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血も涙もない話

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私は、初潮をきっかけにスプラッタ映画にハマった。

首が切り落とされて頭だけ吹っ飛んでも、体が捻り潰されて腸がはみ出ても、湧き出す血は固形物混じりの自分の経血よりも美しかった。

森本くんの血は、スプラッタ映画で流れる血よりも、とても鮮やかで、なめらかで、白い車体に飛び散って、コンクリートの凹みに沿ってとめどなく流れて、本当に見事だった。

女子は28日周期で血を見るくせに、血が苦手だというやつもいる。
そんな嘘つきなやつより、30歳過ぎても定職につけずに、午前2時までスナックでバイトをして、毎晩スプラッタ映画を鑑賞してから、健やかに眠る私は「変人」らしい。

私の同級生兼彼氏の永瀬くんも「変人」だと思う。
交通事故で死んだ森本くんを異常に愛してるから、私に告白をした。


それは何でもない日の1時頃、スナックにスーツ姿の永瀬くんが来た。
永瀬くんは、高校の同級生で、隣のクラスで、いじめられていた。
学生服を着ている永瀬くんは、いじめられっ子にしか見えなかったのに、スーツを着ている永瀬くんは、いじめられっ子には見えなかった。
それを柔らかく、穏やかに伝えたくて、「かっこよくなったね」と微笑むと、永瀬くんは、それを見越したかのように、それなりに見なりを整えるだけで、色んなものを隠したまま大きくなれる、と笑った。

永瀬くんは、実は米沢さんのことが好きだったんだよね、と照れくさそうに言った。
じゃあ、付き合おっかと返したら、いいよと答えて、まだ1時半だったけど、早めにあがって、コンビニに寄って、ホテルに行った。
コンビニのATMでお金を下ろしてる永瀬くんの猫背を見ていると、大人になるって気持ち悪いと思った。

ホテルの扉を開けた途端、壁に押さえつけられた。顔面から勢いよくぶつけられたのに、鼻血は出なかった。


せめて、絞殺以外が良かった。

ようやくお前を見つけた、と叫ぶ永瀬くんの長い長い告白を聞きながら、人生で初めて出来た彼氏と30分後に別れた私は、自分が死ぬ時の血は見られなかった。
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