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召しあげられた踊り子

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 しゃらんしゃらん、と音を立てて、足飾りが揺れる。煌々と焚かれたたくさんのランプに照らされて、踊り子は絨毯を蹴って飛び跳ねる。薄衣に隠されたしなやかな脚が跳ねる度に見え隠れし、ランプのオレンジに染まる。

 結われていないストレートの黒髪は舞う彼女に合わせて踊り、暴れているようで決して乱れず優雅に弧を描いている。その髪の合間から時折送られる艶めいた紫の目線に、観覧している者たちは息を呑んだ。くるくると回るごとに晒される背には、右肩から背の中央にかけて極彩色の花のタトゥーが彫られている。女性の柔肌には似つかわしくないはずのそれが、舞いでしっとりと汗をかきオレンジの光を浴びた彼女には、不思議と似合っている。まるで彼女は、花畑を背負ってひらめく蝶のようだった。

 踊っているのは、旅芸人の一座の踊り子である。座長が叩くタブラのリズムに合わせて、彼女が舞いを捧げているのは、この国の王だった。

 宴席の最奥の一段高く作られた場所、そこに絨毯を敷いて、王は酒を煽りながら踊り子を見つめている。琥珀色の瞳にはランプの灯りなのか、ゆらゆらと何かを宿らせて睨むように踊り子を見つめているが、口元は笑んでいる。ひとしきりの舞いが終わり踊り子が礼を取ると、王は惜しみない拍手を送った。

「顔を上げよ。悪くない踊りであった」

 王の言葉で顔を上げた踊り子は優美に微笑んでいる。

「ありがたきお言葉にございます」

 凛とした声が謝辞を告げる。その様子に、王は片眉を上げて壇上から降りる。

「王?」

 宴席において貴人が壇上を降りて、芸人に近寄ることなど、通常はない。慌てたような側近が声をかけたが、彼は貴人らしからぬ王の行動に焦ったのではない。主君のいつもの悪い癖が出たのだろうと懸念したのだ。そんな側近の様子にも王は頓着せずに、踊り子の右肩に手を触れた。そうして、口端を上げ、目を細めて笑む。

「そなた、名前は?」

「ラーケサと申します」

「ふむ……踊り子ラーケサか。似合わぬ名前よ。そなたには今夜、伽を命じる」

「王!」

 悪い予感が的中した。この王は好色で、気に入った者を見かけては手を出すのだ。側近が声を荒げたが、王は完全に無視している。

「わたくしは下賤な踊り子の身でございます。どうかお戯れは」

「俺に逆らうと言うか?」

「……っ!」

 凄んだ王が、踊り子――ラーケサに目を合わせると、彼女は射すくめられたように固まって黙り込んだ。先ほどまでタブラの演奏をしていた座長がおずおずと前に進み出て、冷や汗を垂らしながら王の顔色を窺う。

「お、恐れながら陛下。この娘はただの踊り子にすぎません、陛下にご満足頂けるような伽などできようはずもございません。どうかご慈悲を……」

「ならん。そなたら、俺が好色の王だと知っていてラーケサを出したのだろう? であれば、覚悟はできていた筈だ。茶番はよせ。仕度をして、寝所に来るように」

 一方的にそう告げて、王は宴席を去る。そうして取り残された者たちは悲壮な顔つきだ。

「好色だとの噂ではあったが、まさか本当に……」

 座長は硬い表情だ。それに対して、ラーケサは目を閉じ呼吸を整えるように息を吐いてから、不敵な笑顔を浮かべた。

が一度股を開けばいいだけだ。それで全てが済む。私に任せてくれればいい」

 踊り子として王に対面していた時とはがらりと変わった口調でラーケサは言い、座長を抱きしめる。

「ああ、ラーケサ……すまない、本当に。愛している」

 ラーケサにだけ聞き取れるほどの小さい声で、座長は囁く。こうして座長の恋人は、王の一夜限りの相手として召しあげられることになった。


***


 湯あみをして髪に軽く香油をつけたら、素足にいくつもの金属の飾りがついたアンクレットを両足につける。胸から腰はスリットがいくつも入った薄衣を巻きつけ、飾り帯で腰を結って留めた。顔には目元と唇に紅をさし、口元を隠す薄衣をかけただけで、髪は結わずに下ろしたままだ。それは踊り子の衣装そのものであり、夜伽には相応しくない格好だろう。しかし、踊り子であるラーケサにとっては正当な戦いの装束である。

