嘘まみれのお姉様はどうぞお幸せに?〜影武者の私が消えた後、お姉様は一人で何ができるのかしら?〜

恋せよ恋

文字の大きさ
2 / 14

お茶会の残酷な真実

 スワロフ侯爵家の朝食会は、いつだって「完璧な長女」を愛でるための儀式だった。

「カサンドラ、来週のお茶会の主催もあなたに任せるわね。あなたが開くお茶会はいつも趣向が凝らされていて評判が良いもの。お母様、友人たちに会うたびに鼻が高いわ」

 母ミランダが、とろけるような笑顔でカサンドラを見つめる。父フィリップも満足げに頷いた。

「全くだ。カサンドラのおかげで、私も同僚の貴族たちから羨ましがられて誇らしいよ。我が家の至宝だね」

「まあ、お父様もお母様も。わたくし、皆様に喜んでいただきたくて一生懸命考えているだけですのよ。ねえ、ジェニファー?」

 カサンドラが、ふいになんの屈託もない顔で私に同意を求めてくる。

 私は黙ってパンを口に運んだ。
 招待状の文面を考え、季節に合わせた茶葉を厳選し、庭師と打ち合わせて会場の配置図を引いたのは、すべて私だ。姉はただ、完成した計画書を眺めて「あら、いいじゃない」と言っただけ。

 この食卓に、私の居場所はない。
 両親の視線は、初めから私を通り過ぎている。

 唯一、兄のピエールだけが、感情の読めない瞳で黙々と食事を続けていた。彼はこの「茶番」に加わりもしないが、私を助けてくれることもない。

 
  そして当日。
 侯爵家の庭園は、色とりどりの花と、着飾った貴婦人たちの香油の香りに包まれていた。

「カサンドラ様! まあ、なんて素晴らしい趣向ですの。このお菓子、最新の流行を取り入れつつも、お茶の香りを引き立てる絶妙な甘さですわね!」

「本当ですわ! テーブルクロスの刺繍と、飾られた花の色味が完璧に調和しております。流石はカサンドラ様、類まれなる発想力ですわ」

 夫人たちの賞賛の嵐に、カサンドラは頬を染めて、可憐に微笑んだ。

「あら、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただきたくて、夜も眠れずに趣向を凝らしましたの。……ホホホ、喜んでいただけて、苦労した甲斐がありましたわ」

 その「眠れなかった」はずの夜、姉はエミリオ様へ宛てる情熱的な恋文を私に代筆させていた。私はその後も、睡魔と戦いながらお茶会の手配書を完成させていたというのに。

 すると、一人の夫人が、影のようにティーポットを持って控えていた私に冷ややかな視線を向けた。

「それにしても、妹のジェニファー様は……少しはお姉様をお手伝いすればよろしいのに。今日もただ突っ立っているだけ。お姉様がお忙しい中、のんびりできて羨ましいですわね」

「本当ですわ。お姉様がこうも優秀だと、ああも無能……いえ、平凡になってしまうのかしら」

 クスクスという品のない笑い声が広がる。
 私は指先が白くなるほどトレイを握りしめた。すると、カサンドラが待ってましたと言わんばかりに、私の肩に優しく手を置いた。

「まあ、皆様。そうおっしゃらないでくださいな。ジェニファーは……その、不器用で、何をさせても失敗ばかりしてしまう子なのです。でも、わたくしにとっては唯一の可愛い妹。至らないところは、姉であるわたくしが全て補ってあげればいいのですわ」

「まあ! カサンドラ様、なんてお優しい……!」

「ああ、ジェニファー様はお幸せですわね。こんなに完璧で慈悲深いお姉様がいらして」

……ああ、またこれだ。

 姉が「聖女」を演じるための踏み台にされる。
 私が必死に積み上げた努力は、すべて姉の「優しさ」を際立たせるためのスパイスに変換されていく。

「ジェニファー、顔色が悪いわよ? あとはわたくしがやっておくから、あなたは下がって休んでいなさい。皆さんに失礼でしょう?」

 カサンドラの瞳が、一瞬だけ勝ち誇ったように細められた。

 私は静かに頭を下げ、その場を辞した。

(――はい、お姉様。あとはどうぞ、お一人で)

