ゴールデンタイム

蓮実 蒼

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ゴールデンタイム

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 私はきっと何年経っても、この匂いに想起される記憶に苛まれるのだと、そう思った。

「匂いを嗅いだ瞬間にフラッシュバックすることってない?」
「ああ、プルースト現象って言うんだっけ?」
「一番最初に失う記憶は声で、呼び起こすのは匂いなんだなぁと思うと不思議だよな」

特に何も用事のない休日の昼下がり。私はコーヒーミルで丁寧に豆を挽き、ネルドリップでコーヒーを淹れる。細長い独特のフォルムをしたケトルでゆっくりとお湯を注ぐと、たちまち部屋中に馴染みのあるあの匂いが香り出す。

そのささやかな瞬間が、何よりも楽しみだった。

「子供の頃にね。母親がいつも、こうやってコーヒーを淹れていたんだ。コーヒーの味はあまり好きじゃなかったけど、香ばしい匂いが鼻を抜けるのは好きだったなぁ」
「ゴールデンタイムというわけか…… 」

何の変哲もない休日が色付いたあの瞬間を、今もきっと追いかけているのだ。子供の私は未だに其処に居て、幸せな記憶を反芻している。

「貴方の声を忘れても、貴方のことはきっと忘れないからね…… 」
「自分で自分の首を締めるのか?」

だって、それがなくなったら私は私でなくなってしまうから。

「嗚呼、貴方にもう一度逢いたいなぁ」

(了)
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