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伝説の武器編 前編 トチュウノ町であれこれと
ジンとラッドが恋の話をするようです
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少し走ったところでティナは息を切らしてへたり込んでいた。
追いついて、立ったまま後ろから声をかけてみる。
「大丈夫か? 急にどうしたんだよ」
「ごめん、何でもないから……」
ティナは片手をあげてこっちも見ずにそう返事をした。
「レーダー」を発動して確認してみると、近くにはあまりモンスターはいないらしい。
とはいえ危ないので釘を刺しておくことにする。
「あまり一人で先に行くと危ないぞ。ここから先は初めて戦う種類のモンスターも出るんだから」
「う……。ご、ごめんなさい」
ティナは首だけでこちらを振り返ると、俯きがちに力のない返事をした。
なるべく優しい声音になるように諭したつもりだったのに落ち込ませてしまったらしい。注意するのって難しいよな。
どうしたもんかと黙っていると、ラッドとロザリアが追いついてきた。
特段急いだ気配もなくのんびりと歩きながら片手をあげて挨拶してくる。
「やあ、ティナはもう大丈夫なようだね」
「お前ら俺に何をさせたかったんだよ」
二人を軽く睨みつけながら言うと、ラッドは肩をすくめた。
「わからないのかい? 君のためでもあるというのに」
「何がだ、回りくどい言い方しやがって」
「ふふ、ほらティナちゃんいきましょう」
ロザリアが手を貸してティナを立ち上がらせると、俺以外の三人は何事もなかったかのように歩き出す。
一つため息をついてから俺もその後をゆっくりと追った。
そのまま歩いて行くと、周囲には丘が現れたりなど今まで平坦だった地形に変化が見られるようになる。
テイマーズの仕事をしていた頃はあまり担当区域から出ることはなかったので、俺も新鮮な気持ちで風景を眺めながら歩いていた。
気が付けば陽は傾き始め、樹々や丘の上に見える空は茜色に染まり始めている。
空気は徐々に冷えて周囲の森林からは夜行性の動物やモンスターの鳴き声が聞こえ始めていた。
俺は他三人の少し後ろをのんびりと歩いている。
さっきの出来事がよほど恥ずかしかったのか、ティナが中々目を合わせてくれないのでこれくらいの位置にいた方がいいという判断だ。
少し寂しいけどティナの気持ちはわかる。張り切って突っ走った上でミスをして仲間にどくけしそうを食べさせてもらうなんて、俺でもしんどい。
でも正直に言うと俺はちょっと楽しかった。
あの時、何と言うか「あ~ん」をしてあげているみたいで、身体は熱くなりながらも軽くなり、心は温かくなりがらも緊張していたのだ。
それは今までには全く味わったことのない不思議な感覚だった。
うん、俺気持ち悪いな。ティナごめん。
誰にも聞かれていないはずの心の独白を反省していると、前を歩くラッドが振り返って声をかけてきた。
「今日はこの辺で野営といこうじゃないか」
「ん、まあ陽も暮れてきたしな」
賛成しつつ、野営用のアイテムを取り出して準備を進めていく。
男性用と女性用にそれぞれテントを設置してその中に荷物を置くと、外で焚き火をたいて食事の準備をした。
野営なので豪華な食事になるわけもないんだけど、たまにはこんな感じで外で食う飯も悪くないなって感じだ。
焚火を挟んで向かい合う形で男性陣と女性陣に分かれて飯を食っていると、ラッドが声を潜めて話しかけてきた。
「それで、最近ティナとはどうなんだい?」
「んっ! げほげほっ!」
突然のことなので食べていたものを軽く喉に詰まらせてしまう。
落ち着くとラッドを睨みつけながら返事をした。
「どうって、お前らなら見ててわかるだろ。ずっと俺らといるわけだし」
「ずっと、ってわけでもないだろう。君たち二人きりで過ごす時間だってあったじゃないか」
「そりゃそうだけどよ」
言いながらちらっとティナの方を見てみる。
