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3章 6歳
第二十二話:二つの教会
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「訓練直後のお風呂って最高ね」
お風呂上り後に夕食の時間まで本でも読もうと思った直後、部屋のドアがノックされる。
「お嬢様~、お夕飯の準備が整いましたよぉ~」
「ありがとう、ナナ。今いくわ」
私は早歩きで食堂へと向かった。そこにはお母さまとお兄さまがいるものの、お父さまがいなかった。
「あれ、お父さまがいらっしゃらないようですが?」
「まだ執務室かもしれないね」
「でしたら、私が旦那様を呼んでまいりますぅ」
「まって、ナナ。私がいくわ。丁度、お父さまに用事があるのよ」
「承知いたしました。お嬢様」
実は用事と言うほどの事ではない。執務室にも本棚があるのだ。最近チェックしていなかった事を思い出し、新しい本が本棚に格納されていないかチェックする口実に都合がよかっただけ。
ククク、本の虫マルグリットの抜き打ち検査がは~じま~るよ~。私は執務室のドアをノックしてお父さまがいることを確認する。
「お父さま、マルグリットです」
「マルグリットか、入っておいで」
「失礼いたしますわ。あら、お父さま…… 頭を抱えられているようですが、何かありましたか?」
お父さまはため息を突きながら、手に持っていた書類を眺めている。
「うん、実はガルガダに教会建設の話があってね」
「教会ですか……?」
「あぁ、大分前から申請は上がってきていたんだがな、諸々の事情で先延ばしになっていたんだ。それがようやく最近目処がたってね。あとは許可を出すだけなんだけど……」
諸所の事情って何かしら? 聞いたところで答えてはくれなそうだし、聞いたら聞いたで厄介事の匂いしかしないから聞くのはやめとこ。でもおかしいな…… ガルガダってたしか教会があったはずだけど。
「あれ? 既にガルカダには教会が建ってましたよね?」
「いや、聖王教の方ではなくヴェルキオラ教の方だ」
「揉め事が起きそうな組み合わせですね」
「そうなんだが、ヴェルキオラ教の出資で孤児院も併設してくれるというので無下にはできんのだよ」
――ヴェルキオラ教会と聖王教会
この大陸には大きく二つの教会が存在している。それがヴェルキオラ教会と聖王教会。
信者数の比率的には八対二と言ったところだろうか。
両教会は元々同一の教会だったのだ。元を辿れば女神ヴェルキオラを信仰するヴェルキオラ教が祖になるのだけれど、今からおよそ八百年前の話、当時教皇選挙で最大派閥の枢機卿が対抗派閥の枢機卿の罪を暴いた結果、対抗派閥の枢機卿とその一派を全員追放したとされている。
追放された一派は誰も住んでいない様な場所まで落ち延びて、そこを拠点に国を興したとされるのが、現在の聖王教国だ。一から国を興すなど私ごときでは想像を絶する苦労や恐怖、絶望など幾度となくあったことだろう。人はそれでも誰かに何かに縋る事さえできれば生きていくことができると思っている。その対象が当時の枢機卿であり、初代聖王と言われた人物だろう。
しょうもない人間に人がついていくはずもない。恐らくその人物はその様な過酷な状況であっても付いていくにたる人間性を持つ人物であったと思われる。でなければ国が出来てから八百年も続くわけがない。
故に聖王教会では初代聖王こそが当時の現人神とされており、初代聖王が没して神上がりと扱われてから以降の聖王は神となった初代聖王に仕える使徒という扱いになっている。
とされるくらい、もはや聖人と言っても差支えない人物が対抗馬にいくら最大派閥とは言え、気が気じゃなかったことでしょう。どんな手を使ってでも自分が評価されるように仕向けるか対抗馬の評価を下げる様に仕向けなければならない。
となると、当時の最大派閥の枢機卿…… とりあえず悪枢機卿と呼称しよう。悪枢機卿は対抗派閥の枢機卿であり初代聖王にでっちあげの罪をおっ被せて評価を下げる方が簡単だと考えるのが妥当だ。
ヴェルキオラ教の書物も読んだことはあるが、やはりこの当時は悪枢機卿が教皇となり、追い出した初代聖王に対してはこれでもかと言うほどの罪を被せていたようだ。そして、その初代聖王に付いて行った全体二割の信者にも同様の罪を被せていたようだ。
怖すぎでしょ、この人。
そのためか、ヴェルキオラ教からすれば聖王教は罪人の集まる邪教とまで言われている。だから八百年経った今でも対立がすごいすごい。
私からすれば自分たちの対抗派閥が現れたくらいで他人を『背信者』だの『邪教徒』と宣う、あなたたちヴェルキオラ教の方がよっぽど邪教だよ。まあ、そんなことを口にでもしようものなら何をされるかわかったもんじゃないから言いませんけど。
困っている人に寄り添い、無償で食料提供や治療を行う聖王教、困っている人から寄付と称して財産を巻き上げ多少の食糧提供と治療を行うヴェルキオラ教。
ここだけ抜き出せば、そりゃみんなが聖王教だよねというに決まってる。
だが、世の中は正義と優しさだけで生きていけるほど甘くはない。聖王教はその性格故、常に資金不足に悩まされている。
そしてヴェルキオラ教は資金が潤沢なため、生活に困ることがない。それは両教会が運営している孤児院にも結果として現れている。
親もなく、明日も生きることができるかわからない子供たちに倫理や道徳などは通用しない。彼等、彼女等は今を生きることが全てだから……
そんな子供たちは貧困な生活と裕福な生活を選択させるとした場合、子供たちはどちらを選ぶでしょうか? そしてどちらに忠誠を誓うでしょうか?
