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再臨の女神――「制服」という名の衝撃
二学期の始業を控えた朝。
私は自室の大きな姿見の前で、己の姿を隅々まで点検していた。
身にまとったのは、一年ぶりに袖を通した学園指定の制服。かつてのエスメラルダが「雑巾のような布切れ」と吐き捨てた一着だが、今の私にはむしろ新鮮だ。華美な宝石は一切排除し、耳元に控えめなパールのピアスを一つ。腰まで届く輝やく金髪は、サイドをすっきりと纏め、後ろでパールのバレッタを使って留めた。
化粧も、唇に淡いピンクのリップを引き、頬にほんのりと熱を宿したようなチークをのせる。
「……ああ! 眩しいわ! なんて美人なの! すごいわ、わたくし、最高!」
鏡の中の「超絶美少女」は、以前の刺々しさが消え、年相応のあどけなさと清潔感がプラスされていた。完璧だ。自画自賛を繰り返す私を、後ろで控える侍女たちは呆れながらも、どこか誇らしげに微笑んでいる。
「さあ、マリア。いよいよ学園が始まるわよ!」
私は気合を入れ直し、廊下を颯爽と歩き出した。
「……お嬢様。どうして、そんなに漲っていらっしゃるのでしょうか。これまでは、学園へ行くのは苦痛でしかなかったはずですが」
「あら、そう? わたくし、いつも学習意欲満々で通学していたでしょう?」
「……そのようなことは、私の記憶では、一度もございませんが」
「あなた、正直すぎると出世しないわよ」
「私は、一生涯お嬢様の専属侍女でいることが目標ですので、これ以上の出世は不要ですわ」
そんな丁々発止のやり取りをしながら、馬車に乗り込む。
「ベゼット、腰の調子はどう?」
「はい! おかげさまで三週間もしっかりお休みをいただき、全快いたしました。お嬢様、本当にありがとうございました!」
かつての彼女なら名も呼ばなかったであろう老齢の御者が、心底嬉しそうに顔を綻ばせる。私はその様子に満足し、「無理はしないでね」と言い添えてから、学園へと向かった。
ミッテラン公爵家の紋章が刻まれた馬車が、校門の正面に堂々と停車した。
夏休み明けの喧騒に包まれていた校門付近が、一瞬にして静まり返る。誰もが「あの」エスメラルダ公爵令嬢が、また派手なドレスで現れ、誰かを怒鳴りつけるのを予期していたのだ。
だが、降り立った彼女の姿に、誰もが言葉を失った。
「ベゼット、ありがとう。また帰りにお願いね。気をつけて帰りなさい」
御者に声をかける姿、そして声をかけられた御者が深々と頭を下げて笑顔で見送る光景。それだけで、周囲の生徒たちの度肝を抜くには十分だった。
「マリア、あなたは控えの間で待機しているのよね? 何かあったら無理をしないで報告なさい、いいわね」
「……お嬢様、ご自身の心配をなさってください。どうぞお気をつけて」
「じゃあ、また昼休みにね」
気さくに侍女と会話を交わし、軽やかな足取りで校舎へと向かうエスメラルダ。
何より周囲を震撼させたのは、彼女が「制服」を着用していることだった。
これまで彼女の美しさは、一人だけ派手なドレスを着ているが故の「特別待遇ゆえの当然の美」だと思われていた。しかし、今ここにいる彼女はどうだ。
輝く金髪、吸い込まれそうな紫の瞳、白磁の肌に愛らしいピンクの唇。そして何より、特注品かと思うほどに制服が似合っている。背筋がピンと伸びたその佇まいは、制服の上からでもわかる抜群のスタイル――いわゆる「ボン・キュッ・ボン」の完成形――を際立たせていた。
以前の威圧的なオーラは消え、代わりに高潔で清廉な、本物の「公爵令嬢」の威厳が漂っている。
「……おい、あれ、本当にエスメラルダ様か?」
「制服姿なんて初めて見た。……信じられない、女神じゃないか」
周囲がどよめき、遠巻きに見ていたその時。
「エスメラルダ!!!」
三人の生徒が、真っ直ぐに彼女の元へ駆け寄ってきた。
子爵令嬢のヤスミン、伯爵令嬢のビビアン、そして男爵令息のマイクだ。
野次馬たちは息を呑んだ。
(まずい、下位貴族が不用意に近づいた! また癇癪が起きるぞ!)
(呼び捨てたぞ!彼女たちを公衆の面前で辱めるつもりか?)
