万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵

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第二章

第七十二話 クラススキル

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 ◆◇◆◇◆◇


 積み上げた〈魔闘狼ウォーウルフ〉のリーダー種の死体の山が魔力光を発する。
 全ての死体が魔力粒子と化して地面の召喚陣に吸い込まれると、召喚陣の直上の空間が裂けて大柄のオオカミ系モンスターが姿を現す。
 〈殺刃走葬の魔狼王キルラナー・ウルフロードガラム〉という名を有する灰色の体毛のオオカミ系エリアボスは、その凶々しい色合いの赤い双眸を真っ直ぐ俺へと向けてきた。


「やはり最後に死体を置いた相手に敵意ヘイトが向くか」

「アォオオオオォォンッ!!」


 雄叫びを上げるウルフロードのガラム。
 今回のエリアボス戦においても、戦闘音を遮断するために周囲に『遮音風域サウンドプルーフ』の魔法を予め展開してある。
 とはいえ、これはあくまでも内外の音の行き来を遮断する効果のみを持つ風系統の結界でしかない。
 そのため、元々結界内にいる者には戦闘音は聞こえるし、外部から結界の中に入ってくることもできる。
 探索者としての勘の良さなのか、〈三獣領域〉で活動していた探索者達の一部は、俺とリリアによるウォーウルフ狩りを不審に感じていたらしく、一定距離を取りながら追跡してきていた。
 遮音結界を張った時、その勘の良い探索者達は結界の外側にいた。
 だが、追跡対象である俺達が発する音が聞こえなくなったことに気付いた、或いは結界系魔法の発動を感知できた者達は、俺達との距離を詰めるべく次々と結界内へと足を踏み入れてきた。


「チッ。こっちも予定通りか。リリア、そっちの時間稼ぎは任せた。終わったらこっちも頼む」

「分かりました。【魔女の抱擁ウィッチ・エンブレイス】」


 上級覚醒者用魔法使い系クラス〈魔女〉のクラススキル【魔女の抱擁ウィッチ・エンブレイス】が発動する。
 術者である〈魔女〉の感知範囲内に限り、魔力や魔法といった事象を遠く離れている場所へと遠隔発動させることができるというクラススキルだ。
 このクラススキルにより、遮音結界内に入ってきたばかりの追跡者達へとリリアの運命属性魔力が襲い掛かる。
 リリアが持つ異能【魔性運命ファムファタール】が内包する能力【魅了する運命】により生成される特殊属性〈運命〉の魔力は、能力名の通り魔力に侵された対象を魅了する。
 以前まではリリアの身体から直接発することでしか使用出来なかったが、〈魔女〉のクラスを獲得したことにより、リリアは対象の遠隔魅了が可能になった。
 〈魔女〉のクラスにより魔力制御力が格段に上がったことで、リリアの意思に反して運命属性魔力が漏れ出すこともなくなり、その脅威的な性質を有する特殊属性魔力を十全に扱えるようになっていた。


「不可視だから気付けないし、遠隔発動を可能にするスキルとの組み合わせはヤバいな」


 まさに〈魔女〉のクラスに相応しい力だと言えるだろう。
 侵入者達の動きが止まり、すぐ近くにいる仲間と争い出したのを〈システム〉の〈広域マップ〉で確認しながら、エリアボスの拘束と弱体化を行う。
 目の前では召喚されたばかりのガラムが、その灰色の体毛に覆われた全身を赤い縄で拘束されていた。
 この赤い縄の正体は長杖型マジックアイテム〈吸血皇杖カーメリア〉にストックしておいた血液であり、ガラムを召喚する前に足元の地面に仕込んでおいたものだ。
 召喚直後に雄叫びを上げていたガラムをこの血液で拘束し動きを封じていた。

 回帰前の未来の知識から、ガラムがスピードタイプのボスモンスターであることを知っていた。
 広大な草原フィールドの中でも、周りを丘陵に囲まれた盆地をガラムを召喚する場所に選んだため、その場で戦うならば周りに見つかる心配はない。
 だが、スピードタイプのガラムに動き回られたら他者に見つかる可能性はグンと上がるのは明らかだ。
 戦闘を優位に進めるという意味でもガラムの動きを封じるのは必要なことなので、こうして対策を練っていた。


「『脆弱化ヴァルネラブル』『鈍足化スロウ』『毒撃ポイズン』『自失スタン』『混乱コンフューズ』──」



 カーメリアの【血装皇戯】により作られた血液製の装具である〈血装ブルート〉で具現化した強固な拘束具がガラムを拘束している隙に、次々と弱体化の魔法を行使していく。
 〈闇の大精霊テネブレの指環〉の【闇影あんえい招来】によって使えるようになっている闇属性魔法を行使し続けていると、追跡者への魅了を終えたリリアもガラムへの魔法攻撃を開始した。


「【魔女の豊杖ウィッチ・スタッフ】発動。『魔法の矢マジックアロー』ッ!」


 一定時間の間に行使した魔法の性能を強化するクラススキルを発動させた後、無属性の下級攻撃魔法が解き放たれる。
 このダンジョンに2体いるエリアボスのもう片方の〈魔煌五尾狐ファイブテイルズサイラ〉と戦った時は、無属性の上級攻撃魔法『圧縮魔力砲撃ブラスター』を運命属性魔力を使って発動させ、その威力を上げることにより一撃で瀕死の状態にまで追い込むことが出来た。
 その時の経験と現在のリリアが上級覚醒者であることを考慮して、今回はクラススキルと下級攻撃魔法のみを使用して弱らせてもらうことにした。
 これは2人共にエリアボス討伐の経験値を得つつ、【魔喰ノ精霊王バアル】を発動させるためだ。
 それなのに、同時に放たれた複数の魔力矢に全身を簡単に貫かれ、エリアボスのガラムは倒れて動かなくなってしまった。


「……えっ、もしかして死んだのか?」

「みたい、ですね」


 俺達の疑問に応えるように、ボス討伐を示す宝箱が出現した。
 ガラムがサイラよりも魔法耐性が低いにしても弱過ぎる。
 正確には俺も闇属性魔法も使っているが、足止めとして状態異常系の魔法しか使っていないため、決め手になるほどではない。
 勿論、魔法発動に使用した場合に高確率で致命的な一撃クリティカルヒットを引き起こす運命属性魔力も使ってない。
 となると考えられるのはクラススキルか。


「……【魔女の豊杖ウィッチ・スタッフ】による魔法強化はかなりのモノみたいだな」

「ここまで威力が上がるとは思いませんでした」

「〈魔女〉になって基本的な魔法の性能が上がっているのもありそうだ。そういえば、そのスキルの使用制限ってどのくらいだっけ?」

「1日に1回だけ使えますね」

「……その使用制限の緩さでこの強化率か」


 〈月神の賢眼〉の鑑定能力で魔法強化系のクラススキルだとは分かっていたが、ここまで強化されるとは思わなかった。
 この強化率だと1日1回の使用制限のある強化系スキルの中でも、かなり上の方かもしれないな。
 まぁ、ダンジョンボスではなくエリアボスの討伐でこのことを知れて良かったと思うとしよう。



 
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