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謎が謎を呼ぶ御伽横丁
謎な洞窟 ~ふたつめ~
しおりを挟む「そんなに広くもないか? 分岐も殆どないし」
「油断すんなよ?」
「.....声が近くなってきたわ」
下に傾斜した洞窟は所々段差もあり、如何にも天然の岩に亀裂が入ったような洞窟だ。
狭まる隙間や、小さな割れ目。天井の高さだけが救いのような道を慎重に進み、一行は若干奥行きのある場所に出た。
「ちょ、あれっ!」
学校の教室程度な広さの洞窟。その奥には、折り重なるように人間が倒れている。
セッションにあった行方不明だろうか。
思わず先行して駆け寄る一真。
.....けっこう早く見つけられたな。良かった。
低い呻き声を上げて横たわる人々は、やってきた一真達を見て一斉に顔を上げた。
その顔を見た一真は、一瞬固まり、大きく息を呑む。
そこには、まるで水死体のようにブヨブヨな肌をした顔が並んでいたのだ。
薄暗い洞窟の中、爛々と輝く複数の細い目。絶句したまましばし凝視し、一真の横にいた探索者、氷川透が彼らにライトを向ける。
闇を切り裂く一筋の明かり。湿った岩肌の上に無造作に転がった人間達は、一様に赤黒い湿疹で爛れた肌をしていた。
「う.....? なんだ? これ」
「ひどい、何があったの?」
目をすがめながら尋ねる女性。
「.....ぅぅ。ぁ.....ぅぁぁあっ」
絞り出すように悲痛な呻きが被害者らの口から零れる。それが微かな風に乗り、洞窟の中に谺した。
「この声だったのか。謎の声って.....」
《セッションの一つ、謎の声。それは行方不明達の呻き声だった。どうしてこんなことになっているのか。探索者らに新たな謎が押し寄せる。君達は、この原因を突き止めなくてはならない。申請してダイスをどうぞ》
「.....謎の解明。この洞窟のどこかに、被害者をこんな状態にした何かがあるってことか」
一真の呟きを耳にして、透が即座に反応する。
「じゃ、とりあえず被害者らに目星」
《2D10》
宙に浮いたサイコロが、かららんっと床に落ちた。
《成功です。目の前の人間達は、みんな湿疹で爛れ、瞼も唇も晴れ上がりまともに話せない状況のようだ。ゆえに呻き声だけが洞窟内を漂っていた。さらにその湿疹が膿み崩れ、激痛を伴い四肢を破損していく。このままだと、一刻もたたぬうちに彼らは無惨な死を賜るだろう》
「んな.....っ!」
「時間制限つきかっ、二時間.....、キツいな」
まだ何の手がかりも得ていない。
必死に頭を巡らせる一真の隣で、バディの女性が声をあげた。
「洞窟の見える範囲に目星!」
《了解。2D10で、どうぞ》
再び、かららんっとサイコロが転がる。しかし、今回は出目が悪かった。
《失敗、貴女は何の情報も得られませんでした》
「く.....」
目星の数値が一番高いのは透だ。一真は戦闘技能特化で、そういった数値が高くない。バディの女性達もだ。二人は後方支援系。
斥候特化の透が先に目星を使ってしまったのが不味かった。念のため、全員目星を振ってみたものの失敗。
御伽街のルールでは、同じ事象に振るダイスは一度きりと決まっている。他の技能で振るなら有りだが、目星以外では大した情報が得られない。
「別のヒントを見つけてくるしかないな」
「それで振ってから戻れば、またここで目星を使えるしな」
「病気かしらね? 伝染病だと不味いわ」
制限時間の存在を知った一真達は先を急いだ。発見した被害者らの斜め後ろに小さな石像があったことにも気づかずに。
「また広いとこに出たな。.....何もなさそうか?」
細長い道を抜け、再び教室ほどの空間が広がっている。薄暗いそこにライトを当て、透がやや凝らすように眼を細めた。
「いや、あれ。何かあるぞ?」
周囲を見渡していた一真は、透の指差す先に小さな石像を見つける。さっき被害者達がいた洞窟で見落とした物と同じ石像だ。
それは洞窟内を囲むよう四ヶ所に設置されていた。
「石像.....? ヒントかな? GM、これは元から洞窟にあったものか? それとも誰かの意思で設置されてる?」
《ん~、まあ良いか。.....それは誰かの意思によって設置された物のようだ。全く同じ意匠の石像は、口と目の部分が空洞になっている》
.....珍しいな。GMがダイスも振らせず、代償もなく情報くれるなんて。
そう頭の片隅で考えながら、一真は言われた情報を確かめようと石像に近づいた。
.....と、背後で小さな悲鳴があがる。
「ひっ? .....え?」
振り返った一真の視界で呆然とする女性。透のバディな彼女は、みるみる恐怖で顔を歪ませていく。
「やだ、なにこれ? なにこれぇぇ?」
己から遠ざけるように突きだされた手。そこには例の行方不明者らと同じ発疹が、ポツポツと浮かんでいた。
「どうしてっ? 何があったんだ?」
思わず声を荒らげる一真に信じられないとでも言いたげな眼差しを向け、透が答える。
「石像から.....黒い靄みたいなものが.....っ」
