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世界の真実編 前編 世界の真実とそれぞれの「これから」
とある少女の憂鬱
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石造りの部屋の中、テーブルに据えられた椅子に一人の少女が腰かけている。
部屋に備えられた調度品はどれも豪奢で、庶民の財布なら容易に破壊出来る攻撃力を持っているであろうことは想像に難くない。しかし、そんな栄華に囲まれたかのような少女の表情には憂いの色が多分に含まれていた。
天蓋付きのベッドも、ビックリツリーキングというレアモンスターからドロップする木材を使った椅子も、オリハルコンを混ぜて作られた煌々とした輝きを放ち続けるテーブルも、少女には不要であるかのように。
目の前に置かれたカップを手に取り、紅茶を口に含んだ。そして椅子から下りると、窓辺まで歩いてそこから外の景色を眺める。
眼下にはミツメの街が広がっていた。現在は昼過ぎで、ピークではないがそこそこに人の往来がある時間帯だ。
楽しそうな人々を見ていればいくらかは気が紛れる。街の喧騒を生み出している笑顔たちに、少女は顔を綻ばせた。
私もあそこに行きたい、みんなと話をしてみたい――――。
でもだめ、と首を横に振る。
城を抜け出すこと自体はそんなに難しくはない。兵士や高官たちは自分を慕ってくれているので、そうしようと思えば方法はいくらでもある。
だが後始末が面倒だ。それに申し訳ないという気持ちにもなる。
みんなが本気で心配して自分を探しに来るし、城に戻った後にはお説教のようなお小言が待っているのだ。
それでも以前、どうしても街に出たくて抜け出した時にはいい出会いもあった。
兄として仲良くするのに丁度いい年頃の男の子。しかも特異な身体能力や戦闘力を持っていて、いざという時にはとても頼りになる。
そしてまるでその男の子が連れて来てくれたかのように、ほぼ時を同じくして自分の目の前に現れた女勇者。
いつもひまわりのような温かい笑顔を咲かせる、お姉さんのようでも、お母さんのようでもあるとても優しい人。
二人のことを思い出してまた少し寂しくなってしまったのか、少女は服の裾をぎゅっと握り込んだ。
人々から目を離し、視線を空に向ける。
今頃はどこにいるんだろうか、いつになったら帰って来るんだろうか。
いっそ、この大空を横切ってひとっ飛びに……なんて、そんな妄想を聞かれればまたあのデリカシーのない男の子に「珍しくちびっこらしいこと言うじゃねえか」なんて言われてしまうかもしれない。
また首を横に振って大空に再度視線をやった、その時だった。
一羽の鳥がいる。もちろん、それだけなら不自然なことではない。目をひかれたのはその異様さだ。
まだはっきりとは見えないが、周りを飛んでいる鳥と比べると明らかに大きさが違う。そして、その鳥たちも異様な鳥に気付くなり蜘蛛の子を散らすように逃げ惑ってしまっているではないか。
少女は窓を開け放ち、少しだけ身を乗り出した。紫がかった長い赤髪が風に揺られて広がり、陽光を反射して輝く。
近づくにつれ、段々と朱色の毛並みをしていることもわかってきたが、そのような事実が余計に少女の混乱を加速させる。少女の常識には朱色の毛を持つ鳥というのは存在しない。
次第にそれがこちらに近付いて来る。恐らくはこの部屋を目掛けて。
眼下では、警備の兵士達がにわかにざわめている。城内の兵士や召使いはまだ気付いていならしく、背後は静かだ。
どんどん大きくなるにつれて、頭の上から何かが顔を出しているのがわかる。そして、それは少女が今もその帰りを待ち焦がれている、あの優しい人だった。
横からはデリカシーのないあいつも顔を出している。
どこか今は亡き母にも似ているあの人は元気に手を振りながら、大声で言った。
あの、ひまわりのような笑顔で。
「エリスちゃ~ん、ただいま~!」
☆ ☆ ☆
ムコウノ山への旅を終えた俺たちは、フェニックスに乗って空路で帰還することにした。とは言っても、俺もまさか「空路」なんていう言葉を使う日が来るとは思ってなかったけどな。
「陸路」や「海路」にならえば、まあ「空路」ってことにはなるだろ。
ちなみに高いところが苦手らしいラッドは魔法で眠らせた。ロザリアの膝枕でそれはまあ随分と気持ちよさそうに眠ってたぜ。
俺もいつかはティナの膝枕で……ばかやろぉ!
