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再生された記憶、忘れていた絆
しおりを挟む確かに、ノエルの懐き方は異常だと思う。
胸の奥に、ひとつの疑問が膨らむ。リンはそっと空中に指を伸ばし、見えない“ボタン”をタップした。
【セレクト】──画面が開き、ステータスと人物紹介のウィンドウがふわりと現れる。
──【第三王子:ノエル・ヴァルディエール】
《リンの一つ下。六歳の頃、兄に連れられて王城に来た際に初めて出会う。当時、人見知りだったノエルをリンが追い回して泣かせた》
「……は? 私、最悪なガキじゃん……」
口から出た呟きは、自分でも思わず笑ってしまうほどだった。
画面の記述はまだ続いていた。
【記憶再生可能イベントがあります】
――表示をタップした途端、視界がふわりと切り替わった。
──場所は王宮の庭園。
貴族の茶会が開かれていた春の日の午後。咲き誇る花々の中で、貴族たちが子供を連れ、国王夫妻への“ご挨拶”に集っていた。
日陰になった大きな木の下。小さなノエルが、3人の少年たちに囲まれていた。
「お前のかーちゃんって、愛人なんだろ? 本妻の子じゃないくせに王子ぶんなよ」
「なんだよその顔、女みてーじゃん。キモくね?」
「やーいやーい、おんなおとこ~!」
ノエルはぐっと唇を噛んで、うつむいたまま一言も返さなかった。小さな肩が、震えている。
──そこへ、駆け込んでくるひとりの少女。
「やめなさいよ!」
その怒鳴り声に、少年たちが一瞬ひるむ。
少女──リンは、ノエルの前にすっと立ち塞がり、ぷるぷると拳を握りしめながら叫んだ。
「ノエルをいじめたら、ぶっとばすから!」
強がっているが、その肩もまた震えている。
「なにお前、女じゃん」
「弱そ~」
「やっちまうぞ!」
3人の少年がにやりと笑った次の瞬間──
「ぶっとばすからぁ」
リンは真っすぐ突っ込んだ。引っ掻き、腕を振り回し、転ばされても起き上がり、ひとりで向かっていった。
その場にいたノエルは、ただ、呆然と見つめている。
「やめなさいっ!」
怒鳴り声とともに、ノエルの従者が駆け寄ってきて乱闘を引き剥がす。
少年たちは「ちぇー」と舌を巻きながら逃げていった。
そのあとに現れたのは、リンの兄、セドリックだった。
「リン!何してるの!?女の子が、男の子3人に勝てるわけないでしょ!」
リンは、鼻をすすりながら振り返った。
「あいつらがムカついたんだもん……ノエル、なにも悪いことしてないのに…バカにして……うぅ、わあああん!」
傷だらけの顔をくしゃくしゃにして泣き出したリンを、セドリックが「はいはい」と言いながら抱きしめた。
その様子を見ていたノエルが、おずおずと近づいてくる。
「リンちゃん……ありがとう。ぼく、ずっと逃げててごめんなさい」
ノエルのその言葉に、涙まみれの顔を上げたリン。
「ひっく…ノエルくん。ひっく…私とお友達になってくれる?」
🎮回想終了
画面の隅にふわっと表示が出る。
《ノエル王子との“絆値”が上昇しました》
画面が切り替わり、リンは牢の中でひとり、ぼんやりと空中に消えたログを見つめていた。
(……なるほど、そんな事があったのねぇ。それにしても小さなノエル、マジで天使だったなぁ)
リンは、膝を抱えるようにして座りながら、小さく息をついた。
(これがヒロインと第三王子の過去って設定か)
ゲームの中とはいえ胸の奥に、じんわりと温かい何かが広がっていく。
さて、このあとどう進めていけばいいのだろう。この牢から出ないことにはストーリー進まない?チラリと視線を逸らす。隣の房にグレイが移されてしまったから、内政や国の現状を聞くことも難しくなった。
だったら…体力づくりでもするか!ゆうべ、ミミィに教わった筋トレしよ
「おっと、筋トレするの?きのう教えたやつ?」
鉄格子越しに、ミミィが話しかけてくる。
「うん、他にやることないし。あ、二の腕に効く筋トレ教えて」
「いいわよ。まずは膝をついた状態で、肩幅より少し広めに手をつき、肘を曲げて体をゆっくりと下ろし、胸が床につくくらいまで下げたら、肘を伸ばして元の位置に戻す。これを10回3セット」
言われたとおり冷たい地下牢の床に膝をつく。
石の床が地味に痛い。
けど、何もしないより、体を動かしていた方が気が紛れる。やってみれば、意外と悪くない。
【ステータス:魅力 +1|体力 +1】
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