 心の中で冷たく呟く。
 今日のお茶会のために私が用意した茶葉の銘柄も、独自の配合も、姉は何も知らない。
 それでも周囲は「流石はカサンドラ様」と姉を褒めそやし、華やかなお茶会の噂だけが独り歩きしていく。

 冷たく強い風が、ジェニファーの背中を追い立てるように吹き抜けた。まるで、未練など捨てて早く行けと急かされているかのように。
__________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

あなたにおすすめの小説

婚約者の母に疎まれ続けたので、結婚直前ですが先に別の公爵家へ嫁ぎます~今さら惜しまれてももう戻りません~

なつめ
恋愛
侯爵令嬢ネフェリナ・ヴァルケインは、幼い頃から決められていた婚約を守るため、十年近くローディアス・フェルゼンの母に耐え続けてきた。 作法を否定され、贈り物を笑われ、亡き母の思い出まで踏みにじられても、婚約者がいつか自分を守ってくれると信じていたからだ。 けれど結婚式を目前にしても、ローディアスは一度として母を止めなかった。 そのうえ最後には、ネフェリナの我慢を当然のように求める。 もう十分です。 そうして彼女は婚約を解消し、以前から打診のあった北方の名門公爵家へ嫁ぐことを選ぶ。 冷徹と噂される若き公爵セヴェリオ・アルスレイン。 だが彼は、誰よりも静かで、誰よりも確実にネフェリナの尊厳を守る男だった。 去られて初めて焦る元婚約者一家。 けれどその頃にはもう、ネフェリナには新しい居場所ができていた。 これは、長く耐えた令嬢が自分で自分を救い、静かな溺愛の中で本当の幸福を選び直す物語。

姉は不要と判断された~奪うことしか知らない妹は、最後に何も残らなかった~

ゆめ@マンドラゴラ
恋愛
妹にすべてを奪われ続けてきた姉。 ついには婚約者まで狙われ、「不要とされた」。 それは、誰にとっての「不要」だったのか。 「不要とされた」シリーズ第二弾。

完璧な姉を困らせる不出来な妹は追放されました

mios
恋愛
第一王女の親友で第二王子の婚約者でもある完璧な姉アリシアは、不出来で我儘、嘘つきな妹リリアに手を焼いている。

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

愚か者は幸せを捨てた

矢野りと
恋愛
相思相愛で結ばれた二人がある日、分かれることになった。夫を愛しているサラは別れを拒んだが、夫であるマキタは非情な手段でサラとの婚姻関係そのものをなかったことにしてしまった。 だがそれは男の本意ではなかった…。 魅了の呪縛から解き放たれた男が我に返った時、そこに幸せはなかった。 最愛の人を失った男が必死に幸せを取り戻そうとするが…。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

白い結婚十年目、ようやく離縁できると思ったのに 〜冷酷公爵は今さら私を手放さない〜

なつめ
恋愛
十年前、家のために嫁いだ公爵家で、イゼルディナは結婚初夜に告げられた。 「この結婚は白い結婚だ。十年後、お前を離縁する」 愛されない妻として、公爵家のためだけに尽くした十年。 社交、屋敷、領地経営、赤字整理、人脈づくり。夫の隣には立てなくても、公爵家を支えたのは間違いなく彼女だった。 だからこそ、約束通りの離縁状に署名した時、彼女はようやく自由になれると思った。 けれど、冷酷なはずの夫セヴェリオンは、その離縁を認めない。 しかも今さら執着するように、優しく、激しく、取り戻すように迫ってくる。 遅すぎる。 そう突き放すイゼルディナだったが、やがて公爵家に巣食っていた悪意と、セヴェリオンが十年間ひた隠しにしていた真実が明らかになる。 これは、失った十年を「なかったこと」にはせず、 それでも自分の尊厳を取り戻した女が、最後は自分の意志で幸福を選び直す物語。