女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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不死鳥との契約編 前編 ゴバンまったり道中記

防具の素材

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 ゆさゆさと身体を揺すられて目が覚めた。なのに、俺を起こした主の姿は見えず声も聞こえてこない。肩にあった手の感触はすでに過去のもの。
 何となく寝たまま顔だけで背後を振り返ってみると、そこには四つん這いの体勢のまま片手で頭を抱えているティナがいた。

 俺が振り返る気配を察したのか、下を向いていて表情のよくわからないティナが苦しそうにゆっくりと口を開く。

「お、おはよう……ジン君」
「おはよう。何かすげえ気分悪そうだな」
「うん、何だか気持ち悪いし頭も痛くて」
「ベッド使っていいからまだ寝とけよ。無理すんなって」
「ありがとう。でもお風呂とか入らなきゃ……」

 そう言ってのっそりと立ち上がるティナ。俺も慌てて立ち上がり、部屋の扉に向かって歩き出した背中に声をかける。

「おい」

 それに対し全く反応を見せずティナはのろのろと部屋を出て行った。

 よくわからないけど、あれは酒をたくさん飲むと翌日になるやつだと思う。
 昨日勝負に勝ったわけだし、今日はドルドのところに防具を造ってもらいに行く流れかと思ったけど、ティナがあの調子じゃ無理かもしれない。
 それにラッドとロザリアも結構飲んでたし似たようなことになってたりして。

 まあ部屋もどこかよく覚えてないから様子も見に行けない。酒場で食事をしてれば元気なら下りてくるだろう。
 そう判断して、俺は一階の酒場で飯を食うことにした。

 結論からいうとラッドとロザリアは現れなかった。

 朝のピークは過ぎたらしく、客のまばらな酒場で食事を終えて部屋に戻るも特にやることはない。
 まあラッドとロザリアはティナと同じようなことになってるんだろう。
 部屋にいてもしょうがないので、一人でドルドのところまでいくことにした。

 穏やかな陽光の下ドルドの家に向かって進んでいく。
 時間帯のせいもあってか、街は昨日の騒ぎなんて忘れたように静かで中央広場には人もあまり見当たらない。
 キャンプファイアーもすでに新しいものが組まれていて、昨日のことは昨日こととまた今日も仕事に取り掛かる職人たちの意気込みを表してるみたいだ。

 そんな風に景色を眺めながらのんびりと歩いていると、やがて職人たちの集う北の区画へ。さらに少し歩いたところで脇の道に入るとドルドの家に着いた。
 いきなり来ちゃったけど、他にどうしようもないしまあいいか。

 家屋と工房のうち、家屋の方の玄関らしき扉を二度軽く叩いて反応を待つも、誰かが出てくる気配はない。
 首を傾げていたら街のあちこちで飛び交う作業音に混じって、すぐ後ろからも鉄と鉄がぶつかるような音が聞こえてきた。

 工房で何やら作業でもしてるのかなと思ってそっちにいってみる。
 扉代わりの布みたいなのをくぐって中に入ってみると、そこには昨日の仕事に着かれたおっさん姿とは違う、一流の鍛冶職人の顔をしたドルドがいた。

 高温の炉からあふれる熱で工房内が蒸しかえる中、鍛冶台の上に熱された鉄を置いてそれをハンマーで打ちつけている。
 衝撃音と共に真っ赤な鉄からは火花が散り、ドルドの肌を汗が伝う。

 邪魔しちゃ悪いなと思って静かに作業を見ていると、やがてそれが一段落したところでドルドがこちらに気付いた。
 ドルドはこちらに顔を向けてから、何やらごつい安全対策的な眼鏡を外して声をかけてくる。

「よう、嬢ちゃんの仲間じゃねえか。わざわざこんなところまでどうした?」

 工房に踏み入ってドルドに近寄っていきながら返事をする。

「仕事の邪魔して悪いな。例の防具を造ってもらおうと思ってきたんだけど」
「おう、その話か。約束だ、もちろん受け付けるぜ。で、オリハルコンは持って来たのか?」
「オリハルコン?」

