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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
十九話『嫉妬』
「お花ちゃん」
明るい声に、花は振り返る。
「ここだよ」
手を振る達哉の姿に、花はほっと胸を撫で下ろした。
「花さん、知り合いですか?」
「はい」
羽織にカンカン帽を被った青年。この青年だろうか、先程の嫌なゾッとする視線の主は、と義孝は考える。
(いや・・違う、まだ視線は他にある)
しかし、ざっくり見たが、それらしき人物は見当たらない。
「あ、やっぱり、お花ちゃんだ。こんなとこで会えるなんて、奇遇だね!」
明るく、朗らかな青年。
花とも親しげで、釣り合いの取れる年頃だ。
「達哉さん」
「待ってますから、話してきてください」
「すみません、少し話してまいります」
そう断りを入れたあと、花は義孝の元を離れた。達哉は義孝が花の連れだと気づき、帽子を取り、頭を下げて挨拶をする。
「達哉さん、先日はお世話になりました」
義孝はさりげなく目線を逸らし、視線の主を探した。
(嫌な感じだ。ゾッとするような、嫌悪に満ちた・・・いや、もしやこれは)
今しがた、自身も達哉に対して、感じた感情に似ている。
(彼に対してか?いや、これはむしろ、・・・花さんに?)
花がいる場所から、対角線上に目を凝らす。そして、見つけた。派手な着物の、十代と思わしき女性が通りの反対側から、花を見つめる。
「知り合いか?」
ふと、思い当たる。
「そう言えば。義妹がいるとか」
聡美が、義孝に気づき、逃げ出す。やはり、そうか・・・と肩をすくめる。
(恐らくは、結納金を使い果たしたか…結構な額だが、早かったな)
財産を僅か数年で散財した、花の話通りの人物のようだ。
「お買い物ですか?」
「中を眺めにね。ここは色んなものがあって、楽しいからさ。お花ちゃんはお買い物?」
「はい、着物を見てまいりました」
「そうか、ところで・・・あちらの方は?」
「か、家族に、なる方です」
俯きがちに、花は答えた。自分で言うのが恥ずかしくて、頬が熱くなる。
「ああ、もしかして継母さんが再婚されて?」
「・・・・え?」
「え?」
花の声に、達哉がキョトンと首を傾げる。
「ち、違います!あの方は義母の再婚相手ではありません」
「え、じゃあ」
「私の、旦那様になる方です」
言った瞬間、ハッと花は赤くなる。その様子に、ようやく合点がいったのだろう、達哉が合点を打つ。
「あっ、そういうことか!お花ちゃんの!なるほど」
「・・・・親子に見えましたか」
ズキンと胸に痛みが走る。
「いや、僕が勘違いしていたから。お花ちゃんがまだ独身で、決まった相手がいないなら、僕にも縁が結べるかなと」
「あの、私・・・何か誤解させるようなことを?」
「僕が旦那さんがいないなら、って言ったと思うんだけど。お花ちゃん、否定しなかったから」
「あ」
会話の内容を思い出して、花は青ざめた。夫がいないのは嘘ではないが、婚約者がいるとは言わなかった。
「すみません、私の説明足らずで」
「気にしないで。僕の思い込みでもあった訳だし」
達哉は、チラと義孝の方を見やった。しかし、すぐにそらして花に微笑む。
「・・・・そっかぁ、あの人と結婚するんだね」
「え、まだ」
まだ確定はしてない、そう言いかけて飲み込む。正確に、伝えることは大事だ。
「はい、そのうち」
口にした瞬間、花は笑顔になる。まだ、婚約の許可も出ていないけれど。
「・・・そっかぁ、いい御縁だと思ったんだけどなぁ」
「い、いい、御縁ですよ?」
「お花ちゃんと、あの紳士な旦那様はね」
「?」
達哉の言葉の意味がよく分からず、目を瞬かせる。その様子に、達哉は楽しげに、フフと笑った。
「お花ちゃん、ちょっと早いけど。おめでとう、お幸せにね」
「ありがとうございます」
「薬も、また買いに来てね」
「はい、また!」
そのやり取りを最後に、達哉と花は手を振り別れた。
花は急いで、義孝のもとへ行く。義孝は人の流れの邪魔にならない、少し離れた場所で待ってくれていた。
「義孝さん、おまたせしました」
「もう、よろしかったのですか?」
「はい、お話は出来ましたので」
「ところで、どの様なご関係の方だったのですか?」
その視線は、達哉が消えた道の先に向けられていた。
「ああ、すみません。ご紹介もせず、父が存命だった頃からお世話になっている、薬屋のご主人です。先日の、薬の材料を買わせて頂きました」
「ああ、あのよく効く」
花の説明に、義孝は納得したらしい。しかし、納得のいっていない部分もあったらしく、
「その、ずいぶんと親しげに見えたのですが。よく知った仲なのですか」
「子供の頃に何度か会いましたが、父が存命の時だけで。先日、久しぶりに会いました」
「なるほど、昔なじみですか」
「あの、そんなに親しげに見えましたか?」
花が首を傾げ、義孝が苦笑する。
「ええ、私よりは・・・」
「え」
花が驚いている。義孝の目に、悪戯っぽい光が宿っている気がして。その瞳に、ドキッとしてしまう。
「義孝さんとは、知りあったばかりで」
ふるふると、花の瞳が震える。
「仰る通りです、これからもっと、親しくなりますから」
「も・・もちろんです」
花が真っ赤になりながら、頷いた。親しくなる・・・結婚して、初夜をして――――深い仲になる。
医学的知識はあれど、花は行為自体は知識がない。恥ずかしさと、照れくささにふるふると瞳を潤ませた。
義孝から、妙な『圧』を感じた気がした。しかし、それが何なのかは、このときの花には分からなかった。
明るい声に、花は振り返る。
「ここだよ」
手を振る達哉の姿に、花はほっと胸を撫で下ろした。
「花さん、知り合いですか?」
「はい」
羽織にカンカン帽を被った青年。この青年だろうか、先程の嫌なゾッとする視線の主は、と義孝は考える。
(いや・・違う、まだ視線は他にある)
しかし、ざっくり見たが、それらしき人物は見当たらない。
「あ、やっぱり、お花ちゃんだ。こんなとこで会えるなんて、奇遇だね!」
明るく、朗らかな青年。
花とも親しげで、釣り合いの取れる年頃だ。
「達哉さん」
「待ってますから、話してきてください」
「すみません、少し話してまいります」
そう断りを入れたあと、花は義孝の元を離れた。達哉は義孝が花の連れだと気づき、帽子を取り、頭を下げて挨拶をする。
「達哉さん、先日はお世話になりました」
義孝はさりげなく目線を逸らし、視線の主を探した。
(嫌な感じだ。ゾッとするような、嫌悪に満ちた・・・いや、もしやこれは)
今しがた、自身も達哉に対して、感じた感情に似ている。
(彼に対してか?いや、これはむしろ、・・・花さんに?)
