悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

うにたん

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3章 6歳

閑話:ルーシィの反省と独り言①

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 本当に今日はマジのガチで死んだかと思った。九死に一生を得るとはまさにこの事だ。

 幼馴染のチェスカと一緒に十五歳の時に冒険者になって丸一年が経ち、ようやくパーティランクがEランクに昇格して、実は私たちって才能あるんじゃない?

 なんて穴があったら入りたい程の恥ずかしい勘違いをしてしまったのだ。エミリアさんからは散々釘を刺されていたはずなのにだ……。

『ランクの上がりたてが一番調子に乗りやすいタイミングだからこそ油断はしないように! いきなりモンスターのランクを上げないで普段の行動を守るように注意してくださいね』

 早速ガン無視しちゃってるよ。普段と同じ行動を取っていたつもりが、少しだけ、いやちょっとだけ、気持ち程度? Dランクモンスターが出現しそうな場所に移動していたかもしれない。
 
 なんて思っていたら……
 
 あ! やせいの オークが とびだしてきた!
 
 本当にエンカウントしてしまった。Dランクモンスターであるオーク。がっしりとした体格で上背は二メートル半から三メートル程の大きさだろうか。自分の胴体ほどの丸太の様なこん棒を担いでいた。
 
 こんなもので殴られた日には、頭が『ッパーン!』って弾けること間違いなし! 正直に言って身体は震えていた。でも私たちなら出来るんじゃないかって、心のどこかで思ってしまっていた。
 
 きっとチェスカも同じ気持ちだったと思う。だからお互いに顔を見合わせて無言のまま首を縦に振る。
 
 初めて対峙する相手との戦い方はいつもと同じで私が前衛として敵の気を引き付けて、その間にチェスカが得意魔法でありチェスカが今使える最大の魔法でダメージを与える。
 
 倒しきれなかったら私が止めを刺す。これが私たちの戦い方だ。チェスカが二、三歩下がって魔力を貯め始める。

 初めて対峙してみてわかった事はコイツの間合いに入って、巨大なこん棒が自分に降りかかって来た時は避ける自信がない。間違いなく死ぬ。
 
 そんなことを考えたせいか、心臓の鼓動が自分の意思とは関係なく高鳴っていく。それを落ち着かせるために短い呼吸を何度も繰り返した。
 
 私はオークから攻撃を受けない様に間合いに入らない様に若干遠めの場所から大きな足音を立てて少し相手の間合いに入ったり、届かないとわかっている剣をオークの顔を目掛けて振ったりしていた。
 
 だって正直こんな奴とガチでぶつかり合ってたら私の身が持たないんだもん。いつもだったらもうすぐ魔力充填が完了するからそれまでの辛抱だ。
 
 そう思っていた矢先、オークは私が間合いに入らないとわかったのか標的をチェスカに変更した。
 
 ヤバイと思った焦った私は間合いとか頭になく、ターゲットを私にを向けさせるために、私の剣が届く位置まで飛び込んでいた。
 
 その直後、オークはこちらに突如振り返り、すでにこん棒を振り上げていた。
 
 罠だったのだ。私を間合いにおびき寄せる為……。オークってこんな頭が良かったのかと感心するべきなのか、私の頭はオーク以下なのかと絶望する間もなく、こん棒は既に振り上げられていたのだ。
 
 本能的に『死んだ』と思った私は全身から血の気が引いていくのを感じていた。そのせいなのか、足が震えだし、軸足のバランスを崩して倒れてしまった。
 
 倒れたと同時に目の前で大きな鈍い音がなったのを聞き逃さなかった。
 
 音の方を見てみると、私の足のつま先数センチ程の位置にこん棒が振り下ろされており、地面が抉れていた。
 
 私は息をすることを忘れて、抉れた地面を眺めていた。
 
 もし、この位置に自分がいたら…… そう考えたら呼吸をすることをその瞬間忘れていた。

「準備出来た!」

 チェスカの声で我を取り戻した私は巻き添えを食らわない様にチェスカが魔法を使う直前に死にかけた昆虫が如く四つん這いのまま範囲から急いで離脱した。

爆炎下級魔法フレイムバースト

 チェスカの得意にして現在使える最大の威力を誇る爆炎系の魔法。下級とは言え、Eランクの魔獣なら数体をまとめて燃やし尽くす威力がある。
 
 これならさすがのオークも…… と思っていたのに爆発によって発生した煙の中から出てきたのは表面上に火傷のが跡がいくつか見られるものの、ほとんどダメージを負っていないであろうオークの姿だった。
 
 噓でしょ……? EからDになっただけでこんなに違うものなの? FからEに上がった時はそうでもなかったじゃん……。
 
 オークが標的を完全にチェスカに変更したみたいだ。
 
 マズイマズイマズイ。私は震えている足を叩いて、無理やり立ち上がった。
 
「させるかあああああああ」

 私はなりふり構わずオークに切りかかっていったが、こん棒を持つ逆の腕で受け止められてしまった。
 
 ぬっ、抜けない。オークは構わず腕を振るとその勢いで私はチェスカの場所まで飛ばされてしまった。
 
 ダメだ、勝てない。死ぬしかない…… 私は死を悟ったが……
 
 やっぱり死にたくない。まだ死ねない。
 
 だって、これから美味しいものをたくさん食べて
 
 オシャレな服を買って
 
 可愛いアクセサリーを身に着けて
 
 カッコイイ彼氏と出会ってデートして素敵な夜を過ごすまで死ぬに死ねない!
 
 そんな考えとは関係なくオークはどんどん近づいてくる

「「ひええええええ、お助けえええええええええ」」

 私たちは本能的に叫んでしまった。我ながら情けない悲鳴だとは思ってる。
 
 傍から見ていれば笑える悲鳴かもしれない。
 
 しかし、こっちはそれどころじゃない。もう助かれば何でもいいです。マジで!

「私たちは美味しくないから~~~~~」

 チェスカも覚悟を決めたのだろうが、やっぱり最後の相手がオークは嫌なんだろうな。可能な限り叫び続ける。

「豚に犯されるなんて嫌すぎるうううううう」

 冒険者の先輩からオークは異種族も関係なしに交尾すると聞いたことがあった。
 
 私の初めてはいつかできる彼氏の為にとっておきたいのだ!
 
 最初で最後の相手が豚とか本当に死んでも死に切れん。
 
 だが、無情にもオークは目の前まで迫っていた。
 
 その時だった、私は見てしまった。
 
 私たちとオークの間に突如割って入ってきたその存在を……。
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