新世機生のアポストル 〜Restart with Lost Relic〜

黒城白爵

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第一話 命と金

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「──というわけで、ベリエル・アウター君。瀕死の重体だった君の命を救うには、最新の医療設備と医療技術を扱える超凄腕の医師であるワシが必要だったのじゃ。これら諸々の処置に掛かった費用は444万エィン。目覚めて早々悪いがココにサインしてくれ」

「……それ、俺の全財産なんですけど」

「命あっての物種じゃからな。ま、仕方ないよね」


 口調も頭頂部も無駄に明るい白髭医師の言葉に、俺は一度だけ天を仰いだ。
 病室の無機質な白い天井が見つめ返してくるのを憎たらしく思いながら視線を戻すと、震える手で書類にサインをした。

 意識が覚醒して間もなく全財産を失い、再び意識を失いそうになった俺は、簡単な検査と診察を受けると、早々に退院した。
 最新の医療設備云々と白髭医師が言っていただけあって、俺が入院していた病院はコロニー内でも屈指の大病院だった。
 金持ちやコロニーのお偉いさん達などが住まう一等エリアにある大病院に、俺みたいな孤児出身の探索者が運び込まれたのには理由があった。


「ベリエルの身体は今回の依頼でボロボロになってましたの。そんな状態でも私の依頼を達成して生還なさるとは流石は協会推薦の探索者ですわね!」

「そりゃどーも」

「感謝の印として、コロニー最先端の施術が受けられるこの病院を紹介させていただきましたの。治療費の足りない分は追加報酬として支払っておきましたから安心してくださいまし」

「そりゃどーも……」


 だから根刮ぎ金を吐きださせられたわけか。
 依頼主であるお嬢様マルカ・リカームの悪気のない善意が嬉しくて心の中で涙を流していると、乗っていた車が止まった。
 目的地に到着したので扉を開けて車外へと出る。


「わざわざ送ってくれてありがとな。治療も助かったよ」

「どういたしまして。また何かありましたらベリエルを指名依頼させていただきますから、それまでちゃんと生きてるんですのよ!」

「おう」

「絶対ですのよー!!」

「おーう」

「またお会いしましょーう!!」

「おーう」


 車の窓から顔を出してまで念を押してくる金髪ドリルお嬢様に手を振って送り出す。
 元気なお嬢様の姿が見えなくなってから、端末を取り出して残金を確認する。
 危険な依頼とあって報酬の多くは前払いで受け取っていた。
 依頼達成後に残りの報酬も自動的に振り込まれたのだが、その額と貯金を合わせた額がイコール治療費だった。
 前金で良い装備を揃えたのに、それらも依頼で全損していた。


「つまり、残金ゼロ……ヤベー、どうしよう」


 これでは来月分の家賃を支払うどころか、今月分の食費すらも無い。
 道端で頭を抱える様は我ながら滑稽だが、そんなことを気にする余裕はなかった。
 これは一刻も早く探索者活動を再開しなければならない。
 だが、先の依頼によって装備品は全て破壊されている。
 なので、探索者活動を再開する前には装備を新調する必要がある。
 そのためには先立つ物、つまりは金が必要だった。
 最悪武器だけはどうにかなるが、事前に武器を用意できないのは安定性に欠けるというリスクがある。


「……はぁ。仕方ない。リスクはリスクでも、こっちの方がマシか」


 幸いにも無事だった端末──液晶画面に罅は入ってる上に変形機能は使えないけど──のアドレス帳を開く。
 10名足らずのアドレス帳の中のから〈ストーカー女〉で登録したアドレスを選び電話を掛ける。
 1度目のコール音は鳴り始めてすぐに鳴り止み、代わりに女性の声が聞こえてきた。


『ベリエル? ベリエルよね?』

「そうだよ、ベリエル君だよ」

『良かった! 無事だったのね! 反応が途絶えたから一体どうしたのかと、んン! ……何でもないわよ?』


 反応って……まさかコイツ、俺の身体か装備に発信機を仕掛けていやがったな?
 流石はストーカーだな。


「金を貸してくれ。無期限無利子で貸してくれるなら今回の発信機の件は不問にしてやる」

『発信機が何のことか分からないけど、無利子で期限付きならいいわよ。幾ら貸せばいい?』


 発信機の件は惚けられたが、証拠は無いので追及は難しい。
 無利子だけでも了承したので良しとすると、借りる金額について少し考える。
 いくら無利子とはいえ、コイツに借りを作ることには変わらない。
 探索者界隈に限らず、借りというモノはなるだけ早く精算しておいた方がいいだろう。
 あまり多く借りると返済まで時間がかかるので、借りるのは最低限にして方がいいんだが、装備一式揃える必要があるんだよな……。


「じゃあ、200万エィンほど貸してくれ。期限はいつまで待ってくれる?」

『無利子で200万エィンなら3ヶ月かな。良心的でしょ? 期限までに払えなかったら……わ、私の頼みをどんなことでも1つだけ聞いてもらおうかな。拒否権は無しよ?』

「……分かった。それでいい。感謝するよ」

『フ、フフッ。さ、3ヶ月後が、楽しみね』

「……そうだな。じゃ、そういうことで」


 通話を切ると、即座に端末経由でストーカー女から200万エィンが送金されてきた。
 このご時世に200万エィンを即断即決で貸してくれるあたりは流石……というべきか。
 まぁ、だからこそ借りる相手に選んだのだが。
 支払えなかった時は人生の墓場行きになりそうだが、それまでに頑張って稼げばいいだけの話だ。


「さて、最低限の装備を揃えにいくか」


 退院早々休まる暇もない現状を胸中で嘆きつつ、重い足取りで行きつけの店へと向かった。



 
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