらえるだろうし、行ってみようぜ」
「そうだね、それじゃお邪魔しようかな。私、お城に泊まるのって初めてかも」
そう言いながらティナが軽やかな足取りで街に向かって歩き出すと、ラッドとロザリアもその横に並んだ。
三人に続いてジンも歩き出すと、なぜか上からのぺしぺし攻撃が始まる。
視線をやや上に向けながらジンが注意をした。
「だからやめろって」
「余計なこと言ってんじゃないわよ。別にあんたと遊びたいわけじゃないし」
「何だ違うのかよ。でもまあいいじゃねえか、わいわいやるの嫌いってわけじゃないだろ?」
「…………」
その沈黙を肯定と受け取ったのか、ジンは満足そうな顔になる。
すると前を歩くティナがこちらを振り返って手を振りながら声を張った。
「ジンく~ん、エリスちゃ~ん、早く~!」
「おう、今行くぜ!」
駆け出したジンの上で、エリスはこれまでにない表情をしていたのだが、それは宵闇に紛れて誰にも見えていなかった。
全員の治療を終えると、ジンたちはミツメへの帰路についた。
炎竜一家がもう周辺にいないとわかっているので特に急ぐわけでもなく、のんびりと談笑をしながら歩いている。
今は山を下りながら、ティナが先ほどの火竜戦での感動や興奮といったものを、身振り手振りを交えてジンに伝えようとしているところだ。
どうやら気分が高揚していて少しばかり言葉遣いが幼くなっているらしい。
ジンはたまにうんうんと頷きながら、言葉足らずなティナ……いいな。とほっこりした様子である。
エリスは歩き疲れたとまた肩車を要求し、今はジンの肩の上からティナを観察しているようだ。
ラッドとロザリアは少し後ろから、久々に全力ではしゃぐティナを笑顔で見守っている。
やがて肩を寄せ合い声を潜めて話し始めた。
「ティナちゃん、楽しそうですわね」
「ああ。なんでだろうねえ」
そう言いながら、互いに顔を見合わせてにやにやする二人にも気づかない様子でティナは話を続けている。
「私も後ろに回って攻撃したりはしたんだけどね、何もできなかったんだ。だからもっと強くなりたいなって」
「ラッドたちの方がレベルも装備も上なんだから、その辺はしょうがないだろ」
「よーし、じゃあ帰りもたくさんモンスターを倒しながら帰ろう!」
「そうだその意気だ! いいぞティナ!」
おー! と拳を突き上げて盛り上がる二人に、ラッドが後ろから声をかけた。
「だけどね、ティナは今回僕たちの命を救ってくれたじゃないか」
そこでぴたっと止まり、ジンは後ろを振り返り、次に横に視線を向けて不思議そうな表情で問いかけた。
「そうなのか?」
問いはティナに向けられたものだったが、答えたのはラッドだ。
「ああ。僕が瀕死になってロザリアも気絶していた時、ティナが僕たちの前に立ってブレスを受けてくれたんだ。……そういえばあの時ティナを中心にして何か光の膜みたいなのが発生してたけど、あれは何のスキルだったんだい?」
ティナは顎に指を当てて視線を躍らせると、唸りながら答えた。
「自分でもよくわからないんだよね。何だかみんなを助けたくて必死になってたらこう、光がぽわーってなって、それで火がぶわーってなっても大丈夫だったの」
ぽわーのあたりでティナは両手を大きく広げる仕草をした。
そちらに気がいってしまい、話の内容が今いち頭に入って来ないジンである。
「とにかく、ティナがいなければ今頃僕もロザリアも死んでいたよ」
「ラッド様の仰る通りですわ」
「へえ~そうなのか、やっぱりティナはすげえなあ」
両手を組んではにかみながらジンが褒めると、ティナは照れくさそうに両人差し指を合わせてうつむきがちに言った。
「そ、そうかなぁ。えへへ……」
そんなティナを見てますます笑顔の深まる一行。
徐々に茜色に染まりつつある空を背景にしたその様子は、夜に向けて冷えつつある空気とは相反するものだ。
エリスはそんな一行を無表情のまま静かに眺めてから顔を上げると、どこか遠い空の一点を見つめた。
ようやく麓まで下りると、そこではジバクイワの大量発生や炎竜の出現によって山を下りたものの、エリスの姿が見えずおろおろとする兵士たちがいたが、ジンたちを見るなりこそこそと逃げていく。
エリスに「ついてきたらクビ」と言われている以上、表向きはそこにいてはいけないということだろう。
疲れた一行はあえてそれを気に留めるようなことはせずに歩き出した。
すでに夜の帳が下りた空には星が宝石のように散りばめられている。