それが彼女の手にまとわりついた途端、このようになったと。透は唇を震わせながら一真に伝えた。
.....つまり。
ごくっと固唾を呑み込み、一真も信じたくない面持ちで彼女の湿疹を見つめる。
例の時間制限が、探索者一行にも振りかかったのだ。
まだ、例の行方不明者ほど症状は進行していない。だがいずれ、あのようになってしまうのだろう。
.....謎を解かないと。
身震いしながら嗚咽をあげる女性。それを抱き締めて悲痛な顔の透。
退っ引きならない状況に追いたてられ、一真らは必死に探索を続けた。
そんなことも知らず、朏と翔はのんびりまったり。小一時間ほどもたっただろうか。
待機に飽きてきた朏が、すっと立ち上がる。
「せっかくだし、アタシ達も行ってみない?」
「探索に? 二人じゃ危ないよ」
「謎解きだけなんでしょ?」
「.....君にとって危ないのは俺。万一発狂でもしてみろ。手に負えなくなるぞ?」
「あ~.....」
そんなとりとめもない雑談を交わすなか、洞窟奥から悲鳴が轟いた。
何事かと振り返る朏達の視界に、よたよた歩く人影が映る。
「あれって.....」
「島津さんっ?」
慌てて駆け出した翔。その彼が支えるように連れてきたのは、例の罵倒男と共にいたバディの女性だ。
見える肌一面に浮かぶ蕁麻疹のごとき発疹。それが痛むのか、島津と呼ばれた女性は、眉をしかめつつ荒い息で呟く。
「罠.....っ、このシナリオは.....、単発に見せかけた罠だったの。奥で皆.....、ごめんね、クリア出来なかったわ。このままだと貴方達も.....」
はあはあ忙しない息を漏らす彼女の説明によると、幾つかの謎解きが出てきたらしい。
分かるモノもあれば分からないモノもあったりと、試行錯誤の末、たどり着いた結末。
それは探索者全滅のバッドエンドだった。
本来ならそのままそこで終わるはずのシナリオは、入り口付近のセーフティゾーンに朏らが居たため、バグが発生する。
探索者が全滅しないとセッションが終わらない。そのため、未だに虫の息で他のメンバーも生きているらしい。
「.....シナリオの原因は疫病。この洞窟奥で病に感染した人間は、四肢が末端から腐り落ちて逃げ出せず、助けを呼ぶことしか出来なかったの」
それが件の行方不明事件の真相。被害者達はすでに事切れているという。
「みんな、それに感染して動けない?」
こっくりと頷く島津。
彼女は後方にいたので病魔の瘴気が少ししかかからなかったとか。
なんとか助けを呼ぼうとここまで駆けてきたが、結局、身体に瘴気が回り、今はもう動けなくなっている。
「病..... だから推奨に治癒関係があったのか。でも技能の医学や薬学は病気に効果はないって聞いたけど?」
「TRPGなら、そうだろうね。だけど、リアルで医学や薬学を修めた人なら?」
「あ.....」
はっと翔の眼が見開いた。
そう、ここは現実世界だ。ロールプレイでなく本職の者もいる。そういった人間が技能をつけたら、病気や瘴気の治癒も可能になるかもしれない。
一瞬煌めいた三人の瞳。しかし、それはすぐに昏く翳った。
今の面子に医師はいないからだ。顔見知りな五人は、それぞれの職種を知っている。
「.....まさか、朏さんが医者だとか.....は?」
「ごめん。しがないOLです」
「.....だよね。そんな上手い話はないよね」
意気消沈して俯く翔と島津。
.....が、そこで朏は立ち上がった。
「物は試しだわ。KPっ! 応急手当でダイスっ!」
《2D10 どうぞ?》
かららんっと転がったサイコロの出目は00と4。
.....いよっしっ!
GMの声が、やや狼狽えた。
《.....クリティカル? .....ボーナス、2D10
。好きな技能で、どうぞ?》
「幸運で」
またもや転がるサイコロ。その出目は00と1だった。
《1クリぃぃっ?! 馬鹿なっ!! こんな出目.....っ! デタラメ過ぎるっ!!》
低く地を這うかごとき声が洞窟に響き、今にも途切れそうだった島津の身体が発光する。
「.....え?」
思わず瞠目した彼女は、自分の身体を責め苛んでいた発疹が消えていることに瞳を大きく揺らした。
「病気に対しての応急手当。さらにはクリティカルでボーナスがつき、最高の出目。.....治癒するしかないよなあ? KP?」
.....KP?
唖然と朏を見上げる翔と島津。その視界の中、朏はGMにグッジョブと言わんばかりな笑顔でサムズアップしている。
「でも奇跡は何度も起きないわ。謎解きして、根本を解決しないとシナリオはクリア出来ないでしょ? さ、皆を助けに向かおう」
そう言いつつザックに手を伸ばした朏より先に、翔がそのザックを奪った。
そして彼はそれを肩にかけ、にんまり笑う。
「荷物持ちや力仕事は俺が引き受けるよ。島津さんや朏さんは謎解き宜しく」
快癒した女性にシニカルな笑みを見せ、翔は先頭をゆく。
その背中を頼もしそうに見上げつつ、朏は島津から詳しい話を聞いた。
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