21 / 22
朝の光と、永遠のワルツ
翌朝。フォックス侯爵邸のダイニングには、昨夜までの重苦しい空気が嘘のような、眩いばかりの陽光が差し込んでいた。
「……それでね、ジュリエットが。朝日に照らされた彼女が、あまりに聖女のように神々しくて、僕はまた心臓が止まるかと思ったんだ。ああ、昨日までの地獄が信じられない。僕は世界で一番幸せな男だ!」
朝食の席で、エリックは焼きたてのパンを手に取ることすら忘れ、頬を緩ませて熱烈に語り続けていた。その隣で、ジュリエットは顔を真っ赤にしながら、静かに紅茶を口に運んでいる。
「エリック様、もうそのくらいになさってくださいませ……。お父様もお母様も呆れていますわ」
「いいじゃないか! 隠す必要なんてどこにもない。僕は君を愛しているんだ!」
その様子を冷ややかな、それでいてどこか安堵したような目で見つめていたのは、ジュリエットの妹、次女のメルローズだった。彼女はジャムをパンに塗りながら、深くため息をついた。
「……お姉様。エリック様がこれほどまでに『残念な愛妻家』だったなんて、私、予想もつきませんでしたわ。昨夜の鼻血騒動といい、麗しの近衛騎士様が形無しですこと。お姉様も、よく耐えていらっしゃいますわね」
「メルローズ、言い過ぎよ。でも……」
ジュリエットは困ったように微笑みながらも、その瞳にはエリックへの深い慈しみが宿っていた。
フォックス侯爵夫妻も、娘の晴れやかな顔を見て、ようやく胸のつかえが取れたように顔を見合わせた。王女の影に怯え、白い結婚を覚悟していた花嫁は、今、真実の愛に包まれて輝いている。
数日後。王宮では、盛大な夜会が催された。
会場の扉が開かれ、「フォックス侯爵夫妻」の名が告げられると、居並ぶ貴族たちの視線が一斉に注がれた。
腕を組み、ゆっくりと入場する二人。
エリックは隙のない騎士の正装に身を包み、その横でジュリエットは、彼の瞳の色と同じドレスを纏っていた。
二人がダンスフロアの中央へ進み出ると、音楽が緩やかに流れ出す。エリックのリードは力強く、かつ壊れ物を扱うように優しかった。見つめ合う二人の間には、もはや一寸の疑念も入り込む余地はない。
「……幸せそうね。あんなに素敵なご夫婦だったなんて」
「ええ、本当。今まで王女殿下が邪魔をしていたのが、つくづく悔やまれるわ」
周囲からは、かつての同情ではなく、心からの祝福を込めた優しい眼差しと囁きが送られた。
一曲終え、テラスで夜風に当たっていた二人のもとへ、王太子アルバートが静かに歩み寄ってきた。
「エリック。それにジュリエット嬢……いや、フォックス次期侯爵。……妹が、本当にすまなかったね」
アルバートはそう言って、自らグラスを掲げた。
「お前たちがこうして笑い合える日が来たこと、私としても肩の荷が下りた思いだ。エリック、良かったな。お前の剣は、これからは国のため、そして隣にいるその最愛の妻を守るために振るえ」
「――もったいないお言葉です、殿下…… ありがとう、アルバート」
エリックは深く頭を下げ、それから隣に立つジュリエットの手を、指を絡めるようにして強く握りしめた。
「僕は、この手を二度と離しません。彼女こそが、僕の全ての光ですから」
ジュリエットもまた、夫の手に力を込め、幸せそうに微笑み返した。王宮の空を彩る花火が、二人の門出を祝うように夜空に大輪の花を咲かせる。
長い夜は明けた。雨は上がり、空はどこまでも高く、澄み渡っている。
かつて「白い結婚」に震えた花嫁と、言葉を失った騎士は、今、永遠の愛という名の光の中を、二人で歩み始めたのだ。
ハッピーエンド
__________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
📢新連載🌹【さよなら、愛した人 ~絶望の夜に宿ったのは、かつて二人で夢見た命~】
「……それでね、ジュリエットが。朝日に照らされた彼女が、あまりに聖女のように神々しくて、僕はまた心臓が止まるかと思ったんだ。ああ、昨日までの地獄が信じられない。僕は世界で一番幸せな男だ!」
朝食の席で、エリックは焼きたてのパンを手に取ることすら忘れ、頬を緩ませて熱烈に語り続けていた。その隣で、ジュリエットは顔を真っ赤にしながら、静かに紅茶を口に運んでいる。
「エリック様、もうそのくらいになさってくださいませ……。お父様もお母様も呆れていますわ」
「いいじゃないか! 隠す必要なんてどこにもない。僕は君を愛しているんだ!」
その様子を冷ややかな、それでいてどこか安堵したような目で見つめていたのは、ジュリエットの妹、次女のメルローズだった。彼女はジャムをパンに塗りながら、深くため息をついた。
「……お姉様。エリック様がこれほどまでに『残念な愛妻家』だったなんて、私、予想もつきませんでしたわ。昨夜の鼻血騒動といい、麗しの近衛騎士様が形無しですこと。お姉様も、よく耐えていらっしゃいますわね」
「メルローズ、言い過ぎよ。でも……」
ジュリエットは困ったように微笑みながらも、その瞳にはエリックへの深い慈しみが宿っていた。
フォックス侯爵夫妻も、娘の晴れやかな顔を見て、ようやく胸のつかえが取れたように顔を見合わせた。王女の影に怯え、白い結婚を覚悟していた花嫁は、今、真実の愛に包まれて輝いている。
数日後。王宮では、盛大な夜会が催された。
会場の扉が開かれ、「フォックス侯爵夫妻」の名が告げられると、居並ぶ貴族たちの視線が一斉に注がれた。
腕を組み、ゆっくりと入場する二人。
エリックは隙のない騎士の正装に身を包み、その横でジュリエットは、彼の瞳の色と同じドレスを纏っていた。
二人がダンスフロアの中央へ進み出ると、音楽が緩やかに流れ出す。エリックのリードは力強く、かつ壊れ物を扱うように優しかった。見つめ合う二人の間には、もはや一寸の疑念も入り込む余地はない。
