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第十五章
第四百十二話 生廃の魔王戦 後編
◆◇◆◇◆◇
勇聖祭が終わってから今日までの五日間で集中的に行なった特別訓練を経て、エリンの〈無銘の聖剣〉は次の段階へ移った。
使い手であるエリン自身の性質や経験、周囲の環境などの情報が聖剣へと反映され、名無しから名有りの聖剣へと昇格した。
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・〈永劫なる黄金の聖剣〉
【雷霆聖刃】【不滅ノ黄金】【剣神の護光】【雷神ノ星撃】
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等級も伝説級下位まで上がっており、その名の通りの黄金色の刀身を持つ湾刀型の聖剣だ。
等級以上の性能を有しており、能力名からも俺の影響を強く受けているのが窺える。
この戦場に集結した勇者達が持つ聖剣などの聖装具の中でも屈指の力があるので、生命力の強い〈生廃の魔王〉が相手でも少なくないダメージを与えることができるだろう。
また、超ハードな短期集中訓練によってランクアップしたのは聖剣だけではない。
聖剣クリセイオーの使い手であるエリン自身のユニークスキルも大きく変化していた。
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・【戦勇猛進の戦乙女】……特異権能。
【勇猛なる福音】【祝聖戦姫】【切り開く者】【勇輝戦麗】
・【狩猟と開闢の獣王】……帝王権能。〈切開者〉。
【死と戦の女王】【神より強き矢】【開闢ノ陽光】【道を切り開く者】【王の随伴者】
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〈勇者〉として覚醒していなければ、こんな短期間で【戦勇猛進の戦乙女】から【狩猟と開闢の獣王】へとランクアップすることは出来なかっただろう。
基礎レベルも八十近くにまで上がっており、レベルを除けば今のエリンは冠位称号持ちの勇者に匹敵している。
足りない分のステータスは今回の魔王戦用に新たに作った装備一式で補っているため、実質的に冠位勇者級と言ってもいいだろう。
そんなエリンを迎撃するために〈生廃の魔王〉が発射した溶解液のレーザーに対して、エリンは【死と戦の女王】と【道を切り開く者】の力で回避していた。
死を知覚し、戦闘能力も強化する【死と戦の女王】により、自らに迫るレーザーの射線を正確に感知し、向上した身体能力で躱わしていく。
進みたい場所へと至る最適の道を見抜き、道を阻む障害を乗り越える力を齎す【道を切り開く者】を以て、レーザーを回避しながら魔王の足元へ向かって突き進んでいった。
「間合いに入ったか」
一撃でも当たれば致命傷に至りかねないレーザーを潜り抜けた末に、エリンが魔王の懐へと入り込んだ。
見上げるほどに巨大な粘体へと振り抜かれた聖剣クリセイオーから黄金色の雷が解き放たれる。
斬撃の軌跡に沿って放たれた聖なる雷が魔王の巨体を斬り裂く。
露出した魔王の粘体の断面が雷に焼かれていくが、魔王は雷が迸っている肉片を自ら分離して、それ以上雷が全身に広がるのを抑えていた。
魔王の的確な判断能力に感心している間にも、水色の巨体に幾度となく黄金色の閃光が奔る。
クリセイオーの【剣神の護光】による剣術補正を受けた超高速の斬撃は鋭く、瞬く間に魔王の巨体を削っていった。
斬撃を振るい続けていたエリンが飛び退くと、地面から剣山のように魔王の粘体が飛び出してきた。
地中からの奇襲は躱わしたが、エリンの動きはそこで止まっていた。
いや、もしかすると感知はしていたが、身体能力が死の直感に追いつけなかったのかもしれない。
エリンの眼前の粘体の剣山が突然破裂し、その飛沫が周囲へと飛び散る。
咄嗟にクリセイオーを盾にしたエリンだったが、至近距離から降り掛かる飛沫を完全に防ぐことはできず、クリセイオーで守った頭部以外に粘体が大量に付着した。
凶悪な酸性の飛沫によって防具が溶け出し白煙が上がる。
胴体を守る鎧は分厚いため粘体の酸を受け止め切ったが、胴体鎧ほど厚くはない手足の防具は酸が貫通し、その下にあるエリンの生身の手足まで溶かしていた。
だが、それも一瞬だけだ。
次の瞬間には溶けた肉が剥がれ落ち、その下から新たな肉が盛り上がってくる。
更に次の瞬間には新たな皮膚が生え、元通りに肉体が再生された。
魔王の攻撃に対してもクリセイオーの【不滅ノ黄金】はちゃんと効果を発揮したようだ。
