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謎で謎を解く御伽横丁
鏡の裏側 ~とおっ~
しおりを挟む《.....来ぬか》
犬達を引き連れ、ほてほて海岸へと向かう探索者達。それを眼下に見下ろし、九つの尾を揺らした生き物は、これまで訪れてきた無礼者どもを思い出していた。
《我が領域に犬を連れ込むとは.....っ!》
低く唸りつつ、その生き物は千本鳥居の出口を入り口に連結させる。そして引き返した場合のみ入り口が外界に繋がるよう細工した。
右往左往しながら引き返していく人間達。不気味な空間に翻弄され、ほうほうの態で逃げ出す彼らと似たような人間を、毎回鼻白みつつ見送ってきた生き物。
.....ここは心地好いな。力を発現しやすいし、不可思議な穏やかさがある。
いつの頃からか、この生き物はこの島にいた。以前の記憶もなく、ただ漠然と。
島の住民はぼくとつで、とても神社を大切にしてくれた。毎年かかさず舞を奉納し、共に歌い、笑う。
細やかな酒宴を催しつつ、神社に捧げ物を欠かさない。
《良い島だ。我も手助けしよう》
島の豊穣、豊漁に力を貸し、この島の人々と生き物は友好な関係を築いていた。
だがそこに、時たま訪れる不協和音。
外海から時々流れ着く人間はこの島を知らず、神社の理も知らぬようで、何度もお狐様に無礼を働いた。
山に踏み込み、畑を蹂躙し、もてなしてくれる長宅まで家捜しする始末。さらにトドメといわんばかりに、必ず犬を連れて神社へ入り込もうとするのだ。
遠くに眼を馳せ、これまでを思いだす生き物は、ふと眼下を過ぎていった一行の少女を脳裏に過らせる。
『んなっ! 止めて、止めてっ! 神社はダメっ! お稲荷さんだよ? 狐を祀ってるんだから、犬はNG~っ!!』
.....ちゃんと知る者もおるだのう。
そしてついでに、昨日出会った青年も思い出した。
『.....狐? 神社だし、御稲荷さんか?』
手分けして山を探索していた双子と祐輔。神社を中心に、左側へ太郎が。右側に祐輔が向かい、神社を含んだ山頂までを次郎が請け負う。
そこで彼は見つけた。金色にも見まごう美しい狐を。
お狐様と呼ばれる生き物は、変化していない普通の狐状態で次郎と遭遇する。変化した狐は巨大で島民に恐怖を与えかねないため、お稲荷様は大切な人々を怯えさせぬよう、好んで普通の狐姿をしていた。
だが、その神通力は健在。
不躾な次郎の言葉を耳にし、狐は低く唸りながら、次郎の頭の中へ直接語りかける。
《ひかえよ。ここは我の領域なるぞ?》
『喋ったっ? え? あ、ひょっとして気の良い妖怪? 妖狐? 朏のみたいな? なあっ! 俺に仕えてくれよっ!』
一瞬怯えた顔で狐を凝視したが、すぐに顔を閃かせ、狐に交渉する次郎。
だがそれは、守り神とまでいわれる神社の主を激昂させるに十分だった。
《.....貴様。矮小な人間の分際で、我に仕えろだとっ?! 寝言はあの世でほざけっ!!》
『ひっ?!』
全身を逆立てて唸りをあげる狐が吠えた瞬間、波打つ体毛がバチバチと弾け、静電気とは思えない青白い稲光を次郎に向けて放出する。
それは無数の糸のような状態で彼の身体に絡みついた。これは、ある術式へと誘う印だ。
《.....奴の言うとおりだな。外海の人間は、碌でもないわ》
絡みついた青白い光は、そのまま、すうっと次郎の身体に吸い込まれる。それを呆然と見つめる青年を唾棄するような眼差しで一瞥し、狐は、とーんっと大きく弧を描いて山の中へと消えた。
呆気に取られた次郎は、一体、今、何が起きたのか分からない。
『チャンスを逃した.....? あーっ! こんなことなら交渉術を持ってくるんだったあぁぁっ!!』
セッションのNPCの心情や好感度は、ダイスが大きく反映する。説得や言いくるめなどの数値が高いなら、かなりの高確率でセッションを優位に進められるのだ。
しかし、シナリオの推奨技能でないそれを、《神楽坂》のメンバーはつけてこなかった。
怪異に引き込まれた当事者以外は、喚び出しに応じて駆けつけるため、あらかじめシナリオの概要にそった技能をつけて向かえる。
交渉技能以外全てを推奨するシナリオで、削られたそれをつけようなどと思うわけがない。
.....戦闘や罠があるなら、そりゃそっち優先だろうけどさ。あ~、滅多にないチャンスだったのにっ!
