女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
117 / 207
不死鳥との契約編 後編 契約に従う者

不死鳥フェニックス

しおりを挟む
 陥没跡を過ぎてしばらく歩いていると親ハウンドが心の声で話しかけてきた。

(そう言えばジンさん、今更ですけどこの山に何をしに来たんですか?)
(本当に今更だな。不死鳥ってのと契約をしに来たんだよ)

 すると何故か少し考えるような間が空いた。

(不死鳥、ですか)
(ああ。そうだ、お前不死鳥について何か知らねえか?)
(知りません。ですが、心当たりならあります)
(ほう)

 親ハウンドはそこで俺の方を見上げて口の端を吊り上げた。犬がこれやっても笑ってるのかどうかはわからんな。

(この山にはね……出るんですよ)
(何が?)
(ゴーストが)
(ちょっとヨロコビダケ探してくるわ)

 そう言って早足で歩き出した俺の服の裾を、親ハウンドが力強く口で咥えた。
 不意に足止めをされたので後ろを振り向いて睨みつける。

(何すんだよ、服がのびるだろ)
(いやいやもうヨロコビダケは勘弁してくださいよ!)
(お前がつまらんことを言い出すからだろうが。ゴーストなんてどこにでもいるじゃねえか)
(いやいやたしかにそうなんですけど、とにかく話を聞いてくださいって)

 そんな俺たちのやり取りは心の声が聞こえなければじゃれ合っている風に見えるらしく、ティナが横から話しかけてきた。

「ジン君とその子、すごく仲良しになったんだね」
「だろ? もう親友も同然だぜ」
「くぅ~ん」

 くぅ~んにそこそこ弱いティナはこれに反応し、膝を折って親ハウンドの頭を撫で始めた。

「よかったね~ジン君と仲良しさんになれて」
「くぅ~ん」

 俺たちの後ろを歩いていたラッドとロザリアも、そんなティナと親ハウンドの様子を見て話しかけてくる。

「どうしましたの? ティナちゃん、何だか楽しそうですわね」
「ジン君とこの子がすごく仲良しなんだよ」
「へえ、何だ意外に動物に好かれるんだねえ」

 ラッドが感心したような表情でそう言うとロザリアが柔らかく微笑む。

「ふふ、ジン君は子供にも好かれやすいですからね」
「そう言われればそうか」
「くぅ~ん」

 今度は俺たちの間を、俺もいるぜ! とばかりにぴょこぴょこと子犬ハウンドが走り回り始めた。

「はっはっ」
「あらあら、僕も遊んで~って言ってますわ」
「しょうがない、たまには僕が遊んであげようじゃないか」

 ラッドが子犬ハウンドを抱きかかえた。でも子犬はすぐにラッドの腕の中をとれたての魚のごとく暴れて脱出してしまう。
 次は自分の番だというふうにロザリアがそれを抱っこして口を開いた。

「ラッド様は抱っこの仕方があまりよろしくありませんわ」
「む……そうか。ヴォジョレーは大型犬で抱っこする機会があまりなかったからねえ」

 ぽりぽりと頬をかきながらラッドが弁明する。
 そこでティナが「ロザリアちゃん、次は私ね」と抱っこをしようとその輪に参加したので、俺は気を取り直して親ハウンドと歩き始めた。

 なるべく視線は向けないようにして心の声で語りかける。

(くぅ~んのタイミングとか結構うまくなったなお前)
(とりあえずああ言っておけば人間が喜ぶなってのがわかってきたんで)
(意外と腹黒いなおい、聞きたくなかったわ)
(お忘れかもしれませんが、私はヘルハウンドですから)

 ふんすっ、と顔をあげて鼻を鳴らす親ハウンド。その仕草はどう見ても犬だ。
 それにさっきからお前犬扱いに全く抵抗なくなってきてるよなとか、子供なんてもはやただの犬だけどなとか、そういうことを言いたくなるのでこの話はここまでにしておこう。

(で、話を戻すけどゴーストがどうしたって?)
(はい、この山の頂上を中心に至るところで怪奇現象が起きていて、ゴーストのいたずらに似ているのでそう言っているのですが)
(怪奇現象)
(はい。何もないはずの頂上にいつの間にかオリハルコンが現れたり、冒険者たちが荒らしていったはずの草花が最長でも一日で、時には数時間も経たぬ内に復活していたり……)
(……それって本当か?)
(はい。もうこればっかりは信じていただくしかないのですが)

 あり得ない、ということもないけどやっぱりそれはおかしな話だ。
 草花の生命力を活性化させて成長を早める魔法というのはないこともない。
 神々が使う神聖魔法なら恐らくそういうことも出来るだろう。

 でもそうなると神が定期的に、しかも今の話によれば最低でも一日周期でここを訪れていることになる。
 この世界を管理しているゼウスでさえも丸一日フォークロアーにすらいない時だってあるのに、それは無理な話だ。