不死身の如き回復効果によって四肢を再生させたエリンが、雷の斬撃を放ちながら魔王から距離を取っていく。
エリンが無事だったことに一安心していると、〈生廃の魔王〉から発せられる魔気が増大し出した。
魔王は自らの巨体を蠢かせた後、その粘体を地上へと薄く広げていった。
やがて、その粘体の大地の至るところが隆起し、無数の生命反応が出現した。
「あれは……」
アイラの驚く声が聞こえる。
超越者一歩手前の彼女が驚くのも無理もない。
薄く広がった魔王の身体から生み出されたのは、戦場にいる勇者達だったからだ。
いや、正確には勇者達に似た異形というべきか。
勇者達の偽物はよく似ているが、何処かしらおかしな部分があった。
手足の数が多かったり、身体の一部が肥大化していたり、目などの顔のパーツの数が多かったりなど、似てはいるが一目で偽物だと分かるほどには異質な形をしていたのだ。
十中八九これは〈生廃の魔王〉のユニークスキルが持つ内包スキル【生命奇誕】と【変幻擬態】によるものだろう。
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・【生命と侵食の理外王】……帝王権能。〈学習者〉。
【生命奇誕】【変幻擬態】【狂気散化】【生命侵食】【理外の君主】
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ユニークスキルによって生み出された勇者の偽物達は生命体ではあるが、その一体たりとも魂は宿っていない。
個別に生命反応はあるが、あれらは魔王の身体の一部と変わらない存在と見ていいようだ。
「おいおい。まさか能力まで使えるのか」
ユニークスキル【生命と侵食の理外王】の能力のみでは、擬態した対象が持つ能力までは使用できない。
それは【主神ノ賢能】の解析や【万物を見通す眼】の看破で確認したので間違いない。
それなのに偽物達は本物の勇者達の能力を発現させていた。
おそらくは称号〈生廃の魔王〉の称号効果で強化された所為だろうが、この感じだと〈生廃〉の〈生〉が意味しているのは、〈生命〉というよりは〈生産〉の概念の方が正しそうだな。
「……コピーしている勇者に偏りがある」
「ええ。自らの肉体でダメージを与えた対象にしか擬態できないようですね」
偽物の中にエーギルやセイラスらしき姿は見当たらない。
二人だけは魔王から一度もダメージを受けていないが、彼ら以外の勇者達は大なり小なり攻撃を喰らっていた。
ダメージ量に応じて生み出しやすさに違いは出るのか、俺が助けなければ死んでいた一部の勇者の偽物の割合が比較的大きいように見える。
支援能力に秀でた魔法使いタイプのキャロラインや高火力のオールラウンダータイプのフラメアの数はそこまでではなく、それぞれ五十体ほど偽物がいる。
最も被ダメージの少ないエリンで十体ほどなので、ダメージ量と擬態数に関係があるのは間違いあるまい。
「……これ、大丈夫なの?」
「ふむ。流石に厳しそうですね」
〈富穣の勇者〉の偽物達が、全ての擬態勇者達に向けて全体強化を行う。
〈溶炎の勇者〉の偽物達が一斉に炎竜化し、その口内にブレスの炎がチャージされていく。
特に目立つのは二人の勇者の偽物達だが、彼女達以外の勇者の偽物達も各々の能力を行使していった。
一体一体のスペックはオリジナルの六割七割ぐらいな上に称号効果は無いようだが、その不足分を数で補っているため総戦力としては大体同じか、少し上ぐらいになっていた。
偽物勇者達の後方では、その体積を随分と減少させた〈生廃の魔王〉が身体を震わせていた。
「TEK◼️RI、Lie! TECK◼️LI!」
何となくだが、現状を魔王が喜んでいるように聞こえる。
察するに良い手駒が大量に手に入ったことを喜んでいるのだろう。
まぁ、その喜びも今だけだが。
例え魂が無くとも、偽物勇者が生命ある存在ならば、コレで殺せるはずだ。
「空間接続、【魔眼王の刻死眼】」
眼前に偽物勇者達の正面と繋がる空間穴を開くと、対象に死を刻む魔眼を発動させた。
直後、偽物勇者達の動きが止まり、その生命反応の消滅と共に肉体も魔力粒子となって霧散していった。
魔王には即死攻撃は効かなかったが、偽物勇者達には効果抜群だったみたいだ。
てっきり元の粘体に戻ると思ったんだが想像以上に効いていた。
オリジナルの劣化版である偽物な上に魂が無いから効きやすいのかもしれないと推察しつつ、黒く染まった両眼を元に戻してから、勇者達に追撃の指示を出した。
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