(大丈夫、きっと、うまくいく……)

 ラーケサは大きく息を吸い込んで、最後に夜伽のためにか、先ほどはさしていなかった華の髪飾りをさした。これで彼女の準備は終わりである。

「ではご案内いたします」

 このような女を王の寝所に案内するのは慣れているのだろう。恭しい態度の使用人たちが先導して、王の待つ部屋へと案内される。

 辿り着いたのは、天蓋のついた寝床だけがある部屋である。布団が敷いてあり、クッションもあり、水差しとコップも置いてあるが、それ以外の家具は見事に何もない。

そういうこと・・・・・・をするためだけの部屋、ということなのね)

 嫌悪に顔を歪めそうになって、ラーケサは唇を噛む。そんな部屋の中で寝床のクッションにもたれて、王はいた。さきほどはターバンで髪を隠していたが、今はアッシュグレーの髪を惜しげもなく晒している。

「来たか。こちらへ来い」

「……はい」

 王の声がかかったところで、使用人たちは全て部屋から出て行った。こうした貴人の伽は、通常であればいつでも世話をできるように、護衛の意味も兼ねてすぐそばで使用人が控えているものだが、なぜか部屋の前からも人気は完全になくなる。

 大きく深呼吸をしたラーケサはゆっくりとした足取りで、王へと近づいていく。そうして寝床に足を踏み入れようとしたその瞬間、手首をとられ、引っ張られた。

「あ……っ」

 バランスを崩したラーケサは王の懐に飛び込んだような体勢になった。しかしその非礼を詫びる前に、王が彼女の顎を持ち上げて、口元を隠す布を剥ぎ取り、唇を奪う。

「んん……っ」

 唐突な口づけに驚いて、顔を逸らそうにも顎をつかまれていてはそれも叶わない。上唇を甘噛みされて、繰り返しはみ、愛撫するように唇を重ねる。

「王……」

「やっとお前を抱けるな」

「んっ」

 一瞬だけ口を離したかと思えば、すぐにまた口を重ねられ、今度は無遠慮に舌が差し込まれる。せめて身体を離そうと胸の間で手を突っ張ったが、逆に腰を抱きこまれて密着させられた。ちゅくちゅくと音をたてて散々に口を吸われ、唇に乗せた紅がぐずぐずになった頃、王はようやく唇を離してくれる。

「王、やはり、わたくしに伽など」

「マリクと呼べ」

 至近距離で琥珀の瞳にそう乞われ、ラーケサは身体をぴくんと震わせる。

「卑しい踊り子風情が王の名を呼ぶわけにはまいりません」

お前・・だから特別に許している。誰も不敬だとは言わん」

「お許しください……」

 目を伏せて、ラーケサは消え入るような声音で呟く。その姿に、王――マリクは顔を顰めた。

「お前……見せろ」

「っ!」

 胸に抱きこまれていた体勢から、ラーケサはうつ伏せに引き倒される。そうして彼女に覆いかぶさると背に指先で触れるてタトゥーをなぞり、やがて右肩に到達したところで止まる。そこにはタトゥーで分かりにくいが、矢傷のような痕があった。それを見つけたマリクが舌打ちをする。