 思わず間抜けな声で聞き返してしまった俺に対し、ドルドが怪訝な表情を見せて応じる。

「もしかして知らねえのか? 勇者装備一式を造るにはオリハルコンって鉱石が必要になるんだが」
「全然知らなかった……」

 するとドルドは顎に手を当てて何事か考えてから、頬をかきながら口を開く。

「あ~そういや、造り方どころか材料も俺にしか伝わってなかったんだったか。そりゃ知らねえわな。がっはっは」
「いやいやがっはっはじゃねえよ」

 ソフィア様も人? が悪い。あらかじめ言っといてくれれば用意できたのに。
 とはいえここでそれを言ってもしょうがないので気を取り直して尋ねた。

「じゃあそのオリハルコンってのはどこで手に入るんだ?」
「ムコウノ山だ。その頂上にたまーに落ちててな。つまるところ行けば手に入るんだが、完全に運しだいってところだ。幻ってほどじゃねえがそう簡単にゃあ手に入らねえぜ」
「何だそりゃ。鉱石なのに掘るんじゃなくて拾うってことか?」
「ああ。お前さんの言いたいこともわかるが、そうとしか言いようがねえ」

 どういうことだ? ムコウノ山の頂上にたまに落ちてる鉱石なんて初めて聞いたぞ。
 まあ天界には無かったせいで俺はそもそもオリハルコンの存在自体を知らなかったわけだけど。

 どちらしろムコウノ山には行くわけだし、その時に手に入れば一番いいんだけどそううまくいくはずはないだろうな。
 そこまで考えたところで、意識を目の前の鍛冶職人の方へ戻してから口を開く。

「わかった。どっちにしろこの後ムコウノ山へ行くことにはなってるから、もしそこで手に入ったら帰りに頼むよ」

 そう言うと、ドルドはまた訝しむような視線をこちらに向けた。

「オリハルコンを知らなかったってのに、あんなところに何しに行くんだ?」
「ソフィア様に言われて不死鳥ってのと契約をしに行くんだけど」
「はぁ? 何言ってんだおめえ、頭大丈夫か?」

 一瞬いらっとしたけどまあそうなるよな。当然の反応だと思う。
 ソフィア様に会ったってだけでも下界のやつにとっては驚くようなことなのに、不死鳥とか存在すら知られていないらしいものと契約しにいくなんてな。
 説明するのも面倒なので取り繕うように言った。

「いや何でもねえ。まあ何だ、とりあえずムコウノ山を歩いてみたいっていう観光みたいなもんだよ」
「変わってんなあお前ら。まあいい、とにかくオリハルコンが手に入ったらいつでも持ってきな。もしこっちで手に入ったら造っといてやるけど、貴重なもんだしそれにはあんま期待すんな」
「ああ、わかってる。じゃあまたな」

 挨拶をして踵を返すと、ドルドの工房を後にした。

 そして何事もなく真っすぐ宿屋に帰ってきたら死にそうな顔で飯を食っているラッドと、意外に平然としているロザリアに遭遇した。
 酒場に入って近寄って行きながら声をかける。

「よう。お前らが死んでると思ったから一人でドルドのところに行ってきたんだけど、ロザリアは案外平気そうだな」

 どうやら「酒の飲み過ぎで気分が悪い」ってだけの状態は回復魔法じゃ治せないらしい。
 ってことは、ロザリアはただ単に酒に強いってことなんだろう。

 ゆっくりとゴースト系のモンスターみたいに首をこちらに向けると、俯いたままラッドが口を開いた。

「ふっ……昨日はロザリアと盛り上がったせいでちょっと飲み過ぎてしまってね」
「あらいけませんわラッド様。あなた様は私の半分も飲んでいなかったではありませんか」
「さすがだよロザリア。記憶がある時点でもう君の勝ちだ」

 ラッドは大して飲んでないのに記憶が飛んだらしい。弱すぎ。
 二人のそんなやり取りを聞きながら席に着くと、腕をテーブルの上に置いてから本題に入った。

「で、勇者装備一式なんだけどよ。どうやら素材にオリハルコンって鉱石がいるらしくてな。それがどうもムコウノ山の頂上でたまに手に入るらしいから、準備が出来たらさっさと山に向かおうぜ」

 幽霊ラッドはそこでようやく顔をあげた。

「オリハルコンか。最高級の防具に使われているかなり稀少な鉱石だね。実質的にドワーフが独占していると耳にしたことがあったけれど、ムコウノ山で採れるなんてねえ」
「採れるっつうか、落ちてるのを拾うらしい」
「まあ、不思議な話ですわね」

 開いた口を手で隠しながら上品に驚くロザリア。
 俺はラッドをじっと見据えながら言った。

「ってことで、ラッドとティナが回復したら出発するぞ。……そういやティナはどうしてる?」
「酒場には降りて来てませんわね。後で様子を見に行ってみますわ」
「悪いけど頼んだ」

 一段落したので、二人が飯の最中だったらしいこともあり、そこで話を切り上げてから部屋に戻って休むことにする。
 この日はそれ以上特にできることもなく、ひたすらにだらだらと過ごした。
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