花がいる場所から、対角線上に目を凝らす。そして、見つけた。派手な着物の、十代と思わしき女性が通りの反対側から、花を見つめる。
「知り合いか?」
ふと、思い当たる。
「そう言えば。義妹がいるとか」
聡美が、義孝に気づき、逃げ出す。やはり、そうか・・・と肩をすくめる。
(恐らくは、結納金を使い果たしたか…結構な額だが、早かったな)
財産を僅か数年で散財した、花の話通りの人物のようだ。
「お買い物ですか?」
「中を眺めにね。ここは色んなものがあって、楽しいからさ。お花ちゃんはお買い物?」
「はい、着物を見てまいりました」
「そうか、ところで・・・あちらの方は?」
「か、家族に、なる方です」
俯きがちに、花は答えた。自分で言うのが恥ずかしくて、頬が熱くなる。
「ああ、もしかして継母さんが再婚されて?」
「・・・・え?」
「え?」
花の声に、達哉がキョトンと首を傾げる。
「ち、違います!あの方は義母の再婚相手ではありません」
「え、じゃあ」
「私の、旦那様になる方です」
言った瞬間、ハッと花は赤くなる。その様子に、ようやく合点がいったのだろう、達哉が合点を打つ。
「あっ、そういうことか!お花ちゃんの!なるほど」
「・・・・親子に見えましたか」
ズキンと胸に痛みが走る。
「いや、僕が勘違いしていたから。お花ちゃんがまだ独身で、決まった相手がいないなら、僕にも縁が結べるかなと」
「あの、私・・・何か誤解させるようなことを?」
「僕が旦那さんがいないなら、って言ったと思うんだけど。お花ちゃん、否定しなかったから」
「あ」
会話の内容を思い出して、花は青ざめた。夫がいないのは嘘ではないが、婚約者がいるとは言わなかった。
「すみません、私の説明足らずで」
「気にしないで。僕の思い込みでもあった訳だし」
達哉は、チラと義孝の方を見やった。しかし、すぐにそらして花に微笑む。
「・・・・そっかぁ、あの人と結婚するんだね」
「え、まだ」
まだ確定はしてない、そう言いかけて飲み込む。正確に、伝えることは大事だ。
「はい、そのうち」
口にした瞬間、花は笑顔になる。まだ、婚約の許可も出ていないけれど。
「・・・そっかぁ、いい御縁だと思ったんだけどなぁ」
「い、いい、御縁ですよ?」
「お花ちゃんと、あの紳士な旦那様はね」
「?」
達哉の言葉の意味がよく分からず、目を瞬かせる。その様子に、達哉は楽しげに、フフと笑った。
「お花ちゃん、ちょっと早いけど。おめでとう、お幸せにね」
「ありがとうございます」
「薬も、また買いに来てね」
「はい、また!」
そのやり取りを最後に、達哉と花は手を振り別れた。
花は急いで、義孝のもとへ行く。義孝は人の流れの邪魔にならない、少し離れた場所で待ってくれていた。
「義孝さん、おまたせしました」
「もう、よろしかったのですか?」
「はい、お話は出来ましたので」
「ところで、どの様なご関係の方だったのですか?」
その視線は、達哉が消えた道の先に向けられていた。
「ああ、すみません。ご紹介もせず、父が存命だった頃からお世話になっている、薬屋のご主人です。先日の、薬の材料を買わせて頂きました」
「ああ、あのよく効く」
花の説明に、義孝は納得したらしい。しかし、納得のいっていない部分もあったらしく、
「その、ずいぶんと親しげに見えたのですが。よく知った仲なのですか」
「子供の頃に何度か会いましたが、父が存命の時だけで。先日、久しぶりに会いました」
「なるほど、昔なじみですか」
「あの、そんなに親しげに見えましたか?」
花が首を傾げ、義孝が苦笑する。
「ええ、私よりは・・・」
「え」
花が驚いている。義孝の目に、悪戯っぽい光が宿っている気がして。その瞳に、ドキッとしてしまう。
「義孝さんとは、知りあったばかりで」
ふるふると、花の瞳が震える。
「仰る通りです、これからもっと、親しくなりますから」
「も・・もちろんです」
花が真っ赤になりながら、頷いた。親しくなる・・・結婚して、初夜をして――――深い仲になる。
医学的知識はあれど、花は行為自体は知識がない。恥ずかしさと、照れくささにふるふると瞳を潤ませた。
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