「マ、リク……様、ご覧の通り、わたくしは醜い身体です」

「ああ、許しがたい傷痕だな」

「尊き方が触れるべきような身ではありません。どうか、どうかご慈悲を」

 言葉では拒絶を示すが、王に逆らうことを恐れてか、ラーケサは震えながらも身体は動かさないでいる。そんな彼女をどう思ったのか、マリクはふん、と息を吐いて頷いた。

「ああ、慈悲をくれてやる」

 ぢゅう、とはしたないリップ音をたてて、マリクの唇が傷痕に唇を落とす。

「あ……っ!?」

 驚きの声を上げたラーケサに構わず、マリクは繰り返し唇を落とし、背に所有印をいくつもつけていく。それはタトゥーで隠されてよく見えないが、彼女の肌に触れることが許される者ならばきっと気づけるであろう色の変化だ。極彩色の彫りがない場所にも痕をつけられ、ラーケサはその唇が落とされる度に熱を落とし込まれているようにピクピクと身体を震わせた。

(な、なに……どうして……?)

 唇を這わせるのに合わせて、片腕はすりすりと背中を撫で上げる。そこは性感帯でもなんでもないはずだ。なのに、男の手が肌を撫でる度に、ラーケサの身体の奥からは、熱を灯すような疼きが湧いてくる。

「お前、好いた男はいるのか?」

「それは……」

 言い淀んだラーケサの反応に、マリクはふん、と鼻を鳴らし、急に彼女の尻をつかんだ。

「あっだめ、そこは……!」

 緊張で力の入ったそこは硬かったが、マリクが双丘の谷に指を滑り込ませるようにしながら揉みこむと、すぐにゆるゆると力が抜けて柔らかくなる。

「んっやめ、やめて、くだ……んん」

 指先は奥の割れ目に届きそうで、届かない。もにゅもにゅと柔らかな尻を揉まれているだけで、先ほど背を撫でられていた時以上に熱が上がっていく。布越しの愛撫ではあるが、踊り子の衣装は薄い。直に触れられているのと変わらない刺激に、ラーケサは荒く息を漏らす。

「お前の男は、あの座長か?」

「……っ!」

「当たったようだな」

 手が、腰の薄衣のスリットの間に差し込まれた。股を守るものは何も身に着けていないから、マリクの指を阻むものもなく、彼女の大事なところを直接触れはじめる。

「だめ、そこは……!」

「生娘でもあるまいに。恥ずかしがるな」

 双丘の谷をつたって、指はその先の割れ目へ伸びる。じっとりと汗をかいた肌をなぞりながら、ゆっくりと侵入していった先で、ちゅく、と水音がした。

「ほら、ここは期待して濡れてるだろう」

「う、そ……ぁあっ」

 長い指が探るように肉の花弁を割って、更にその奥へと進む。動かすたびに、ぬちぬちと淫猥な音が響いて、彼女のそこが濡れていることを知らしめた。それがいやなのに、ラーケサはマリクに触れられるたびに、水音を大きくする。滑り込んだ指が、内側のひだをなぞってぬるぬる前後させながら、じょじょに指を奥へと侵入してきた。

「やめ、あ、だめ……やめて……!」

 ラーケサは拒絶の声をあげているが、く、と内壁を軽く押されると、甲高い声が漏れた。中を探られる度に蜜壺からは新たな滴りをこぼし、王の指を汚して更に中を探りやすくさせてしまう。

「ちがうちが、あっ、違う、こんな……ぁあっ」

「濡れてないと申すか? 俺の指をこんなに汚して?」

 一本だった指を二本に増やして、マリクはぐぐっと強く中を押し上げる。

「あああっ!」

 叫んだラーケサは、身体にしっかりと走った快感から逃げるためか、腰を浮かせる。それを許さず、指は執拗に中をかき混ぜ、泡立った水音を彼女に聞かせるようにわざとぐちゅぐちゅと大きな音を立てた。

「あっやめ、ん、んんっ」

「ほら、もっと声を出せ。啼けば啼くほどに、お前のここはよだれを零しているぞ」

「そ、なこと……やっいやっだめ!」

 言葉と指で責め立てられる。愛撫をされたのは背中への口づけと、秘部への手淫だけである。そんな乱雑な前戯にも関わらず、なぜかラーケサの身体は熱を上げ、頂点へと導かれてゆく。