ロザリアと楽しそうに話していて、焚火に照らされたその笑顔は普段とはまた少し違う雰囲気にも見えた。
やっぱ俺じゃわかってやれないこととかもあんのかな、と考えながらラッドとの会話を続ける。
「別に全然変わんねえよ」
「全然ねえ。君、デートに誘ったりはしているのかい?」
「デッ、デートぉ!?」
思わず声を少しだけ荒げてしまう。
ティナの方を見るも、話に夢中でこちらには気付いていないらしい。
一つ呼吸をして落ち着いてから会話に戻った。
「お前、そんなことできるわけねえだろ」
「どうしてさ」
「だってよ、デートっつったらもう恋人になってるやつらがするもんだろ」
俺の言葉を聞くなりラッドはやれやれ、と肩をすくめた。
その動作にイラっとしながらも何が言いたいのかと返事を待つ。
「君ねえ、そんなわけがないじゃないか。だったら世のカップルたちはどうやってカップルになったと思っているんだい」
「わかんねえけど……気に入った相手に告白、みたいな感じじゃねえのか?」
「段階が一つも二つも足りないよ。気になった相手をまずデートに誘って、それで気に入ったら告白をして恋人になるんじゃないか。そりゃあカップルによって差はあるだろうけど、大体そういうもんさ」
まじか知らなかった……。悔しいけどまあ、こういうことに関してはラッドの方が上だししょうがねえな。
セイラやノエルもこういうことは知ってるんだろうか。
あれこれ考えていると、ラッドが補足を加えてきた。
「まあデートという言い方をするとあれだが、要はただ一緒に遊びに行くだけさ。そう考えればジンとティナの仲なら自然なことだとは思わないかい?」
「ん。そう言われてみりゃそうかもな」
今まで一緒に出かけたことなんて無数にある。
でもあれは全部必要な買い物だとか用事だとか、そういう事務的な面もあったから本当にただ遊びにいくだけってのはほとんどなかった。
俺の返事に気を良くした感じでラッドが言う。
「だろう? だから君ね、トチュウノ町に着いたらティナをデートに誘ってみるってのはどうだい? 僕らがいるうちならこっそりサポートしてやれるし、いいんじゃないかな」
「は? いやいやそんな急に誘ったらおかしいだろ」
「そんなことはないさ。ティナだって喜んでくれるかもしれないしね」
本当にそうなのかな。まあ仲はいいって言えると思うし、断られることはないと思うけど。
でもそれはあくまで大切な仲間と遊びに行くという感覚であって、男の子とデートをするという風には捉えてもらえない気がする。
まあとりあえず遊びに誘ってみるってのはありかもな。
「そうだな、そうしてみるよ。で、でもよ。どうやって誘えばいいんだ?」
「どうやってって、普通に誘えばいいじゃないか。『ご飯でも食べに行こう』とかね」
「てか参考までにお前がロザリアを誘う時はどうしてんのか教えてくれ」
そう聞くと、ラッドは急にしどろもどろになり出した。
言葉には詰まり、目は大海原を生きる魚の如く泳いでいる。
「へ? き、君は急に何を言っているのかな」
「は? いやお前が急にどうしたんだよ。いいから早く教えてくれ」
「そ、そりゃあ君、『ご飯を食べに行こう』に決まってるじゃないか」
「…………」
「どうしたのかな」
こいつ、俺にあれこれ言ってるけど自分も大してロザリアと関係が深まってないんじゃ……。
いやでもどうだろうな。それか誘う時は全部ロザリアから、とか。有り得る。
この際色々と聞いてみよう。
「今まで気にしてなかったけどさ、お前はロザリアとどこまでいってんだよ」
「ぶっ! げほげほっ!」
「俺と反応が同じじゃねえか」
ラッドは気を取り直そうと食べ始めていた夕食を喉に詰まらせた。
しばらく待つとようやく落ち着いた様子で口を開く。
「今まで気にしてなかったとは失礼だねえ。ロザリアとの関係……まあここは男女の仲、とだけ言っておこうじゃないか」
「なに!? ってことはもう色々とやっちまってんのか?」
「な、なんだい色々と、っていうのは」
「お前、そりゃお前、あれだ。その、ちゅ、チューとか……あああ!! 言わせんじゃねえよ恥ずかしいだろばかやろぉ!!」
