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とんでもない事を聞かされた
しおりを挟む「美桜さん」
「は、はぃ?」
じっと赤滝さんが私の目を見てくる。見る、というか、覗いてくると言ったほうが正しいかもしれない。なんだか目の奥底の私の考えてる事を覗くような、そんな見透かすような雰囲気をさらしてるような感じがした。
…よく見ると赤滝さんの瞳はカラコン入ってるのか赤茶色の珍しい色をしていた。紅茶の色みたいで奇麗だな~…なんて思ってたら赤滝さんがクスッですと笑って目を細めて微笑んできた。
「次の休みはいつだか聞いても良いですか?」
「え?…え~っと、わ、わかりません。私、今まで長く休ませてもらってたので、その分出なければならないので…」
「そうでしたね。病気?もう大丈夫でしょうか。」
「はい。ご迷惑おかけ致しました。もう大丈夫です。」
なんだかとても近いんですけど。は、早く店長帰ってきて~!
内心慌てふためいてると赤滝さんが空気を読んだのか私から離れ客席に腰を下ろした。そしてタイミング良く「お待たせいたしました」と言って店長がタオルを持って帰ってきた。
なんだかタイミングがとても良いんですが偶々だよね?うん。
いつも通りに接客して帰ってもらった。私が使ってるアロマも一緒に渡して…
________
「お疲れ様でした。」
やっと仕事が終わった。
これは本格的に対策しないと私、接客業じゃ働けなくなりそう!
常連さんは私の勧めたアロマを愛用してくれるから問題ないんだけど新規の方がやってきた時はヤバかった!一瞬、鼻をつまみそうになった。だってその人、香水を全身に振り撒いてて、その香水と体臭があわなくて気持ち悪い臭いがして気持ち悪くなっちゃった。…もちろん、そのときは笑顔を絶やさず話を聞いて、途中で他の人と交代してもらった。
その後、そのお客さんが店を出たのを確認して好きな匂いのアロマをマスクに染み込ませて装着した。そして店長に断って裏方に回してもらって商品の確認や納品など書類整理をした。
たまにお客さんに呼ばれたがマスクを理由に接客を代わってもらったりして今日一日を過ごした。
これでは駄目だ。まず人と接する時はマスクを着用してれば対応できる。でも前みたいに個人に合わせたアロマの調合がマスク着用のままではできない。
人それぞれ体臭が違うし、疲労やストレスによってその人の感じ方が変わったりするので、それは私の今まで学んだ知識と勘と嗅覚が必要不可欠なので今のままでは何もできない。
こんなに過敏になるなんて!
野生のオオカミは嗅覚の感度は人間の約100万倍といわれており、聴力は人間の約4~10倍あると聞いたことがある。
なによっ!お父さん嘘ついたの!?音や匂いに敏感になるのは発情期の時だけだって言ってなかった!?
確かに少しはまとも?にはなったかもしれないけどオオカミ女に目覚める前と後じゃ全然ちがうしっ!
よし、後でお父さんに電話して文句言おう!
もう正直、町中は色んな匂いが混ざってて色々とヤバいです。マスク越しでも分かるのが食べ物の匂いとタバコの臭い。香水はもう麻痺してるのか「これ何の臭い?」って感じでわからない。
ただ、タバコはヤニ臭くてすぐわかる。あと食べ物は特に焼肉の匂いやカレーの匂いが強い。何m先に焼き鳥店があるとかすぐにわかる程匂いを嗅ぎ取れる。
そして音。始めは自動ドアの音が、開くウィーンって音がやけに大音量で脳に響いてくる。物凄く煩く感じた。
そして瓶の音。カチャカチャと硝子がぶつかる音が耳障りに聞こえた。
あと、いつもから気にもとめなかった飲食。水を飲む、あのゴクっと喉へ飲み物を飲むときのあの音がやけに大きく聞こえて気が散った。
…唯一救いなのがうちの店に喫煙者がいない事。お客さんの中には喫煙者がいるがなんとか我慢している。鼻が曲がりそうになったけど…
なにもかもが、五感が過敏に反応して精神的に疲れた。正直早く帰りたい。明日からはフルタイムで働くから早く体を休めたい、というか精神を休めたい。
定時に終わりシャッターを閉め店の戸締まりを定員たちと確認して解散。
すぐに自転車に乗り帰宅しようと急いで駅前の駐輪場へと小走りで向かった。
…すると、
「美桜さん。」
「え?」
何故か私の自転車の前で赤滝さんがいた。
…何故?え、ストーカーですか?
