女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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不死鳥との契約編 後編 契約に従う者

暗黒のピクニック

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「いい天気ですね、魔王様もいらっしゃればよかったのに」
「ばっか魔王様は俺と城だけが友達なんだよ察してやれって」

 六本腕のゴリラと首無し鎧男の軽妙なやり取りが晴天の空の下に響き渡る。
 一斉出撃命令が下った魔王軍幹部とファリスの部下サキュバス二人はすでにムコウノ山に入っていた。とはいえ天気がいいので、勇者たちの邪魔をしに行く前に少し山での散歩を楽しもうという考えらしい。

 ちなみになぜファリスだけ部下がついているかというと、心配で勝手についてきてしまったからだ。なんだかんだで慕われている様子である。
 ムガルも信頼されてはいるが、こちらは危ないからついてこないでくださいと丁重に断ったようだ。
 ウォードはそもそも部下も友達もチェンバレン以外にいないし、ティノールは部下を持ちたがらない性質だった。

 ウォードの軽口を聞いたファリスが睨みを利かせながら反論する。

「魔王様の悪口言ってんじゃないわよ。これ以上言うならねえ」
「言うならなんだってんだ? ん? また俺に『誘惑』を使って朝まで一緒にチェンバレンの世話でもするか?」
「うっ……」

 先日の出来事がトラウマになり、ファリスはウォードに対して必殺のスキルを使えなくなっている。
 チェンバレンの上でどうだ見たかと言わんばかりにふんぞり返るウォード。
 そこにファリスの部下の片割れであるシルビアが、チェンバレンの頭を撫でながら誰にともなく声を発した。

「あら随分とたくましい子ね。ふふ、今度は私がお世話をしてあげましょうか」

 自然豊かなムコウノ山の風景には決して溶け込むことのない華美なドレスと先端を巻いた金の長髪。耳元にはイヤリングが光るシルビアは、「誘惑」なしでも男性をいとも簡単に「魅了」してしまいそうな艶やかな雰囲気をまとっていた。
 そんな女性としての魅力に溢れたシルビアを見て、ウォードは少々気分が高揚してしまっている。

「ま、まじ? 是非頼むよ。ついでにもしよかったら俺とお茶しようぜ」
「なに私の部下に欲情してんのよ。気持ち悪」
「うるせーな。魅力ある女性をみた時の正しい男の反応だろうが」

 会話を聞いたシルビアはファリスの後ろに回り込み、そのまま抱きついた。すると背丈的にファリスの頭がシルビアの胸に少しばかり埋まる形になってしまう。
 その感触を後頭部に感じたファリスは間の抜けた声を漏らしてしまった。

「うひっ」
「ふふ、やきもちかしら? ファリス様は本当に可愛いわぁ」
「おい、シルビアおめー妙なもんファリス様の頭に押し付けてんじゃねーよ」

 そこに横から入ってきたのは明るい紫色のショートボブが特徴的なファリスの部下サキュバスの片割れ、メイだ。
 甲高い活発な声音がその外見にとても良く似合っている。

「羨ましいのかしら? ごめんなさいね、分けてあげられなくて」
「いらねーよ。ったく、男はこんなもんで興奮するっつーんだからよー」

 と言いながら、メイはシルビアまんじゅうの片側を片手で鷲掴みにした。
 チェンバレンの雄叫びが空気を切り裂いてその場にいる者の鼓膜を揺らす。

「ブルヒヒヒィィィン!!」
「おい、わかってんなら俺らの目の前で掴むな。チェンバレンが興奮してるだろ」
「そこはあんたが興奮しなさいよ……」

 呆れ顔で言葉を差し込んだファリス。そこに、歩きながらそれらのやり取りを静かに聞いていたティノールが口を挟む。

「お主らはここに何をしに来たのかわかっておるのか? 浮かれおって。これでは完全にピクニックではないか」
「別にいいじゃねえか、仕事仕事じゃ気が詰まるしよ」
「お主の気が詰まっておるところを見たことがないのじゃが……」
「お前が真面目すぎるだけなんじゃねえの? なあムガル」

 ウォードに話を振られたムガルは、頬を真ん中の右手でぽりぽりとかきながら口を開いた。

「えっと、僕はこういう楽しいことは大好きですけど……でも、ティノールさんみたいな方がいてくれないと締まらないな、とも思います」
「お主も大概真面目な性格よのう」

 そんな会話をしているうちに一同は開けた場所に出た。

 相変わらず自然豊かで山肌は見えないが背の高い草木が少なく、また崖に面していて見晴らしがいい。麓の森が一望出来るようになっている。
 ファリスが崖際まで走って眼下に広がる景色を眺めると、仲間たちの方に振り向いてから言った。

