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再会、震える手――重すぎる愛に、溺れる準備はいいですか
「……レオン様、落ち着いてください! 街中の人が見てます! 衛兵さんが来ちゃいますから!」
サザンクロスの港広場のど真ん中。私は、自分を羽交い締めにせんばかりの勢いで抱きしめるレオン様の胸元を、ポカポカと叩きました。
でも、レオン様は微動だにしません。それどころか、私が離れようとするたびに、ミシミシと肋骨が鳴るほど腕の力を強めてくるんです。
「……衛兵? 来ればいい。国家反逆罪でも何でも着せればいい。だが、君を離すことだけは、神に命じられても断る」
「極論はやめてください! 怖い! 目が怖いですレオン様!」
見上げれば、そこには「氷の貴公子」と呼ばれていた頃の面影もない、執念の塊のような男の顔。銀髪は潮風で乱れ、頬はやつれ、でもその瞳だけは、私を捕らえて離さないという強烈な光を放っています。
「リネット……なぜだ。なぜ、あんな紙切れ一枚で俺を捨てた。三年間、俺がどれほど君を……君という存在を、この魂の拠り所にしていたか、分かっているのか?」
「捨てたなんて人聞きが悪いです! 私は、レオン様の幸せを願って、身を引いただけで……!」
「君のいない世界に、幸せなんて数式は存在しないと言っただろう!」
レオン様が、私の肩を掴んでぐいっと引き寄せました。至近距離。彼の熱い吐息が顔にかかる距離です。
「聞いてくれ、リネット。君がいなくなってからの三日間、俺は一行の魔法構成式すら書けなかった。ペンを持てば君の指を思い出し、図面を見れば君の笑顔が浮かぶ。……工房はゴミ溜めになり、俺は自分が、君という管理者がいなければ、ただの『魔法を吐き出すだけの欠陥品』だと痛いほど思い知らされたんだ」
レオン様の声が、情けなく震えました。あの、自信に満ち溢れていた天才が。世界を驚かせる魔導具を次々と生み出していた、あの高い背中が。今は、捨てられた子犬のように丸まって、私に縋り付いている。
「……レオン様……」
「契約だの、金だの、そんなものはどうでもいいんだ。俺が君をあの日救ったのは、偽善じゃない。……一目見たその瞬間から、君を俺の人生に刻み込みたかったからだ。君を縛り付けるための口実が、『契約』という無機質な言葉にしかならなかった俺の無能を、どうか呪ってくれ」
レオン様の手が、私の頬に触れました。
その指先が、ガタガタと小刻みに震えているのを見て、私の胸はズキンと痛みました。
(……ああ。この人は、本当に私を必要としてくれていたんだわ)
シェリーさんとの仲を疑って、勝手に悲劇のヒロインになって、彼を「自由にしてあげる」なんて思い上がっていたのは、私の方だった。
彼は自由になりたかったんじゃない。私という不自由を、一生抱えて生きていきたかったんだ。
「……レオン様。私、バカでした。貴方が私を便利に使っているだけだと思って……いつか捨てられるのが怖くて、先に逃げ出したんです」
「捨てる? 俺が君を? ……天変地異が起きてもあり得ない」
レオン様は私の額に、自分の額をコツンとぶつけました。
「リネット、もう一度だけ言う。……俺には、君が必要だ。事務員としてじゃない。俺の隣で、俺の不器用な言葉を拾い上げ、俺の人生を彩ってくれる、唯一無二のパートナーとして」
彼の大きな手が、私の手を包み込みます。
その温もりは、三年前からずっと変わらない、私が恋したレオン様の温度でした。
「……重いです。レオン様、愛が重すぎます」
私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ふふっと笑いました。
「でも……私も、レオン様がいなきゃダメみたいです。貴方のひどい寝癖を直せるのは、世界で私だけですものね」
その瞬間、レオン様の顔に、三年間で一度も見たことがないような、眩しいほどの安堵の笑みが浮かびました。
氷が溶けるなんて生易しいものじゃない。それは、真冬の太陽がいきなり昇ったような、暖かな光。
「……ああ。やっと、捕まえた」
彼は再び私を抱きしめ、今度は優しく、でも離さないように、深く深く、その肩に顔を埋めるのでした。
こうして、隣国の港町での「逃走劇」は幕を閉じました。
……が、周囲で見守っていた野次馬たちからは「お熱いねえ!」「あの男、重症だな」というヤジが飛び交い、私の顔は別の意味で真っ赤に燃え上がるのでした。
