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親友アナスタシアの違和感
学園での私の孤立は、真綿で首を絞められるように、ゆっくりと、けれど確実に行き詰まっていた。
そんな中、唯一変わらぬ態度で接してくれたのが、親友のアナスタシア・カークランド公爵令嬢だった。
王太子マクシミリアン様の婚約者であり、カークランド公爵家の長女である彼女は、その地位にふさわしい聡明さと、物事の本質を見抜く鋭い目を持っていた。
「……グレース。あなた、少しお人好しが過ぎるのではないかしら?」
ある日の放課後、アナスタシアに誘われて訪れた公爵家の茶会で、彼女は開口一番にそう言った。
周囲に控える侍女たちを遠ざけ、二人きりになったサロンでの言葉だった
「どういうこと? アナスタシア」
「バレリーのことよ。あの子、最近あなたのいないところで随分な言い草をしているわ。あなたが彼女の意思を奪い、自分の思い通りに着せ替えて楽しんでいる……なんて、被害者面をして触れ回っているのをご存知?」
私はティーカップを置く手がわずかに震えるのを感じた。
やはり、噂は本当だったのだ。バレリーが「私からちゃんと言っておく」と言ったあの日から、状況は良くなるどころか悪化していた。
「……彼女なりの照れ隠しか、あるいは言葉の綾だと思っていたの。私たちは同い年の従姉妹で、ずっと一緒に育ってきたのだもの。私を貶めて、彼女に何の得があるというの?」
「得なんて、感情的なものに決まっているでしょう。自分より恵まれた立場のあなたを、道徳的な『悪』に仕立て上げることで、彼女は『清廉な悲劇のヒロイン』になれるのだから。周囲の令嬢たちを見てごらんなさい。皆、バレリーを慰めることに酔いしれているわ」
アナスタシアは呆れたように溜息をついた。
「いい? グレース。あなたたちが身につけているそのドレス一着で、どれほどの金貨が動いているか。子爵家の令嬢が、自分一人の力でそれを用意できるはずがないことくらい、分かっている人は分かっている。けれど、多くの人は『目に見える涙』を信じてしまうものなのよ」
「……分かっているわ。でも、今さら『これは私のお金よ』なんて主張するのも、無粋でしょう?」
「無粋かもしれないけれど、自分の身を守る術は持っておきなさい。……特に、あなたの婚約者。スティーブ様も、近頃バレリーと親しくしているようですし」
アナスタシアの言葉に、私の胸の奥が冷たく冷え切った。
スティーブ。パトリオット侯爵家の嫡男であり、私の婚約者でもある彼。
彼は真面目で正義感が強い人だ。だからこそ、バレリーの「涙」が嘘だとは夢にも思わないだろう。
「あの子は、自分がいかに愛らしいかを知り尽くしている。グレース、あなたが彼女を飾れば飾るほど、彼女はその宝石を使ってあなたの首を絞める武器にするわ。これ以上、あの子に買い与えるのはお辞めなさい」
「……ありがとう、アナスタシア。考えておくわ」
私はそう答えるのが精一杯だった。
親友の忠告は、兄パトリックの言葉と同じくらい正しかった。
けれど、家に帰ればまた、バレリーが私の部屋を訪れ、「ねえ、グレース! 今度の観劇に着ていくリボン、お揃いの色で選びたいわ」と、無邪気な笑顔で甘えてくるのだ。
その笑顔の裏で、彼女が私を「趣味を押し付ける傲慢な女」として吹聴しているのだと思うと、吐き気がした。
私は、バレリーの桃色の髪を撫でながら、心の中で自分に問いかけた。
私が彼女を飾っているのか。それとも、私が彼女という虚飾に、私自身の居場所を奪われているのか。
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そんな中、唯一変わらぬ態度で接してくれたのが、親友のアナスタシア・カークランド公爵令嬢だった。
王太子マクシミリアン様の婚約者であり、カークランド公爵家の長女である彼女は、その地位にふさわしい聡明さと、物事の本質を見抜く鋭い目を持っていた。
「……グレース。あなた、少しお人好しが過ぎるのではないかしら?」
ある日の放課後、アナスタシアに誘われて訪れた公爵家の茶会で、彼女は開口一番にそう言った。
周囲に控える侍女たちを遠ざけ、二人きりになったサロンでの言葉だった
「どういうこと? アナスタシア」
「バレリーのことよ。あの子、最近あなたのいないところで随分な言い草をしているわ。あなたが彼女の意思を奪い、自分の思い通りに着せ替えて楽しんでいる……なんて、被害者面をして触れ回っているのをご存知?」
私はティーカップを置く手がわずかに震えるのを感じた。
やはり、噂は本当だったのだ。バレリーが「私からちゃんと言っておく」と言ったあの日から、状況は良くなるどころか悪化していた。
「……彼女なりの照れ隠しか、あるいは言葉の綾だと思っていたの。私たちは同い年の従姉妹で、ずっと一緒に育ってきたのだもの。私を貶めて、彼女に何の得があるというの?」
「得なんて、感情的なものに決まっているでしょう。自分より恵まれた立場のあなたを、道徳的な『悪』に仕立て上げることで、彼女は『清廉な悲劇のヒロイン』になれるのだから。周囲の令嬢たちを見てごらんなさい。皆、バレリーを慰めることに酔いしれているわ」
アナスタシアは呆れたように溜息をついた。
「いい? グレース。あなたたちが身につけているそのドレス一着で、どれほどの金貨が動いているか。子爵家の令嬢が、自分一人の力でそれを用意できるはずがないことくらい、分かっている人は分かっている。けれど、多くの人は『目に見える涙』を信じてしまうものなのよ」
「……分かっているわ。でも、今さら『これは私のお金よ』なんて主張するのも、無粋でしょう?」
「無粋かもしれないけれど、自分の身を守る術は持っておきなさい。……特に、あなたの婚約者。スティーブ様も、近頃バレリーと親しくしているようですし」
アナスタシアの言葉に、私の胸の奥が冷たく冷え切った。
スティーブ。パトリオット侯爵家の嫡男であり、私の婚約者でもある彼。
彼は真面目で正義感が強い人だ。だからこそ、バレリーの「涙」が嘘だとは夢にも思わないだろう。
「あの子は、自分がいかに愛らしいかを知り尽くしている。グレース、あなたが彼女を飾れば飾るほど、彼女はその宝石を使ってあなたの首を絞める武器にするわ。これ以上、あの子に買い与えるのはお辞めなさい」
「……ありがとう、アナスタシア。考えておくわ」
私はそう答えるのが精一杯だった。
親友の忠告は、兄パトリックの言葉と同じくらい正しかった。
けれど、家に帰ればまた、バレリーが私の部屋を訪れ、「ねえ、グレース! 今度の観劇に着ていくリボン、お揃いの色で選びたいわ」と、無邪気な笑顔で甘えてくるのだ。
その笑顔の裏で、彼女が私を「趣味を押し付ける傲慢な女」として吹聴しているのだと思うと、吐き気がした。
私は、バレリーの桃色の髪を撫でながら、心の中で自分に問いかけた。
私が彼女を飾っているのか。それとも、私が彼女という虚飾に、私自身の居場所を奪われているのか。
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