人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
188 / 200

188

しおりを挟む
 陛下に抱き潰されて眠っていた私の鼻先に、何か柔らかいものが触れる。
『アナティアリアス?』
 目を開けるとレジーヌが肉球を私の鼻先にちょんと押し付けていた。
『アナティアリアス、おねぼうさん』
 レジーヌのアイスブルーの瞳が私をじっと見ていた。
「レジーヌ……、起こしてくれたの?」
 レジーヌは抱きかかえられるくらいのいつもの小さいサイズに戻っている。
『あのね、アナバスすごくおこってるの。とってもこわいの』
 その言葉にハッとして、がばっと起き上がる。
「陛下!」
 部屋を見渡しても陛下はいない。
 そう、陛下はもの凄くお怒りだった。
 今まで見た事がない位にお怒りだった。
 レジーヌに助けられてその背に乗せてもらって陛下の元に連れて行ってもらったけど、その目が合ってる時に、とても心配して下さっていた事もそしてこの所業を成した者達全員に凄く凄くお怒りな事も解った。
 私が唇を噛んで俯いていると、レジーヌは私の顔を小首を傾げて覗き込んだ。
 レジーヌは私を林で助けてくれたあの鹿から念話を貰ったらしい。
 私が大変な事が分かったので、助けに来てくれたそうだ。
 そんな事が可能になったのは、神獣様のご加護のおかげなんだそう。
 ご加護を下さった事で、魔力も強くなったみたいだし、こうして幻獣との意思疎通も容易になった。
 何より幻獣は神獣様から加護を受けた人間をとても大切にするのだそうで、助力を惜しまないらしい。
 神獣様のおかげで本当に色々と助かった。ビアニアに連れて行かれずに済んだのは魔力が格段に上がっていた事と、こうして幻獣に助けてもらえたからだ。今度お会いする機会があったら必ずお礼を言おう。
 私はレジーヌの頭を優しく撫でる。
「大丈夫よ。ありがとう、起こしてくれて」
 私は自分が裸な事に気が付いて、ベッドの周辺を見渡すけど、私の服は見当たらない。
 とても嫌な予感がする。
 あれだけお怒りの陛下が私を連れ去ろうとした人達を許すとは思えない。
「……どうしよう……服が……」
 もう一度辺りをきょろきょろ見渡して、やっぱり無い事を確認する。
 ……多分、陛下が隠してしまったんだ……。
 私は意を決して、ベッドからシーツをはぎ取った。
 そしてそれを裂いて腰紐を作る。
 面積の大きな方は体に巻き付けて裂いた小さなひも状のシーツは腰に巻いた。
 一国の王妃がこんな恰好で人前に出ちゃいけない事はわかってるけど、でも、陛下はきっと私に見ていて欲しくない何かを考えている。
 絶対にお止めしないと。
 私はその恰好で甲板まで降りる。
 軍港を取り仕切るラヤラさんが私を見てぎょっとした。
「王妃、なんつう恰好してんすか?!」
「ラヤラさん! 陛下はどこ?!」
 他の海兵さん達も私の恰好に動揺して、見ないふりをしたり目を逸らしたりしてくれる。
「ああ、今は王妃が乗ってた商船に移ってるっすよ?」
 私は船の縁に寄ってあの商船を見る。船の上には確かに拘束された人々が叩頭し、陛下が甲板にいる。
 帆桁から吊るされた数十人の男の人達が泣き叫んでるのが分かった。
 急がないと!
「レジーヌ! もう一回、大きくなれる?」
『なれるの』
「あの船まで乗せて行ってくれる?」
『のせてあげるの』
 レジーヌはそう言うと大きくなって私を背中に乗せてくれた。
 船から船まで一駆けで到着した。
「陛下!」
 私は空から陛下をお止めする為に叫んだ。
 陛下はそれを見上げると一瞬目を見開いた。
 空から船に降り立った私に歩み寄って、陛下は着ていた軍服の上着を脱ぎ、私に着せる。
 私は軍服を着せられながら陛下を見上げた。
「陛下? あの者達は何故吊るされているのですか? どうしてあんなに泣き叫んでいるのですか?」
 陛下は私を見下ろして事も無げに言った。
「あれらは凌遅刑に処す」
 私はその言葉に絶句する。
「……っ!!!! 待って下さい! そんな、凌遅刑だなんて、だってあの方達はただの船員さん達でしょう?!」
「見ていられんなら儂の船室に戻っていろ」
「陛下……! 本気でそんな非道な事をなさるつもりですか?!」
 陛下は感情の見えない仮面王としての顔で私に向き合った。
「これだけコケにされて甘い処分ではグリムヒルトの名折れ。この国の王が海賊の末裔である事を内外に知らしめるのにこれはちょうど良い機会だ」
「ダメです、陛下! こんな事は許されません! 裁きの機会も与えずに凌遅刑だなんて、それこそグリムヒルトの名折れです!」
 陛下は本当に人形か何かになってしまった様に何の感情も篭もらない声でサラリと答える。
「裁きならこの儂自ら下してやった。結果凌遅刑に決まった。それで何の問題がある」
 私は必死に陛下に取り縋る。
「それでは何の為にこの国には法があってそれを司る法相様がいらっしゃるのですか?! 陛下がご自分の一存で法を曲げて刑を決めてしまっては国の荒れる原因にもなります! どうか、お考え直し下さい!」
「何故、お前がこれらを庇う? こ奴らに攫われた当の本人であろう?」
「だからこそです! 私が原因で起こった変事であるからこそ、きちんと法に則って裁きを下して頂きたいのです!」
 長い沈黙の後少しだけ、陛下の翠色の瞳の奥に感情の色が見えた。
「……儂はな、レイティア、どうしても許せぬのだ」
 陛下のお顔を見上げて、真っすぐにその瞳を見つめた。
「何を、ですか?」
「儂はな、玉座など幾らでもくれてやるし、儂の首を望むのならそれもまあくれてやっても良い。だがな、お前を取り上げられる事だけはどうしても我慢ならん。何一つ許してやる気はない」
 そう言うと陛下はお顔を上げた。刑の執行を命じようとしている。