「いや、いや、イきたく、ない……っあぁっいや」

 首を振って拒絶しているが、腰はマリクの手に甘えるように揺れている。もはや彼女の身体はマリクに押さえつけられてなどいないが、彼女の全神経は彼の与える快感に集中してしまったかのようによがって声を上げる。

「こんなに大きい声なら、あの男にも聞こえているかもしれないな?」

「……っ!」

 羞恥を煽る台詞に、ラーケサの嬌声が止まる。唇を噛み、必死で喘ぐのをこらえているが、やはり腰が動くのは我慢できない。

「声を抑えるな」

「ひぁあああんっ!?」

 それまで中だけを弄られていたのが、急に肉の芽を指が擦る。触れられていなかったにも関わらず、ぷっくりと膨れて硬くなっていたその豆は、先ほどから溢れていた蜜にまみれていて、こねられればくりゅくりゅと滑ってラーケサを更によがらせる。途端にこらえていたあえぎが口をついて出て、叫び声に似た嬌声をひっきりなしにあげる羽目になった。もう、言葉にすらならない。

「や、ぁっあっだ、ぁやら、あ、ひぁっ」

「そうだ、もっと啼け。お前が誰によがらされてるのか、その声で聞かせてやれ」

「いやぁあぁぁあああ……っ!」

 拒絶の声とは裏腹に、背中をぴんとしならせてラーケサの中はがくがくと震えて絶頂に達する。いいところを弄り続けるマリクの指を締め上げて、ラーケサは手淫で果てた。絶頂の余韻に浸る間もなく、ラーケサの身体はぐるりと仰向けにされる。脱力した彼女はされるがままに上を向いて、息を吐いた。王からの暴虐に耐えかねてか、あるいは快楽に耐えかねてか、ラーケサの目尻には涙の筋ができている。

「も、う……お許し、ください……」

「まだ始まってもおらんぞ?」

 慈悲を乞うラーケサに、マリクは無慈悲に宣言する。彼は今まで自らの腰に巻いていた布を取り去ると、彼女の穴を埋めるための肉棒を露わにした。ラーケサが目を奪われたそれは、既に屹立して脈に合わせて揺れている。

「そんな……」

 怯えの表情を浮かべたラーケサに構わず、マリクは彼女の太ももをぐっと開かせると、薄衣をかき分けて彼女の割れ目を晒す。そうして許可を求めることもせずに、彼女を貫くために腰を押し当てた。

「マリク様、どうか……」

「そんな気持ちの悪い言葉、聞きたくない。お前はただ啼いていればいい」

「いやぁあああ……っ!」

 非道な宣言と共に、彼女の最奥にまで一気に肉杭が侵入する。短い愛撫だったが、一度達している蜜壺は、難なく太く硬い異物を受け入れて、根元まで呑み込んだ。

「嫌がるな。啼けと言ったんだ」

 身体を繋げたまま、マリクはラーケサと唇を重ね、舌を差し込んできた。

「んぅ……っ」

 何か液体を口に流し込まれ、下にされているラーケサは抗えずにそれを呑み込んでしまう。恐らく唾液だろうが、それは酷く甘く感じられた。

「んんっ!」

 苦しさで反射的にマリクの胸を叩いたラーケサは、すぐにその腕を捕まえられた。彼女の喉が、こくりと動いて呑み下したのを確認して、マリクは口の端を上げる。途端に、ラーケサの蜜壺が身の内に侵入した肉杭に、ねだるようにきゅうっと締め付ける。

「まあ慌てるな。夜は長いぞ?」

「あっや、ぁっ」

 その言葉を合図に、たちまち激しい抽送が始まった。大きく広げられ宙に浮いた足の先のアンクレットは、彼女の奥が突き上げられるたびに揺れ、しゃらんしゃらんと軽快な音をたてる。けれど、それはラーケサの艶やかな踊りなどではない。踊り子の衣装をまとったままの格好で、無残にも彼女の身体は暴かれたのだった。
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