恋文

かなぶん

文字の大きさ
1 / 1
第一章

エピローグ

しおりを挟む
ミルクチョコの甘さが口の中いっぱいに広がって、自然と心も落ち着く。心が満たされる感覚が心地よくて、その感覚をもう一度味わいたくて、一日五粒が目安と表示されている袋から二粒の小さくて丸いチョコを取り出し、口の中に放り込んだ。もう何個食べただろうかと指を折って数えてみたが、目安摂取量の五粒は絶対に超えているだろうなぁと思い、少し罪深い意識にとらわれた。ここ最近、チョコレートやクッキー、アイスクリーム、プリン、時にはケーキなんかをコンビニで買って紅茶と一緒に優雅な気分に浸りながら食べることで、静まらない気持ちを静めていた。やはり食べすぎだろうか。鏡で自分の顔をみると普段見慣れている顔よりも少し丸くなっているようないないような。おなかはまだ出ていないとは思うが、それは勘違いかもしれないだとか、たとえおなかは出ていなくてもあれだけ食べていたらおなかの脂肪は必ず蓄積されるに違いないなどといろいろと余計に考えてしまう。そんなに気にするのなら食べずに我慢すればいいのに、それかコンビニでチョコを買わなければいい、そもそもコンビニに行かなければいいのではと考えたらきりがない。でも、これまで熟考してきた過程すらも無駄に思うほど、甘いものを買って食べたくなる衝動に駆られる。それは私の精神状態が上下にゆらゆらと運動し続けていつまでも水平にならない天秤よりもぐらぐらと揺れているからだ。なぜこんなにもそわそわして落ち着かないのか。それは、塾のバイトで教えている生徒の受験が心配だからなのか、通っている大学の試験の結果が気になるのか。どちらも大事なことであるが、そのどちらでもない。
たった一言である。なぜだろう。大学の男友達から言われてもすぐ冗談と受け取って、それに対する何か面白い返しをしてやろう、どうやったら周りのウケをもらうことができるのかばかり考えるのがいつものわたしである。初恋の人に言われるだけで、こんなにもわたしの思考回路が麻痺してしまうなどと思いもしなかった。あの一言を思い出すだけで、わたしはこの二週間ずっと胸が熱くなって、心臓は激しく鼓動し、時には喉が詰まる感じがしてうまく呼吸ができなくなってしまう。
今から二週間前、わたしが約二年前に通っていた高校の同窓会でわたしはわたしの初恋の人と再会した。二人きりで話せたのは同窓会終了した後のたったの十五分だった。それでも、話しているうちに、お互い雰囲気や髪の色など変わってしまったことも多少あるにしろ、眼光が鋭くて且つ涙袋が特徴的な男らしくも可愛いらしくも感じられる目やそんな目を細めて顔をちょっとクシャっとさせた笑顔、カメラのレンズが向けられているところにこっそり写りこもうとするところ、話しているときに時折変顔を挟んで笑わせようとしてくるところなど当時と変わらない姿がみられ、なんだかとても新鮮な気持ちになったと同時にあの時に秘めていた恋心を思い出してちょっと体がふわふわと浮いているような錯覚に見舞われた。そんなときだった。気づいたら同窓会終了後の会場にはわたしと初恋相手しかおらず、ほかのみんなは会場の外に出て元の各クラスの二次会会場へ向かっていた。状況を察知したわたしは、急いで同窓会会場まで着てきたコートを会が始まる前にかけておいたハンガーのあるところまで取りに行って、二次会会場に向かおうとした。すると、背後から彼の発したあの一言がわたしだけでなく会場全体に響き渡った。
「おれと結婚しない?」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

逆ハーエンドということは。

竹 美津
恋愛
乙女ゲームの逆ハーレムエンドの、真のエンディングはこれだ!と思いました。 攻略対象者の家族が黙ってないよね、って。

【完結】悪役令嬢の薔薇

ここ
恋愛
公爵令嬢レオナン・シュタインはいわゆる悪役令嬢だ。だが、とんでもなく優秀だ。その上、王太子に溺愛されている。ヒロインが霞んでしまうほどに‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...