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不死鳥との契約編 後編 契約に従う者
セイラの受難
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創世の神殿にてひと騒動があった頃。セイラはモンスターテイマーズ訓練所にあるカフェにて同期の女子たちと茶をたしなんでいた。
足を組んで窓から外の景色を眺めつつ、紅茶の入ったカップを薄桃色の唇に当ててくいと傾ける。
銀の長髪が陽光に照らされて美しく煌めていた。
さながら一枚の絵画のようなその光景に周囲の者が見入っていることなど、当の本人は知る由もない。
ほう、と周囲から揃ってため息が漏れる頃、一人で思索にふけっていたことに気がついたセイラは眼前に意識を戻した。
するとその場にいた女子の一人が口を開く。
「ふふっ、ジン君がいなくなってから何だか退屈そうね?」
「ん。まあ静かにはなったかな」
からかうような言葉にも動じず、微苦笑と共にカップをソーサーに置いた。かちゃりという音が静かに響く。
たて続けに別の女子が声をかけてきた。
「じゃあさ、最近ノエル君とはどうなの? ジン君がいなくなった後もずっと一緒にいるじゃない」
「あれもジンと一緒で腐れ縁みたいなもんだって。別に何もないわよ」
「え~? ほんとにぃ~?」
頬杖をつきながらこちらをにやにやと見てくる相手に「しつこいっ」、とまたも微苦笑で応じる。
本当にこういう話が好きなんだな、とセイラは心の中で独りごちた。
別にセイラ自身こういう話も、こういう話が好きな友人たちも別に嫌いなわけではない、というか好きではある。だが、特にジンやノエルといるときに比べれば多少退屈だなと思うのも事実であった。
自分のジンに対する気持ちに気付いてはいるが、それには「こいつといると退屈しない」あるいは「何か面白いことをやらかしてくれる」という何か期待のようなものを含んでいる。
だから先ほどからの友人たちに対する言葉も、あながち嘘やごまかしという訳でもないのであった。
それからも今日の訓練のことや、最近街に出来たおいしいお店の話などで時間を潰していると、突然入り口の扉が慌ただしく開かれた。
やや乱暴なベルの音が店内に鳴り響き、いらっしゃいませという声をかけながら店員が奥から出てくる。
店に入って来た男は店員を手で制すと、周囲を見渡しながら声を張った。
「突然騒がしくしてすみません。セイラさんという方はいらっしゃいますか?」
「私ですけど」
そう言って椅子から立ち上がるセイラに男は用件を告げる。
「ゼウス様がお呼びです。何でも緊急の案件だそうで、急いでくれとのことです」
「わかりました。ご苦労様です」
その場で手をあげて友人たちに「ごめんね」と挨拶をすると、彼女たちも「ううん、早くいきな」と応じた。カウンターで自分の分の料金を支払ってから店を出ると急ぎ足で創世の神殿へ向かう。
やがて地面の土にぽつぽつと石畳が混じると創世の神殿が見えてきた。
ゼウスの家も兼ねる神殿内で騒がしくすることははばかられるため、廊下ではなるべく音を立てないように早足で歩いていく。
やがて大広間が見えてきてそこを抜けると執務室にたどり着いた。
扉を叩き、返って来た誰何《すいか》の声に応じる。
「セイラです。失礼します」
扉を開けて中に入ると、まず目についたのは意外な来客だった。
あどけない顔立ちをした金髪碧眼の美少女、女神ソフィアである。
最近の傾向から考えて一緒に呼び出しを受けていると思ったが、ノエルはこの場にはいないようだ。それともまだ来ていないだけなのだろうか。
ゼウスとソフィアはローテーブルを挟んで左右に向かい合うようにソファに腰かけている。
目が合うと、ソフィアは柔和な笑みをその口元に湛えて挨拶をした。
「こんにちは、セイラちゃん。今日も可愛いですねじゅるり」
「急に呼び出してすまんの」
「こ、こんにちは」
呼ばれ慣れていないちゃん付けと「可愛い」という言葉に対する照れで、ソフィアの口からよだれが垂れていたことはあまり気にならないようだ。
セイラはそのまま二人の近くまで歩み寄ってから姿勢を正し、口を開いた。
「緊急の案件ということですが」
「うむ。そうなんじゃがまだノエルが来ておらんでの。まあ座りんさい」