そんなわけで直接エリスの部屋へと帰還した俺たちは、一度各自の部屋に戻った後、まだ起きないラッドとその様子を見守るロザリアを置いて、ティナと二人でエリスの部屋に戻って来た。
それぞれがテーブルの椅子へと腰を落ち着けたところで、ティナが口を開く。
「改めてただいま、エリスちゃん」
「おかえり。まさかあんな方法で帰って来るとは思わなかったわ」
と言いながら、どこか嬉しそうな顔のエリスがテーブルの上に座っているフェニックスに視線を向けると、ティナが手で示しながら紹介した。
「新しい仲間のぴーちゃんだよ。可愛がってあげてね」
『ぴーちゃんだ。よろしく頼む』
「それが噂の不死鳥……ってことなのよね?」
「うん、そうだよ。可愛いでしょ?」
にっこり、とティナは屈託のない笑みを見せる。
まあ不死鳥なのになぜぴーちゃんだとか、エリスの方にも色々言いたいことはあるだろう。
でも、エリスが真っ先に聞いて来たのは案の定な内容だった。
「まあそれはいいんだけど……ってことは次に行くのは魔王城だろうから、あんまりミツメにはいられない、のよね……?」
言葉尻は不安げに、徐々に上目遣いになって瞳が潤み始めるエリス。
しかし、それに対する俺たちの解答は何とも言えないものになってしまう。
「それなんだけどよ……お前、魔王城の地図とかって知らねえよな?」
「何よそれ。そもそもそんなものが存在するの?」
問いかけに問いかけで返されてしまった。まあだめもとで聞いたんだからこうなってもしょうがない。
エリスに対してティナが事情を説明してくれた。
「これから魔王城に行くのはいいんだけど、魔王城の中がどうなってるのかってわからないから、どうしようって話になってて」
「確かにそれは言えてるわね」
エリスはうなずき、顎に手を当てて考え込む。でもすぐに申し訳なさそうな表情になって首を横に振った。
「ごめんなさい。私は何も知らないわ」
「ううん、いいの。聞いてみただけだから」
ぱたぱたと手を振るティナ。
「少し時間をくれれば城の人たちに聞いてみるけど」
「そうだな、まあ正直この城だとエリスが一番ものを知ってそうだけど……」
「あんたね、一応私の部下とかなんだから多少は気を使いなさいよ」
「だったらあいつらの俺への扱いを何とかしろ」
「仲が良くて結構じゃない」
そう言うとエリスはテーブルの上からカップを手に取り、紅茶を一口。
そろそろ誤解を解いて俺と兵士たちがいつもやってるのは割と本気な喧嘩だと言うのをわかってもらいたいなと思っていると、部屋の扉がノックされた。
間を置かずして、その向こうから悲鳴のような声が聞こえてくる。
「エリスしゃまぁー! エリスしゃまぁー!」
「騒々しいわね。どうしたの?」
エリスが扉の方を向きながらそう返事をすると、勢いよく扉が開かれる。
手に持った大皿に大量のおやつを乗せて決死の表情をした兵士が、一歩部屋に踏み込んで慌てた様子で口を開いた。
「申し訳ありません! おやつタイムを、おやつタイムを忘れておりました! この私、一生の不覚! かくなる上は自爆してお詫びを」
「おやつならもう頂いたわよ」
兵士はこの世の終わりとばかりに絶叫した。
「ほああああぁぁぁぁー! 申し訳ございません、申し訳ございませんでした!」
「ちょっとうるさい!それとせっかくだからそのおやつはもらうわ。このテーブルの上に置いていきなさい」
本当に煩わしそうに顔をしかめながら、エリスはテーブルの上を指差す。
ティナが「ぴーちゃん、こっち」と声をかけると、フェニックスはティナの肩の上へと移動した。
「かしこまりました!」
勢いよく返事をして大皿をテーブルの上に置くと、そのまま兵士は言う。
「エリスしゃま!」
「何よ」
「私もご一緒してよろしいでしょうか!」
「だめ」
「かしこまりました!」
一礼をすると、またも勢いよく兵士は去っていく。嵐みたいなやつだ。
部屋が一気に静かになると、おやつを取りながらエリスに話しかけた。
「お前も大変だな」
「もう慣れてるから。たしかにあんたの言う通りあいつらが何か知ってるとは思わないけど……一応明日、聞き込みをしてみるわ」
「おう、頼んだぜ。それじゃあ明日は各自情報収集ってところだな」
