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銀髪の言い訳
「……フロンティアの家系は、代々、混じり気のない金髪か栗毛だ」
静寂を切り裂いたのは、氷の礫のようなユリウスの声だった。
彼は一歩、また一歩と寝台の傍らへ歩み寄る。その足音は、死神が刻む時刻のように冷酷だった。ユリウスは、細く白い指先を伸ばし、赤子の銀色の産毛を、まるでおぞましい汚物に触れるかのような手つきでなぞった。
「シャルロット。……僕の先祖の誰一人として持たなかったこの銀髪が、どうして唐突に、僕たちの子供に現れたのか。その理屈を、僕が納得できるように説明してもらおうか」
「あ、あ……それは……隔世遺伝、ですわ……! そう、きっと遠い昔の先祖に……」
「見苦しいね」
ユリウスの緑の瞳が、底知れぬ暗闇を湛えて彼女を射抜いた。
「僕が、そんな子供騙しの嘘に騙されるほど愚かだと思っているのかい? この銀髪、そしてこの顔立ち……。エナリアン公爵家の血を引く者特有の、あの忌々しいほど整った造形そのものではないか」
ユリウスは、赤子を抱くシャルロットの手を、万力のような力で掴み上げた。
「君は、僕という夫がありながら、公爵嫡男と不潔に肌を重ね、あまつさえその不義の子を、僕の『嫡子』として育てさせようとした。……フロンティア侯爵家の名を、そして僕の誇りを、これほどまでに汚した罪の重さを、理解しているのか?」
「ひっ……! 離して、痛いわ……ユリウス様……!」
「痛い? 冗談じゃない。僕が、そしてマグノリア公爵夫人が、この数ヶ月間、どれほどの屈辱に耐えてきたと思っているんだ」
ユリウスが冷徹な微笑を浮かべた。その瞳には、もはや慈悲のかけらもない。シャルロットは、自分が「勝利した」と思っていた場所が、実は処刑台の真上であったことを、今さらながらに悟り、ガタガタと震えだした。
同じ頃、エナリアン公爵邸の大広間では、血を吐くような怒号が飛び交っていた。
シモンは、父公爵と母夫人の前で、膝を突き、額を床に擦り付けていた。
「申し訳ございません……父上、母上……。あの日、一度だけ……本当に一度きりの過ちだったのです……!」
「黙れ! 恥知らずめ!」 バキッ!!
エナリアン公爵の重厚な杖が、シモンのすぐ傍の床を激しく叩いた。重厚な木目の床に亀裂が入るほどの衝撃。
「一度だろうが百度だろうが、結果は同じだ! 他家の、それも代々宰相を輩出するフロンティア家に、我が公爵家の血を引く不義の子を産ませるなど、正気の沙汰ではない!」
だが、最も凄惨な形相をしていたのは、母である公爵夫人だった。
彼女は、届いたばかりのシャルロットの母・ゴードン伯爵夫人からの「強請りの手紙」を、引き裂いてシモンの顔に投げつけた。
「シモン! あなたは、この私を、この公爵家をどこまで貶めれば気が済むの!? 『至宝』であるマグノリアという完璧な妻を迎えながら、あんな、泥にまみれた娼婦のような女と……!」
夫人は、狂ったように部屋の中を歩き回り、壁に飾られた肖像画を爪で掻きむしった。
「あの小賢しい盗人ども……! 没落寸前の伯爵家を立て直すために、私の息子を食い物にしたのよ! 許さない、絶対に許さないわ! ゴードン家の血など、この国から一滴残らず枯らし尽くしてやる!」
「母上、落ち着いてください……!」
「落ち着けですって!? どの口が言うの! 相手は、あの冷徹なユリウスなのよ! 彼が、この事実を黙って見過ごすとでも思っているの!? 今この瞬間も、彼は我が家の息の根を止めるための刃を研いでいるはずよ!」
公爵夫人の指摘は、正鵠を得ていた。
エナリアン家が守ってきた「誇り」は、シモンの浅はかな情欲によって、今や毒薬へと変わっていた。ルミナリア王国からの抗議、王家からの事情聴取、そしてフロンティア家からの巨額の慰謝料請求……。
シモンは、自分の犯した「若気の至り」という言葉の甘さを、今さらながら呪った。
目の前で狂い叫ぶ母。絶望に沈む父。
そして何より、自分を信じて嫁いできたはずのマグノリアが、この一件を知った時、どのような「審判」を下すのか。
「……私は、どうすればいいんだ……」
シモンが漏らした弱々しい言葉を、公爵夫人の冷笑が切り裂いた。
「どうすればいい? 決まっているわ。……その子を、そしてあの女を、この世から消し去るのよ。証拠さえなくなれば、あとはいくらでも言い逃れができる……」
「母上!? ご自分の孫を殺せというのですか!?」
「孫? 冗談じゃないわ! あんなものは、我が家を滅ぼす呪いでしかない! シモン、あなたが選ぶのは、公爵家の存続か、それとも泥沼の死か……答えなさい!」
エナリアン公爵邸に響き渡る、呪詛に満ちた母の叫び。
その時、屋敷の正門が乱暴に開かれ、国王からの使者が姿を現した。
「エナリアン公爵嫡男シモン! ――ならびに公爵夫妻!直ちに王城へ登城せよ! ルミナリア王国との国交を揺るがす重大な不祥事について、陛下が直々に裁きを下される!」
逃げ場は、もうどこにもなかった。シモンの目の前に広がるのは、愛欲の末に辿り着いた、底なしの断崖絶壁だった。