いつもセイラやノエルと話すときの和やかな口調でそう言うゼウス。
すると左側に座るソフィアがささっと場所を空けて、そこをぽんぽんと手で叩いた。
「セイラちゃん、どうぞこちらに」
「えっ、えっと……」
「ソフィアがああいうとるんじゃから遠慮する必要はなかろう」
隣なんて恐れ多いのではと戸惑うセイラに、ゼウスがそう声をかけた。
そもそもソファはセイラのいる側にももう一つあるからそこに座るのが妥当だと思うのだが、何故だろうか。
しかし神から遠慮するなと言われれば従うしかない。少し緊張しながらもソフィアの隣に腰かけることにした。
「では、失礼します」
「うふふ」
座るセイラを、隣でにこやかにソフィアが見つめている。しかも距離が近い。正直、少しばかり身の危険を感じなくもないセイラである。
その様子を見て頭を抱えながらゼウスが言った。
「ソフィア、お主その姿でしかもわしの管理する世界にいても遠慮がなくなってきたのう」
「すみません。ですがこんな可愛い子が目の前にいるのですから、理性を保つ方が難しいというものです」
「難しいというものです、じゃなかろう」
よくわからないことを自身満々に言い切るソフィアを見て、セイラは「え、えっと……」と戸惑う。
緊急の案件じゃなかったのだろうかと考えていると、ソフィアがセイラの左腕にしがみついて頬ずりをしながら鼻をすんすんと鳴らしてきた。
そちらを見ながらセイラが恐る恐るといった様子で口を開く。
「あの、ソフィア様?」
「はい。どうかしましたか?」
「どうかしかしていないのですが」
きょとんとした表情をしているソフィアに戸惑いを加速させつつも、セイラは何とかそう答えた。
すると頬ずりを再開しながらソフィアは応じる。
「女神も色々と大変なのです。こうして疲れを癒させていただければ助かります」
「はあ……」
もし相手が神でなければ、無理やり引き剥がして「せいけんづき」の一撃でもお見舞いするところなのだが。
そう考えていると次第にソフィアは正面に回りこみ、腕を背中に回して抱きつくと口をセイラの耳に近付けて囁いた。
「ふふっ、セイラちゃんはとってもいい子ですねえ」
「ちょっ、ちょっとソフィア様!? あのっ……」
ゼウスが「眼福眼福」と一連の出来事を見守っていると、部屋の扉が叩かれた。
二人共気付いてないようなのでゼウスが「入りなさい」と言うと、挨拶をしながら一人の男が部屋に入って来る。ノエルだ。
ノエルは部屋に入った瞬間に固まり、少しの間を空けてゆっくりと口を開く。
「えっと、これは……?」
真面目な女神としての顔しか知らないノエルに、ソフィアが五感を駆使してセイラを堪能している今の状況を理解出来るはずもない。
セイラがソファの上に押し倒されて、ソフィアを何とか引き剥がそうとしながら涙声で叫ぶ。恥からか力んでいるからか、顔は紅潮していた。
「ゼ、ゼウス様止めてください……! ノエル、あんたも!」
「年寄りにも楽しみが必要じゃからのう」
「お前でどうこう出来ないなら俺じゃなおさらだろ」
「ちょっとぉ……! もう……うっ、ひぐっ」
「あっ」
遂には泣き出してしまったセイラを見てさすがのソフィアもそう声を漏らし、動きを止めるのであった。
「あの、何で俺まで……」
「うるさい。私を見捨てた薄情者のくせに」
「神相手じゃ俺もどうこう出来ないって」
それから数分後。セイラが泣き止むと、他三人は正座で反省の意を示した。
ソフィアはもちろんのこと、眼福とほざいたゼウスと何も出来なかったノエルも連帯責任である。
セイラが腕を組んで立ったまま険しい顔で三人を見下ろしていると、しゅんとした様子のソフィアが口を開いた。
「可愛い女の子を泣かせてしまうなんて、女神として最低ですね……」
「あのソフィア様、お分かりいただけたのでしたら充分ですのでその」
「はい。次からはなるべく控えめに出来るよう頑張ります」
「いえ、一切やめていただきたいのですが」
結局のところわかってなさそうなソフィアに、セイラは頭を抱える。
それから一つ深呼吸をしてから口を開いた。
「それでゼウス様、何か緊急の案件だったのでは」
ゼウスは勢いよく顔を上げると、驚いたような表情で叫んだ。
「そうじゃった! すっかり忘れておった!」