面白い見せ物を期待し、あるいは恐怖で目を逸らす生徒たち。
しかし、その想像は見事に、完膚なきまでに裏切られる。
「あら、ヤスミン、マイク、ビビアン。おはよう。昨日の今日で悪いけれど、早速頼りにしてもいいかしら?」
エスメラルダは、春の陽光のような穏やかな微笑みを浮かべ、三人の元へ歩み寄ったのだ。
「も、もちろんですよ! 私たち、エスメラルダと一緒に教室へ行こうって約束してたんです!」
ヤスミンが誇らしげに胸を張る。昨日の茶会を経て、彼女たちはすでに「女王の側近」としての自覚を抱いていた。
公爵令嬢が、二人の下位貴族と、伯爵令嬢に囲まれ、にこやかに挨拶を交わしながら談笑している。その光景に、周囲は石のように固まり、脳の処理が追いつかないまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
かつて孤独な傲慢を貫いた「悪役令嬢」が、最強の味方を引き連れて、ついに教室への扉を開く。
「さあ、二学期一発目の初登校。まずはこの空気を、根こそぎ変えてあげるわ」
エスメラルダは不敵に微笑み、四人で連れ立ってSクラスの教室へと足を踏み入れた。
その背中には、もはや誰にも汚せない圧倒的な覇気が宿っていた。
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身にまとったのは、一年ぶりに袖を通した学園指定の制服。かつてのエスメラルダが「雑巾のような布切れ」と吐き捨てた一着だが、今の私にはむしろ新鮮だ。華美な宝石は一切排除し、耳元に控えめなパールのピアスを一つ。腰まで届く輝やく金髪は、サイドをすっきりと纏め、後ろでパールのバレッタを使って留めた。
化粧も、唇に淡いピンクのリップを引き、頬にほんのりと熱を宿したようなチークをのせる。
「……ああ! 眩しいわ! なんて美人なの! すごいわ、わたくし、最高!」
鏡の中の「超絶美少女」は、以前の刺々しさが消え、年相応のあどけなさと清潔感がプラスされていた。完璧だ。自画自賛を繰り返す私を、後ろで控える侍女たちは呆れながらも、どこか誇らしげに微笑んでいる。
「さあ、マリア。いよいよ学園が始まるわよ!」
私は気合を入れ直し、廊下を颯爽と歩き出した。
「……お嬢様。どうして、そんなに漲っていらっしゃるのでしょうか。これまでは、学園へ行くのは苦痛でしかなかったはずですが」
「あら、そう? わたくし、いつも学習意欲満々で通学していたでしょう?」
「……そのようなことは、私の記憶では、一度もございませんが」
「あなた、正直すぎると出世しないわよ」
「私は、一生涯お嬢様の専属侍女でいることが目標ですので、これ以上の出世は不要ですわ」
そんな丁々発止のやり取りをしながら、馬車に乗り込む。
「ベゼット、腰の調子はどう?」
「はい! おかげさまで三週間もしっかりお休みをいただき、全快いたしました。お嬢様、本当にありがとうございました!」
かつての彼女なら名も呼ばなかったであろう老齢の御者が、心底嬉しそうに顔を綻ばせる。私はその様子に満足し、「無理はしないでね」と言い添えてから、学園へと向かった。
ミッテラン公爵家の紋章が刻まれた馬車が、校門の正面に堂々と停車した。
夏休み明けの喧騒に包まれていた校門付近が、一瞬にして静まり返る。誰もが「あの」エスメラルダ公爵令嬢が、また派手なドレスで現れ、誰かを怒鳴りつけるのを予期していたのだ。
だが、降り立った彼女の姿に、誰もが言葉を失った。
「ベゼット、ありがとう。また帰りにお願いね。気をつけて帰りなさい」
御者に声をかける姿、そして声をかけられた御者が深々と頭を下げて笑顔で見送る光景。それだけで、周囲の生徒たちの度肝を抜くには十分だった。
「マリア、あなたは控えの間で待機しているのよね? 何かあったら無理をしないで報告なさい、いいわね」
「……お嬢様、ご自身の心配をなさってください。どうぞお気をつけて」
「じゃあ、また昼休みにね」
気さくに侍女と会話を交わし、軽やかな足取りで校舎へと向かうエスメラルダ。
何より周囲を震撼させたのは、彼女が「制服」を着用していることだった。
これまで彼女の美しさは、一人だけ派手なドレスを着ているが故の「特別待遇ゆえの当然の美」だと思われていた。しかし、今ここにいる彼女はどうだ。
輝く金髪、吸い込まれそうな紫の瞳、白磁の肌に愛らしいピンクの唇。そして何より、特注品かと思うほどに制服が似合っている。背筋がピンと伸びたその佇まいは、制服の上からでもわかる抜群のスタイル――いわゆる「ボン・キュッ・ボン」の完成形――を際立たせていた。
以前の威圧的なオーラは消え、代わりに高潔で清廉な、本物の「公爵令嬢」の威厳が漂っている。
「……おい、あれ、本当にエスメラルダ様か?」
「制服姿なんて初めて見た。……信じられない、女神じゃないか」
周囲がどよめき、遠巻きに見ていたその時。
「エスメラルダ!!!」
三人の生徒が、真っ直ぐに彼女の元へ駆け寄ってきた。
子爵令嬢のヤスミン、伯爵令嬢のビビアン、そして男爵令息のマイクだ。
野次馬たちは息を呑んだ。
(まずい、下位貴族が不用意に近づいた! また癇癪が起きるぞ!)
(呼び捨てたぞ!彼女たちを公衆の面前で辱めるつもりか?)
面白い見せ物を期待し、あるいは恐怖で目を逸らす生徒たち。
しかし、その想像は見事に、完膚なきまでに裏切られる。
「あら、ヤスミン、マイク、ビビアン。おはよう。昨日の今日で悪いけれど、早速頼りにしてもいいかしら?」
エスメラルダは、春の陽光のような穏やかな微笑みを浮かべ、三人の元へ歩み寄ったのだ。
「も、もちろんですよ! 私たち、エスメラルダと一緒に教室へ行こうって約束してたんです!」
ヤスミンが誇らしげに胸を張る。昨日の茶会を経て、彼女たちはすでに「女王の側近」としての自覚を抱いていた。
公爵令嬢が、二人の下位貴族と、伯爵令嬢に囲まれ、にこやかに挨拶を交わしながら談笑している。その光景に、周囲は石のように固まり、脳の処理が追いつかないまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
かつて孤独な傲慢を貫いた「悪役令嬢」が、最強の味方を引き連れて、ついに教室への扉を開く。
「さあ、二学期一発目の初登校。まずはこの空気を、根こそぎ変えてあげるわ」
エスメラルダは不敵に微笑み、四人で連れ立ってSクラスの教室へと足を踏み入れた。
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