並んで歩くティナ、ラッド、ロザリアの後ろで、エリスがジンにぼそっと話しかけた。
「あんたってほんっとティナが好きなのね」
「ばっ、おま、恥ずかしいだろやめろばかやろぉ!」
その声に驚き、前の三人が一斉に振り向いた。
三人を代表してティナが口を開く。
「ジン君、どうしたの!?」
「いやごめん、何でもない!」
ぱたぱたと手を振りながらジンが答えると、ティナは首を傾げながら前に向き直った。
そしてジンはエリスとの会話に戻っていく。
「お前、本人に聞こえたらどうするんだよ」
「あんたが大きな声さえあげなきゃ大丈夫よ」
エリスは呆れた声を出している。
そして一つため息をついてから話を続けた。
「ティナはすげえなあとか言ってたけど、あんたの方がすごいじゃない。ていうかむしろ今回は全部あんたがやったわよ」
ジンはぴたりと止まり、訝しむような表情になって口を開く。
「は? 俺が何をやったんだよ」
「炎竜も魔王軍幹部とかいうのも倒したじゃない。普通の人間なら太刀打ちできないんじゃないの?」
「ん~そうかもな。でもティナは結局自分の身に迫った危機は自分でどうにかしたじゃねえか。俺はチビ竜との戦闘に参加できなかったし、意味ねえよ。結局はお互いに降りかかる火の粉を払ったってだけだ」
「……まあいいけど」
三人から話を聞くと、どうもジンと炎竜との戦闘がティナたちと火竜との戦闘に様々な影響を及ぼしたようにも思えたのだが。
肝心のジンがこんな感じで深く考えてはいないようなので、エリスはこれ以上の抗弁を諦めることにしたらしい。
そして一区切りとばかりにせきばらいをすると、ためらいながらも意を決したように口を開いた。
「それでその……あんたたち、今日は城に泊まっていきなさい」
「別にいいけど、何かあんのか?」
「そういうわけじゃないけど。今日はもう遅いし、護衛してくれたことのお礼もしたいしね」
「ほ~ん。ま、ティナ次第だな」
「……ティナ、来てくれるかな」
ぼそりと呟かれたその一言をジンはうまく聞き取れなかった。
「ん、何か言ったか?」
「べっ、別に何でもない」
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「うるさい! このっこのっ」
「だからいちいち頭を叩くなっての」
肩車をされたままで上からぺしぺしと頭を叩くエリス。
いつの間にか振り返ってその光景を眺めていたティナが、微笑みを浮かべながら言った。
「ふふ。ジン君とエリスちゃん、もうそんなに仲良しになったんだね」
「仲良しじゃなくてこいつは私の家来だから」
「ま、そういうことだ」
「家来? へえ」
そこを深く追求されるとちょっと困るな、と思ったジンは話題を変えた。
「そういえばよ。エリスが今晩は城に泊まれっていってるけど、どうする?」
「えっ、お城に? いいの?」
首を傾げるティナにエリスが何かを言いそうになると、ラッドが跪いて右手を前に差し出した体勢で滑り込んで来た。
「おお、エリス様! お城へのご招待ありがたき幸せにございます! この不肖ラッド=クリスティン、全身全霊を以て伺いましょう!」
「まあいけませんわラッド様! それではお城に着いた時点で力尽きてしまうではありませんか」
ラッドを追いかけるようにロザリアもこちらにやって来た。
若干引き気味なエリスの下で、ジンが呆れながら誰にともなく口を開く。
「とにかくみんなでわいわい遊びたいってことだろ。美味い飯も食わせてもらえるだろうし、行ってみようぜ」
「そうだね、それじゃお邪魔しようかな。私、お城に泊まるのって初めてかも」
そう言いながらティナが軽やかな足取りで街に向かって歩き出すと、ラッドとロザリアもその横に並んだ。
三人に続いてジンも歩き出すと、なぜか上からのぺしぺし攻撃が始まる。
視線をやや上に向けながらジンが注意をした。
「だからやめろって」
「余計なこと言ってんじゃないわよ。別にあんたと遊びたいわけじゃないし」
「何だ違うのかよ。でもまあいいじゃねえか、わいわいやるの嫌いってわけじゃないだろ?」
「…………」
その沈黙を肯定と受け取ったのか、ジンは満足そうな顔になる。
すると前を歩くティナがこちらを振り返って手を振りながら声を張った。
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