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第二章
第九十八話 代償と休養
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「──それにしても、本当に大変だったわね」
「そうですね。摩天楼ダンジョンの異常暴走に遭遇するとは思いませんでしたよ……」
「あとはボスモンスターね。摩天楼ダンジョンの徘徊主の単独討伐なんて、この国では初めてよ」
「……そういえばそうでしたね」
お見舞いに来てくれた黒髪美女──天城レイカ先輩の言葉に気怠げに頷く。
摩天楼ダンジョン〈堕天の回廊〉で起きた異常暴走事件から今日で1週間が経った。
徘徊主を討伐した直後に意識を失った俺が次に目を覚ました時には、事件解決から3日が経っていた。
意識を失ってから現在まで、覚醒者に対応している市内の病院で入院している。
ボスモンスターとの戦いにおいて、短い間に何度も回復アイテムを使用し、肉体に強い負荷の掛かる戦い方を行なった所為で、心身に不調をきたしているのが入院の理由だ。
格上のボスモンスターとの戦闘を単独で行うだけでも精神的な負担が大きい上に、変身系肉体強化スキルを維持したまま殆ど立ち止まることなく動き続けた。
枯渇した魔力を回復アイテムを乱用して何度も回復させることで無理矢理戦闘を続行していたのだから、戦闘終了後に気絶し体調を崩してしまっても不思議ではない。
「先輩達が異常暴走の収拾に駆けつけて来てくれて助かりましたよ。あと少し来るのが遅かったらゲートを守りきれなかったらしいですから」
「駆けつけたら見た顔の魔法使いがいたから驚いたわよ。彼女からクロヤ君がボスモンスターと1人で戦っていると聞いた時はもっと驚いたけどね」
見た顔の魔法使いとはリリアのことだろう。
ボスモンスターの初動の攻撃で半壊したゲート周辺の防衛線にリリアとマリヤを向かわせたものの、彼女達2人のみの増援ではゲートを守り切るのは難しかったみたいだ。
レイカ先輩率いるガーベラギルドが救援に駆けつけてくれなかったら、一体どうなっていたことやら……。
リリアとマリヤは入院する必要があるほどの怪我を負うことはなかったようで元気にしている。
俺が入院している間は彼女達も休養することにしたらしく、この1週間の間に何度もお見舞いに来てくれていた。
また、ガーベラギルドが救援に現れたからか、それとも目的を果たしたからか、俺達を襲撃した謎の仮面の男による追撃はその後もなかった。
あの男の調査は探索者協会が行なってくれているが、なんとなくだが捕まらない気がする。
あそこまで大胆な行動をとったのは、それだけ捕まらない自信があるからだろうしな。
「まぁ、苦労した甲斐あって得た物は大きかったですよ」
「王級へのランクアップに、伝説級のマジックアイテムのドロップか。国内最速での王級へのランクアップとあって、異常暴走の騒ぎが収まってからも話題の中心にいるわね」
「そう考えると入院中で良かったです」
「そうね。マスコミも覚醒者用の病院の中までは入って来れないから、あっ、電話だわ。ちょっと出てくるわね」
「はい」
電話のために病室を出るレイカ先輩を見送ると、ベッドの上で横になったまま、〈システム〉のクエスト報酬で獲得した収納系スキル【堕天の蔵】を発動させた。
手元の空間が裂け、その先にある収納空間へと通じる黄金の光の渦が顕現する。
その渦の中から一振りの漆黒の長剣を取り出し掲げる。
紫色の宝珠が中央に嵌め込まれた黒剣の名は〈堕天剣バラキエル〉。
ボスモンスターの宝箱からドロップしたマジックアイテムは別にあるのだが、とある理由から存在を明かせないため、異能由来のクエストの報酬で得たこの剣をドロップアイテムということにしていた。
「【堕天の蔵】に勝手に収納されていたのには驚いたが、おかげで戦利品や武器の残骸の取り零しが無いのは助かったな」
目を覚まして間もなく、新たに獲得したスキルの確認を行なった際に、【堕天の蔵】の中にボスを含めたモンスターの素材や宝箱、破壊された武器の残骸が収納されていることに気付いた。
この【堕天の蔵】の自動回収機能は常に働くわけではないようで、スキル所持者の意識が無い時のみ発動するらしい。
なので、普段は自分で回収し収納する必要があるが、それでも破格の性能であることは間違いない。
「早くこの剣を試したいが、その前に身体を治さないとな」
少しの間バラキエルを眺めると再び【堕天の蔵】へと収納した。
ボス戦での無茶な戦い方による後遺症で、今の俺は殆どのスキルを使用することができない。
病院の医者曰く、これは一種の防衛本能らしく、現在の万全ではない状態でボス戦の時のような戦い方をしないように一時的に一部のスキルが使えなくなっているんだとか。
似たような事例は幾つかあるようで、その前例に倣うならば、体調さえ治ればまた使えるようになるとのこと。
こればかりは仕方ないので、大人しく自然回復を待つつもりだ。
「新たに得たクラススキルが使えたらすぐに治ったのに……それまで聖杯の使用もお預けか」
マジックアイテムの使用も出来るだけ控えた方がいいらしく、アーティファクト〈貪欲の聖杯〉の月に一度使えるアイテム吸収能力【貪欲の器】の使用も控えていた。
既に使用可能になっているため勿体ないが、それで完治が長引いてしまう方が損なので我慢している。
せっかく王級覚醒者になったのに自由にスキルが使えないなんて……地味にストレスだな。
そんな風にモヤモヤしているとレイカ先輩が電話から戻ってきた。
部屋に戻った彼女が開口一番に告げた事柄に、鬱屈とした気分が晴れていく。
「〈鑑定宝玉〉の開発に成功したって、本当ですか?」
「ええ。父から直接もらった電話だから間違いないわ。おめでとう、クロヤ君」
「ありがとうございます。1ヶ月、いや2ヶ月ですか。こんな短期間でよく開発出来ましたね?」
「そこはウチの会社の技術力よ。基本モデルの量産や派生品の開発の目処も立っているそうだから、ロイヤルティには期待していてちょうだい」
「はい、期待しています」
王級覚醒者になって早々に良い報告を聞くことができた。
アーティファクト〈月神の賢眼〉が持つ鑑定能力の簡易版である鑑定宝玉の販売と普及が軌道に乗れば、金銭問題に悩むことは滅多になくなるはずだ。
すぐに大金が懐に入ってくるわけではないが、今後の計画を修正する必要があるだろう。
力のみでは出来ることが限られているため大人しくしていたが、資金面に余裕が生まれるならば大胆に動くことができる。
回帰前の世界において覚醒者界隈の支配者だった奴らの邪魔をするには、身を守る力と介入するための金の両方が必要だからだ。
取り敢えずは、シリーズ系アイテムを集めるところから始めるとしようかな。
☆これにて第二章終了です。
最強主人公ものって能力に制限や代償などの設定がなければチームで戦う必要性がなくなってしまうよなぁ、っと改めて思いながら終盤の戦闘を書いていました。
段々とチート主人公らしくなってきましたが、まだまだ常人の範疇なので範囲は狭くても動かしやすいキャラだと個人的には思っています。
三章でも引き続きお付き合いいただけたら幸いです。
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