にっこりと微笑んで赤滝さんが私の側までやってきた。
…まさか昼間のあのお誘いの続きじゃないよね?
てか、そもそも駐輪場は警備員さんがいるはず。どれくらい前からここにいたのか知らないけど警備員に怪しまれたりしなかったのかしら?
「ここはね、僕の知り合いが管理してる所なんだよ。だから僕がここに、例え何分も彷徨ってても問題ないんだよ。」
「そ、そうなんですか………?」
「ふふ。お疲れ様、美桜さん。この後は空いてるかな?」
「え、はぁ……」
「僕が奢るから食事はどう?車を用意してるよ。静かな所へ行こう。」
現実逃避なのか何も考えられず何故か苦手と感じてる赤滝さんのお誘いをすんなり了承してしまった。……あれ?
何故かそのまま私の腰に手を添えられて赤滝さんが車を停めさせているという駐車場まで連れて行かれた。………あれ?
エスコートされ車の中へと促され無意識に後部座席にすわる。そしてドアが閉められ赤滝さんが車を回り込んて隣の座席に座った。そして静かに車が発進した。………あれ?
なんで気持ちは拒否ってるのに体が勝手に動くのかな……?
「ふふ……ごめんね。断られたら気持ちを抑える自信がなかったから無理矢理連れてきてしまった。代わりに美味しい夕食をご馳走するから許してほしい。」
「…はぁ」
無理矢理…?無理矢理なのかな?
なんか勝手に体が動いたような、なんだか変な気分だ。
相変わらず赤滝さんが近くにいると頭の中で警鐘の音が鳴り響いて緊張がとれないんだけど、なんでかな?なんだか赤滝さんの目で見つめられると警戒しながらも言うことを聞かないとって気になって体が勝手に動くのよね。
赤滝さんが言う無理矢理ってどうゆう事なのかな。
とりあえず促されるまま大人しくしておく。さすがに誘拐とかしないだろうし、私がいなくなればお父さんや店長が気にかけてくれるだろうから大丈夫だと思うけど…
なんかずっと赤滝さんが私をみてニコニコしてるんですけど。イケメンな為、寧ろ不気味に感じるのは私だけか?赤滝さんがご機嫌なのはわかるけど何がそんなに楽しいのか理解できない。
体感的に長く感じた車での移動は実際15分しか経っておらず、着いた先はテレビで報道されるほど有名な料理店だった。
いつの間にか車から降ろされ店をポカンと眺めてると隣から控え目な笑い声が聞こえ、また腰に手を添えられて勝手に体が動き店の中へと入っていった。
……え、私一体どうしちゃったの?
それから個室へと入っていき席に着かされ勝手にコース料理を注文され店員が部屋から出て二人きりになった。
すると、ふと体が軽くなった気がした。今まで倦怠感というか、されるがままって感じだった違和感が消えた感じがした。
「………赤滝様?」
「今は個人で会ってるんだから名前で呼んでほしいかな。知ってるよね?僕の名前。」
「それは、名簿を見れば誰でも知ってますが……私はお客様と夜の接待のような事はしたくありませんので名前を呼ぶのは控えさせていただきます。」
「ふふ。そっか。まぁ今はそれで良いよ。ところで、今まで何か違和感を感じなかったかい?」
「違和感……そう、ですね。なんだか催眠というか操られてる感じはしましたね。」
「へぇ~…そこまで自我を保ってるなんて、やはり僕の目に狂いはなかったみたいだね。」
「………?」
「実はね。僕、吸血鬼なんだよね。」
「……は?」
「君はオオカミ女だよね。」
「………へ?」
「ふふ。異種同士だからすぐわかったよ。君は普通の人間と違って、とても僕好みの匂いがするからね。」
この人、頭おかしいんじゃない!?てか、何故か私がオオカミ女だった事を当てられたし。
え、何、今、赤滝さんなんて言った?
『吸血鬼』って言わなかった?いや、オオカミ男(女)がいる時点で信じがたいが人間以外にも妖かしの様な存在がいるんだと知ったけど。
だからと言って、こんな身近に異種族がいるなんて……
誰が信じられる?
いや実際、私オオカミ女だし。あり得なくはないけど……てか、何故私にカミングアウトしたの?
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