「だねっ」
と、フェニックスを撫でながらティナが応える。
その後は旅の疲れもあり、晩飯を食ってからは早々に眠りについた。
部屋に備えられた調度品はどれも豪奢で、庶民の財布なら容易に破壊出来る攻撃力を持っているであろうことは想像に難くない。しかし、そんな栄華に囲まれたかのような少女の表情には憂いの色が多分に含まれていた。
天蓋付きのベッドも、ビックリツリーキングというレアモンスターからドロップする木材を使った椅子も、オリハルコンを混ぜて作られた煌々とした輝きを放ち続けるテーブルも、少女には不要であるかのように。
目の前に置かれたカップを手に取り、紅茶を口に含んだ。そして椅子から下りると、窓辺まで歩いてそこから外の景色を眺める。
眼下にはミツメの街が広がっていた。現在は昼過ぎで、ピークではないがそこそこに人の往来がある時間帯だ。
楽しそうな人々を見ていればいくらかは気が紛れる。街の喧騒を生み出している笑顔たちに、少女は顔を綻ばせた。
私もあそこに行きたい、みんなと話をしてみたい――――。
でもだめ、と首を横に振る。
城を抜け出すこと自体はそんなに難しくはない。兵士や高官たちは自分を慕ってくれているので、そうしようと思えば方法はいくらでもある。
だが後始末が面倒だ。それに申し訳ないという気持ちにもなる。
みんなが本気で心配して自分を探しに来るし、城に戻った後にはお説教のようなお小言が待っているのだ。
それでも以前、どうしても街に出たくて抜け出した時にはいい出会いもあった。
兄として仲良くするのに丁度いい年頃の男の子。しかも特異な身体能力や戦闘力を持っていて、いざという時にはとても頼りになる。
そしてまるでその男の子が連れて来てくれたかのように、ほぼ時を同じくして自分の目の前に現れた女勇者。
いつもひまわりのような温かい笑顔を咲かせる、お姉さんのようでも、お母さんのようでもあるとても優しい人。
二人のことを思い出してまた少し寂しくなってしまったのか、少女は服の裾をぎゅっと握り込んだ。
人々から目を離し、視線を空に向ける。
今頃はどこにいるんだろうか、いつになったら帰って来るんだろうか。
いっそ、この大空を横切ってひとっ飛びに……なんて、そんな妄想を聞かれればまたあのデリカシーのない男の子に「珍しくちびっこらしいこと言うじゃねえか」なんて言われてしまうかもしれない。
また首を横に振って大空に再度視線をやった、その時だった。
一羽の鳥がいる。もちろん、それだけなら不自然なことではない。目をひかれたのはその異様さだ。
まだはっきりとは見えないが、周りを飛んでいる鳥と比べると明らかに大きさが違う。そして、その鳥たちも異様な鳥に気付くなり蜘蛛の子を散らすように逃げ惑ってしまっているではないか。
少女は窓を開け放ち、少しだけ身を乗り出した。紫がかった長い赤髪が風に揺られて広がり、陽光を反射して輝く。
近づくにつれ、段々と朱色の毛並みをしていることもわかってきたが、そのような事実が余計に少女の混乱を加速させる。少女の常識には朱色の毛を持つ鳥というのは存在しない。
次第にそれがこちらに近付いて来る。恐らくはこの部屋を目掛けて。
眼下では、警備の兵士達がにわかにざわめている。城内の兵士や召使いはまだ気付いていならしく、背後は静かだ。
どんどん大きくなるにつれて、頭の上から何かが顔を出しているのがわかる。そして、それは少女が今もその帰りを待ち焦がれている、あの優しい人だった。
横からはデリカシーのないあいつも顔を出している。
どこか今は亡き母にも似ているあの人は元気に手を振りながら、大声で言った。
あの、ひまわりのような笑顔で。
「エリスちゃ~ん、ただいま~!」
☆ ☆ ☆
ムコウノ山への旅を終えた俺たちは、フェニックスに乗って空路で帰還することにした。とは言っても、俺もまさか「空路」なんていう言葉を使う日が来るとは思ってなかったけどな。
「陸路」や「海路」にならえば、まあ「空路」ってことにはなるだろ。
ちなみに高いところが苦手らしいラッドは魔法で眠らせた。ロザリアの膝枕でそれはまあ随分と気持ちよさそうに眠ってたぜ。
俺もいつかはティナの膝枕で……ばかやろぉ!
そんなわけで直接エリスの部屋へと帰還した俺たちは、一度各自の部屋に戻った後、まだ起きないラッドとその様子を見守るロザリアを置いて、ティナと二人でエリスの部屋に戻って来た。
それぞれがテーブルの椅子へと腰を落ち着けたところで、ティナが口を開く。
「改めてただいま、エリスちゃん」
「おかえり。まさかあんな方法で帰って来るとは思わなかったわ」
と言いながら、どこか嬉しそうな顔のエリスがテーブルの上に座っているフェニックスに視線を向けると、ティナが手で示しながら紹介した。
「新しい仲間のぴーちゃんだよ。可愛がってあげてね」
『ぴーちゃんだ。よろしく頼む』
「それが噂の不死鳥……ってことなのよね?」
「うん、そうだよ。可愛いでしょ?」
にっこり、とティナは屈託のない笑みを見せる。
まあ不死鳥なのになぜぴーちゃんだとか、エリスの方にも色々言いたいことはあるだろう。
でも、エリスが真っ先に聞いて来たのは案の定な内容だった。
「まあそれはいいんだけど……ってことは次に行くのは魔王城だろうから、あんまりミツメにはいられない、のよね……?」
言葉尻は不安げに、徐々に上目遣いになって瞳が潤み始めるエリス。
しかし、それに対する俺たちの解答は何とも言えないものになってしまう。
「それなんだけどよ……お前、魔王城の地図とかって知らねえよな?」
「何よそれ。そもそもそんなものが存在するの?」
問いかけに問いかけで返されてしまった。まあだめもとで聞いたんだからこうなってもしょうがない。
エリスに対してティナが事情を説明してくれた。
「これから魔王城に行くのはいいんだけど、魔王城の中がどうなってるのかってわからないから、どうしようって話になってて」
「確かにそれは言えてるわね」
エリスはうなずき、顎に手を当てて考え込む。でもすぐに申し訳なさそうな表情になって首を横に振った。
「ごめんなさい。私は何も知らないわ」
「ううん、いいの。聞いてみただけだから」
ぱたぱたと手を振るティナ。
「少し時間をくれれば城の人たちに聞いてみるけど」
「そうだな、まあ正直この城だとエリスが一番ものを知ってそうだけど……」
「あんたね、一応私の部下とかなんだから多少は気を使いなさいよ」
「だったらあいつらの俺への扱いを何とかしろ」
「仲が良くて結構じゃない」
そう言うとエリスはテーブルの上からカップを手に取り、紅茶を一口。
そろそろ誤解を解いて俺と兵士たちがいつもやってるのは割と本気な喧嘩だと言うのをわかってもらいたいなと思っていると、部屋の扉がノックされた。
間を置かずして、その向こうから悲鳴のような声が聞こえてくる。
「エリスしゃまぁー! エリスしゃまぁー!」
「騒々しいわね。どうしたの?」
エリスが扉の方を向きながらそう返事をすると、勢いよく扉が開かれる。
手に持った大皿に大量のおやつを乗せて決死の表情をした兵士が、一歩部屋に踏み込んで慌てた様子で口を開いた。
「申し訳ありません! おやつタイムを、おやつタイムを忘れておりました! この私、一生の不覚! かくなる上は自爆してお詫びを」
「おやつならもう頂いたわよ」
兵士はこの世の終わりとばかりに絶叫した。
「ほああああぁぁぁぁー! 申し訳ございません、申し訳ございませんでした!」
「ちょっとうるさい!それとせっかくだからそのおやつはもらうわ。このテーブルの上に置いていきなさい」
本当に煩わしそうに顔をしかめながら、エリスはテーブルの上を指差す。
ティナが「ぴーちゃん、こっち」と声をかけると、フェニックスはティナの肩の上へと移動した。
「かしこまりました!」
勢いよく返事をして大皿をテーブルの上に置くと、そのまま兵士は言う。
「エリスしゃま!」
「何よ」
「私もご一緒してよろしいでしょうか!」
「だめ」
「かしこまりました!」
一礼をすると、またも勢いよく兵士は去っていく。嵐みたいなやつだ。
部屋が一気に静かになると、おやつを取りながらエリスに話しかけた。
「お前も大変だな」
「もう慣れてるから。たしかにあんたの言う通りあいつらが何か知ってるとは思わないけど……一応明日、聞き込みをしてみるわ」
「おう、頼んだぜ。それじゃあ明日は各自情報収集ってところだな」
「だねっ」
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