 まあ頂上に行けば何かわかるかもしれない、というか今のところはもうそれに期待するしかない。そう思って俺はこの件に関して考えるのをやめた。

(その話は信じとくよ、ありがとな)
(お役に立てたのなら幸いです)

 それからはモンスターに遭遇することもなく順調に進んだ。
 ここら辺にいたモンスターもさっきの大群みたいにどこかに逃げ出したのかもしれないな。
 相変わらず草木が生い茂っていたり道がくねくね曲がっていたりで、いまいちどれくらい進んだのかわかりづらくて悶々としていると、親ハウンドが心の声で教えてくれた。

(ジンさん、頂上まであともう少しですよ)
(おう。てか何でお前震えてんだよ)

 話してる素振りは見せずに目だけで親ハウンドの方を見たら身体が全体的にぷるぷるしていた。

(え、だってさっきの話聞いて不気味だと思いませんでした? 草木が伸びるのがすごい早いんですよ?)
(それって普通にいいことじゃね? ていうかお前、そんなのにびびるとかヘルハウンド云々はどこ行ったんだよ。誇りとか持ってるんじゃなかったのか)
(そんなものはジンさんと出会った時に捨てました)
(その言い方だとちょっとかっこよく聞こえるな)
(ありがとうございます)

 俺の横にはヘルハウンド親子、そしてティナ。後ろからラッドとロザリアがついてきている。
 少しだけ疲れたような表情のラッドがつぶやいた。

「しかし頂上まであとどれぐらいかわからないというのもなかなかしんどいものがあるね」
「だねー、もうすぐのような気はするんだけど」

 ティナが後ろを振り返りながらそう返事をした。
 みんなにも「テレパシー」が使えればもうすぐ頂上だって教えてやれるのに、ちょっとだけ心苦しい。
 ラッドは一つ深呼吸をして表情を整えてから減らず口を叩く。

「まあロザリアさえいればどんなところでも楽しいんだけれどね」
「ラッド様、いけませんわ。嫌なことは嫌と言いませんと」
「正直もう宿に帰りたいねえ」
「本当に正直になってる……」

 微苦笑をしながらティナがそう口にした時だった。
 親ハウンドが(あれが頂上です)と心の声と目線で教えてくれたので、そっちを指差しながらみんなに教えてやる。

「おい見ろ、あれ頂上じぇねえか?」

 俺が指差した先からは森が終わって光が差し込んできていた。そしてそこから頂上に出ると一気に空が広がる。
 頂上は外周に沿うように樹々や岩があって、それらに囲まれた空間には全て草花の絨毯が敷き詰められていた。
 優しい太陽の光と穏やかな風が肌に触れて心地よい。空気も綺麗で、自然を目一杯に感じられる場所だ。

 モンスターの巣くう山の頂上とは思えない風景に、俺たちはしばらくただ立ち尽くしてしまう。でもやがて弾けたように、ティナと子犬ハウンドが一斉に駆け出していった。

「わあー、すごい! ハジメ村の近くの草むらみたい!」

 ティナは足下を俺も楽しいぜ! とばかりに飛び跳ねる子犬を連れて走り回り、中央辺りでぼふんと草の絨毯に飛び込む。
 微笑ましい光景に頬を緩めながら、そちらにのんびりと歩み寄って声をかける。

「おいおい、気持ちはわかるけど遊びに来たんじゃないんだぞ」
「とてものどかでいい風景だけれど……肝心のオリハルコンも不死鳥も見当たらないねえ」

 たしかにラッドの言う通り、ここには見渡す限りの大自然しかない。
 困ったように笑いながらロザリアも口を開く。

「まあせっかく来たのですから、もう少しだけここでゆっくりしましょう」
「さんせ~い」

 とティナが寝たまま回転して仰向けになり、バンザイをしながら返事をする。
 そうして各自がおやつタイムに入るための準備を始めた時だった。

『その必要はない』
「えっ?」

 ティナが上半身を起こしてそんな声をあげる。
 どこからか直接頭に響いてきた中年紳士のような低くて凛々しい声音。けど、その姿はどこにも見当たらない。
 みんなが一様にきょろきょろしているともう一度声が聞こえた。

『ここだ』

 すると突然風が起こり、俺たちの背後、少し見上げるくらいの高さの位置にそれが集まっていって渦を巻いたかと思うと、その中心に鳥が現れた。
 その身体は全体が炎のような色合いをしていて、頭頂部は実際に燃えている。臀部の辺りから出た何本もの尻尾のようなものがその外見の異様さを助長させているけど、不思議と怖さや不気味さといったものは感じない。
 
 静かな、けれどどこか値踏みをするような厳しい視線でこちらを見据えながら、鳥は口を開いた。

『私はこの世界の行く末を見守る者、不死鳥フェニックス。勇気ある者たちよ、来訪を心待ちにしていたぞ』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...