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裏切りの現場
直人のスマートフォンに残されていたメッセージから、私は「現場」へと向かった。
そこは、半年前、直人にせがまれて私名義で契約した、都心のセカンドハウスだ。
「……ここね」
私の稼ぎをあてにして、自分の「書斎」として借りさせた、裏切りの聖域。
私は震える手で、合鍵を差し込んだ。音もなくドアが開く。
部屋に入った瞬間、鼻を突いたのは、あの「エクラ・ドゥ・ニュイ」のむせ返るような香りと、安っぽい芳香剤が混ざり合った不快な匂いだった。
「直人さん!? ああ、よかった、戻ってきてくれたのね!」
奥の寝室から、美沙さんが飛び出してきた。和也兄に追い出され、この部屋に逃げ込んでいたのだろう。髪は乱れ、泣き腫らした顔で私に縋り付こうとして、その動きが凍りついた。
「……残念。私よ、美沙さん」
「え……? 陽子、さん……」
美沙さんが蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
私の後ろから、買い物から戻って来たであろう直人が、青ざめた顔で姿を現した。
「陽子……! どうしてここが……」
「Googleマップの共有は切れても、車のGPSまでは切れていなかったのよ。直人、あなたが『安全のために』って最高級の追跡システムを付けさせたんでしょう? 自分の首を絞めることになったわね。車の名義も私よ、勝手に使わないでね」
私は部屋の中を見渡した。
テーブルの上には、飲みかけの高級ワインと、あの日持ち帰ったハルトの誕生日会の残り物。兄と私を裏切り、子供を実家に置き去りにして、二人は私の資産で購入した家具に囲まれ、この部屋で「新しい家族」の予行演習をしていたのだ。
「美沙さん、実家を追い出されたんですってね。和也兄ちゃん、ようやく目が覚めたみたいよ」
「違うの、これは……和也が、私をちゃんと見てくれないから……!」
美沙さんが、狂ったように叫んだ。
「私はただ、愛されたかっただけ! 直人さんだけが、私の本当の価値を分かってくれたの。あなたみたいに、可愛げもなくて、男みたいに稼ぐだけの女には分からないでしょうね!」
その言葉が終わる前に、私は手近にあったグラスの水を、美沙さんの顔にぶちまけた。
「キャーッ。なにするのよ!」
「頭を冷やしてあげるわ。あなたの『本当の価値』? 不倫して、自分の子供を捨てようとして、義妹の金に寄生する……それがあなたの価値? 笑わせないで」
「陽子、やめるんだ!」
直人が割って入ろうとするが、私は彼にスマートフォンの画面を突きつけた。
「やめるのはあなたよ、直人。自分の妻を『ATM代わりの金蔓』だと書き込んで、離婚で一銭も払わないように工作していた証拠、全部ここにあるわ」
直人の顔から、一気に血の気が引いた。
「さあ、和也兄ちゃん。入ってきて」
私が声をかけると、遅れて到着した和也と弁護士が、静かに部屋へと足を踏み入れた。
逃げ場のない密室。
二人の顔が、絶望に染まっていくのを、私は冷徹な目で見つめていた。
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そこは、半年前、直人にせがまれて私名義で契約した、都心のセカンドハウスだ。
「……ここね」
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「直人さん!? ああ、よかった、戻ってきてくれたのね!」
奥の寝室から、美沙さんが飛び出してきた。和也兄に追い出され、この部屋に逃げ込んでいたのだろう。髪は乱れ、泣き腫らした顔で私に縋り付こうとして、その動きが凍りついた。
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私の後ろから、買い物から戻って来たであろう直人が、青ざめた顔で姿を現した。
「陽子……! どうしてここが……」
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私は部屋の中を見渡した。
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「美沙さん、実家を追い出されたんですってね。和也兄ちゃん、ようやく目が覚めたみたいよ」
「違うの、これは……和也が、私をちゃんと見てくれないから……!」
美沙さんが、狂ったように叫んだ。
「私はただ、愛されたかっただけ! 直人さんだけが、私の本当の価値を分かってくれたの。あなたみたいに、可愛げもなくて、男みたいに稼ぐだけの女には分からないでしょうね!」
その言葉が終わる前に、私は手近にあったグラスの水を、美沙さんの顔にぶちまけた。
「キャーッ。なにするのよ!」
「頭を冷やしてあげるわ。あなたの『本当の価値』? 不倫して、自分の子供を捨てようとして、義妹の金に寄生する……それがあなたの価値? 笑わせないで」
「陽子、やめるんだ!」
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「やめるのはあなたよ、直人。自分の妻を『ATM代わりの金蔓』だと書き込んで、離婚で一銭も払わないように工作していた証拠、全部ここにあるわ」
直人の顔から、一気に血の気が引いた。
「さあ、和也兄ちゃん。入ってきて」
私が声をかけると、遅れて到着した和也と弁護士が、静かに部屋へと足を踏み入れた。
逃げ場のない密室。
二人の顔が、絶望に染まっていくのを、私は冷徹な目で見つめていた。
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