身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

文字の大きさ
21 / 117
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

十九話『嫉妬』

「お花ちゃん」
 明るい声に、花は振り返る。
「ここだよ」
 手を振る達哉の姿に、花はほっと胸を撫で下ろした。

「花さん、知り合いですか?」
「はい」
 羽織にカンカン帽を被った青年。この青年だろうか、先程の嫌なゾッとする視線の主は、と義孝は考える。
(いや・・違う、まだ視線は他にある)
 しかし、ざっくり見たが、それらしき人物は見当たらない。
「あ、やっぱり、お花ちゃんだ。こんなとこで会えるなんて、奇遇だね!」
 明るく、朗らかな青年。
 花とも親しげで、釣り合いの取れる年頃だ。

「達哉さん」
「待ってますから、話してきてください」
「すみません、少し話してまいります」
 そう断りを入れたあと、花は義孝の元を離れた。達哉は義孝が花の連れだと気づき、帽子を取り、頭を下げて挨拶をする。

「達哉さん、先日はお世話になりました」

 義孝はさりげなく目線を逸らし、視線の主を探した。
(嫌な感じだ。ゾッとするような、嫌悪に満ちた・・・いや、もしやこれは)
 今しがた、自身も達哉に対して、感じた感情に似ている。
(彼に対してか?いや、これはむしろ、・・・花さんに?)

 花がいる場所から、対角線上に目を凝らす。そして、見つけた。派手な着物の、十代と思わしき女性が通りの反対側から、花を見つめる。
 「知り合いか?」
 ふと、思い当たる。
「そう言えば。義妹がいるとか」
 聡美が、義孝に気づき、逃げ出す。やはり、そうか・・・と肩をすくめる。
(恐らくは、結納金を使い果たしたか…結構な額だが、早かったな)

 財産を僅か数年で散財した、花の話通りの人物のようだ。

「お買い物ですか?」
「中を眺めにね。ここは色んなものがあって、楽しいからさ。お花ちゃんはお買い物?」
「はい、着物を見てまいりました」
「そうか、ところで・・・あちらの方は?」
「か、家族に、なる方です」
 俯きがちに、花は答えた。自分で言うのが恥ずかしくて、頬が熱くなる。
「ああ、もしかして継母さんが再婚されて?」
「・・・・え?」
「え?」
 花の声に、達哉がキョトンと首を傾げる。
「ち、違います!あの方は義母の再婚相手ではありません」
「え、じゃあ」
「私の、旦那様になる方です」

 言った瞬間、ハッと花は赤くなる。その様子に、ようやく合点がいったのだろう、達哉が合点を打つ。
「あっ、そういうことか!お花ちゃんの!なるほど」
「・・・・親子に見えましたか」
 ズキンと胸に痛みが走る。
「いや、僕が勘違いしていたから。お花ちゃんがまだ独身で、決まった相手がいないなら、僕にも縁が結べるかなと」
「あの、私・・・何か誤解させるようなことを?」
「僕が旦那さんがいないなら、って言ったと思うんだけど。お花ちゃん、否定しなかったから」
「あ」
 会話の内容を思い出して、花は青ざめた。夫がいないのは嘘ではないが、婚約者がいるとは言わなかった。
「すみません、私の説明足らずで」
「気にしないで。僕の思い込みでもあった訳だし」
 達哉は、チラと義孝の方を見やった。しかし、すぐにそらして花に微笑む。
「・・・・そっかぁ、あの人と結婚するんだね」
「え、まだ」
 まだ確定はしてない、そう言いかけて飲み込む。正確に、伝えることは大事だ。
「はい、そのうち」
 口にした瞬間、花は笑顔になる。まだ、婚約の許可も出ていないけれど。
「・・・そっかぁ、いい御縁だと思ったんだけどなぁ」
「い、いい、御縁ですよ?」
「お花ちゃんと、あの紳士な旦那様はね」
「?」
 達哉の言葉の意味がよく分からず、目を瞬かせる。その様子に、達哉は楽しげに、フフと笑った。
「お花ちゃん、ちょっと早いけど。おめでとう、お幸せにね」
「ありがとうございます」
「薬も、また買いに来てね」
「はい、また!」
 そのやり取りを最後に、達哉と花は手を振り別れた。

 花は急いで、義孝のもとへ行く。義孝は人の流れの邪魔にならない、少し離れた場所で待ってくれていた。
「義孝さん、おまたせしました」
「もう、よろしかったのですか?」
「はい、お話は出来ましたので」
「ところで、どの様なご関係の方だったのですか?」
 その視線は、達哉が消えた道の先に向けられていた。
「ああ、すみません。ご紹介もせず、父が存命だった頃からお世話になっている、薬屋のご主人です。先日の、薬の材料を買わせて頂きました」
「ああ、あのよく効く」
 花の説明に、義孝は納得したらしい。しかし、納得のいっていない部分もあったらしく、
「その、ずいぶんと親しげに見えたのですが。よく知った仲なのですか」
「子供の頃に何度か会いましたが、父が存命の時だけで。先日、久しぶりに会いました」
「なるほど、昔なじみですか」
「あの、そんなに親しげに見えましたか?」
 花が首を傾げ、義孝が苦笑する。
「ええ、私よりは・・・」
「え」
 花が驚いている。義孝の目に、悪戯っぽい光が宿っている気がして。その瞳に、ドキッとしてしまう。
「義孝さんとは、知りあったばかりで」
 ふるふると、花の瞳が震える。
「仰る通りです、これからもっと、親しくなりますから」
「も・・もちろんです」
 花が真っ赤になりながら、頷いた。親しくなる・・・結婚して、初夜をして――――深い仲になる。
 医学的知識はあれど、花は行為自体は知識がない。恥ずかしさと、照れくささにふるふると瞳を潤ませた。
 義孝から、妙な『圧』を感じた気がした。しかし、それが何なのかは、このときの花には分からなかった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。