「なかなかいい眺めじゃない。ねえ、ここでおやつにしましょうよ!」
「え、お前おやつとか持ってきてんの?」
「当たり前でしょ。ていうかあんた、山におやつも持たずにきたの?」
「常識みたいに言うな。みんなだって持ってきてないよな?」

 そう言ってウォードがチェンバレンの上から見回すと、全員が一斉にふところをごそごそとやり始めた。

「持ってきてるぜ!」
「私は水筒を使って紅茶まで持ってきてるわよ」
「わらわも持ってきておるぞ」

 メイ、シルビア、ティノールという順でおやつを見せびらかしてきた。

「ティノールもかよ、なんだかんだ言って楽しんでんじゃねえか」

 やれやれと肩をすくめるとウォードはムガルに視線をやりながら言う。

「全く、女ってのは何でこうもおやつが好きなんだろうな?」
「えっ、すいません僕も持ってきてます……」
「まじかよ」
「ブルヒヒヒン!」
「チェンバレンまで!?」

 ムガルはバナナを手に持ち、チェンバレンはどこからか人参を取り出して口にくわえている。呆気にとられるウォード。

「まじかよ。おやつ持ってきてないの俺だけじゃねえか」
「私のはあげないわよ」

 ファリスが先んじてそう断ると、メイは親指を立てて笑顔で元気に、シルビアはおやつを大事そうに抱きかかえながら申し訳なさそうに続く。

「私のもな!」
「ごめんなさいね。私のもあげられないわぁ」
「いや、別にいらねえけど」
「なんじゃお主ら冷たいのう。仮にも仲間なんじゃから少しくらいわけてやったらどうじゃ。ほれ」
「何でそこでさりげなくいいやつなんだよ」

 そう言いながら、ティノールから差し出されたおやつを受け取るウォード。

「僕もたくさん持ってきてますから、どうぞ」

 ムガルはなんとバナナを一房丸ごと差し出した。
 ウォードはそれを、感動に身を震わせながら受け取る。

「ムガル……お前……」

 そこまでの流れを見守っていたファリスが、わざとらしく不機嫌な顔でおやつを差し出しながら言った。

「しょうがないわね、ほら! 感謝しなさいよ」
「ファリス……」

 頬をほんのりと赤く染めたファリスに、シルビアが今度は正面から抱きついた。

「まあ照れちゃって。ファリス様は本当に可愛いわねえ」
「もがもが……」

 顔がまんじゅうに埋まり、ファリスは苦しさから必死にもがき抵抗する。
 少ししてようやく顔を引き剥がすことに成功するとシルビアに文句を垂れた。

「ちょっと! さっきからいちいち抱きつくんじゃないわよ!」
「ふふっ、あっ」

 ファリスをからかうシルビアから迅速におやつを奪い取ると、メイがウォードにそれを差し出した。

「はい! 私とシルビアからもやるぜ! 次は忘れんなよな」
「お前ら……あー……えっとごめん、何て名前だっけ……」

 実は彼女らとは今日が初対面なウォードであった。

「ブルヒヒヒィィィン」
「チェンバレンまで……お前らありがとう」

 ウォードは言葉を詰まらせながら人参を受け取る。

 それから幹部たちは全員分を集めた大量のおやつを囲む形で円を作って座り、わいわいとさわぎ始めた。
 さっきのあげるあげないのやり取りはなんだったの、結局全部集めてるやん……とはウォードの心の声であったが、さわぎが始まった今となってはそこまで気にしてはいないようだ。

 おやつを食べつつ、少し照れた様子でティノールがムガルに語る。

「まあなんじゃ、こういうのもたまには悪くないのう」
「ですね。僕のバナナもどうぞ」
「うむ」

 やがて少しばかりおやつの山が減り始めたのを見てファリスがわめく。

「ねえ、もう他に持ってる人いないの?」

 話を振られ、シルビアとメイが首を横に振った。

「残念だけれど」
「いやーさすがになあ? ファリス様こそ持ってねえのかよ」
「あれだけ出したんだからもう持ってるわけないでしょ。あんたらこそ後で一人で食べようとか思って取ってあるんじゃないでしょうね」

 訝しむような視線を向けられるがメイの表情が変わることはない。
 そんなやり取りを目にしたウォードが呆れた様子で会話に入ってきた。

「お前らどういう戦いを繰り広げてんだよ。全く、おやつなんてまたいつでも食べれるんだからそんな……」

 その時だった。
 
 突然背後の山道から人間が二人現れてすごい勢いでこちらに走って来る。
 その二人は円の中心に入っておやつの前に立ち、彼らがやってきたのとは逆側の山道から来るであろう何かに対して身構えた。
 二人のうち銀髪の女性が呆気に取られている幹部たちを見回しながら叫んだ。

「私たちは精霊でモンスターテイマーズの隊員よ! 説明してる暇はないわ、すぐに避難して!」
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