「……幸せそうね。あんなに素敵なご夫婦だったなんて」
「ええ、本当。今まで王女殿下が邪魔をしていたのが、つくづく悔やまれるわ」
周囲からは、かつての同情ではなく、心からの祝福を込めた優しい眼差しと囁きが送られた。
一曲終え、テラスで夜風に当たっていた二人のもとへ、王太子アルバートが静かに歩み寄ってきた。
「エリック。それにジュリエット嬢……いや、フォックス次期侯爵。……妹が、本当にすまなかったね」
アルバートはそう言って、自らグラスを掲げた。
「お前たちがこうして笑い合える日が来たこと、私としても肩の荷が下りた思いだ。エリック、良かったな。お前の剣は、これからは国のため、そして隣にいるその最愛の妻を守るために振るえ」
「――もったいないお言葉です、殿下…… ありがとう、アルバート」
エリックは深く頭を下げ、それから隣に立つジュリエットの手を、指を絡めるようにして強く握りしめた。
「僕は、この手を二度と離しません。彼女こそが、僕の全ての光ですから」
ジュリエットもまた、夫の手に力を込め、幸せそうに微笑み返した。王宮の空を彩る花火が、二人の門出を祝うように夜空に大輪の花を咲かせる。
長い夜は明けた。雨は上がり、空はどこまでも高く、澄み渡っている。
かつて「白い結婚」に震えた花嫁と、言葉を失った騎士は、今、永遠の愛という名の光の中を、二人で歩み始めたのだ。
ハッピーエンド
__________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
📢新連載🌹【さよなら、愛した人 ~絶望の夜に宿ったのは、かつて二人で夢見た命~】
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました
お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。
その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。
幼馴染の元カノを家族だと言うのなら、私は不要ですよね。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
実るはずのない初恋は、告白も出来ぬままに終わった。
私リュシカが恋をした相手は、十五歳年上の第一騎士団の団長。彼は亡くなった母の友人であり、母たちと同じ頃に結婚したものの、早くに奥さんを私の母と同じ流行病で亡くしてしまった。
それ以来独身の彼は、ただ亡くなった奥さんを思い生きてきた。そんな一途な姿に、いつしか私は惹かれていく。
しかし歳の差もあり、また友人の子である私を、彼が女性として認めることはなかった。
私は頑なに婚約者を作ることを拒否していたものの、父が縁談を持ってくる。結婚適齢期。その真っただ中にいた私は、もう断ることなど出来なかった。
お相手は私より一つ年上の男爵家の次男。元々爵位を継ぐ予定だった兄が急死してしまったため、婚約者を探していたのだという。
花嫁修業として結婚前から屋敷に入るように言われ赴くと、そこには彼の幼馴染だという平民の女性がいた。なぜか彼女を中心に回っている屋敷。
そのことを指摘すると彼女はなぜか私を、自分を虐げる存在だと言い始め――
「言ってくれれば手伝ったのに」過労で倒れた私に微笑む無神経な夫。~親友を優先させ続けた夫の末路~
水上
恋愛
夫の持病を和らげるため、徹夜で煮詰めた特製コーディアル。
彼はそれを数秒で飲み干し、私の血を吐くような努力を「ただの甘い水だね。もっとパッと作れないの?」と笑った。
彼の健康も商会の名声も、私が裏で支えているとも知らずに。
ある日、過労で倒れた私は、「言ってくれれば手伝ったのに」と無神経な夫に微笑まれた時、心の中で決意した。
地下室にあるコーディアルの瓶は残り15本。
これがすべて空になるまでに彼が変わらなければ、離縁状を叩きつけよう。
私を失い、体調も商会も崩壊して這いつくばる夫をよそに、私は真の評価を得て自分の人生を歩み始める。
これは、透明な存在として扱われ続けた私が、失望のカウントダウンを進めて自立するまでの、そして、すべてを失った夫が惨めに後悔するまでの物語。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
『「ママは我慢してればいいんでしょ?」と娘に言われた日、私は妻をやめた』~我慢をやめた母と、崩れていく家族、そして再生~
まさき
恋愛
私はずっと「いい妻」でいようとしてきた。
夫に逆らわず、空気を読み、波風を立てないように生きる。
それが、この家を守る唯一の方法だと思っていた。
娘にも、そうであってほしかった。
けれど──
その願いは、静かに歪んでいく。
夫の言葉をなぞるように、娘は私を軽んじるようになった。
そしてある日、夕食の後片付けをしていた私に、娘は言った。
「ママはさ、我慢してればいいんでしょ?」
その一言で、何かが壊れた。
我慢することが、母である証だと思っていた。
だがそれは、私自身をすり減らすだけの“呪い”だった。
──もう、我慢するのはやめる。
妻であることをやめ、母として生き直すために。
私は、自分の人生を取り戻す決意をした。
その選択は、家族を大きく揺るがしていく。
崩れていく夫婦関係。
離れていく娘の心。
そして、待ち受ける“ざまぁ”の行方。
それでも私は問い続ける。
母とは何か。
家族とは何か。
そして──私は、どう生きるべきなのか。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし