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【運命に抵抗したいのは私だけじゃない】

運命に抵抗したいのは私だけじゃない

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「……アウレウスはサポートキャラですよ?」

 ままならない思考の中で、ようやくそれだけを言う。すると、ルーナ先生は眉間に皺を寄せて、「は?」と声を漏らした。

「何いってんの、アウレウスくんは、ファンディスクのメイン攻略対象じゃん」

「ファン、ディスク」

「どういうことですか?」

 未だ理解の及ばない私よりも先に、アウレウスがルーナ先生に質問する。そこで初めて、ルーナ先生は情報の擦り合わせが足りていないことに気付いたようだ。顎に手を当てて思案するような顔になった。

「……もしかして、2人とも知らない? さっきの様子からして、アウレウスくんは転生者じゃなさそうだけど、聖女様が転生者なことやこのゲームの事情は知ってるんだよね?」

「はい、そうですが……その、ファンディスクというはクレア様より伺っておりません」

「なるほど……」

 そう呟くと、ルーナ先生は親指の爪を噛んだ。

「聖女様は、ファンディスクの存在自体を知らなかったのか。それで……いや、その上でアウレウスルートに行ってるってゲームの強制力のせいなのか? 聖女様がそれでいいんだとしたらいいけど……いや強制力マジでクソだな。でもアウレウスルートに行ってるなら、何でアビゲイルシェロンが闇落ちしかけたって話になるんだ? 髪型変わってグランツ・ゲムマとくっついたんだからファンディスク通りだろ……」

 ブツブツと小さな声で独りごちるルーナ先生は、情報を整理している途中らしい。ひとしきり独り言を呟いた後に、ルーナ先生は親指を口から離して、パっと顔を上げた。

「簡単に言うと、『はぁれむ・ちゃんす』には、本編とは別にファンディデスクがあるんだよ。そのファンディスクのストーリーは、『はぁれむ・ちゃんす』の本編と同じ、魔法学園の編入から始まる。けど、本編と違うのは、悪役令嬢が誰も死なないこと。つまりはイフストーリーだな。本編の攻略対象は婚約者を捨てないでくっつくし、ヒロインの聖女も本編の攻略対象とはくっつかない。代わりに、本編でサポートキャラだったアウレウス・ローズがメイン攻略対象になる。あと逆ハーレムにもならない」

「……なるほど」

 ルーナ先生の説明に、アウレウスが返事をする。私はといえば、まずファンディスクの存在自体が意味が判らないし、アウレウスが攻略対象だというのも、未だよく判らない。判らないというより、理解したくないという方が正しいかもしれないけれど。

 ……こんな話されて、よくアウレウスは一回で理解できるね?

「だからアウレウス・ローズルートなら、他の誰ともくっつかないし、悪役令嬢もモンスター化しない……筈なんだけど……」

 そこでルーナ先生は言葉を切った。私が今、アウレウスルートに進んでいるかどうか、というのはさておいて。

「もしかして、今は、ファンディスクとはぁれむ・ちゃんす本編が混ざった状態なんですか?」

「多分ね」

 それならば、テレンシアが闇落ちを回避したのにも関わらず、アビゲイルが闇落ちしそうだったのにも納得がいく。つまりは、当初の懸念通りに、セリナさんが闇落ちする可能性は充分にあるということだ。

「じゃあ、やっぱりセリナさんの闇落ち回避の方法を探らないと!」

「は~もうヤダ~。何なのこのゲーム……」

 ルーナ先生は頭を抱えこんでしまった。

「でも、その先生が知ってるファンディスクの内容と混ざってるなら、セリナさんがモンスター化しない方法だってある筈なんですよ!」

「……まあ、そりゃそうだけど……」

 私が励ますように言うと、ルーナ先生は溜め息を吐いた。

「ファンディスク通りに動いてればセリナちゃんは安全だと思ったのになあ……」

 もう一度深い溜め息を吐いて、ルーナ先生は顔を引き締めた。

「そのモンスター化の原因を調べるの、僕も手伝うよ。他ならないセリナちゃんのためだしね」

「……ありがとうございます!」

 私がお礼を言うと、ルーナ先生は首を振った。

「セリナちゃんが死ぬなんて運命、絶対にひっくり返さないといけないからね」

 ぐっと拳を握って熱弁する様子に、笑みがこぼれてしまう。本当にセリナさんが好きなんだな。そんな風に話がまとまった所で、タイミングよく廊下の方が騒がしくなった。

「クレア様。鍵が手配できたようです」

 アウレウスが外の人たちと何事かを話した後に、教えてくれる。

「良かった!」

「やれやれ、やっと出られるか」

 先生はこう言ったけれど、恐らく1時間も経ってはいない。けれど私もルーナ先生と同じ気持ちだった。フラグ折りに来た筈なのに、強制力でイベントが進んでしまったのかと焦ったりもしたし、正直ファンデクスクのメイン攻略とかの話はまだ受け入れがたいけど、ゲームシナリオの運命に抵抗したいのは私だけじゃないと思えるだけで、ずいぶん心強い。解決の糸口も見つかりそうだし良かった。

 ガチャガチャと、鍵を外す音が響いたかと思えば、ドアが開いてアウレウスが心配そうな顔をしていた。

「大丈夫ですか?」

「アウレウス、ありがとう」

 差し出されたアウレウスの手を取って、私は微笑む。

 そうして、ルーナ先生という味方を得た形で、イベントは終了したのだった。
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