悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

うにたん

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1章 追放

第一話:婚約破棄①

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「フィルミーヌ・ルナ・メデリック公爵令嬢との婚約破棄をここに宣言する!!」

「え?」

「は?」

「……」

 突然ですが、ごきげんよう。グラヴェロット子爵令嬢マルグリットと申します。
 
 ここは王立エゼルカーナ魔法騎士学院。十五歳から十八歳の若者たちを集めて未来の騎士、魔導士、文官を育て上げる王国隋一の育成機関。
 
 王侯貴族はこの学院に通うことを義務付けられており学友たちと切磋琢磨しながら未来のなりたい自分に向かって己を磨き上げていく場所なのです。
 
 今や私たちも三年生でこの卒業パーティーが終わり次第、騎士団が内定している人、魔法師団が内定している人は王都に残ったり次期領主になる人は領地に帰ったりします。
 
 そんな学園の最後のイベント大詰めの真っ最中にこのような唐突な宣言を受けて、ついつい時が止まってしまいましたがエシリドイラル王国次期王位継承権第一位であり、第一王子であらせられるギョム・スパ・エシリドイラル殿下からの発言に私たちは耳を疑っています。
 
 そんな彼は三人の従者、殿下の親友枠の二人を両脇に据え置き、生まれたての小鹿の様に震えている如何にも”お花を育てるのが好きです!”と言わんばかりのご令嬢の肩を抱きながらこちらを睨みつけているのです。
 
 ふと我に返って周りを見渡していると私たち三人以外の全員がこちらを睨んでいるかのような表情をしているのです。
 
 これってもしや最初から仕組まれてた? 私たち三人がこの恐ろしい隠しイベントがあったことが知らされていない模様?
 
 ちなみにここで言う三人の一人目が我らがフィルミーヌ・ルナ・メデリック公爵令嬢。
 金髪さらさらロングヘアーで太陽の光を当てると光り輝く様に見えるまさに女神と言っても過言ではない造形美を持つ生きた伝説。スタイルもボンキュッボンでこの言葉はまさに彼女の為にあると言っても過言ではないのです。胸がすんごい大きさにも関わらず腰がなんでそんな細くなるの?その辺りの話をするといつも顔を真っ赤にして両手で抑えて照れるんだもんなぁ・・・ 可愛すぎか?
 書物で定期的に出てくる聖女とやらがいるとしたら間違いなくこの人の事を指すんだろうなって思います。
 キュートアグレッションとか言葉を最初聞いたとき意味不明とか思ってたけど、今なら…… 少し…… 気持ち…… 分かります……。ガブガブ噛み噛みしたくなっちゃう気持ちわかるでしょう? え?わからない? わかる人だけわかってりゃいいんですよ!
 
 二人目がイザベル・コンパネーズ伯爵令嬢。
 無口なので声聞いたことあったっけ? というほど。その代わりボデイーランゲージはすごい激しい。そこまでするなら喋ったらいいのにって思う。見ていて飽きない不思議令嬢。
 そんな彼女は赤髪ポニーテールで引き締まったスタイルを持ち、絶対スポーツやってたでしょ?というくらい見事な体型。でも本人は首を横に振るもんだからスポーツはやってないっぽい。三年間ほとんど一緒にいたわけだから本当は知ってるんですけどね。
 
 そして……お待たせしました。三人目が私マルグリット・グラヴェロット子爵令嬢でございます。え?待ってないって?とりあえず聞いてくださいよ。
 黒髪ショートボブな私はいつも十代前半と見間違えられるほどの少女体型……。
 昔の私は体が弱く、気が小さく、人見知りと言ったネガティブ三種の神器持ちだったんですが、フィルミーヌ様、イザベルと出会って取り巻きにしてもらったおかげで三年間ボッチにならずに済みました。
 人見知りも大分改善されて、フィルミーヌ様にちょっかいを出す輩に脅…… ゲフンゲフン。お断りさせていただいております。おかげさまでついた渾名が公爵令嬢の番犬だの狂犬だの意思疎通の取れる魔獣だの…… いや、これもう悪口じゃん!
 性格が三年間で一番変わった人物ランキングがあったら私は間違いなく一位なんじゃないでしょうか?
 体の弱さも学園に入ってから冒険者ギルドの皆様方とたまに遊びに行くメデリック公爵家騎士団の方々にイジ…… もとい鍛えて頂き、今ではDランク冒険者認定された剣技と魔力になったんです。ん?ランクの基準がわからないですか?まあ、追々説明しますよ。
 
