隠し通せると思ったのですか?〜嫁いだ姉の赤子の髪と瞳は、隠しようもなく貴方の色でした〜

恋せよ恋

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ジェラールの介入と、断罪後の対策

 レンデン侯爵邸の応接室には、普段の華やかさは微塵もなく、重苦しい沈黙が支配していた。

 主であるレンデン侯爵の前に座っているのは、カーライル公爵家の正統な後継者、ジェラールだ。その冷徹なまでの美貌と、十七歳にして纏う絶対的な威圧感に、疲弊しきった侯爵は気圧されるように背を丸めていた。

「レンデン卿、単刀直入に申し上げよう。私はマーガレット嬢を心より慕っている。フィリップ殿との婚約がされ次第、彼女を私の婚約者として迎えたい」

 ジェラールの言葉は、申し込みというよりは決定事項の通達に近かった。

「……ジェラール殿。娘を……マーガレットを、そのように仰ってくださるのは、この上ない光栄だ。だが、我が家は今、このような醜聞の渦中にある。公爵家に泥を塗ることになりはしないかと……」

「ご心配なく。不実を働いたのはフィリップ殿とローザリア夫人だ。マーガレット嬢は何一つ汚れていない。卒業と同時に、私との結婚式を挙げたいと考えている。彼女を、心ない噂から一日も早く救い出したいのだ」

 ジェラールの揺るぎない決意に、侯爵は目頭を押さえた。娘を守る盾として、これほど強大で頼もしい存在はない。

「……わかりました。マーガレットの幸せを、あなたに託そう。親として、異存はない」

 話がまとまったところで、侯爵は意を決したように、より深刻な問題を切り出した。

「ジェラール殿、恥を忍んでお願いしたい。……もしも、ローザリアの産む子がリチャード殿の子でなかった時には、間違いなく離縁となるでしょう。その際、シシリー侯爵家からの断罪を……我が家が受ける衝撃を、どうにか和らげてはいただけないだろうか」

「はい。そうなるでしょうね。リチャード卿は、夫人の妊娠を機に学園時代からの恋人と縁を切られたそうですから。彼は彼なりに、不器用なほど誠実に、家族を守ろうとしていた」

 ジェラールの言葉に、侯爵は愕然として声を震わせた。

「なんと。……リチャード殿はそこまで……。それなのに、ローザリアは……。なんという愚かなことを。真実を知れば、リチャード殿がどれほどの怒りを抱くか想像もつかん」

「フィリップ殿の不貞の責任については、トルドー伯爵夫妻とも話し合う必要があるでしょう。彼を野放しにすれば、シシリー家の怒りはレンデン家だけに向けられる」

「……その通りだ。至急、面会の申し込みを入れよう。……フィリップ君は交えずにな」


  数日後、同じ場所で、今度はトルドー伯爵夫妻を交えた極秘の会合が開かれた。

 フィリップには「マーガレットとの結婚式の打ち合わせ」だと偽って実家に留まらせ、何も知らない伯爵夫妻だけが呼び出されたのだ。

 提示された不貞の証拠を見た瞬間、トルドー伯爵は椅子から転げ落ちんばかりに動揺し、夫人は卒倒せんばかりに扇を握りしめた。

「そ、そんな……フィリップが、シシリー侯爵夫人の寝室に!? 馬鹿な、あの子に限って……っ!」

「これは公爵家が裏付けを取った事実だ、伯爵。言い逃れはできん」

 ジェラールの冷徹な一言が、逃げ場を塞ぐ。

 伯爵夫妻は、自家の嫡男が仕でかしたことの重大さに、ガタガタと震え出した。最悪の場合、トルドー伯爵家そのものが取り潰しになる。

「……マーガレット嬢との婚約は、直ちにしていただきます。もちろん、非はすべてそちらにある」

「……は、はい。もちろんです。異存ございません……」
 伯爵は、力なく項垂れた。そこで、ジェラールは残酷なまでに効率的な「条件」を提示した。

「条件がある。もしも、ローザリア夫人が産む子がフィリップ殿の場合――シシリー家から離縁された後、フィリップ殿は責任を取って彼女と婚姻すること」

「な……っ、侯爵夫人と? しかし、それではシシリー家の面目が……」

「だからこそ、彼を貴族社会から追放するのだ。フィリップ殿は嫡男の座を辞し、次期伯爵は次男テオドール殿に継がせる。フィリップ殿は夫人と子を連れて、辺境の領地へ送りなさい。一生、その地で代官として生きてもらう。それが、シシリー家の怒りを鎮める唯一の条件だ」

 家族三人、人目を忍んで辺境で生きる。それは、華やかな王都の社交界を愛するフィリップとローザリアにとって、何よりも過酷な監獄に他ならない。

「……承知いたしました。……そうさせていただきます。フィリップには、私から言い聞かせます」

 伯爵は幽霊のような顔で頷いた。
 
 その様子を、隣室でマーガレットは聞いていた。

 フィリップへの愛はもうない。だが、彼と姉が歩むことになる、どん詰まりの未来を想像し、彼女は静かに目を閉じた。

 その時、背後から大きな手が彼女の肩を包み込んだ。
 
「終わったよ、マーガレット。もう、君を縛るものは何もない」
 
 ジェラールの声は、家族と対峙していた時とは打って変わって、春の陽だまりのように温かかった。

「……ジェラール様。ありがとうございます。私、頑張ります。あなたの隣に相応しい女性になれるように」

「君は、そのままでいい。……これからは、俺が君に『本当の愛』を教えてあげるから」

 ジェラールは彼女を強く抱き寄せ、その額に誓いの口づけを落とした。
 
 一方は辺境への没落。
 一方は公爵夫人としての栄光。
 
 運命の分かれ道は、まだ産声すら上げていない「その子」の髪と瞳の色によって、間もなく決定づけられようとしていた。
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