人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
24 / 200

24

しおりを挟む
 湯浴みはやめて、とりあえず酷い顔を冷たい水で洗う。
 気合を入れるために両手で自分の頬を叩く。

 今の時間なら、朝議の時間に間に合う筈だ。
 とにかく急がなければ。
 私は朝議の行われている玉座の間に殆ど走る様に急いだ。


 心臓がドキドキと煩く鳴る。
 とても怖い。
 痛いくらい弾む心臓に、怯みそうなその心に、檄を飛ばして、私は衛兵の遮るのも無視して大きな声で、陛下に届く様叫んだ。

「陛下、火急申し上げたい事が御座います!」

 陛下に届いたのか、衛兵に声がかけられ、
 通して貰えた。
 頭を下げ、陛下のお声を待つ。

「面を上げよ」

 玉座に頬杖をつき、足を組んで座してる陛下はいつも二人でいる時とは打って変わって、仮面王の名に相応しい仮面の様な無表情だった。

 ……これが王としてのお顔なのね……

「火急、とは何だ。マグダラスの王女よ」

 いつもの優しいお声とは違う。
 無機質で情感の籠らない声。

「太公様薨去こうきょの折、お側に仕え、最期を看取らせて頂きました。最期の御意向をお伝えしたいのです」

「申してみよ」

「太公様は葬儀に関し、簡素にと仰いました。
 葬儀に際し、どうか追従をお付けするのはおやめ下さい」

 いつも優しく笑って話をしてくれる宰相様も、軍師様も、法相様も、貼り付けた様に無表情だ。
 ……多分私は、この場にいる全員を納得させるしか、意思を貫けない。

「儀式に関しては、我が国の伝統。他国の姫の口出す事ではない!」
 諸侯の一人から声が上がる。

「他国の者だからこそ、この伝統が如何に無意味で野蛮であるかわかります。太公様は生前、仰っておられました。他国に対しこの国の主権を認めさせる事に尽力したと。この様な無意味な犠牲を出していてはグリムヒルト王国の名折れです。太公様のご意志に反します」

「我らの伝統を愚弄するか! 追従には黄泉に兵士を連れて行く大事な役割がある! それを無意味な犠牲とは、何という言種か!」

 他の諸侯から官吏からも声が上がる。
 口々に否定の声が上がった。

 ……もう、これしかない。

「お黙りなさい!」

 私は大きな声で一喝する。
 すると玉座の間は静まり返る。

「そんなにこの追従は必要なのですね。ならば、私が追従致します」

 場内はどよめく。

「これでも私はマグダラス王国の第一王女です。太公様の覚えもめでたく、これ以上の追従はないでしょう。私一人で充分な筈です」

 更にどよめく場内。
 そこに静かな陛下の声が落ちる。

「マグダラスの王女よ。太公の意向はわかった。しかしグリムヒルトの朝を騒がせる権はお前には無い。よって、自室にて謹慎を申し渡す。沙汰があるまで待て。もう下がれ」

 私は握る拳に力を込めた。

「…………はい……。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...