72 / 136
第二章
第七十二話 クラススキル
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇
積み上げた〈魔闘狼〉のリーダー種の死体の山が魔力光を発する。
全ての死体が魔力粒子と化して地面の召喚陣に吸い込まれると、召喚陣の直上の空間が裂けて大柄のオオカミ系モンスターが姿を現す。
〈殺刃走葬の魔狼王ガラム〉という名を有する灰色の体毛のオオカミ系エリアボスは、その凶々しい色合いの赤い双眸を真っ直ぐ俺へと向けてきた。
「やはり最後に死体を置いた相手に敵意が向くか」
「アォオオオオォォンッ!!」
雄叫びを上げるウルフロードのガラム。
今回のエリアボス戦においても、戦闘音を遮断するために周囲に『遮音風域』の魔法を予め展開してある。
とはいえ、これはあくまでも内外の音の行き来を遮断する効果のみを持つ風系統の結界でしかない。
そのため、元々結界内にいる者には戦闘音は聞こえるし、外部から結界の中に入ってくることもできる。
探索者としての勘の良さなのか、〈三獣領域〉で活動していた探索者達の一部は、俺とリリアによるウォーウルフ狩りを不審に感じていたらしく、一定距離を取りながら追跡してきていた。
遮音結界を張った時、その勘の良い探索者達は結界の外側にいた。
だが、追跡対象である俺達が発する音が聞こえなくなったことに気付いた、或いは結界系魔法の発動を感知できた者達は、俺達との距離を詰めるべく次々と結界内へと足を踏み入れてきた。
「チッ。こっちも予定通りか。リリア、そっちの時間稼ぎは任せた。終わったらこっちも頼む」
「分かりました。【魔女の抱擁】」
上級覚醒者用魔法使い系クラス〈魔女〉のクラススキル【魔女の抱擁】が発動する。
術者である〈魔女〉の感知範囲内に限り、魔力や魔法といった事象を遠く離れている場所へと遠隔発動させることができるというクラススキルだ。
このクラススキルにより、遮音結界内に入ってきたばかりの追跡者達へとリリアの運命属性魔力が襲い掛かる。
リリアが持つ異能【魔性運命】が内包する能力【魅了する運命】により生成される特殊属性〈運命〉の魔力は、能力名の通り魔力に侵された対象を魅了する。
以前まではリリアの身体から直接発することでしか使用出来なかったが、〈魔女〉のクラスを獲得したことにより、リリアは対象の遠隔魅了が可能になった。
〈魔女〉のクラスにより魔力制御力が格段に上がったことで、リリアの意思に反して運命属性魔力が漏れ出すこともなくなり、その脅威的な性質を有する特殊属性魔力を十全に扱えるようになっていた。
「不可視だから気付けないし、遠隔発動を可能にするスキルとの組み合わせはヤバいな」
まさに〈魔女〉のクラスに相応しい力だと言えるだろう。
侵入者達の動きが止まり、すぐ近くにいる仲間と争い出したのを〈システム〉の〈広域マップ〉で確認しながら、エリアボスの拘束と弱体化を行う。
目の前では召喚されたばかりのガラムが、その灰色の体毛に覆われた全身を赤い縄で拘束されていた。
この赤い縄の正体は長杖型マジックアイテム〈吸血皇杖カーメリア〉にストックしておいた血液であり、ガラムを召喚する前に足元の地面に仕込んでおいたものだ。
召喚直後に雄叫びを上げていたガラムをこの血液で拘束し動きを封じていた。
回帰前の未来の知識から、ガラムがスピードタイプのボスモンスターであることを知っていた。
広大な草原フィールドの中でも、周りを丘陵に囲まれた盆地をガラムを召喚する場所に選んだため、その場で戦うならば周りに見つかる心配はない。
だが、スピードタイプのガラムに動き回られたら他者に見つかる可能性はグンと上がるのは明らかだ。
戦闘を優位に進めるという意味でもガラムの動きを封じるのは必要なことなので、こうして対策を練っていた。
「『脆弱化』『鈍足化』『毒撃』『自失』『混乱』──」
カーメリアの【血装皇戯】により作られた血液製の装具である〈血装〉で具現化した強固な拘束具がガラムを拘束している隙に、次々と弱体化の魔法を行使していく。
〈闇の大精霊の指環〉の【闇影招来】によって使えるようになっている闇属性魔法を行使し続けていると、追跡者への魅了を終えたリリアもガラムへの魔法攻撃を開始した。
「【魔女の豊杖】発動。『魔法の矢』ッ!」
一定時間の間に行使した魔法の性能を強化するクラススキルを発動させた後、無属性の下級攻撃魔法が解き放たれる。
このダンジョンに2体いるエリアボスのもう片方の〈魔煌五尾狐サイラ〉と戦った時は、無属性の上級攻撃魔法『圧縮魔力砲撃』を運命属性魔力を使って発動させ、その威力を上げることにより一撃で瀕死の状態にまで追い込むことが出来た。
その時の経験と現在のリリアが上級覚醒者であることを考慮して、今回はクラススキルと下級攻撃魔法のみを使用して弱らせてもらうことにした。
これは2人共にエリアボス討伐の経験値を得つつ、【魔喰ノ精霊王】を発動させるためだ。
それなのに、同時に放たれた複数の魔力矢に全身を簡単に貫かれ、エリアボスのガラムは倒れて動かなくなってしまった。
「……えっ、もしかして死んだのか?」
「みたい、ですね」
俺達の疑問に応えるように、ボス討伐を示す宝箱が出現した。
ガラムがサイラよりも魔法耐性が低いにしても弱過ぎる。
正確には俺も闇属性魔法も使っているが、足止めとして状態異常系の魔法しか使っていないため、決め手になるほどではない。
勿論、魔法発動に使用した場合に高確率で致命的な一撃を引き起こす運命属性魔力も使ってない。
となると考えられるのはクラススキルか。
「……【魔女の豊杖】による魔法強化はかなりのモノみたいだな」
「ここまで威力が上がるとは思いませんでした」
「〈魔女〉になって基本的な魔法の性能が上がっているのもありそうだ。そういえば、そのスキルの使用制限ってどのくらいだっけ?」
