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タイラーの話
はぐれものの日常(タイラーの話)
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タイラーの朝は早い。
軍事経験故か、それとも今まで常に徹夜で走り続けてきた体の慣れか。タイラーは基本3時間睡眠で自ずと体が目を覚ます。そして合間合間でこまめに仮眠を挟む。タイラーの活動時間は朝の7時。そこから組織運営に関しての事業計画、外部との交渉、組織内部の環境改善、資金調達、諸々含め休むことなく働き続ける。
部下に対しては8時間内の労働時間を設け、休みや給料に関してもきっちり分配する。労働時間外の勤務には余分の対価を支払い、ボーナスを与える。
部下に何かを強制することは基本ない。
もしも発生する場合には対象の相手に対して選択を与える。
なるべく部下にはストレスをかけず働いてもらい、不満があれば声を拾い、組織を運営、拡大する。
それに対してタイラーは常に全力を注ぐ。
1日は始まるのも終わるのも早い。
気がつけば日が昇り、そして沈んでいる。
スケジュール管理等のタイラーが携わらなくてもできる事務仕事は側近の五稜に任してはいる。
が、どうにも様々な問題というものは日々発生する。
急激な眠気に襲われて、タイラーはグッと右手で目頭を抑えた。
体の疲れは最低限取れている気もするが、慢性的な疲れや体の痛みというものもこの頃激しくなってきた。それゆえに眠りも浅く、眠った気がしないのも確かだ。
「タイラーさん。少し休憩されるのはいかがでしょうか?」
それを瞬時に察した五稜が、タイラーに声をかける。
「んーー……いや……」
ごめんごめん、と霧がかりそうになる頭を左右に振って、タイラーは目を覚まそうとした。
「大丈夫だよ。ちょっとこれだけ早めに終わらせたいからさ」
「ーー承知しました」
「こんなところ五稜君以外には見せないから、貴重な瞬間なんだよ~」
「貴重も何もないでしょうに」
「五稜君はドライだなぁ。いつも」
タイラーはひと笑いした後、ゆっくりと椅子から立ち上がり、グッと体を伸ばした。この眠気はおそらく一旦寝たら起きれそうにない。
(もうちょっとだからやらないとねぇ)
深く息を吸って仕事に戻ろうとした際、ふと窓に反射した自分の姿が見えた。
以前より深く刻まれた皺、疲れた顔、腰が曲がったようにも見える体は時の流れと自らの死に際を連想させる。
(もう長くないんだろうなぁ)
いつの頃からか。タイラーは頭の片隅で死について考えはじめた。戦争の影響なのか、ホームレスへと転落し、凍死した仲間を見た時からか、それともこの組織拡大を図った時からか。
もう忘れてしまった。
随分昔のような気もする。
ただ歳のせいか、それによって感情が浮き沈みすることはない。タイラーは泰然と目の前の現状を受け入れる。
戦争中に受けた傷の影響なのか、歳を重ねる度見えない左目に続いて右目の視界も悪くなってきていた。無理にメガネをかけて補正しているが、時間の問題だとも感じる。
耳も悪い。立ち上がる時にはゆっくりと出ないと立ち上がれない。その老いをねじ伏せて、タイラーは動き続ける。
正直すでに運営を誰かに任して裏に引っ込むことはできる。
そうすれば誰にも振り回されず、頭を悩ますことも、体を酷使するようなストレスを抱えることもなくなるだろう。
しかし、それはタイラーの意思に反する。働くのが好き、というわけではない。
ただ長年体に染み付いてしまった活動量はそうそう落とせそうにない。そもそも普通に過ごす、日常に溶け込む、ということがタイラーにはできなかった。
「走り出したら止まれない。すでにブレーキなんて壊れてるからね。僕は」
さぁもう一踏ん張りだ、と言って、タイラーは椅子に座り直し、いつも通り目の前の仕事に取り掛かった。
軍事経験故か、それとも今まで常に徹夜で走り続けてきた体の慣れか。タイラーは基本3時間睡眠で自ずと体が目を覚ます。そして合間合間でこまめに仮眠を挟む。タイラーの活動時間は朝の7時。そこから組織運営に関しての事業計画、外部との交渉、組織内部の環境改善、資金調達、諸々含め休むことなく働き続ける。
部下に対しては8時間内の労働時間を設け、休みや給料に関してもきっちり分配する。労働時間外の勤務には余分の対価を支払い、ボーナスを与える。
部下に何かを強制することは基本ない。
もしも発生する場合には対象の相手に対して選択を与える。
なるべく部下にはストレスをかけず働いてもらい、不満があれば声を拾い、組織を運営、拡大する。
それに対してタイラーは常に全力を注ぐ。
1日は始まるのも終わるのも早い。
気がつけば日が昇り、そして沈んでいる。
スケジュール管理等のタイラーが携わらなくてもできる事務仕事は側近の五稜に任してはいる。
が、どうにも様々な問題というものは日々発生する。
急激な眠気に襲われて、タイラーはグッと右手で目頭を抑えた。
体の疲れは最低限取れている気もするが、慢性的な疲れや体の痛みというものもこの頃激しくなってきた。それゆえに眠りも浅く、眠った気がしないのも確かだ。
「タイラーさん。少し休憩されるのはいかがでしょうか?」
それを瞬時に察した五稜が、タイラーに声をかける。
「んーー……いや……」
ごめんごめん、と霧がかりそうになる頭を左右に振って、タイラーは目を覚まそうとした。
「大丈夫だよ。ちょっとこれだけ早めに終わらせたいからさ」
「ーー承知しました」
「こんなところ五稜君以外には見せないから、貴重な瞬間なんだよ~」
「貴重も何もないでしょうに」
「五稜君はドライだなぁ。いつも」
タイラーはひと笑いした後、ゆっくりと椅子から立ち上がり、グッと体を伸ばした。この眠気はおそらく一旦寝たら起きれそうにない。
(もうちょっとだからやらないとねぇ)
深く息を吸って仕事に戻ろうとした際、ふと窓に反射した自分の姿が見えた。
以前より深く刻まれた皺、疲れた顔、腰が曲がったようにも見える体は時の流れと自らの死に際を連想させる。
(もう長くないんだろうなぁ)
いつの頃からか。タイラーは頭の片隅で死について考えはじめた。戦争の影響なのか、ホームレスへと転落し、凍死した仲間を見た時からか、それともこの組織拡大を図った時からか。
もう忘れてしまった。
随分昔のような気もする。
ただ歳のせいか、それによって感情が浮き沈みすることはない。タイラーは泰然と目の前の現状を受け入れる。
戦争中に受けた傷の影響なのか、歳を重ねる度見えない左目に続いて右目の視界も悪くなってきていた。無理にメガネをかけて補正しているが、時間の問題だとも感じる。
耳も悪い。立ち上がる時にはゆっくりと出ないと立ち上がれない。その老いをねじ伏せて、タイラーは動き続ける。
正直すでに運営を誰かに任して裏に引っ込むことはできる。
そうすれば誰にも振り回されず、頭を悩ますことも、体を酷使するようなストレスを抱えることもなくなるだろう。
しかし、それはタイラーの意思に反する。働くのが好き、というわけではない。
ただ長年体に染み付いてしまった活動量はそうそう落とせそうにない。そもそも普通に過ごす、日常に溶け込む、ということがタイラーにはできなかった。
「走り出したら止まれない。すでにブレーキなんて壊れてるからね。僕は」
さぁもう一踏ん張りだ、と言って、タイラーは椅子に座り直し、いつも通り目の前の仕事に取り掛かった。
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