そして立ち上がってから一つせき払いをすると、セイラとノエルに視線をやってから案件を告げた。
「リッジのやつがムコウノ山へ向かった。このままじゃ魔王軍幹部が全員消される可能性すらある。お主たちで何とかしてあやつを止めて欲しい」
足を組んで窓から外の景色を眺めつつ、紅茶の入ったカップを薄桃色の唇に当ててくいと傾ける。
銀の長髪が陽光に照らされて美しく煌めていた。
さながら一枚の絵画のようなその光景に周囲の者が見入っていることなど、当の本人は知る由もない。
ほう、と周囲から揃ってため息が漏れる頃、一人で思索にふけっていたことに気がついたセイラは眼前に意識を戻した。
するとその場にいた女子の一人が口を開く。
「ふふっ、ジン君がいなくなってから何だか退屈そうね?」
「ん。まあ静かにはなったかな」
からかうような言葉にも動じず、微苦笑と共にカップをソーサーに置いた。かちゃりという音が静かに響く。
たて続けに別の女子が声をかけてきた。
「じゃあさ、最近ノエル君とはどうなの? ジン君がいなくなった後もずっと一緒にいるじゃない」
「あれもジンと一緒で腐れ縁みたいなもんだって。別に何もないわよ」
「え~? ほんとにぃ~?」
頬杖をつきながらこちらをにやにやと見てくる相手に「しつこいっ」、とまたも微苦笑で応じる。
本当にこういう話が好きなんだな、とセイラは心の中で独りごちた。
別にセイラ自身こういう話も、こういう話が好きな友人たちも別に嫌いなわけではない、というか好きではある。だが、特にジンやノエルといるときに比べれば多少退屈だなと思うのも事実であった。
自分のジンに対する気持ちに気付いてはいるが、それには「こいつといると退屈しない」あるいは「何か面白いことをやらかしてくれる」という何か期待のようなものを含んでいる。
だから先ほどからの友人たちに対する言葉も、あながち嘘やごまかしという訳でもないのであった。
それからも今日の訓練のことや、最近街に出来たおいしいお店の話などで時間を潰していると、突然入り口の扉が慌ただしく開かれた。
やや乱暴なベルの音が店内に鳴り響き、いらっしゃいませという声をかけながら店員が奥から出てくる。
店に入って来た男は店員を手で制すと、周囲を見渡しながら声を張った。
「突然騒がしくしてすみません。セイラさんという方はいらっしゃいますか?」
「私ですけど」
そう言って椅子から立ち上がるセイラに男は用件を告げる。
「ゼウス様がお呼びです。何でも緊急の案件だそうで、急いでくれとのことです」
「わかりました。ご苦労様です」
その場で手をあげて友人たちに「ごめんね」と挨拶をすると、彼女たちも「ううん、早くいきな」と応じた。カウンターで自分の分の料金を支払ってから店を出ると急ぎ足で創世の神殿へ向かう。
やがて地面の土にぽつぽつと石畳が混じると創世の神殿が見えてきた。
ゼウスの家も兼ねる神殿内で騒がしくすることははばかられるため、廊下ではなるべく音を立てないように早足で歩いていく。
やがて大広間が見えてきてそこを抜けると執務室にたどり着いた。
扉を叩き、返って来た誰何《すいか》の声に応じる。
「セイラです。失礼します」
扉を開けて中に入ると、まず目についたのは意外な来客だった。
あどけない顔立ちをした金髪碧眼の美少女、女神ソフィアである。
最近の傾向から考えて一緒に呼び出しを受けていると思ったが、ノエルはこの場にはいないようだ。それともまだ来ていないだけなのだろうか。
ゼウスとソフィアはローテーブルを挟んで左右に向かい合うようにソファに腰かけている。
目が合うと、ソフィアは柔和な笑みをその口元に湛えて挨拶をした。
「こんにちは、セイラちゃん。今日も可愛いですねじゅるり」
「急に呼び出してすまんの」
「こ、こんにちは」
呼ばれ慣れていないちゃん付けと「可愛い」という言葉に対する照れで、ソフィアの口からよだれが垂れていたことはあまり気にならないようだ。
セイラはそのまま二人の近くまで歩み寄ってから姿勢を正し、口を開いた。
「緊急の案件ということですが」
「うむ。そうなんじゃがまだノエルが来ておらんでの。まあ座りんさい」
いつもセイラやノエルと話すときの和やかな口調でそう言うゼウス。
すると左側に座るソフィアがささっと場所を空けて、そこをぽんぽんと手で叩いた。