_________
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サザンクロスの港広場のど真ん中。私は、自分を羽交い締めにせんばかりの勢いで抱きしめるレオン様の胸元を、ポカポカと叩きました。
でも、レオン様は微動だにしません。それどころか、私が離れようとするたびに、ミシミシと肋骨が鳴るほど腕の力を強めてくるんです。
「……衛兵? 来ればいい。国家反逆罪でも何でも着せればいい。だが、君を離すことだけは、神に命じられても断る」
「極論はやめてください! 怖い! 目が怖いですレオン様!」
見上げれば、そこには「氷の貴公子」と呼ばれていた頃の面影もない、執念の塊のような男の顔。銀髪は潮風で乱れ、頬はやつれ、でもその瞳だけは、私を捕らえて離さないという強烈な光を放っています。
「リネット……なぜだ。なぜ、あんな紙切れ一枚で俺を捨てた。三年間、俺がどれほど君を……君という存在を、この魂の拠り所にしていたか、分かっているのか?」
「捨てたなんて人聞きが悪いです! 私は、レオン様の幸せを願って、身を引いただけで……!」
「君のいない世界に、幸せなんて数式は存在しないと言っただろう!」
レオン様が、私の肩を掴んでぐいっと引き寄せました。至近距離。彼の熱い吐息が顔にかかる距離です。
「聞いてくれ、リネット。君がいなくなってからの三日間、俺は一行の魔法構成式すら書けなかった。ペンを持てば君の指を思い出し、図面を見れば君の笑顔が浮かぶ。……工房はゴミ溜めになり、俺は自分が、君という管理者がいなければ、ただの『魔法を吐き出すだけの欠陥品』だと痛いほど思い知らされたんだ」
レオン様の声が、情けなく震えました。あの、自信に満ち溢れていた天才が。世界を驚かせる魔導具を次々と生み出していた、あの高い背中が。今は、捨てられた子犬のように丸まって、私に縋り付いている。
「……レオン様……」
「契約だの、金だの、そんなものはどうでもいいんだ。俺が君をあの日救ったのは、偽善じゃない。……一目見たその瞬間から、君を俺の人生に刻み込みたかったからだ。君を縛り付けるための口実が、『契約』という無機質な言葉にしかならなかった俺の無能を、どうか呪ってくれ」
レオン様の手が、私の頬に触れました。
その指先が、ガタガタと小刻みに震えているのを見て、私の胸はズキンと痛みました。
(……ああ。この人は、本当に私を必要としてくれていたんだわ)
シェリーさんとの仲を疑って、勝手に悲劇のヒロインになって、彼を「自由にしてあげる」なんて思い上がっていたのは、私の方だった。
彼は自由になりたかったんじゃない。私という不自由を、一生抱えて生きていきたかったんだ。
「……レオン様。私、バカでした。貴方が私を便利に使っているだけだと思って……いつか捨てられるのが怖くて、先に逃げ出したんです」
「捨てる? 俺が君を? ……天変地異が起きてもあり得ない」
レオン様は私の額に、自分の額をコツンとぶつけました。
「リネット、もう一度だけ言う。……俺には、君が必要だ。事務員としてじゃない。俺の隣で、俺の不器用な言葉を拾い上げ、俺の人生を彩ってくれる、唯一無二のパートナーとして」
彼の大きな手が、私の手を包み込みます。
その温もりは、三年前からずっと変わらない、私が恋したレオン様の温度でした。
「……重いです。レオン様、愛が重すぎます」
私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ふふっと笑いました。
「でも……私も、レオン様がいなきゃダメみたいです。貴方のひどい寝癖を直せるのは、世界で私だけですものね」
その瞬間、レオン様の顔に、三年間で一度も見たことがないような、眩しいほどの安堵の笑みが浮かびました。
氷が溶けるなんて生易しいものじゃない。それは、真冬の太陽がいきなり昇ったような、暖かな光。
「……ああ。やっと、捕まえた」
彼は再び私を抱きしめ、今度は優しく、でも離さないように、深く深く、その肩に顔を埋めるのでした。
こうして、隣国の港町での「逃走劇」は幕を閉じました。
……が、周囲で見守っていた野次馬たちからは「お熱いねえ!」「あの男、重症だな」というヤジが飛び交い、私の顔は別の意味で真っ赤に燃え上がるのでした。
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