これこそがヴェルキオラ教が大陸最大の宗教である所以なのだ。
そしてその資金力を持って国の中枢に入り込もうとしているという噂は前回の人生の時に耳にしたことがある。
もはや、やりたい放題である。
ねぇ、女神ヴェルキオラ様。もし、あなたが本当に存在するのであれば何故彼らの暴挙をお許しになるのですか?それとも、それがあなたの望んだことなの?
なんてね…… いるかどうかもわからない存在に必死に語りかけるなんて馬鹿げてる。
そんなことわかってるはずなのに…… こういう時に限って思い出してしまう。
本当に神がいるんだとしたら、あの時フィルミーヌ様とイザベラをどうして助けてくださらなかったのですか?
あの二人は私にとってだけじゃない。この国になくてはならない宝なの。殺されるなんてやっぱり間違ってる!
何故死ななければならなかったの? どうして助けてくれなかったの?
ねえ、どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ?
答えなさいよ!!!!!!!!!!
「マルグリット? どうした? おい、マルグリット!」
「ハッ! 申し訳ありません、お父さま。つい、考え事をしてしまいまして」
いけない。教会の話だったはずなのに、つい二人の事を考えてしまうと暴走してしまう。
わかってる。こんなのただの八つ当たりだ。自分が弱くて守れなかった分際で無関係な神にまで感情をぶつけてしまうなんて、最低だ。ヴェルキオラ教がどうとか他人の事をとやかく言えないな、私も……。
「本当にそれだけか? すごい形相していたが……」
感情が迷子になっている状態で会話を続けていたら何を迂闊な発言するかわかったもんじゃない。頭を冷やすためにさっさと退散しないと。
「疲れているのかもしれませんわね。先に食堂に行っていますからお父さまも早く来てくださいね」
「わかった。書類だけ纏めたらすぐ行くよ」
「わかりました。その様に伝えておきますわ」
私はお父さまに今の自分の顔をこれ以上見られたくなかったから逃げるように食堂へと向かった。
「マルグリット…… お前に一体何があったんだ? あの形相は只事ではなかったぞ。まるで世界の全てを憎んでいるかのような……」
お風呂上り後に夕食の時間まで本でも読もうと思った直後、部屋のドアがノックされる。
「お嬢様~、お夕飯の準備が整いましたよぉ~」
「ありがとう、ナナ。今いくわ」
私は早歩きで食堂へと向かった。そこにはお母さまとお兄さまがいるものの、お父さまがいなかった。
「あれ、お父さまがいらっしゃらないようですが?」
「まだ執務室かもしれないね」
「でしたら、私が旦那様を呼んでまいりますぅ」
「まって、ナナ。私がいくわ。丁度、お父さまに用事があるのよ」
「承知いたしました。お嬢様」
実は用事と言うほどの事ではない。執務室にも本棚があるのだ。最近チェックしていなかった事を思い出し、新しい本が本棚に格納されていないかチェックする口実に都合がよかっただけ。
ククク、本の虫マルグリットの抜き打ち検査がは~じま~るよ~。私は執務室のドアをノックしてお父さまがいることを確認する。
「お父さま、マルグリットです」
「マルグリットか、入っておいで」
「失礼いたしますわ。あら、お父さま…… 頭を抱えられているようですが、何かありましたか?」
お父さまはため息を突きながら、手に持っていた書類を眺めている。
「うん、実はガルガダに教会建設の話があってね」
「教会ですか……?」
「あぁ、大分前から申請は上がってきていたんだがな、諸々の事情で先延ばしになっていたんだ。それがようやく最近目処がたってね。あとは許可を出すだけなんだけど……」
諸所の事情って何かしら? 聞いたところで答えてはくれなそうだし、聞いたら聞いたで厄介事の匂いしかしないから聞くのはやめとこ。でもおかしいな…… ガルガダってたしか教会があったはずだけど。
「あれ? 既にガルカダには教会が建ってましたよね?」
「いや、聖王教の方ではなくヴェルキオラ教の方だ」
「揉め事が起きそうな組み合わせですね」
「そうなんだが、ヴェルキオラ教の出資で孤児院も併設してくれるというので無下にはできんのだよ」
――ヴェルキオラ教会と聖王教会
この大陸には大きく二つの教会が存在している。それがヴェルキオラ教会と聖王教会。
信者数の比率的には八対二と言ったところだろうか。
両教会は元々同一の教会だったのだ。元を辿れば女神ヴェルキオラを信仰するヴェルキオラ教が祖になるのだけれど、今からおよそ八百年前の話、当時教皇選挙で最大派閥の枢機卿が対抗派閥の枢機卿の罪を暴いた結果、対抗派閥の枢機卿とその一派を全員追放したとされている。