「セイラちゃん、どうぞこちらに」
「えっ、えっと……」
「ソフィアがああいうとるんじゃから遠慮する必要はなかろう」
隣なんて恐れ多いのではと戸惑うセイラに、ゼウスがそう声をかけた。
そもそもソファはセイラのいる側にももう一つあるからそこに座るのが妥当だと思うのだが、何故だろうか。
しかし神から遠慮するなと言われれば従うしかない。少し緊張しながらもソフィアの隣に腰かけることにした。
「では、失礼します」
「うふふ」
座るセイラを、隣でにこやかにソフィアが見つめている。しかも距離が近い。正直、少しばかり身の危険を感じなくもないセイラである。
その様子を見て頭を抱えながらゼウスが言った。
「ソフィア、お主その姿でしかもわしの管理する世界にいても遠慮がなくなってきたのう」
「すみません。ですがこんな可愛い子が目の前にいるのですから、理性を保つ方が難しいというものです」
「難しいというものです、じゃなかろう」
よくわからないことを自身満々に言い切るソフィアを見て、セイラは「え、えっと……」と戸惑う。
緊急の案件じゃなかったのだろうかと考えていると、ソフィアがセイラの左腕にしがみついて頬ずりをしながら鼻をすんすんと鳴らしてきた。
そちらを見ながらセイラが恐る恐るといった様子で口を開く。
「あの、ソフィア様?」
「はい。どうかしましたか?」
「どうかしかしていないのですが」
きょとんとした表情をしているソフィアに戸惑いを加速させつつも、セイラは何とかそう答えた。
すると頬ずりを再開しながらソフィアは応じる。
「女神も色々と大変なのです。こうして疲れを癒させていただければ助かります」
「はあ……」
もし相手が神でなければ、無理やり引き剥がして「せいけんづき」の一撃でもお見舞いするところなのだが。
そう考えていると次第にソフィアは正面に回りこみ、腕を背中に回して抱きつくと口をセイラの耳に近付けて囁いた。
「ふふっ、セイラちゃんはとってもいい子ですねえ」
「ちょっ、ちょっとソフィア様!? あのっ……」
ゼウスが「眼福眼福」と一連の出来事を見守っていると、部屋の扉が叩かれた。
二人共気付いてないようなのでゼウスが「入りなさい」と言うと、挨拶をしながら一人の男が部屋に入って来る。ノエルだ。
ノエルは部屋に入った瞬間に固まり、少しの間を空けてゆっくりと口を開く。
「えっと、これは……?」
真面目な女神としての顔しか知らないノエルに、ソフィアが五感を駆使してセイラを堪能している今の状況を理解出来るはずもない。
セイラがソファの上に押し倒されて、ソフィアを何とか引き剥がそうとしながら涙声で叫ぶ。恥からか力んでいるからか、顔は紅潮していた。
「ゼ、ゼウス様止めてください……! ノエル、あんたも!」
「年寄りにも楽しみが必要じゃからのう」
「お前でどうこう出来ないなら俺じゃなおさらだろ」
「ちょっとぉ……! もう……うっ、ひぐっ」
「あっ」
遂には泣き出してしまったセイラを見てさすがのソフィアもそう声を漏らし、動きを止めるのであった。
「あの、何で俺まで……」
「うるさい。私を見捨てた薄情者のくせに」
「神相手じゃ俺もどうこう出来ないって」
それから数分後。セイラが泣き止むと、他三人は正座で反省の意を示した。
ソフィアはもちろんのこと、眼福とほざいたゼウスと何も出来なかったノエルも連帯責任である。
セイラが腕を組んで立ったまま険しい顔で三人を見下ろしていると、しゅんとした様子のソフィアが口を開いた。
「可愛い女の子を泣かせてしまうなんて、女神として最低ですね……」
「あのソフィア様、お分かりいただけたのでしたら充分ですのでその」
「はい。次からはなるべく控えめに出来るよう頑張ります」
「いえ、一切やめていただきたいのですが」
結局のところわかってなさそうなソフィアに、セイラは頭を抱える。
それから一つ深呼吸をしてから口を開いた。
「それでゼウス様、何か緊急の案件だったのでは」
ゼウスは勢いよく顔を上げると、驚いたような表情で叫んだ。
「そうじゃった! すっかり忘れておった!」
そして立ち上がってから一つせき払いをすると、セイラとノエルに視線をやってから案件を告げた。
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