恥ずかしさのあまり地面に横たわって右に左にぐるぐると転がる。
しばらくして落ち着いたので身体を起こすと、女性陣が何事かとこちらを見ていた。
何でもない、と手を振って応じてから元の場所に座ると、ラッドが不思議なものを見る目をしながら話しかけてくる。
「ジン、君は意外にウブなんだね。いや知ってはいたんだがまさかこれほどとは」
「うるせえよ。で、どこまで」
そこまで言いかけたところで、いつの間にか俺たちの近くに来ていたロザリアの言葉に遮られた。
「ラッド様」
「ひょおっ! ロ、ロザリアじゃないか。どどどどうしたんだい」
「まあいけませんわラッド様。今まで聞いたこともないような声が出てしまったではありませんか」
ロザリアは口を手で覆うような形で上品に驚いた。
それからスッと何でもなかったように姿勢を直して会話を続ける。
「私たちは先に寝ますから。火の後始末をお願いしてもよろしいですか?」
「ああ。大船に乗ったつもりでいたまえ」
「だからそう軽々と人を大船に乗せてんじゃねえよ」
ラッドは以前もティナに同じ台詞を言っておきながら、いざ自分がステージに立つと生まれたての小鹿みたいに足を震わせていた前科がある。
まあこいつらしいと言えばらしいな、と思いながらふと焚き火の反対側を見るとティナと目が合った。
ちょうど立ち上がって移動しようとしていたところだったんだけど、目が合うと微笑みながら胸の辺りで小さく手を振り、
「ジン君、おやすみ」
そう挨拶をしてくれた。
「おう。おやすみ」
返事をして横を見ると、ロザリアがにこにこ、ラッドがにやにや、という顔をしてこちらを見ている。
俺はラッドを睨みながら言った。
「何見てんだよ。おいラッド、お前はこの後尋問だ。全部吐くまで寝かさねえ」
「いやいや何がだい。変なことを言いだすのはやめてくれるかな」
「あらあら。とっても仲良しになったんですのね。それではお休みなさい」
「「お休み」」
ロザリアがテントに入るのを見送った後、俺とラッドの死闘はその後もしばらく続いていく。
焚火を消した後も、その熱はしばらくその場に残っていた。
追いついて、立ったまま後ろから声をかけてみる。
「大丈夫か? 急にどうしたんだよ」
「ごめん、何でもないから……」
ティナは片手をあげてこっちも見ずにそう返事をした。
「レーダー」を発動して確認してみると、近くにはあまりモンスターはいないらしい。
とはいえ危ないので釘を刺しておくことにする。
「あまり一人で先に行くと危ないぞ。ここから先は初めて戦う種類のモンスターも出るんだから」
「う……。ご、ごめんなさい」
ティナは首だけでこちらを振り返ると、俯きがちに力のない返事をした。
なるべく優しい声音になるように諭したつもりだったのに落ち込ませてしまったらしい。注意するのって難しいよな。
どうしたもんかと黙っていると、ラッドとロザリアが追いついてきた。
特段急いだ気配もなくのんびりと歩きながら片手をあげて挨拶してくる。
「やあ、ティナはもう大丈夫なようだね」
「お前ら俺に何をさせたかったんだよ」
二人を軽く睨みつけながら言うと、ラッドは肩をすくめた。
「わからないのかい? 君のためでもあるというのに」
「何がだ、回りくどい言い方しやがって」
「ふふ、ほらティナちゃんいきましょう」
ロザリアが手を貸してティナを立ち上がらせると、俺以外の三人は何事もなかったかのように歩き出す。
一つため息をついてから俺もその後をゆっくりと追った。
そのまま歩いて行くと、周囲には丘が現れたりなど今まで平坦だった地形に変化が見られるようになる。
テイマーズの仕事をしていた頃はあまり担当区域から出ることはなかったので、俺も新鮮な気持ちで風景を眺めながら歩いていた。
気が付けば陽は傾き始め、樹々や丘の上に見える空は茜色に染まり始めている。
空気は徐々に冷えて周囲の森林からは夜行性の動物やモンスターの鳴き声が聞こえ始めていた。
俺は他三人の少し後ろをのんびりと歩いている。