追放された一派は誰も住んでいない様な場所まで落ち延びて、そこを拠点に国を興したとされるのが、現在の聖王教国だ。一から国を興すなど私ごときでは想像を絶する苦労や恐怖、絶望など幾度となくあったことだろう。人はそれでも誰かに何かに縋る事さえできれば生きていくことができると思っている。その対象が当時の枢機卿であり、初代聖王と言われた人物だろう。
しょうもない人間に人がついていくはずもない。恐らくその人物はその様な過酷な状況であっても付いていくにたる人間性を持つ人物であったと思われる。でなければ国が出来てから八百年も続くわけがない。
故に聖王教会では初代聖王こそが当時の現人神とされており、初代聖王が没して神上がりと扱われてから以降の聖王は神となった初代聖王に仕える使徒という扱いになっている。
とされるくらい、もはや聖人と言っても差支えない人物が対抗馬にいくら最大派閥とは言え、気が気じゃなかったことでしょう。どんな手を使ってでも自分が評価されるように仕向けるか対抗馬の評価を下げる様に仕向けなければならない。
となると、当時の最大派閥の枢機卿…… とりあえず悪枢機卿と呼称しよう。悪枢機卿は対抗派閥の枢機卿であり初代聖王にでっちあげの罪をおっ被せて評価を下げる方が簡単だと考えるのが妥当だ。
ヴェルキオラ教の書物も読んだことはあるが、やはりこの当時は悪枢機卿が教皇となり、追い出した初代聖王に対してはこれでもかと言うほどの罪を被せていたようだ。そして、その初代聖王に付いて行った全体二割の信者にも同様の罪を被せていたようだ。
怖すぎでしょ、この人。
そのためか、ヴェルキオラ教からすれば聖王教は罪人の集まる邪教とまで言われている。だから八百年経った今でも対立がすごいすごい。
私からすれば自分たちの対抗派閥が現れたくらいで他人を『背信者』だの『邪教徒』と宣う、あなたたちヴェルキオラ教の方がよっぽど邪教だよ。まあ、そんなことを口にでもしようものなら何をされるかわかったもんじゃないから言いませんけど。
困っている人に寄り添い、無償で食料提供や治療を行う聖王教、困っている人から寄付と称して財産を巻き上げ多少の食糧提供と治療を行うヴェルキオラ教。
ここだけ抜き出せば、そりゃみんなが聖王教だよねというに決まってる。
だが、世の中は正義と優しさだけで生きていけるほど甘くはない。聖王教はその性格故、常に資金不足に悩まされている。
そしてヴェルキオラ教は資金が潤沢なため、生活に困ることがない。それは両教会が運営している孤児院にも結果として現れている。
親もなく、明日も生きることができるかわからない子供たちに倫理や道徳などは通用しない。彼等、彼女等は今を生きることが全てだから……
そんな子供たちは貧困な生活と裕福な生活を選択させるとした場合、子供たちはどちらを選ぶでしょうか? そしてどちらに忠誠を誓うでしょうか?
これこそがヴェルキオラ教が大陸最大の宗教である所以なのだ。
そしてその資金力を持って国の中枢に入り込もうとしているという噂は前回の人生の時に耳にしたことがある。
もはや、やりたい放題である。
ねぇ、女神ヴェルキオラ様。もし、あなたが本当に存在するのであれば何故彼らの暴挙をお許しになるのですか?それとも、それがあなたの望んだことなの?
なんてね…… いるかどうかもわからない存在に必死に語りかけるなんて馬鹿げてる。
そんなことわかってるはずなのに…… こういう時に限って思い出してしまう。
本当に神がいるんだとしたら、あの時フィルミーヌ様とイザベラをどうして助けてくださらなかったのですか?
あの二人は私にとってだけじゃない。この国になくてはならない宝なの。殺されるなんてやっぱり間違ってる!
何故死ななければならなかったの? どうして助けてくれなかったの?
ねえ、どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ?
答えなさいよ!!!!!!!!!!
「マルグリット? どうした? おい、マルグリット!」
「ハッ! 申し訳ありません、お父さま。つい、考え事をしてしまいまして」
いけない。教会の話だったはずなのに、つい二人の事を考えてしまうと暴走してしまう。
わかってる。こんなのただの八つ当たりだ。自分が弱くて守れなかった分際で無関係な神にまで感情をぶつけてしまうなんて、最低だ。ヴェルキオラ教がどうとか他人の事をとやかく言えないな、私も……。
「本当にそれだけか? すごい形相していたが……」
感情が迷子になっている状態で会話を続けていたら何を迂闊な発言するかわかったもんじゃない。頭を冷やすためにさっさと退散しないと。
「疲れているのかもしれませんわね。先に食堂に行っていますからお父さまも早く来てくださいね」
「わかった。書類だけ纏めたらすぐ行くよ」
「わかりました。その様に伝えておきますわ」
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