『王子』の僕が死んだ後

アールグレイ

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 帝国に入ってすぐに王に会わなければならないらしい。おそらくこれからの事を言われるのだろう。幽閉されるか、何処かの戦争に放り込まれるか。処分について考えると気が重くなるが、人質らしく静かにしておこう。

 王の第一印象は、兎に角若いということだ。下手をすれば十代に見えるほどで、想像していたより儚げな男性だった。しかしその目は冷徹そのもので、重い処分が下されるだろうと思わずマイナスの思考になる。トゥロが無意識に目を伏せて暫くしてから、王がゆっくりと口を開いた。

「どのような処分がよい?」

「...........っ...お言葉ですが、私は人質という身分ですので、そのような事は決められません。私は只王の命令に従うだけです。」

「は?」と言ってしまう寸前で思い止まり、何とか言葉を紡ぎ出す。この王は何を言い出すのか。人質自身に処分を決めさせるなんて、と王の意図を探る。トゥロの応えを聞いて、王はより一層目を鋭くさせた。

「ならば、そなたを人質ではなく、元王子という身分にしよう。もう一度聞く、どのような処分がよい?」

トゥロは自分の毛がゾワリと逆立つのを感じた。ひょっとしたら、この王は『僕』に気付いているのではないか...?だから自分の意思を聞き出そうとしているのではないか。だとしたら、いったいいつ気付いたというのか。そんな隙を見せた覚えはない。...思っていたよりも恐ろしい王だった。
ばれたかも知れないという不安を仕舞い込み、『これまで』と『これから』に区切りをつける方法を考える。

「私の親族はまだ殺していませんか?」

「そうだな。二、三日後に処刑するつもりだったが。取り止めを願うか?そのツケはそなたに回ってくるが。」

「いえ。全員処刑してもらって構いません。その代わり、私も処刑の場に居させてください。それと帝国の印を私の体に刻み付けて下さい。刺青だろうと焼きであろうと構いません。これからは一生帝国の『物』として働きましょう。」

「...随分と帝国が優遇されているな。何が狙いだ。」

「只人生に区切りをつけようと思っただけですので、あまり深く考えなされませんよう。」

トゥロは、ふと心の奥底の自分が安心していることに気付いた。今のやり取りで、結局この王は『僕』の本質を完全には気付いていなかったとわかった。
互いに静かに相手を探りつつ、二人の会話はゆっくりと進んでいく。

「そなたは病弱だと聞いた。それを知ってなお戦場などで働かせるほど、余は鬼ではない。只隠居しておけばよい。帝国の印が欲しいなら刺青として入れよう。が、『物』ではない。スマルナ王国の元王子としてそれなりの暮らしを約束しよう。そなたには使わなくなった塔に住んでもらう。城に来ることは許可するが、街には行くな。」

要するに軟禁する、と言われたトゥロは軽い処分に少し驚いた。何かを考えながらトゥロの生活について話す王を、トゥロは只々見つめていた。


 トゥロを退出させた後、王は帝国軍隊長のラルを呼んだ。

「お呼びですか、国王陛下。」

「あのトゥロメシアという王子を人質としたのはそなただと聞いた。なぜ、彼を人質に?」

王は眉間を軽く揉みながらラルに問う。彼ではまずかったか?と考えながらラルは理由を述べる。

「トゥロメシア元王子は王国人にしては珍しく聡明で論理的な考え方をします。また、逃げるほど体が強くないと思いましたので、人質として最適だと考えました。」

「ああ、確かにその通りだろう。論理的というより合理性を重要視している気がするが。...余は、彼を手中に納められるだろうか?彼の考えが余はさっぱりわからなかった。」

「!!?」

弱気に尋ねてきた王に、ラルは驚きを隠せない。最年少で王の座につき、至高最高の王と言われる現王にそれほど言わせる彼は、いったい。


 王族の処刑の時、トゥロがいる事に気付いた王族達はトゥロに酷い罵詈雑言を浴びせた後、一人ずつ処刑された。トゥロはその光景を見て一粒の涙を流し、静かに目を閉じていた。
 その後トゥロは帝国の印と鎖の刺青を入れ、帝国に忠誠を誓った。

  我は帝国の民なり

  帝国は神の守護下に

  神は永久の栄光を約束したり

  我は永遠の忠誠を誓いし者

  我らに神と帝国の不滅を与えよ

それは帝国の古い呪い。トゥロは何処で知ったのか、はっきりとそれを唱えていた。そしてその後誰にも聞き取れない小さな声で呟いた。

   神よ

   我に****を
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