さっきの出来事がよほど恥ずかしかったのか、ティナが中々目を合わせてくれないのでこれくらいの位置にいた方がいいという判断だ。
少し寂しいけどティナの気持ちはわかる。張り切って突っ走った上でミスをして仲間にどくけしそうを食べさせてもらうなんて、俺でもしんどい。
でも正直に言うと俺はちょっと楽しかった。
あの時、何と言うか「あ~ん」をしてあげているみたいで、身体は熱くなりながらも軽くなり、心は温かくなりがらも緊張していたのだ。
それは今までには全く味わったことのない不思議な感覚だった。
うん、俺気持ち悪いな。ティナごめん。
誰にも聞かれていないはずの心の独白を反省していると、前を歩くラッドが振り返って声をかけてきた。
「今日はこの辺で野営といこうじゃないか」
「ん、まあ陽も暮れてきたしな」
賛成しつつ、野営用のアイテムを取り出して準備を進めていく。
男性用と女性用にそれぞれテントを設置してその中に荷物を置くと、外で焚き火をたいて食事の準備をした。
野営なので豪華な食事になるわけもないんだけど、たまにはこんな感じで外で食う飯も悪くないなって感じだ。
焚火を挟んで向かい合う形で男性陣と女性陣に分かれて飯を食っていると、ラッドが声を潜めて話しかけてきた。
「それで、最近ティナとはどうなんだい?」
「んっ! げほげほっ!」
突然のことなので食べていたものを軽く喉に詰まらせてしまう。
落ち着くとラッドを睨みつけながら返事をした。
「どうって、お前らなら見ててわかるだろ。ずっと俺らといるわけだし」
「ずっと、ってわけでもないだろう。君たち二人きりで過ごす時間だってあったじゃないか」
「そりゃそうだけどよ」
言いながらちらっとティナの方を見てみる。
ロザリアと楽しそうに話していて、焚火に照らされたその笑顔は普段とはまた少し違う雰囲気にも見えた。
やっぱ俺じゃわかってやれないこととかもあんのかな、と考えながらラッドとの会話を続ける。
「別に全然変わんねえよ」
「全然ねえ。君、デートに誘ったりはしているのかい?」
「デッ、デートぉ!?」
思わず声を少しだけ荒げてしまう。
ティナの方を見るも、話に夢中でこちらには気付いていないらしい。
一つ呼吸をして落ち着いてから会話に戻った。
「お前、そんなことできるわけねえだろ」
「どうしてさ」
「だってよ、デートっつったらもう恋人になってるやつらがするもんだろ」
俺の言葉を聞くなりラッドはやれやれ、と肩をすくめた。
その動作にイラっとしながらも何が言いたいのかと返事を待つ。
「君ねえ、そんなわけがないじゃないか。だったら世のカップルたちはどうやってカップルになったと思っているんだい」
「わかんねえけど……気に入った相手に告白、みたいな感じじゃねえのか?」
「段階が一つも二つも足りないよ。気になった相手をまずデートに誘って、それで気に入ったら告白をして恋人になるんじゃないか。そりゃあカップルによって差はあるだろうけど、大体そういうもんさ」
まじか知らなかった……。悔しいけどまあ、こういうことに関してはラッドの方が上だししょうがねえな。
セイラやノエルもこういうことは知ってるんだろうか。
あれこれ考えていると、ラッドが補足を加えてきた。
「まあデートという言い方をするとあれだが、要はただ一緒に遊びに行くだけさ。そう考えればジンとティナの仲なら自然なことだとは思わないかい?」
「ん。そう言われてみりゃそうかもな」
今まで一緒に出かけたことなんて無数にある。
でもあれは全部必要な買い物だとか用事だとか、そういう事務的な面もあったから本当にただ遊びにいくだけってのはほとんどなかった。
俺の返事に気を良くした感じでラッドが言う。
「だろう? だから君ね、トチュウノ町に着いたらティナをデートに誘ってみるってのはどうだい? 僕らがいるうちならこっそりサポートしてやれるし、いいんじゃないかな」
「は? いやいやそんな急に誘ったらおかしいだろ」
「そんなことはないさ。ティナだって喜んでくれるかもしれないしね」
