身勝手な王女の騎士様、離縁して差し上げますわ。えっ!なぜ泣きそうな顔で私を抱きしめるのですか?

恋せよ恋

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王女のマウント

  王宮の東側に位置する「白磁の庭園」は、見渡す限りの白い薔薇に囲まれ、眩いほどの陽光に満ちていた。けれど、その美しさは私にとって、鋭い針の筵に座らされているような心地良さでしかなかった。

「まあ、いいわ。わたくしからの、せめてもの慰めだと思って、今日のお茶会を楽しみなさい」

 銀髪を高く結い上げたアレクシア王女殿下が、扇を優雅に揺らしながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。その背後には、不動の姿勢で控える一人の騎士の姿があった。

 私の夫、エリック・フォックス。

 彼は今日、近衛騎士としての「職務」でここにいる。王女の影のように付き従い、その安全を保障する盾として。

「さあ、エリック。わたくしの好みの茶葉は分かっているわね?」

 王女が甘ったるい声で命じると、エリック様は無表情のまま、一歩前に出た。彼は慣れた手つきでティーポットを扱い、王女のカップに琥珀色の液体を注ぐ。その一連の動作には無駄がなく、流麗でさえあった。

「ふふ、さすがね。エリックはわたくしの好みを全て把握しているの。ねえ、エリック? ジュリエット様にはまだ分からないでしょうけれど、エリックとわたくしには、共に積み重ねてきた『長い歴史』がありますもの」

 王女はわざとらしく、私とエリック様の間に割って入るように身を乗り出した。

「覚えているかしら、エリック? 十歳の時、わたくしが風邪を引いて寝込んだ際、貴方はつきっきりで絵本を読んでくれたわね。あの日から、貴方はわたくしだけの騎士になると誓ってくれた……。あ、そうそう、学園の創立祭でわたくしが迷子になった時も、貴方は真っ先にわたくしを見つけて抱き上げてくださったわ。あの時の貴方の腕の温かさ、今でも忘れられなくてよ」

 次々と語られる「二人の思い出話」。それは幼い頃から、王太子アルバート殿下の学友であるエリック様を、アレクシア王女が一方的に追いかけ回していた記憶の断片に過ぎない。エリック様にとってそれは護衛対象としての公務であり、王太子への忠義の延長だったはずだ。

 けれど王女は、それをあたかも「秘められた恋の記憶」であるかのように、周囲の夫人たちの前で脚色して披露してみせる。

 周囲に座るご夫人たちの間には、しらけた空気が漂っていた。皆、王女の独りよがりな執着を知り尽くしている。けれど、アレクシア王女はそんな視線などお構いなしに、陶酔した瞳でエリック様を見上げた。

「エリック、貴方もそう思うでしょう? 私たちは、誰よりも深く繋がっているのだと」

 詰め寄るような王女の問いに、エリック様はただ「……御意のままに、王女殿下」とだけ答え、深く頭を下げた。
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