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4章 7歳
第三十五話:マルグリット、コンテスティ領に向かう
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私は今ナナとヘンリエッタと共にコンテスティ領に向かっている。
時折、街道に低ランク魔獣が現れるものの護衛であるヘンリエッタが難なく切り裂いていく。
中々綺麗な剣さばきをしている。コンパクトだが、しっかりと基礎に則った騎士のお手本の様な動きをする。
なるほど、最年少小隊長候補というのも強ち間違いではない事が良く分かる。
こう遠目から見ると、初めて会った時の印象通りクールな女騎士なんだけどねえ。
私かナナを目の前にすると一気に顔面だらしない女に早変わりするのが勿体ない。
これで真正の幼女好きが趣味じゃなければ……。
そんなヘンリエッタが倒した魔獣を背にこちらに向かってくる姿はとても嬉しそうだ。
その様子はまるで枝を投げて咥えて戻ってくる飼い犬の様に見える。
まあ、あまりつっけんどんにしても可哀想だから飴くらいはくれてやらねばならない。
ククク、これが出来る淑女の条件って奴よね。
そんな事を考えていたらヘンリエッタが馬車まで戻って来た。
「お嬢様、ナナ殿、無事に魔獣を討伐してまいりました」
見るがよい、ヘンリエッタ。このマルグリットのハイパー淑女タイムって奴をね。
「ヘンリエッタ、ご苦労様です。見事な腕前ですね、また魔獣が出たらお願いしますね」
「は、はひっ、おっおまかせくだしゃひ」
私がニッコリと語りかけるとヘンリエッタは嬉しそうに頬を紅潮させ、鼻の穴を『プクーッ』と膨らませてニンマリしている。
あー、もう全部台無しだよ。折角ついさっきまでクールな女騎士に見えて感心したのに、今の表情じゃ只のド変態だよ。
ナナもその光景に可笑しかったのか、『クスクス』笑っている。
「ヘンリエッタさんは本当にお嬢様が大好きなんですねぇ」
ナナの笑顔にさらにだらしない顔をするヘンリエッタ。
「いひぇ、しょんな…… ナナ殿も同じくらいしゅ、しゅ、しゅひぃ」
言えてないし、声が小さいからナナには届いていないぞ。傍から見てるとヘンリエッタの将来が心配なってくる。
ふと目を馬車の外にやると街が見えて来た。
「ナナ、街が見えてきたわ。あそこが目的の街なのかしら?」
「はい、今見えている街が目的地の『モーレット』になります」
私たちはそれぞれモーレットに入ってからの各自の動きについておさらいすることにした。
ナナは拠点となる宿屋の確保。当面の間は三人部屋でいいでしょう。ナナとヘンリエッタは私を一人部屋にするべきと言っていたが、護衛であるヘンリエッタは共にいるべきという事と、私がナナとヘンリエッタの二人きりにさせたくなかったから。
ナナの貞操が掛かっている可能性があるのよ!
ヘンリエッタはメリッサから受け取ったクララの似顔絵を元に本人が街にいる可能性も考慮して捜索及びコンテスティ家の様子見。
本人が家にいるのであれば出て来るタイミングを見計らって、どうにかして知り合いになる機会を見つけないといけない。
お母さまからも言われた様に、家に直接言って呼び出す事は出来ないという無駄に高難易度ミッション。
私は街を散策しながら本屋に行く。クララが私と同じ読書好きという事から本屋にいる可能性も高いし、クララの容姿も似顔絵を見てるし何より十八歳の時を知っているから本人を見れば七歳とはいえ、流石に私の本能が理解するはず。
そんな話をしながらモーレットに入った私たちはそれぞれがミッションを担当すべく、バラバラに散っていった。
近場で魔獣を狩るような場所が少ないからか冒険者の数は少ない印象の様に見える。
だからガルガダに比べてのんびりとしたイメージだ。
隙間なく敷き詰められた石畳に立ち並ぶ建物は同系色のタイル張りの壁で清潔感が感じられる。第一印象はとても綺麗でいい街だ。
それでも……
「お嬢ちゃんさあ、ぶつかっておいてそりゃないんじゃねえの?」
こういう問題を起こす馬鹿はどこにでも現れる。
声がする方に視線をやると、二人のガタイの良いチンピラが身なりの良い少女に因縁をつけているように見える。
少女はぶつかられた際に落としたであろう荷物を拾って大事そうに抱えながらカタカタ肩を震わせている。
「ヒッ、ご、ご、ご、ごめんなさい。わ、わざとではないんです……」
私は少女の後ろ姿を捉えているため、表情を伺う事はできないが、チンピラの一人はどうも大股開きをしている所に少女がぶつかったであろう状況から察するに脚を少女の前に差し出してわざとぶつからせて因縁つけようって事なのでしょう。
くっだらない。本来であればヘンリエッタに行かせる所なのだけれど、残念な事にみんな別行動しているから呼び出す事も出来ない。
それに周りの人も分かってて我関せずを決め込んでる。射程距離に踏み込まない様に距離を取りながら目線を逸らして行動している。
全く…… 楽しくなってきちゃったじゃないの。
まあ、ヘンリエッタもいないし? ナナもいないし? しょうがないわよねえ。二人が来る前にチャチャっと片付けないとね。
私は無言で少女を近づき追い抜くと大股開きのチンピラの足にわざとぶつかった。
「あ~ら、こんな所にでくのぼーが突っ立ってるせいで、つ・い・つ・いぶつかってしまいましたわ~。しかも、うわっクッサ。オッサンの加齢臭染みた汗が私の大事な服に染み込んでしまったら責任取っていただけますの? あなたの年収ごときではこの服は買えなくてよ?」
私がニヤニヤしながら煽り文句を垂れるとチンピラは顔面のこめかみに青筋を立てている。
あきらかに苛ついているのが手に取る様にわかる。
「おい、お嬢ちゃんよぉ! 今自分で何を言ってるか理解できてるか? そっちのお嬢ちゃんも一緒に良い所に行こうや、オイ!」
こんな奴等に魔力使用など不要。軽く揉んでやるとしましょう。
私に文句を垂れて来たチンピラが手を伸ばしてくるので手の甲で軽く払いのけて、足の脛に軽く蹴りを入れてやった。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
言葉にならない声で脛を抑えてぴょんぴょん跳ねてるのが可笑しくてついつい笑ってしまったら、少女はポカーンとして私を見ている。
「あら。ごめんなさいね。ちょっとそこで小躍りしている殿方のユニークさに笑ってしまいましたの。あなたの方は大丈夫でっ…… ええっ?」
私は少女の顔を見て『ハッ!』とした。
それもそのはず、この少女こそが――小鹿、もといクララだったのだ。
「あ、あのっ、わたっ、わたし、何か粗相でもももも」
落ち着け、小鹿。いや、私も落ち着け! てかよく見たらクララが大事そうに抱えていた物は本だった。しかも『平民が転生したら物語の悪役令嬢になっちゃった。得意のゴマすりとおべっかで王妃になるぞ!~公務はやりたくないので後宮に贅沢引きこもりだけ希望します~』って今日発売予定の本じゃないのよ! 私もすっかり忘れていたわ。
クッ、なかなかセンスあるじゃないのこの子。評価を改めなければならないわね。
「いえ、あなたの持っている本は私も購入しようと思っていたのよ。私達案外趣味が合うかもしれないわね」
その言葉にクララは『パァーッ』と表情が一気に明るくなった。めちゃめちゃ嬉しそう。
「ほ、ほ、ほ、本当ですか? わ、わ、私最近追放アンドざまぁ物にハマってまして…… 本当はラブコメ要素が多い方が好きなのですけれど、その方面ですと悪役令嬢物、貴族令嬢モノが多めでたまには他のラブコメ、特に冒険者関連で主人公がパーティから追い出されて恋人がパーティのイケメンに寝取られて、恋人もパーティも失い絶望からどのように這い上がっていくか等に最近手を出し始めたのですが……」
めっちゃグイグイくるやん。この子本当に小鹿――いや、これが本当のクララ・コンテスティなのかもしれない。
てかオタ特有の早口言葉やめて! 脳みそが処理終わる前にどんどん言葉出すな。というか七歳の口から出てはいけない単語が出ている気がする。
「わ、わかったわ。一旦落ち着いて頂戴。ここだと目立つから一旦場所を変えないかしら? そうだわ、お茶でも飲みに行ってそこでお話ししましょう」
私が一旦クララの暴走を止めに入ると、クララは『ハッ!』とした表情で自分がやらかしてしまった事で顔が青ざめていく。
「す、す、す、すみません。つ、つ、つい、う、う、嬉しくて」
とクララと二人の世界に入りかけたら私に脛を蹴られていない方のチンピラが口を開いた。
「テメエ等、何こっち無視して会話はじめとんじゃ、コラ、あ? やんのか?」
すっかり忘れてました。もう一人の方は脛を擦りながらスーハースーハー小刻みに呼吸している。
こっちはもう目的は果たしてるの。あなたの様なドチンピラに用はなくてよ。
私は威圧をぶつけると、文句を言ってきたチンピラの顔が一気に青くなっていく。足を震わせながら立っていられなくなったのか、尻もちをついてガチガチ震えている。
クララは何が起きたのか理解できていない様子で『えっ?えっ?』と首を傾げている。
「このお二人は放っておいて平気そうね。ではお茶に行きましょうか。名前がまだでしたね。私はグラヴェロット子爵家息女マルグリットと申します。あなたの名前をお伺いしても?」
とりあえず初対面のフリをして自己紹介することにした。まあ、前回の人生でも断罪の現場で面と向かって会っているんだけどね。
よく考えたら、会話するのは初めてかもしれない。丁度いい機会だから、どのような人物なのか見極める事にしましょう。
「は、はい。コンテスティ男爵家が一女、クララと申します」
「クララさんと仰るのね。いい名前ですね、では参りましょうか」
「は、はい。マルグリット様」
とりあえずミッション達成できたので、私達は場所を変えて話をすることにした。
ナナとヘンリエッタにはどうやって説明しようか決めてなかったけど、なんとかなるでしょう。
時折、街道に低ランク魔獣が現れるものの護衛であるヘンリエッタが難なく切り裂いていく。
中々綺麗な剣さばきをしている。コンパクトだが、しっかりと基礎に則った騎士のお手本の様な動きをする。
なるほど、最年少小隊長候補というのも強ち間違いではない事が良く分かる。
こう遠目から見ると、初めて会った時の印象通りクールな女騎士なんだけどねえ。
私かナナを目の前にすると一気に顔面だらしない女に早変わりするのが勿体ない。
これで真正の幼女好きが趣味じゃなければ……。
そんなヘンリエッタが倒した魔獣を背にこちらに向かってくる姿はとても嬉しそうだ。
その様子はまるで枝を投げて咥えて戻ってくる飼い犬の様に見える。
まあ、あまりつっけんどんにしても可哀想だから飴くらいはくれてやらねばならない。
ククク、これが出来る淑女の条件って奴よね。
そんな事を考えていたらヘンリエッタが馬車まで戻って来た。
「お嬢様、ナナ殿、無事に魔獣を討伐してまいりました」
見るがよい、ヘンリエッタ。このマルグリットのハイパー淑女タイムって奴をね。
「ヘンリエッタ、ご苦労様です。見事な腕前ですね、また魔獣が出たらお願いしますね」
「は、はひっ、おっおまかせくだしゃひ」
私がニッコリと語りかけるとヘンリエッタは嬉しそうに頬を紅潮させ、鼻の穴を『プクーッ』と膨らませてニンマリしている。
あー、もう全部台無しだよ。折角ついさっきまでクールな女騎士に見えて感心したのに、今の表情じゃ只のド変態だよ。
ナナもその光景に可笑しかったのか、『クスクス』笑っている。
「ヘンリエッタさんは本当にお嬢様が大好きなんですねぇ」
ナナの笑顔にさらにだらしない顔をするヘンリエッタ。
「いひぇ、しょんな…… ナナ殿も同じくらいしゅ、しゅ、しゅひぃ」
言えてないし、声が小さいからナナには届いていないぞ。傍から見てるとヘンリエッタの将来が心配なってくる。
ふと目を馬車の外にやると街が見えて来た。
「ナナ、街が見えてきたわ。あそこが目的の街なのかしら?」
「はい、今見えている街が目的地の『モーレット』になります」
私たちはそれぞれモーレットに入ってからの各自の動きについておさらいすることにした。
ナナは拠点となる宿屋の確保。当面の間は三人部屋でいいでしょう。ナナとヘンリエッタは私を一人部屋にするべきと言っていたが、護衛であるヘンリエッタは共にいるべきという事と、私がナナとヘンリエッタの二人きりにさせたくなかったから。
ナナの貞操が掛かっている可能性があるのよ!
ヘンリエッタはメリッサから受け取ったクララの似顔絵を元に本人が街にいる可能性も考慮して捜索及びコンテスティ家の様子見。
本人が家にいるのであれば出て来るタイミングを見計らって、どうにかして知り合いになる機会を見つけないといけない。
お母さまからも言われた様に、家に直接言って呼び出す事は出来ないという無駄に高難易度ミッション。
私は街を散策しながら本屋に行く。クララが私と同じ読書好きという事から本屋にいる可能性も高いし、クララの容姿も似顔絵を見てるし何より十八歳の時を知っているから本人を見れば七歳とはいえ、流石に私の本能が理解するはず。
そんな話をしながらモーレットに入った私たちはそれぞれがミッションを担当すべく、バラバラに散っていった。
近場で魔獣を狩るような場所が少ないからか冒険者の数は少ない印象の様に見える。
だからガルガダに比べてのんびりとしたイメージだ。
隙間なく敷き詰められた石畳に立ち並ぶ建物は同系色のタイル張りの壁で清潔感が感じられる。第一印象はとても綺麗でいい街だ。
それでも……
「お嬢ちゃんさあ、ぶつかっておいてそりゃないんじゃねえの?」
こういう問題を起こす馬鹿はどこにでも現れる。
声がする方に視線をやると、二人のガタイの良いチンピラが身なりの良い少女に因縁をつけているように見える。
少女はぶつかられた際に落としたであろう荷物を拾って大事そうに抱えながらカタカタ肩を震わせている。
「ヒッ、ご、ご、ご、ごめんなさい。わ、わざとではないんです……」
私は少女の後ろ姿を捉えているため、表情を伺う事はできないが、チンピラの一人はどうも大股開きをしている所に少女がぶつかったであろう状況から察するに脚を少女の前に差し出してわざとぶつからせて因縁つけようって事なのでしょう。
くっだらない。本来であればヘンリエッタに行かせる所なのだけれど、残念な事にみんな別行動しているから呼び出す事も出来ない。
それに周りの人も分かってて我関せずを決め込んでる。射程距離に踏み込まない様に距離を取りながら目線を逸らして行動している。
全く…… 楽しくなってきちゃったじゃないの。
まあ、ヘンリエッタもいないし? ナナもいないし? しょうがないわよねえ。二人が来る前にチャチャっと片付けないとね。
私は無言で少女を近づき追い抜くと大股開きのチンピラの足にわざとぶつかった。
「あ~ら、こんな所にでくのぼーが突っ立ってるせいで、つ・い・つ・いぶつかってしまいましたわ~。しかも、うわっクッサ。オッサンの加齢臭染みた汗が私の大事な服に染み込んでしまったら責任取っていただけますの? あなたの年収ごときではこの服は買えなくてよ?」
私がニヤニヤしながら煽り文句を垂れるとチンピラは顔面のこめかみに青筋を立てている。
あきらかに苛ついているのが手に取る様にわかる。
「おい、お嬢ちゃんよぉ! 今自分で何を言ってるか理解できてるか? そっちのお嬢ちゃんも一緒に良い所に行こうや、オイ!」
こんな奴等に魔力使用など不要。軽く揉んでやるとしましょう。
私に文句を垂れて来たチンピラが手を伸ばしてくるので手の甲で軽く払いのけて、足の脛に軽く蹴りを入れてやった。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
言葉にならない声で脛を抑えてぴょんぴょん跳ねてるのが可笑しくてついつい笑ってしまったら、少女はポカーンとして私を見ている。
「あら。ごめんなさいね。ちょっとそこで小躍りしている殿方のユニークさに笑ってしまいましたの。あなたの方は大丈夫でっ…… ええっ?」
私は少女の顔を見て『ハッ!』とした。
それもそのはず、この少女こそが――小鹿、もといクララだったのだ。
「あ、あのっ、わたっ、わたし、何か粗相でもももも」
落ち着け、小鹿。いや、私も落ち着け! てかよく見たらクララが大事そうに抱えていた物は本だった。しかも『平民が転生したら物語の悪役令嬢になっちゃった。得意のゴマすりとおべっかで王妃になるぞ!~公務はやりたくないので後宮に贅沢引きこもりだけ希望します~』って今日発売予定の本じゃないのよ! 私もすっかり忘れていたわ。
クッ、なかなかセンスあるじゃないのこの子。評価を改めなければならないわね。
「いえ、あなたの持っている本は私も購入しようと思っていたのよ。私達案外趣味が合うかもしれないわね」
その言葉にクララは『パァーッ』と表情が一気に明るくなった。めちゃめちゃ嬉しそう。
「ほ、ほ、ほ、本当ですか? わ、わ、私最近追放アンドざまぁ物にハマってまして…… 本当はラブコメ要素が多い方が好きなのですけれど、その方面ですと悪役令嬢物、貴族令嬢モノが多めでたまには他のラブコメ、特に冒険者関連で主人公がパーティから追い出されて恋人がパーティのイケメンに寝取られて、恋人もパーティも失い絶望からどのように這い上がっていくか等に最近手を出し始めたのですが……」
めっちゃグイグイくるやん。この子本当に小鹿――いや、これが本当のクララ・コンテスティなのかもしれない。
てかオタ特有の早口言葉やめて! 脳みそが処理終わる前にどんどん言葉出すな。というか七歳の口から出てはいけない単語が出ている気がする。
「わ、わかったわ。一旦落ち着いて頂戴。ここだと目立つから一旦場所を変えないかしら? そうだわ、お茶でも飲みに行ってそこでお話ししましょう」
私が一旦クララの暴走を止めに入ると、クララは『ハッ!』とした表情で自分がやらかしてしまった事で顔が青ざめていく。
「す、す、す、すみません。つ、つ、つい、う、う、嬉しくて」
とクララと二人の世界に入りかけたら私に脛を蹴られていない方のチンピラが口を開いた。
「テメエ等、何こっち無視して会話はじめとんじゃ、コラ、あ? やんのか?」
すっかり忘れてました。もう一人の方は脛を擦りながらスーハースーハー小刻みに呼吸している。
こっちはもう目的は果たしてるの。あなたの様なドチンピラに用はなくてよ。
私は威圧をぶつけると、文句を言ってきたチンピラの顔が一気に青くなっていく。足を震わせながら立っていられなくなったのか、尻もちをついてガチガチ震えている。
クララは何が起きたのか理解できていない様子で『えっ?えっ?』と首を傾げている。
「このお二人は放っておいて平気そうね。ではお茶に行きましょうか。名前がまだでしたね。私はグラヴェロット子爵家息女マルグリットと申します。あなたの名前をお伺いしても?」
とりあえず初対面のフリをして自己紹介することにした。まあ、前回の人生でも断罪の現場で面と向かって会っているんだけどね。
よく考えたら、会話するのは初めてかもしれない。丁度いい機会だから、どのような人物なのか見極める事にしましょう。
「は、はい。コンテスティ男爵家が一女、クララと申します」
「クララさんと仰るのね。いい名前ですね、では参りましょうか」
「は、はい。マルグリット様」
とりあえずミッション達成できたので、私達は場所を変えて話をすることにした。
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