【完結】私の真似ばかりする従姉妹 ~「彼女の嘘で婚約者を奪われたけど、すべて私のお金だけど、大丈夫?」~

恋せよ恋

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スティーブの没落と後悔

  卒業パーティーでの騒動は、一夜にして王都全土に知れ渡った。
 パトリオット侯爵家の嫡男スティーブが、婚約者の従姉妹と不貞を働き、あろうことか公衆の面前で虚偽の罪を突きつけて婚約破棄を宣言した……。その醜聞は、格式を重んじるパトリオット侯爵家にとって、致命的な泥を塗る行為だった。

「……父上、お願いです! 僕は、彼女の涙を信じただけなんです!」

 パトリオット侯爵邸の広間。スティーブは床に膝をつき、父であるパトリオット侯爵に必死に許しを請うていた。
 しかし、侯爵の瞳にあるのは、息子への愛ではなく、家名を汚した者への底冷えするような怒りだった。

「黙れ。不貞を働いただけではなく、トルモン侯爵家という最大の友邦を敵に回し、王族の前で醜態を晒した。……お前に、この家を継ぐ資格など万に一つもない」

 侯爵は無造作に、一通の公文書をスティーブの前に投げ捨てた。

「本日を以て、お前を廃嫡とする。……パトリオットの名を名乗ることも許さん。北の果て、凍てつく領地の代官として、一生あそこで罪を償え。……それが、私からお前に与える最後の慈悲だ」

「そんな……代官!? あんな辺境に、一人で行けと言うのですか!」

「一人? ……ああ、あの子爵令嬢のことか」

 侯爵は鼻で笑った。

「彼女の持参金は、トルモン家からの請求書に相殺されて消えた。家格も、名誉も、財産もない女を、我が家が迎え入れるとでも思ったか?」

 スティーブは絶望に顔を歪ませ、力なく項垂れた。
 彼はようやく気づいたのだ。自分が守ろうとした「可憐な花」は、自分という土台を腐らせる毒草に過ぎなかったことを。そして、自分が捨てたグレースという女性が、どれほどの愛と富で自分を支えてくれていたのかを。



 その頃、パトリオット邸の裏門近く。
 身なりをやつしたバレリーが、必死の形相で一人の青年に縋り付いていた。
 スティーブの弟であり、新たに嫡男となった次男のリチャードである。

「リチャード様! お願い、私を見捨てないで……。スティーブ様には騙されたの! 私は、本当はあなたのような聡明な方に憧れていたのよ!」

 彼女は、泥で汚れたドレスの裾を揺らし、かつてスティーブを落とした「涙の微笑み」を向けた。
 兄が廃嫡された今、次の当主となるリチャードに取り入ること。それが、彼女が必死に絞り出した最後の一手だった。

「……離せ。汚らわしい」

 リチャードは、バレリーの手をゴミでも払うように冷たく振り払った。
 兄とは違い、幼い頃からグレースの凛とした姿に敬意を抱いていた彼は、バレリーの本性を冷徹に見抜いていた。

「スティーブ兄上は愚かだったが、君はそれ以上に浅ましい。……兄上の代わりが僕だと? 誰が、兄を破滅させた疫病神を招き入れるものか」

「そんな……私、行き場がないの! お父様にも見捨てられて、お母様は修道院へ……!」

「自業自得だ。君が纏っているその汚れた布切れ、グレース様が買い与えたものだろう? ……その皮を剥いで、裸で這いつくばってでも生きていくんだね。二度と、我が家の敷居を跨ぐな」

 リチャードは背を向け、衛兵に命じて彼女を門の外へと突き出させた。
 
 石畳の上に放り出されたバレリー。
 彼女は反射的に、スティーブから贈られたサファイアの指輪を隠すように右手を握りしめた。……けれど、そこにあるはずの重みは、もうない。
 指に残っているのは、宝石を支えていた四本の爪が歪に突き出した、無惨な金の台座だけだ。
 先ほどパトリオット邸の裏門で待ち構えていた借金取りの商人に、指が折れんばかりの勢いで石だけを力ずくで剥ぎ取られてしまったのだ。

「ああ……ああ……っ」

 宝石が抜けた空洞は、まるで今の彼女の人生そのものだった。
 かつてグレースから「お揃い」で買い与えられた数々の至宝。それらを「押し付けられた」と蔑み、二銭にもならない模造品ですり替えていた彼女が、最後に手に入れた「本物」は、たった数分間の輝きの後、泥にまみれた爪跡だけを残して消えていった。
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📢新連載🌹【不治の病の姉の身代わりとして生きてきた私ですが、姉の完治と同時に婚約者も継承権も奪われました】

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