逃げてしまった狐を未練がましく眼で探しながら、次郎はとぼとぼと神社を後にした。
そして山を探索していた兄達と合流し、海岸に向かう。
そこに罠が待ち受けているとも知らずに。
《大きい人だね》
《大きいね。三人分くらい?》
《そうだね。三人だね》
きゃっきゃっとはしゃぐ子供達。
例の水鏡裏に潜んでいた異形に腕を呑み込まれ、次郎が全身を粟立たせる。
.....なんだ、これっ? なんだ、これぇぇーーーーっ!
ひりつくように灼けついた喉は、何の言葉も紡げない。消えたはずの青白い光が身体中に浮き上がり、次郎の抵抗を封じていた。
『あ.....がっ、ぅ.....っ』
叫ぼうとする次郎の首を締め付ける青白い糸。全身に絡まる糸で暴れようにも暴れられず、次郎は水鏡裏に引きずり込まれた。
そして入れ替わりで出てくる何か。
「やっと顕現できたなぁ」
「うん、僕、笹の家の子になるんだ」
「俺は橘の家っ」
笹や橘とは屋号のことである。家にはそれぞれ屋号と呼ばれる記号が割り振られており、昔の日本には当たり前にあった風習だ。
近い昔には商いを営む者のためにつけられた。有名な処だと、『たまや~、かぎや~』といった感じに、上げた花火屋の屋号が掛け声になってたりと分かりやすい。
しかしさらに時代を遡れば、村民全員親戚関係みたいな村や町で、同じ名字ばかりなのを区別するためにつけられたりもある。この島も同じだ。
橘の○○、笹の○○など。むしろ屋号の方が名字より分かりやすく、幅をきかせていた。
水鏡から出でた子供らは、神社に奉納すべく海の幸を浚う。この祭りの時期にだけ訪れる探索者らに感謝しながら。
「身代わりがないと出られないもんね」
「お狐様にお礼言わないと」
狐の呪いを受けた人間のみ、ゲートをくぐり抜けられる。それがないと子供達は外に出られない。
モノノケの協力を経て外に出られた子供達は、素直な心で狐に感謝を捧げた。
延々と続く不可思議な関係。
この閉じられた空間の島で、そこに住む人々を心から愛するお狐様。以前を忘れてしまった狐は、今をこよなく大切にしていた。
この島独特な子供の得方に疑問を抱くこともなく。
《おう、来たか》
遠目に見える可愛らしい子供達。
狐の怒りに触れた人間を生け贄として、この島の子供は現世に現れる。籠いっぱいの海の幸を抱えて駆けてくる子供らに、狐は、ふっくりと眼を細めた。
小さな小さな箱庭の世界。
探索者を犠牲にして成り立つ世界を、GMが静かに見つめる。
《生まれてくるのはノーデンスばかりだしね。創造した門の先で、探索者も楽しんでくれたら良いんだけど》
そう考えながら、GMはうっそりと笑みを深めた。
ノーデンスとは、知的生命体に対して何の感情も持っていない生き物のことだ。外なる神々の予備軍。幼生とも呼ばれている。
朏達と遭遇し、その質問に異なこと答えた子供らだが、嘘をついたわけでもない。
真っ暗な空間で何も考えずに成長した彼らだ。出てくる時も何も考えておらず、次郎の顔だって覚えていなかった。
一心不乱にお狐様への供物を採集していただけ。それしか頭の中にない。
結果、無意識に偽った形になったに過ぎず、嘘をついた意識もないのだ。
神話生物なんて、そんな生き物である。
無垢で無邪気で、これから世界を学ぶ幼い神々。そういった者を御伽町に迎え入れるため、GMはこのシナリオに創造の門を創った。
門の創造。これは、創った者にも行き先は分からないゲートだ。外宇宙に投げ出されたり、深海で潰されたり。中には次元の狭間を永遠に漂うとかもあるだろう。