 私も一旦落ち着くために婚約破棄を言い渡された愛しのラブリースイートであるフィルミーヌ様のご尊顔でも拝謁しようとしたところ、本人も動揺しており第二王子殿下の発言が頭で理解しきれていないようで”もう一度言ってくんない?”とでも言いたげな表情だ。落ち着くために一息つき、口を開く。
 
「殿下、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
 
「理由だと……? 貴様、あれだけのことをしておいてしらばっくれるというつもりか?」
 
「申し訳ありませんが、身に覚えがありません。」
 
「そうか…… 貴様がクララ・コンテスティ男爵令嬢に対して行った悪逆非道の数々に覚えがないとは…… 彼女の鞄を噴水に投げ入れ、窓の外から彼女の頭上に向けて鉢植えを落としたそうだな。他にも階段から突き落とし、食事に毒を盛った。それでも足りないのか暗殺者を差し向けたそうだな。まあ、暗殺者どもは私たちが捕まえた上で奴らの口から首謀者であるフィルミーヌの名前を吐かせたのだ。これ以上の言い訳もできまい」
 
 おいおいおい、本当にそんなことしてたらまず人としてどうかと思うよ。ていうか婚約破棄云々の前に完全に犯罪者じゃーん。
 
「わたくしはその様な事は行っておりません!」
 
「ここには貴様の非道な行いを見ていたという者が多数いるのだ! まだ白を切るというつもりか! 」
 
 いやいや、どう聞いても捏造しかありませんけど? ずっと傍にいた私が言うんだから間違いない……。やってない証拠出せなんて言われても困るし、悪魔の証明じゃないんだからさ。むしろ主張するそっちが証拠だしなさいよ! って言いたいけど王族であることを理由に拒否られるだけなんだろうけど、権力がほぼ皆無の下っ端ってのも楽ではないですね。
 それに見ていたならその場で言うべきでしょ。ここまで引っ張る方も相当に問題では? 

 Q:なんでこんな当たり前の事に誰も突っ込み入れないのか? 
 A:わたしたちは敵視されてるから。
 
 それにしても気になるのが三点ほど。
 
 一点目がフィルミーヌ様に対する殿下の態度。一年生の夏ごろまでは婚約者であるフィルミーヌ様と仲が良かったはずなんだよね。夏の長期休暇を境にフェードアウトして気が付いたらクララ嬢を侍らしてるんだもん。
 
 二点目はクララ嬢の態度。その生まれたての小鹿ちゃん的な態度…… ”私はこんな事になるなんて思わなかったんです”とでも言いたげな表情だが、殿下は婚約破棄するなどと言わなかったんだろうか? でもこうなってしまった以上あなたにも責任があるのですよ? あとでねっとり話し合いの場を設けないといけないみたいですね。ククク……。
 
 三点目、仮にお嬢様が気に入らないにしても何でここまで憎悪の目を向けられてるんだ。いや、憎悪というよりも殺意か。特に殺意むき出しなのが殿下とお供四人なんだよね。そこまで殺したくなるくらい何かがあったとはとても思えない。理由は分からないけど今はフィルミーヌ様をお守りしなければ。
 
 このままじゃ埒があかないので私が殿下とフィルミーヌ様の間に割り込んでみるか。
 
「お待ちください、殿下。 フィルミーヌ様の仰る通り、わたくし達には身に覚えのない話に御座います。一度情報の出所と信憑性の再確認、当日のわたくしたちの行動と照らし合わせての再精査をお願いしたく存じます。」
 
「貴様の言う事が最も信用ならんぞ! 番犬が!」
 
 あれー? これもう聞く耳もたないってやつですね。私は情報の再整理をしろって言ってんのに言い訳してるわけじゃないんだから信用も何もないでしょーが。しかも最も信用できないって…… 結構傷つくぞ。
 
「それともうひとつ。 クララ嬢の為の断罪という事は理解いたしましたが、クララ嬢の肩を抱いていい理由にはならないと思われます。それとも、その様なご関係であると考えても差支えないのでしょうか?」
 
「ふん、目ざとい犬め。 だが、まあいい。 教えてやろう、貴様の言うとりフィルミーヌとの婚約破棄後、クララ嬢と婚約する」
 
 クララ嬢が下を向いていたと思ったら、殿下の発言によりあまりに驚いた表情をして殿下の方を向けている。まさかとは思ったけど殿下の単独とは……。 小鹿ちゃんが”聞いてないよー”って表情してるんだけども?
 小鹿ちゃんに公務がこなせるとも思えないし、王妃教育どうするつもりなの? これはヤバい未来しか見えないんですけど。この国の未来は大丈夫かな……。
 
「いつまでも認めないつもりか! 無理矢理にでも認めさせてやる! 行け!」
 
「「はっ!」」
 
 やせいの殿下のお供その一、その二があらわれた。
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