契約婚約、喜んで白紙に戻します!〜無口な天才魔導具師様が元恋人とやり直したいなら、私はもうお邪魔いたしません〜

恋せよ恋

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おかえり、リネット――溺愛の嵐と山積みの書類

  転送魔法の眩い光が収まると、そこは見覚えのある……いえ、見覚えがあるはずの、レオン様の工房でした。

「……何、これ」

 絶句しました。
 私がピカピカに磨き上げて去ったはずの事務室は、今や紙屑と魔力の残滓が吹き溜まった「魔窟」と化していました。机の上には、ギルドからの赤い封紙(緊急督促状)が山のように積み上がり、床にはレオン様が書き殴ったと思われる『リネット追跡数式』の羊皮紙が、地層のように重なっています。

「……リネット、あまり見ないでくれ。君がいない間、俺はただの『機能停止したガラクタ』だったんだ」

 レオン様が私の背後に回り、恥ずかしそうに腰を抱き寄せてきました。
 機能停止? 嘘をおっしゃい! 街中を揺るがすほどの探知魔法をぶっ放しておいて!

「レオン様……離してください! 今すぐ掃除を始めないと、明日にはギルドの衛兵さんが乗り込んできますわよ!」

「……いいじゃないか。それより、三日ぶりに君の匂いがするこの部屋に帰ってこれたことを、もっと噛み締めさせてくれ」

 スリスリと私の首筋に顔を寄せるレオン様。重い。物理的にも、感情的にも重いです!
 あんなにクールで無口だった「氷の天才」はどこへ行ったんですか!?

「旦那様! お戻り……あら、リネット様!?」

 そこへ、奥からマーサさんが飛び出してきました。彼女の髪はボサボサで、手にはなぜかフライパンを握りしめています。

「リネット様、よくぞ戻ってくださいました! 旦那様ったら、貴女がいなくなった途端に食事も睡眠も拒否して、挙げ句の果てに『リネットのいない世界なんて、分子レベルで再構築してやる』なんて不穏な呪文を唱え始めるんですもの!」

「……再構築!? 世界を滅ぼす気だったんですかレオン様!」

「……君がいない世界に、守る価値などないと思っただけだ」

 さらっと恐ろしいことを言うレオン様。
 私は彼をぐいっと押し戻し、腕をまくりました。

「分かりました! 私が戻ってきたからには、もうそんな物騒な魔法は禁止です! ほら、レオン様はあっちの作業場で、溜まっている新作の調整を始めてください! 私はこの『紙の山』を片付けますから!」

「……リネット、怒った顔も可愛いな。……もっと叱ってくれ」

「変な性癖に目覚めないでください! 早く行って!」

 私はレオン様を作業場へ押し込み、バタンとドアを閉めました。
 ふう、と一息ついて、荒れ果てた事務室を見渡します。……正直、泣きたくなるような惨状です。でも。

(……ああ。やっぱり、ここが私の居場所なんだわ)

 棚の隅に残っていた、私の飲みかけのハーブティーの茶葉。引き出しに残った、彼が昔くれた予備のペン。それらを見るだけで、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じました。

 私はエプロンを締め直し、窓を大きく開けました。秋の爽やかな風が、淀んだ空気を一掃していきます。

「よし! 事務員リネット、本日より復帰いたしますわ!」

 ペンを執り、帳簿を開き、私は猛烈な勢いで「事務処理」を開始しました。
 
 数時間後。作業場のドアが少しだけ開き、レオン様が恐る恐る顔を出しました。

「……リネット。これ、受け取ってほしい」

 彼の手には、出来立ての、温かい魔力を帯びた小さなペンダントがありました。

「これは?」

「『世界一安全な結界』だ。……もう二度と、君が俺の知らないところで泣いたり、勝手に遠くへ行ったりしないように。……俺の魔力が、君をずっと守り続ける」

 ペンダントを受け取ると、指輪の時と同じように、彼の真っ直ぐすぎる、不器用すぎる愛が流れ込んできました。
 
 契約で始まった二人の関係。
 お金と義理で繋がっていると思い込んでいた三年間。

 でも、今私たちの間にあるのは、そんな冷たい言葉ではなく、もっと強くて、もっと「重い」、確かな愛でした。

「ありがとうございます、レオン様。……でも、結界を張らなくても、私はもうどこへも行きませんから。覚悟してくださいね?」

 私が微笑むと、レオン様は顔を真っ赤にして、幸せそうに視線を泳がせました。

 こうして、世界一不器用な天才魔導具師と、世界一有能な元契約婚約者の物語は、山積みの始末書と、終わることのない溺愛の日々へと続いていくのでした。
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