.....死ぬなら即死空間であることを祈るよ。下手に苦痛が長引くだけなのは気の毒だしね。
にやあ.....と嫌な笑みを浮かべるGM。
どこに楽しめる要素があろうか。邪神の感性は凡人に理解出来ない。
そんな煉獄みたいな世界でも、外なる神々にとってはぬるま湯なのだ。たぶん。それゆえの思考。
結局、外なる神々は、どこまで行っても外なる神々である。通常の人間と、遥かイスカンダルまで駆け離れた感覚。
鏡の裏側に閉じ込められた人間は、セッションか祭りの終了と同時に門から吹っ飛ばされるので、今の次郎は自我を失っただけの虜囚だ。
タイムリミットは、あと五日。
《どうなるかなあ? ふふ。年に一度の愉しみだし、うんと暴れておくれね?》
このシナリオは祭り期間限定で訪れるシナリオである。なので年に一回しか参加出来ない。
これが、このシナリオを滅多に見ない理由でもあった。
なるべく多くの探索者を贄として、沢山子供を招き入れたいGMとリアル雑学発動で無意識に危機を回避し、必死に次郎救出のヒントを探す朏。
非常に一方的で悪辣な罠が潜むセッションは、まだまだこれからだった。
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邪神のお気に入りとか邪神の加護・・・無いわぁ、絶対に要らないわぁ ( ̄◇ ̄;)
でも、ツッコミにダイスを降らせるなんて、多少はギャグにも対応してくれるのかな?
で、今回は遂にアマビエ様の性格がハッキリと出て来ましたね。 確実に好きになれそうな性格! 誰得かって? 読者得でしょう、御馳走様です (о´∀`о)
さ〜て、お雑煮でも食べましょうかね?
あけおめです、この感想、気づいてなかった(笑)
ワニの出すモノノケは、大抵良い性格です。良でない方の。
邪神はね~、敵と限らないあたりが、あざといんですよね。
だからといって味方でもないんですが。奴らにとったら面白ければ何でも良いで、自分が愉しむために加勢してくるというだけですから。うん。
既読、ありがとうございます。
あ・・・意味不明だったあの内容が分かるのかな? ワクワク・・・♪( ´▽`)
朏さん、随分と物騒な知識をお持ちですね。 無事に五年間の御勤めが明けて、シャバに戻れたなら、その系統の知識は封印しましょうね。 公安のおじさま達がお近づきになりに、早朝に突然アパートの玄関ベルを鳴らしに来るかも知れないので。 最悪、捜査令状込みでの家宅捜査も漏れなくセットでお得・・・:(;゙゚'ω゚'):
今回のセッションはかなりキツめと見た! 初っ端からアマビエ様全開って感じですものね。
アマビエ様。 第三者への会話用として、何枚かフリップを用意しておくのは如何でしょう? あざと可愛さがアップして、ファンが激増するかもですよ?
そして年末、大掃除と買い出しが始まりました。更新遅れます。すいません。うはは💦
既読、ありがとうございます。
馬鹿だ、馬鹿者達がいる!
良い意味で、気持ちの良い御馬鹿様達。 なんかもう、声を聞くだけで(歳だな・・・それは幻聴)涙が出てくる。 朏も心の中では嬉し泣きしているんじゃなかろうか?
巻き込まれ体質ですね(笑)
ツレってのは、こういうモンだとワニは思ってます。実際は違うのだとも知っていますが、こういう人間がいることも知っています。
極僅かな幸運を手繰り寄せる朏。数値96は、伊達じゃないっすね。うん。
既読、ありがとうございます。