生と死の狭間、御伽横丁 ~異世界転勤? ふざけんなっ!~

美袋和仁

文字の大きさ
8 / 29
 謎が謎を呼ぶ御伽横丁

 謎なシナリオ ~前編~

しおりを挟む

「雑学.....? え? なんで?」

 そこに輝くは《雑学99》の文字。

 雑学とは、あらゆる分野を総合したものだ。天文学、植物学、他色々。それらを総じて雑学という。
 ある意味、特化された専門。本来の雑学とは意味が変わるが、そう表記されているのだ。《雑学》単品の技能はTRPGに存在しない。
 そして何より特筆すべきは、その数値。99。
 地球世界のように便利なダイスロールのない御伽街のダイスは、99までしか出せないダイスである。
 つまり数値が99なら、ファンブル0ということだ。無敵の数字だ。
 これをつけても誰にも知られまい。ステータスは個人情報なので、その内側を他人が見ることは出来ないのだから。

 .....チート? なんでアタシに? モノが雑学じゃ役に立つかは分からないけど。

 ごくっと固唾を呑み、朏はそこにある《雑学》をスロットに嵌め込んだ。

 後に彼女は知る。これがチートなどではなく、彼女の身に起きた不遇が単なる偶然と噛み合い、類稀な相乗効果を発揮したのだと。
 

「これでいっか。まあ形にはなったわね」

 精神分析や応急手当、目星に聞き耳、忍び足など、索敵や隠密に特化した技能を振り分け、朏はステータス鏡面を消した。
 全てのスロットに技能をセットし終えた途端。いきなり彼女のライセンスが激しく振動する。

「え? なに、これっ?」

 あわあわ狼狽える朏を見て、カウンターにいた受付嬢がライセンスの右上を指差した。
 そこには点滅する羽のマーク。

「フレンドからのコールです。ここに触れるとスマホで通話が出来ますよ?」

 .....フレンド? 翔さんかな?

 他にアドレスの交換をした人間はいない。ここは異世界だ。スマホも地球世界とは繋がらなくなっていると昨日聞いた。
 慌ててライセンスに触れ、彼女はスマホを起動する。

「もしもし? 翔さん?」

『あ、朏さん? 今、セッション入り口なんだけどさ。どうやら謎解きのみのシナリオっぽいんだよね。戦闘がないなら初心者向けかなと思って。来てみる?』

「行きますっ!」

 戦闘力皆無な朏には、願ってもないお誘いだ。

『おけ。じゃ、コールのサインを三回タップして?』

 言われた通り朏はコールで瞬くライセンスをタップする。
 すると目の前がくらっと揺らぎ、次の瞬間、彼女は真っ白な部屋の中にいた。
 TRPGでお馴染みなクローズドである。

「ここ.....は?」

「急に誘って悪かったね。時間は大丈夫?」

 少し離れた位置にいた翔は、にこやかに笑いながら朏へと駆けてくる。
 そしてこの部屋が、セッションへの入り口だと教えてくれた。

「ここでリタイアも出来るし、誰かバディを喚ぶことも出来る。探索には種類があって、謎解きのみとか謎解き+戦闘とか、まあ推奨時間で結構分かるんだよね」

 そう説明しながら、翔は真っ白な部屋の壁中央にある羊皮紙みたいな張り紙を指差した。
 そこには、こう書いてある。

《ある海辺の洞窟からか細い悲鳴が聞こえ、行方不明者が続出した。狭き洞を漂う哀れな声音。それを捜して救出し、行方不明者事件の真相を解き明かせ。

 推奨技能 目星、聞き耳、鍵あけ、隠れる、忍び足。知識、交渉、言いくるめ。応急手当、医学、薬学、精神分析。

《所要時間 三~五時間》

 シナリオの概要と、あれば便利な推奨技能。そして大まかな所要時間。
 ここはゲームでいうロビーのような空間で、この取説的な張り紙を元に、おおよそシナリオの見当がつくのだという。
 
「所要時間が短いし、推奨に戦闘技能がないからさ。こういう時は謎解きだけってパターンが多いんだ。みんな初めて見るシナリオらしいけど、謎解きだけってのは初心者向けだからさ。朏さん、まだ個別ポイントもらってないでしょ? これをクリアして貰っちゃおうよ。ね?」

 なるほど。....と、一瞬頷きかかった朏だが、御伽街のゲームは初心者なれど、TRPGそのものなら自ら配信するほどやりこんできた彼女だ。
 張り紙に記載された技能を見て、つと嫌な予感が過る。

「医学、薬学、精神分析..... 戦闘がなくても、心身にかかわるギミックがありそうだよ? それもかなり重篤な?」

「..........っ!」

 思わず眼をしばたたかせた翔も、マジマジと張り紙を見直した。

「たしかに..... でも、どうなんだろ?」

 神妙な顔を見合わせる二人に、他の探索者が声をあげる。

「よくあるよ。治癒系統の技能が念のため的に記載されてることがね」

「そうそう。戦闘技能が推奨されてないなら戦闘はない。それだけで十分じゃないか?」

「概要も行方不明者の捜索と原因解明だしな。楽勝パターンだって。ポイントは少ないだろうけどさ」

 どや顔で笑う他の探索者達。
 その説明の足りない部分を翔が捕捉してくれる。

「戦闘がなく、所要時間の短いシナリオは難易度も低いから、貰える貢献度ポイントも少ないんだよね」

 詳しく聞いてみると、クリア報酬の個別ポイント。これはシナリオの難易度によって変わるらしい。
 謎解きのみだと、0~1。謎解き+戦闘だと0~2。そして二十四時間以上かかる長編シナリオなら、2~5。
 これもどれだけ貰えるかは、貢献度とダイスしだいだ。
 単発、短編シナリオだと貰えない場合が殆どで、それに引きかえ長編シナリオは確定で2ポイントもらえるため、安全と秤にかけても挑戦する者は多いという。

 なるほどと頷きつつも、なんか納得のいかない朏。

 .....戦闘がないから.....か。でも巧妙なギミックとかもあるし、特にクトゥルフの仮想空間は油断出来ないんだけどなあ。毒入りスープなんて、その最たるものだった。

 己の初ロールプレイを苦笑いで思い浮かべる朏。ネットで知り合ったGMと1on1でやったのだが、けちょんけちょんにされたものである。

 物理でなく精神的に。

 各部屋を調べて、そのスープが人体で出来てると知ったり、厨房や図書館のギミックでガリガリSAN値を削られたり、容赦ないシナリオだった。
 スープの温度で知らされる制限時間。謎の少女や不可思議な死体。これでもかとクトゥルフの理不尽が詰め込まれていると実感したものである。

 懐かしい思い出に思考を馳せていた朏は知らない。
 御伽横丁のシナリオ作成者が邪神であることを。
 趣向を凝らすより、もっと直接的な理不尽を突きつけられることも、今の彼女に知るよしはなかった。

 こうして、朏の初リアルセッションが始まる。

    
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

処理中です...