図書塔で恋した貴方は、親友の寝室で過ごす 〜留学中に不貞を働いた二人へ。身分目当ての貴方たちは勝手に没落してください〜

恋せよ恋

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親友と恋人の裏切りの始まり

  マーガレットとジャスティンの二人は、放課後の喧騒を避けるように学園を後にし、男爵家の馬車に揺られてダルトン家の離れへと向かった。そこは彼女が自由に使うことを許されている、本邸から少し離れた小さな建物だった。

 重厚な扉が閉まると、外の世界の音は完全に遮断された。

 室内には、甘く、それでいてどこか退廃的な香が焚き込められている。ステファンとの逢瀬でも使われているであろうその空間は、清潔な学園の図書室とは正反対の、大人の欲望が凝縮された場所だった。

「ねえ、ジャスティン。そんなに緊張しないで」

 マーガレットは慣れた手つきで彼のコートを脱がせ、暖炉の火を強めた。パチパチと爆ぜる薪の音が、静まり返った部屋に不自然なほど大きく響く。

 ジャスティンは、壁に掛けられた豪奢な絵画や、ふかふかの絨毯に視線を落とした。子爵家の次男である自分の部屋にはない贅沢がここにはあり、そして何より、自分を熱烈に求めている「女」の体温がすぐ側にあった。

「……こんなことをして、いいんだろうか……」

「いいのよ。ティファニーは今、遠い国で貴方のことなんて忘れて、煌びやかな夜会を楽しんでいるんだから。……貴方を本当に理解して、今ここで抱きしめてあげられるのは、私だけよ」

 マーガレットの指先がジャスティンの頬を撫で、そのまま首筋へと滑り落ちる。

 彼女の甘い囁きは、ジャスティンの心の奥底にある劣等感という傷口に、じわりと染み込んでいった。


  窓の外では、夜の帳が静かに降りていく。

 その夜、二人は明け方までその部屋で過ごした。それは、ティファニーと交わした「清らかな約束」を、爛れた欲で塗りつぶすような背徳の時間。

 ジャスティンは、マーガレットの柔らかな腕の中で、自分が少しずつ壊れていくのを感じていた。だが、その壊れていく感覚こそが、今の彼にとっては唯一の救いのように思えたのだ。

 翌朝、ジャスティンが男爵家を後にしたとき、彼の瞳からはかつての澄んだ輝きが消え、代わりに底の見えない暗い欲望の影が宿っていた。

 一方でマーガレットは、乱れた寝台の上で、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

(さあ、これで貴方はもう、あの『お姫様』の元へは戻れないわよ。ジャスティン……)

 マーガレットは、ステファンとの身体の関係を通じて、男の「弱さ」を知っていた。
 男は、高潔な理想よりも、目の前の甘い誘惑に弱い。特に、地位に飢えているジャスティンのような男なら、なおさらだ。

「ステファン様との結婚は、家のため。……でも、ジャスティン。貴方は私の『戯れの相手』として、ティファニーから奪ってあげる」

 二人の間に共有された「秘密」は、重い鎖となって彼らを繋ぎ、ティファニーの知らないところで、破滅への扉が音もなく開かれた。



  一方のジャスティンは、自室で鏡を見つめていた。

 そこには、マーガレットに付けられた微かなの痕跡を隠そうとする、卑怯な男の顔があった。

「……これは、一時的なことだ。ティファニーと結婚するために、僕は……少しだけ、癒やしが必要なだけなんだ。僕を残して隣国に行ってしまった君が悪いんだよ……ティファニー」

 自分に言い聞かせる嘘は、回を重ねるごとに巧妙になっていく。

 ティファニーがルミナリアの空の下で、彼の無事を祈りながら眠りにつく頃。母国聖アデールでは、友情と愛の形をした醜い裏切りが、どろりとその輪郭を確かにしていった。

 マーガレットが仕掛けた「甘い罠」は、もはや逃れられない檻となって、ジャスティンを、そしてティファニーの未来を飲み込もうとしていた。
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