本当にそうなのかな。まあ仲はいいって言えると思うし、断られることはないと思うけど。
でもそれはあくまで大切な仲間と遊びに行くという感覚であって、男の子とデートをするという風には捉えてもらえない気がする。
まあとりあえず遊びに誘ってみるってのはありかもな。
「そうだな、そうしてみるよ。で、でもよ。どうやって誘えばいいんだ?」
「どうやってって、普通に誘えばいいじゃないか。『ご飯でも食べに行こう』とかね」
「てか参考までにお前がロザリアを誘う時はどうしてんのか教えてくれ」
そう聞くと、ラッドは急にしどろもどろになり出した。
言葉には詰まり、目は大海原を生きる魚の如く泳いでいる。
「へ? き、君は急に何を言っているのかな」
「は? いやお前が急にどうしたんだよ。いいから早く教えてくれ」
「そ、そりゃあ君、『ご飯を食べに行こう』に決まってるじゃないか」
「…………」
「どうしたのかな」
こいつ、俺にあれこれ言ってるけど自分も大してロザリアと関係が深まってないんじゃ……。
いやでもどうだろうな。それか誘う時は全部ロザリアから、とか。有り得る。
この際色々と聞いてみよう。
「今まで気にしてなかったけどさ、お前はロザリアとどこまでいってんだよ」
「ぶっ! げほげほっ!」
「俺と反応が同じじゃねえか」
ラッドは気を取り直そうと食べ始めていた夕食を喉に詰まらせた。
しばらく待つとようやく落ち着いた様子で口を開く。
「今まで気にしてなかったとは失礼だねえ。ロザリアとの関係……まあここは男女の仲、とだけ言っておこうじゃないか」
「なに!? ってことはもう色々とやっちまってんのか?」
「な、なんだい色々と、っていうのは」
「お前、そりゃお前、あれだ。その、ちゅ、チューとか……あああ!! 言わせんじゃねえよ恥ずかしいだろばかやろぉ!!」
恥ずかしさのあまり地面に横たわって右に左にぐるぐると転がる。
しばらくして落ち着いたので身体を起こすと、女性陣が何事かとこちらを見ていた。
何でもない、と手を振って応じてから元の場所に座ると、ラッドが不思議なものを見る目をしながら話しかけてくる。
「ジン、君は意外にウブなんだね。いや知ってはいたんだがまさかこれほどとは」
「うるせえよ。で、どこまで」
そこまで言いかけたところで、いつの間にか俺たちの近くに来ていたロザリアの言葉に遮られた。
「ラッド様」
「ひょおっ! ロ、ロザリアじゃないか。どどどどうしたんだい」
「まあいけませんわラッド様。今まで聞いたこともないような声が出てしまったではありませんか」
ロザリアは口を手で覆うような形で上品に驚いた。
それからスッと何でもなかったように姿勢を直して会話を続ける。
「私たちは先に寝ますから。火の後始末をお願いしてもよろしいですか?」
「ああ。大船に乗ったつもりでいたまえ」
「だからそう軽々と人を大船に乗せてんじゃねえよ」
ラッドは以前もティナに同じ台詞を言っておきながら、いざ自分がステージに立つと生まれたての小鹿みたいに足を震わせていた前科がある。
まあこいつらしいと言えばらしいな、と思いながらふと焚き火の反対側を見るとティナと目が合った。
ちょうど立ち上がって移動しようとしていたところだったんだけど、目が合うと微笑みながら胸の辺りで小さく手を振り、
「ジン君、おやすみ」
そう挨拶をしてくれた。
「おう。おやすみ」
返事をして横を見ると、ロザリアがにこにこ、ラッドがにやにや、という顔をしてこちらを見ている。
俺はラッドを睨みながら言った。
「何見てんだよ。おいラッド、お前はこの後尋問だ。全部吐くまで寝かさねえ」
「いやいや何がだい。変なことを言いだすのはやめてくれるかな」
「あらあら。とっても仲良しになったんですのね。それではお休みなさい」
「「お休み」」
ロザリアがテントに入るのを見送った後、俺とラッドの死闘はその後もしばらく続いていく。
焚火を消した後も、その熱はしばらくその場に残っていた。
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