「陛下!! 私を本当に傾国の王妃にしないで下さいっ!!」

 私は必死に叫んだ。
 その言葉に陛下は私にお顔を戻して、じっと見た。
「……叛逆軍の者に言われました。お前は傾国の王妃で、陛下を誑かす悪女だと……。陛下が私の為にこうして怒って下さって、そしてその為に法を曲げて行き過ぎた私刑をなさるのであれば、私は真実、傾国の王妃です」
 泣きたくないのに、勝手にポロポロと涙が零れてしまう。
 もし陛下が私の為に道を踏み外すなら、私はこの国の王妃ではいられない。
 それこそ本当に、排斥されなきゃならない王妃だろう。
「もし、陛下が私の為に道を踏み外すのであれば、離縁し、他国へと亡命致します」
 私は陛下が、アナバス様が大好きだ。ずっと傍にいたいし、離縁なんてしたくない。
 でも、陛下は民を背負っている。もし私が背負っているものを失念させてしまう様な存在なら、私は陛下の邪魔にしかなっていない。
 私は、陛下に……アナバス様に生きていて欲しい。
 民をかなぐり捨てて私に惚けてしまう様な事があったら、それは陛下がいつか首を刎ねられてしまう原因になる。
 ……だったら、私は別れを選ぶ。……絶対に生きていて欲しいから。

 ポロポロ涙に濡れる頬を陛下が指先で拭ってくれて、そして大きな溜息を吐いた。

「わかった……。裁きは法相に任せる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

イケメンとテンネン

流月るる
恋愛
ある事情から、イケメンと天然女子を毛嫌いする咲希。彼らを避けて生活していた、ある日のこと。ずっと思い続けてきた男友達が、天然女子と結婚することに! しかもその直後、彼氏に別れを告げられてしまった。思わぬダブルショックに落ち込む咲希。そんな彼女に、犬猿の仲である同僚の朝陽が声をかけてきた。イケメンは嫌い! と思いつつ、気晴らしのため飲みに行くと、なぜかホテルに連れ込まれてしまい――!? 天邪鬼なOLとイケメン同僚の、恋の攻防戦勃発!

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...