【完結】私の真似ばかりする従姉妹 ~「彼女の嘘で婚約者を奪われたけど、すべて私のお金だけど、大丈夫?」~

恋せよ恋

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トルモン侯爵の激昂

  パーティー会場の華やかな喧騒が、遠い世界の出来事のように思えるほど、別室の空気は凍りついていた。

 部屋の重厚な扉が閉じられた瞬間、そこにいたのは、震えるバレリーと顔を伏せたビオレッタ叔母様、そして崩れ落ちそうなシモンおじ様だった。
 中央に立つ私の父、デビット・トルモン侯爵は、これまでに見たこともないような冷徹な眼差しで、乳兄弟であるシモンおじ様を見据えていた。

「……シモン。説明してもらおうか。ここに並べられた、我が家を騙った不当な請求書の数々を」

 父の声は低く、しかし部屋の隅々にまで響き渡る威圧感に満ちていた。
 シモンおじ様は、血の気の引いた顔で何度も首を振った。

「デビット……違うんだ、私は本当に、こんなことが行われていたなんて知らなかったんだ! 全ては妻と娘が……」

「『知らなかった』で済むと思っているのか!」

 父が机を激しく叩いた。その音に、バレリーとビオレッタ叔母様が短く悲鳴を上げる。

「お前は私の友人であり、兄弟だと思っていた。お前の母上が私を育ててくれた恩を、私は一度たりとも忘れたことはない。だからこそ、シシリア家の苦境を聞くたびに、私は自分の資産を削ってでも手を差し伸べてきたのだ」

 父の瞳に、激しい怒りと共に、深い失望の影が差す。

「だが、お前たちはその恩義を、我が家を食い物にするための『免罪符』に変えた。私の娘、グレースの善意を逆手に取り、彼女を偽善者と呼び、その財布から金を盗み続けていた。……これはもはや、親戚間のいさかいではない。トルモン侯爵家に対する、明白な反逆だ」

「デビット、待ってくれ! 頼む、もう一度だけチャンスを……!」

 シモンおじ様が父の足元に縋り付こうとしたが、父はその手を冷たく振り払った。

「シモン。私は今日、お前の母上の墓前で誓ってきた。もし、お前が私の信頼を裏切っていたのであれば、その時は未練を断つと。……これを見ろ」

 父が突きつけたのは、シシリア家がこれまでトルモン家から受け取ってきた全ての経済的支援の停止命令書、そして、今日まで累積した「不当利益」の返還を求める公式な文書だった。

「本刻を以て、トルモン侯爵家とシシリア子爵家の絶縁を宣言する。乳兄弟としての絆も、親戚としての情愛も、今この瞬間に全て消滅した。お前たちに貸し出している王都の屋敷は、三日以内に立ち退け。シシリア領への一切の援助も即刻打ち切る」

「そんな……! それでは、我が家は破産してしまいますわ!」

 ビオレッタ叔母様が絶叫した。彼女にとって、侯爵家の後ろ盾を失うことは、社交界からの追放と没落を意味する。

「破産? 結構なことだ。これまでグレースの金で着飾ってきたその贅沢な生活を、身の丈に合ったものに戻すだけではないか。……シモン、お前の管理不足が招いた結果だ。お前はもう、私の知っている従兄弟ではない」

 父は一瞥もくれず、私の方へ歩み寄った。そして、私の肩を力強く抱き寄せた。

「グレース。すまなかった。お前が一人でこれほどの屈辱に耐え、泥を被っていたことに気づけなかった私の不徳だ。……もういい。お前を縛るものは、何一つない」

 父の温かい手のひらの熱が、私の冷え切っていた心に染み渡っていく。
 私は、床に伏して嗚咽を漏らすバレリーを見下ろした。彼女の桃色の髪は乱れ、私が贈った最高級のドレスは涙と泥に汚れている。

「バレリー。あなたが言った通りになったわね」

 私は静かに告げた。

「あなたは自由よ。私の『横取り』からも、私の『偽善』からも、そして私のお金からも。……今日から、あなた自身の力で、あなたの人生を歩んでちょうだい。……もし、歩けるのであれば」

「グレース……お願い、行かないで! 私が悪かったわ、助けてちょうだい!私たち従姉妹でしょう!」

 バレリーの虚しい叫びを背に、私たちは別室を後にした。
 廊下に出ると、そこにはパトリック兄様とレオ、そしてエドワード殿下が待っていた。

 トルモン侯爵家の後ろ盾を失ったシシリア家。
 彼らを待っているのは、これまで踏み倒してきた借金の山と、手のひらを返したように冷たくなった世間の目。
 
 長い、本当に長い十年間の「偽りの友情」が、今、完全に幕を閉じた。
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