「1日に1回だけ使えますね」
「……その使用制限の緩さでこの強化率か」
〈月神の賢眼〉の鑑定能力で魔法強化系のクラススキルだとは分かっていたが、ここまで強化されるとは思わなかった。
この強化率だと1日1回の使用制限のある強化系スキルの中でも、かなり上の方かもしれないな。
まぁ、ダンジョンボスではなくエリアボスの討伐でこのことを知れて良かったと思うとしよう。
20
あなたにおすすめの小説
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
DNAにセーブ&ロード 【前世は散々でしたが、他人のDNAからスキルを集めて、今度こそ女の子を幸せにしてみせます】
緋色優希
ファンタジー
その幼児は天使の微笑みを浮かべながら大人の足に抱き着いていた。だが、油断してはいけない。そいつは【生体情報電磁交換】のスキルを駆使して、相手のDNAに記録された能力をコピーして盗んでいるのだから。
かつては日本で暮らしていた藤原隆。四股をかけていたため、24歳にして女に刺されるという無様な死に方をして、この異世界へ迷える魂【渡り人】として、異世界転生を果たした。女泣かせの前世を悔い、今度の人生は、ちゃんと女の子を幸せにしようと誓ったのであったが、田舎の農家に生まれたため、その前途は多難だった。かつて地球で集めた様々なスキル、そして異世界でもスキルや魔法集めに奔走し、新しい人生を切り開くのだった。
新世機生のアポストル 〜Restart with Lost Relic〜
黒城白爵
ファンタジー
異界から突如出現したモンスターによって、古き世界は終わりを告げた。
新たな世界の到来から長い年月が経ち、人類は世界各地に人類生存圏〈コロニー〉を築いて生き残っていた。
旧人類、新人類、コロニー企業、モンスター、魔力、旧文明遺跡、異文明遺跡……etc。
そんな様々な物が溢れ、廃れていく世界で生きていた若きベテランハンターのベリエルは、とある依頼で負った怪我の治療費によって一文無しになってしまう。
命あっての物種、だが金が無ければ何も始まらない。
泣く泣く知り合いから金を借りてマイナススタートを切ることになったベリエルは、依頼で危険なコロニーの外へと向かい、とある遺物を発見する……。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。
人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。
それからおよそ20年。
ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。
ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。
そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。
ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。
次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。
そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。
ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。
採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。
しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。
そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。
そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。
しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。
そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。
本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。
そうして始まった少女による蹂躙劇。
明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。
こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような……
※カクヨムにて先行公開しています。
勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました
厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
ダンジョン出現から六年。攻略をライブ配信し投げ銭を稼ぐストリーマーは、いまや新時代のヒーローだ。その舞台裏、ひたすらモンスターの戦闘映像を解析する男が一人。百万件を超える戦闘ログを叩き込んだ頭脳は、彼が偶然カメラを握った瞬間に覚醒する。
敵の挙動を完全に読み切る彼の視点は、まさに戦場の未来を映す神の映像。
配信は熱狂の渦に包まれ、世界のトップストリーマーから専属オファーが殺到する。
常人離れした読みを手にした無名の裏方は、再びダンジョンへ舞い戻る。
誰も死なせないために。
そして、封じた過去の記憶と向き合うために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる