アイツのきもち

うにたん

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第4話 高峰家

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 高峰家のドアから出て来た女性に向かって「えっ、悠馬?」と呟いてしまった透。
 
 女性はすぐにその内容を察して笑っていた。
 
「あら、ユウと間違っちゃったのね。確かに似ているってよく言われるけど、違うわよ」

 悠馬と間違えてしまう程に瓜二つの女性は微笑みながらこちらを見ている。
 
 その女性を改めて観察してみると、少し大人びた感じがする。
 
 悠馬が数年経った後に女装をしたら透の目の前にいる女性と間違えるくらいは可能そうだと透は考える。
 
(髪型も違う。声は似ているが、悠馬はそこまで高くない。
 
 服装は…… あまり当てにはならないか。悠馬の女装なんてみんな見慣れてるしな。
 
 そういえば悠馬は何故か女性ものの服を妙に着慣れている・・・・・・感じがしたんだけど…… 気のせいかな……。
 
 悠馬が達成した校内女装コンテスト三連覇は皆知っているけど、学校設立以来の偉業を達成した…… と言われてもあまりピンとこない。
 
 双子…… なわけないか。そんな話は聞いた事がないし、お姉さんかな)

「お姉さんですか?」

 女性は一瞬キョトンといた表情の後に満面の笑みになっていた。
 
 女性は嬉しそうに透の肩をバシバシ叩き始めた。
 
「もうー、君は口が上手いのね。お若いのねーってよく言われたりはするんだけど、ユウのお姉さん呼ばわりされたのは初めてかもしれないわね。私はユウの母です」

「はい?」
 
(母…… っておかあさんの事だよね? つまり…… 悠馬を産んだ人? 今俺の目の前にいるお姉さんが? 十八歳の息子を持つ母親って…… 計算上はどう若く見積もっても四十歳は超えてるはず…… 昨今の結婚事情を考えれば五十前後でも不思議じゃない…… けど……)

 どうやら悠馬の母親は透の理解を超えた容姿をしている。
 
 透の見立てによると見た目だけであれば二十歳前後と推測していた事から一瞬、義母? かと思ったようだが、あまりにそっくりすぎる為、他人という事は無いだろうと結論付けた。
 
 透の頭の中身が整理しきる前に悠馬の母が何やら楽しそうに話しかけて来た。
 
「それで…… 用件は悠馬に会いに来たって事でいいんだよね?」
 
(そうだった…… 目の前の人知を超えた事象に混乱している場合じゃない。本来の目的を忘れるところだった)
 
「はい、悠馬…… 君があれから一度も学校にも部活にも来てないので心配になりまして…… 様子を見に来たんですけど、会わせて頂く事は可能ですか?」

 悠馬の母親は少々困った顔をしている。
 
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど…… ちょっと待っててね、本人に聞いてみるから」

 そう言って母親は悠馬の部屋に聞きに行っていた。
 
 その間に透は悠馬と何を話すか考えていた。
 
(原因は間違いなくあれだよね…… 流石にこの状況で悠馬をからかうためのウソでしたーって言える訳が無い。やっていい冗談とやってはいけない冗談って区別難しいな……。そういえば、悠馬と明日奈の関係が崩れ始めたのって1年の夏以降だったはず。あの時に何があったのか探って解決策を見出して二人の仲を取り持ってから「やっぱり二人はお似合いだね」と言って去る…… よし、これでいこう!)

 透がちょうど悠馬と話す内容を考え終わった所で悠馬の母親が戻って来た。
 
「ごめんね、待たせちゃって…… それでね……」

「は、はい……」














「「今は誰とも会いたくない」だって」

「そうですか…… 分かりました。また近いうちに来ます」

 そう言って透が踵を返そうとした所、母親から待ったが掛った。

「ちょっとまって、君さ…… 今時間ある?」

「……はい…… あります……けど……」

「ちょっとおばさんとお話ししない? 若い子じゃなくて申し訳ないけどさ」

「はい…… 大丈夫ですけど…… 悠馬君は参加されないんですよね?」

「うん、今は誰かが来るとすぐ部屋に引っ込んじゃうしさ…… お母さんのお客さんが来てるとでも言っておけばしばらく部屋から出てこないでしょ」

(やっぱり明日奈との関係を問いただされるんだろうな…… とりあえず穏便に終わらせる事だけを考えよう)

 若干チキンハートを持つ透は、上手く誤魔化して何事もなく悠馬の家から生還する方法を考えながら、悠馬の母親に促されて家の中に入っていった。
 
 透が悠馬の家に入っていく様子を隣家から偶然目撃した女の子がいた。
 
「ヘラ男の奴…… 悠馬ん家に何しに来たのよ…… 勝手な真似して、あとで説教してやる。私だってあれから一度も行ってないのに……」
 
 

 
 
 透が通されたのは高峰家のリビングだった。
 
 悠馬の母親が何やらキッチンで慌ただしく動き回っている。
 
「ごめんねー、ちょっとソファーに座って待っててね。この間のお中元で貰ったお菓子があるから…… お茶は……っと」

 通されたリビングにあるソファを見つけると、腰を掛けて待つことにした。

「あの…… お構いなく」

「もうー、子供はそんな遠慮なんてしなくていいの。」
 
(子供…… 高校に入って大分身長も伸びて大人扱いされる事が大分増えて来たけど、子供扱いされるのは久しぶりかも……)
 
 お菓子とお茶をお盆に乗せて持ってきた母親は、透の目の前にお茶とお菓子を差し出して自分の前にも同じものを置くと、透の目の前に座った。
 
「そういえばまだ君の名前を聞いていなかったわね」

「あっ、申し遅れました。一条と申します」

 その言葉にピンと来たのか、テーブル越しではあるが、嬉しそうな表情で若干グイっと上半身を乗り出してきた。
 
「なるほどねえ…… 君があの・・透君なんだねー」

「「あの・・」とは…… 悠馬君からどのように聞いてますか?」

「同じサッカー部のエースで、女の子にモテモテで…… 何より…… 明日奈ちゃんの彼氏君なんでしょ?」

(やっぱりこの話になるよね……)
 
 透は内心は汗をダラダラさせながら覚悟を決める事にした。
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