人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 今私は宰相様の居館やしきにいる。
「グレーゲル? 足の具合はどう?」
 お見舞いに持って来た、マリが焼いてくれたブランデーケーキが入ったバスケットをテーブルの上に置いた。
「足の具合はそこそこだが、ここは快適でいいな。綺麗なねえちゃん達に世話されて気分いいぜ」
 グレーゲルは太々しくそう言うと、カハハと笑った。
「侍医はなんて?」
「さすがに傭兵稼業は難しいだろうが、普通に歩けるようにはなるってよ。処置が早かったかららしいぜ? ま、嫁さんのおかげだな」
 私は申し訳ない気持ちでいっぱいで複雑な笑みを向ける。
「何言ってるの? 私が巻き込んだから怪我したんでしょ? ごめんなさい……」
 グレーゲルは真面目な顔をして私を見て言った。
「そりゃ違うぜ? 嫁さん。俺ぁあんたの護衛を請け負ったんだ。その最中に怪我を負ったのは俺の責任だ。依頼を受けるってのはそういう事だ。少なくとも俺らの稼業ではそういう風にやってる」
 あの後、ヘリュ様と軍師様直属の隊の人達がグレーゲルを迎えに行って、更に赤ちゃんが無事にお母さんの元に帰った事を確認してくれた。
「大体なぁ~……。依頼を果たしてねえのに、報酬は全額くれるわ、あんたの旦那から褒賞貰えるわ、人生でこんなに金持ったの初めてでうはうはだよ」
「そんなのは当たり前よ。だってもう傭兵は出来ないでしょ? グレーゲルさえよければ、うちのお店で働いて貰ってもいいと思ってるわ」
「ありがたいが、こんだけ貰ったんだ。こじんまりした店でも開いてのんびり稼ぐさ」
「……奥さんとお子さんのいるロカモアに行くの?」
 グレーゲルは頭を掻いて言った。
「そりゃ無理だな。あいつらとは別れてる」
「一緒にいたいなら、素直にお願いした方がいいと思うわよ?」
「まぁ、俺の事はいいじゃねえか。で? 城の中は落ち着いたのかよ?」
 私は溜息を吐く。
「この叛逆の協力者だと捕らえられたエミリア様が罪を認めないの。これは自分を陥れる罠だって、ずっと主張してるって」
「へえ。だが証拠はあるんだろう?」
 エミリア様に繋がる証拠はたくさん出て来た。
 エミリア様の侍女達が、元々他のご妾妃様方の専属侍女だった人達に声をかけて、私に対する不満を煽ったり、お金で雇ったりして侵入の手引きや武器の搬入の手伝いをさせたようだ。
 確かに8人いた妾妃様方の侍女達の整理をしなかったのはエミリア様のアドバイスだった。
 侍女が減ったらきっと城内が回らなくなるからって言われた。家政を手伝ってくれていたエミリア様とはそういった事を逐一相談しながらやっていた。
 でも、元々妾妃様方の専属侍女だった人達は専属であった事に誇りを持っていたし、殆ど下働きみたいな仕事ばかりになってしまって不満を募らせていた。
 その怒りは陛下の寵愛を受けている私に向かっていて、それを煽って、地の民への優遇政策に不満を持った領軍の軍人や海の民の派閥の陸軍の軍人さん達からなる、叛逆軍を城内に侵入させる手伝いをさせた……という事らしい。
 その混乱に乗じて私をビアニアに送って、自分がたった一人の妾妃になって後宮を取り仕切ろうとした……という事になっている。
「で、あんたの事を愛人にしようってビアニアの御仁についてはわかったのか?」
「結局の所、あやふやにされてしまいそうね」
「なんだ? 偉い奴らの御都合ってやつか?」
「……うん、まあ、結局はそういう事になるわね」
 アルカラの証言で、私をビアニアに攫う様に依頼したのはプトレドのオレステ・ジロラモ・マイナルディという外交官だという事だった。彼はこの間の私達の結婚式に出席した一人だ。さすがに末端の外交官なので顔も名前も覚えてなかった。
 そのやり取りをアルカラは逐一記録していて、それを証拠として突き付けてプトレド王に追及、グリムヒルトに召還を要求した。
 でも、マイナルディは知らぬ存ぜぬを通しているし、召還には応じないと言っているらしい。
 今はそういう状況で膠着してる。
 グリムヒルトとの関係悪化を恐れたプトレド王は彼に召還に応じる様に説得しているらしいけど、彼を庇う人達もいて強引には話を進められないらしい。
 マイナルディという人は何故、私を攫おうと思ったのかしら……。私は顔も名前も挨拶をしたのかどうかも覚えていない。
 私は話しながら持ってきたブランデーケーキを切り分けて、グレーゲルの横にあるサイドテーブルに置いた。
 それと同時に宰相様のお宅の侍女がお茶を携えてやって来て、カップにお茶を注いでくれた。
「お酒を飲ませてもらえないって愚痴っていたでしょ? 怪我が治るまでこれで我慢してね」
「まあ、しゃーねえな。ここは至れり尽くせりなんだが、酒が飲めねえのが唯一の難点だ」
 グレーゲルは手づかみでブランデーケーキを掴むと大きな口を開けて頬張った。
「もう、フォークがあるでしょ? 一緒につけてあるんだから使いなさいよ」
「うるせえなぁ~、あんたは俺の母親かよ」
 そう文句を言うとグレーゲルはまた大きな口を開けて今度は全部食べてしまった。
「おい嫁さん、もう一切れくれよ」
「たった二口でみんな食べてしまったの? ……しょうがないわねぇ~」
 私は呆れながらナイフを再び手に持って、ブランデーケーキを切り分けた。
「厚めに切ってくれていいぜ?」
「動かないんだから食べ過ぎたら太っちゃうわよ?」
「……あんたホント、王妃ってガラじゃねえな。口煩くて適わねえや」
「ほっといてよ。はいこれで今日は終わりよ?」
「へいへい」

 グレーゲルはそう面倒臭そうに言うと、さっさと私の手からお皿を取り上げて、また手づかみでケーキを取って頬張った。
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