__________
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静寂を切り裂いたのは、氷の礫のようなユリウスの声だった。
彼は一歩、また一歩と寝台の傍らへ歩み寄る。その足音は、死神が刻む時刻のように冷酷だった。ユリウスは、細く白い指先を伸ばし、赤子の銀色の産毛を、まるでおぞましい汚物に触れるかのような手つきでなぞった。
「シャルロット。……僕の先祖の誰一人として持たなかったこの銀髪が、どうして唐突に、僕たちの子供に現れたのか。その理屈を、僕が納得できるように説明してもらおうか」
「あ、あ……それは……隔世遺伝、ですわ……! そう、きっと遠い昔の先祖に……」
「見苦しいね」
ユリウスの緑の瞳が、底知れぬ暗闇を湛えて彼女を射抜いた。
「僕が、そんな子供騙しの嘘に騙されるほど愚かだと思っているのかい? この銀髪、そしてこの顔立ち……。エナリアン公爵家の血を引く者特有の、あの忌々しいほど整った造形そのものではないか」
ユリウスは、赤子を抱くシャルロットの手を、万力のような力で掴み上げた。
「君は、僕という夫がありながら、公爵嫡男と不潔に肌を重ね、あまつさえその不義の子を、僕の『嫡子』として育てさせようとした。……フロンティア侯爵家の名を、そして僕の誇りを、これほどまでに汚した罪の重さを、理解しているのか?」
「ひっ……! 離して、痛いわ……ユリウス様……!」
「痛い? 冗談じゃない。僕が、そしてマグノリア公爵夫人が、この数ヶ月間、どれほどの屈辱に耐えてきたと思っているんだ」
ユリウスが冷徹な微笑を浮かべた。その瞳には、もはや慈悲のかけらもない。シャルロットは、自分が「勝利した」と思っていた場所が、実は処刑台の真上であったことを、今さらながらに悟り、ガタガタと震えだした。
同じ頃、エナリアン公爵邸の大広間では、血を吐くような怒号が飛び交っていた。
シモンは、父公爵と母夫人の前で、膝を突き、額を床に擦り付けていた。
「申し訳ございません……父上、母上……。あの日、一度だけ……本当に一度きりの過ちだったのです……!」
「黙れ! 恥知らずめ!」 バキッ!!
エナリアン公爵の重厚な杖が、シモンのすぐ傍の床を激しく叩いた。重厚な木目の床に亀裂が入るほどの衝撃。
「一度だろうが百度だろうが、結果は同じだ! 他家の、それも代々宰相を輩出するフロンティア家に、我が公爵家の血を引く不義の子を産ませるなど、正気の沙汰ではない!」
だが、最も凄惨な形相をしていたのは、母である公爵夫人だった。
彼女は、届いたばかりのシャルロットの母・ゴードン伯爵夫人からの「強請りの手紙」を、引き裂いてシモンの顔に投げつけた。
「シモン! あなたは、この私を、この公爵家をどこまで貶めれば気が済むの!? 『至宝』であるマグノリアという完璧な妻を迎えながら、あんな、泥にまみれた娼婦のような女と……!」
夫人は、狂ったように部屋の中を歩き回り、壁に飾られた肖像画を爪で掻きむしった。
「あの小賢しい盗人ども……! 没落寸前の伯爵家を立て直すために、私の息子を食い物にしたのよ! 許さない、絶対に許さないわ! ゴードン家の血など、この国から一滴残らず枯らし尽くしてやる!」
「母上、落ち着いてください……!」
「落ち着けですって!? どの口が言うの! 相手は、あの冷徹なユリウスなのよ! 彼が、この事実を黙って見過ごすとでも思っているの!? 今この瞬間も、彼は我が家の息の根を止めるための刃を研いでいるはずよ!」
公爵夫人の指摘は、正鵠を得ていた。
エナリアン家が守ってきた「誇り」は、シモンの浅はかな情欲によって、今や毒薬へと変わっていた。ルミナリア王国からの抗議、王家からの事情聴取、そしてフロンティア家からの巨額の慰謝料請求……。
シモンは、自分の犯した「若気の至り」という言葉の甘さを、今さらながら呪った。
目の前で狂い叫ぶ母。絶望に沈む父。
そして何より、自分を信じて嫁いできたはずのマグノリアが、この一件を知った時、どのような「審判」を下すのか。
「……私は、どうすればいいんだ……」
シモンが漏らした弱々しい言葉を、公爵夫人の冷笑が切り裂いた。
「どうすればいい? 決まっているわ。……その子を、そしてあの女を、この世から消し去るのよ。証拠さえなくなれば、あとはいくらでも言い逃れができる……」
「母上!? ご自分の孫を殺せというのですか!?」
「孫? 冗談じゃないわ! あんなものは、我が家を滅ぼす呪いでしかない! シモン、あなたが選ぶのは、公爵家の存続か、それとも泥沼の死か……答えなさい!」
エナリアン公爵邸に響き渡る、呪詛に満ちた母の叫び。
その時、屋敷の正門が乱暴に開かれ、国王からの使者が姿を現した。
「エナリアン公爵嫡男シモン! ――ならびに公爵夫妻!直ちに王城へ登城せよ! ルミナリア王国との国交を揺るがす重大な不祥事について、陛下が直々に裁きを下される!」
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