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第十五章
第四百十話 生廃の魔王戦 前編
◆◇◆◇◆◇
血神との一戦から一週間後。
勇聖祭の最終日に勇者達による魔王討伐が行われることが公表されてから五日が経った日でもある今日、〈生廃の魔王〉の封印が解かれる。
〈生廃の魔王〉が封印されている中央大陸某所の都市跡地に集まった〈勇者〉の数は十二人、〈聖者〉の数は六人。
エリュシュ神教国の神官達や、各勇者の所属国家の精鋭達といった念のため派遣された支援要員を除けば、魔王討伐戦に挑むのは十八人のみ。
後詰めの支援要員は百人以上いるが、彼らの大半は離れた場所で待機している。
〈勇者〉と〈聖者〉以外で現場にいる極一部の者達も戦闘には参加せず、見聞を広げるために同席しているだけだ。
「そろそろ始めますが、アイラ殿は待機でお願いしますね?」
「うん……」
〈八公聖〉の一人である〈月天公〉アイラ・ルーナ・イェーガーもまた見聞を広げる目的で参加しており、俺の傍で魔王が封印されている封印箱を見つめていた。
編み込まれた蒼銀色の髪と背中から生えている聖霊人族の種族的特徴である六枚翅が仄かに輝いている。
いつも通りの無表情だが、身体に力が入っていることから緊張しているらしい。
声を掛けると髪と翅の発光が収まり、腰に佩いている神弓に伸びていた手が戻っていった。
「落ち着きました?」
「うん……ごめん」
「構いませんよ。他の方も似たようなものですし」
周りを見渡すと、〈勇者〉と〈聖者〉以外の者達も皆アイラと同じような状態になっており、命の危機を感じて各々の武器に手を掛けていた。
アイラだけに声を掛けたのは、同じ状態の者達の中で唯一少し離れた場所に封印されている魔王に攻撃が届くからだ。
〈天弓王〉と今は亡き〈境界王〉の血が流れ、神域権能級ユニークスキルを所持しているアイラでも過度に緊張する一方で、〈勇者〉と〈聖者〉の称号を持つ者達は適度な緊張感を保っていた。
称号効果の有無が齎す影響の強さを再確認すると、【魔賢戦神】の【世界俯瞰ノ神覚】を発動して現在の展開状況を表示する。
「ふむ。全員配置についたみたいだな」
自分の〈聖者〉がいる〈勇者〉達は既に聖者の祝福を受けて強化されている。
祝福をかけ終えた〈聖者〉も指揮所に集まっており、戦闘中の勇者達への追加支援が必要になる可能性を考慮して退避せずに待機していた。
全体図としては、最前線で実際に魔王と戦う勇者達、戦場が見渡せる指揮所から支援を行う俺達、そして更に離れた後方にいる各国からの支援要員という配置になっている。
称号の有無に関わらず、政治的な都合で派遣されてきただけの支援要員は初めから戦力に含めておらず、指揮所にいる俺達も手を出すのは最低限に抑えるので、〈生廃の魔王〉と直接戦うのは俺以外の十一人の勇者達だけだ。
ちなみに、俺は勇者達への指示役と支援役を兼任している。
その指示役として全体の準備が完了したのを確認すると、魔法を使って指示を出す。
「全員配置についたようなので、そろそろ始めましょう。強化組は全体強化を開始してください」
「「「了解」」」
直後、〈護槍の勇者〉セイラスの聖杯の力、〈富穣の勇者〉キャロラインの増幅の力、〈改算の勇者〉アルトの改算の力が戦場に広がり、全ての勇者の全能力が更に強化された。
全員に強化が行き渡ったのを確認してから、手元にある紅色の箱にある九つの鍵穴に炎の鍵を差し込んでいく。
ヴィクトリアの力によって創造された箱の封印を解いていく度に、〈生廃の魔王〉を封じた封印箱の表面から炎が弾けていき、内部から発せられる魔王の気配が強まっていった。
「それでは、最後の封印を解きます」
ここまでに使った八つの鍵と同様に最後の鍵にも大量の魔力を込めて活性化させてから、最後の鍵穴へと差し込んだ。
「開け── 【封焱神ノ九鍵箱】」
手元にあった封印制御用の箱が燃え尽きるように消滅すると、魔王を封印していた封印箱が内側から弾け飛んだ。
飛び散る大量の火の粉に照らされながら巨大な水色の粘体が姿を現した。
「TEC◼️RI、TWE◼️E、Liーーー!!」
〈生廃の魔王〉の称号を冠する〈禁忌蝕災粘体〉は、封印から解放された解放感からか、凄まじい大音量の鳴き声を撒き散らしてきた。
[──〈強欲/創造/錬鉄の勇者〉が〈生廃の魔王〉と戦闘状態に入りました]
[──〈生廃の魔王〉が〈強欲/創造/錬鉄の勇者〉と戦闘状態に入りました]
[──〈勇者〉よ。〈魔王〉を滅ぼし、〈人類〉に繁栄を齎してください]
[──〈魔王〉よ。〈勇者〉を滅ぼし、〈魔物〉に繁栄を齎してください]
どこから声を出しているか分からない大喚声の中でもハッキリと〈星戦〉の開始を知らせる中性的な声が脳内に聞こえてきた。
他の勇者達にも同じアナウンスが聞こえているはずだ。
〈星戦〉のアナウンスが届く間にも、〈生廃の魔王〉の魔力が大量に込められた声が断続的に戦場へと響き渡る。
魔王の力が乗せられたこの声には精神を崩壊させる効果があり、〈勇者〉と言えど対抗策も無しにいつまでも聞き続ければ、精神に少なくないダメージを負ってしまうだろう。
それを理解した勇者達が各自で対処に動き出した。
〈剛剣の勇者〉エーギルが聖気を込めた星剣を振り抜き、魔王の音響攻撃を斬り裂く。
〈護槍の勇者〉セイラスも聖槍による連続突きを放ち、魔王の声を霧散させる。
〈改算の勇者〉アルトは魔王の声量に干渉して、その声を出来るだけ減少させた上で自分の周囲の時間を止めて防いだ。
広範囲で魔王の声に対処できる〈勇者〉カナンが、聖気を込めた音響攻撃で残りの魔王の声を相殺した隙に、〈溶炎の勇者〉フラメアが全身を炎で構成された竜となって飛び立つ。
巨大な炎の竜となったフラメアが上空で滞空すると、その口から超高熱のブレスを放った。
聖気入りの炎のブレスが〈生廃の魔王〉に着弾し、魔王がいる場所に巨大な炎の柱が立ち昇った。
炎の中には暴れる魔王の姿が映っており、その体積を徐々に減らしていくのが見えた。
それを見たフラメアが、炎の竜の中から勝ち誇った顔をしているが、これしきで敗れるようなら〈魔王〉ではないだろう。
「この声が届いている人達は急いでその場から退がれ。下から攻撃が来るぞ」
前衛にいた勇者達の足元から大量の水色の触手が現れた。
一部の触手はギリギリで躱した勇者達を追撃するが、残りの触手は一箇所に集まり巨大な水色の粘体を再構築させていた。
地下に潜ることで炎の柱から抜け出した〈生廃の魔王〉の気配は先ほどよりも強くなっており、もしかすると怒っているのかもしれない。
ここからが本番だというのを、直感的に理解すると、戦場にフィールド効果を発生させることにした。
〈権能〉である【秩序神域】を使うほどでもないので、【無限源喰の世界龍】の【循環ノ秩序】の方を使うとしよう。
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