嘘まみれのお姉様はどうぞお幸せに?〜影武者の私が消えた後、お姉様は一人で何ができるのかしら?〜

恋せよ恋

文字の大きさ
16 / 18

崩壊へのカウントダウン

  学園の卒業を間近に控え、王都の空気は華やかな熱気に包まれていた。その頂点となるのが、卒業記念パーティー。次代を担う貴族の子弟が一堂に会するその夜に、カサンドラは人生最大の「主役」の座を狙っていた。

「いい、ジェニファー。この夜会で、私はウィリアム様との婚約を盤石なものにし、王都中の羨望を独り占めするの。……わかっているわね?」

 スワロフ侯爵家の私室。カサンドラは鏡に映る自分を陶酔した目で見つめながら、背後に控えるジェニファーに傲然と言い放った。

「最高のドレスデザインを三日以内に仕上げなさい。それから、卒業生代表として私が読み上げるスピーチの原稿もよ。誰もが涙し、私の知性と慈愛を称賛するような、完璧なものを書き上げなさい」

 カサンドラが命じる「完璧」の裏側には、常にジェニファーの血の滲むような努力があった。今回も当然、妹の才能を搾取し、自分の手柄にするつもりなのだ。

「……承知いたしました、お姉様。最高に美しく、お姉様の『本性』が輝くようなドレスを。そして、会場にいるすべての方の記憶に刻まれるような、素晴らしい原稿をご用意いたしますわ」

 ジェニファーは深く、静かに頭を下げた。
 その声は、春の足音を待つ冬の湖面のように、かつてないほど冷ややかで、透き通っていた。
自室に戻ったジェニファーは、すぐにペンを走らせた。

 ドレスのデザイン画には、最新の流行と、誰も見たことのないような大胆なカッティングを施す。しかし、その布地の裏側、光の当たり方によってのみ浮かび上がる特殊な糸の仕掛けを、彼女は緻密に計算していった。

(ええ、お姉様。あなたは最高に輝くでしょう。……その輝きが、あなたの嘘をすべて暴き出す、残酷な光になるとも知らずに)
 
 ジェニファーは、カサンドラが好みそうな「聖女」のような美辞麗句を並べ立てた。しかし、その文章の構成には、ある「罠」が仕掛けられていた。

 一見すれば感動的な演説だが、ある法則に従って読み解けば、それはスワロフ侯爵家の不正と、姉の不貞を告発する「懺悔の書」へと変貌する仕掛け。

 さらにジェニファーは、ウィリアムから届けられた最後の手札を封筒に収めた。
 エミリオとカサンドラの密会を裏付ける動かぬ証拠。そして、カサンドラがジェニファーの知性を盗んでいたことを証明する、数年間にわたる筆跡の変遷データ。

「すべて、揃ったわ」

 ジェニファーは窓の外、遠くに見えるザイオン公爵邸の灯りを見つめた。
 ウィリアム様。あの日、中庭で私に「仮面を脱ぎ捨てろ」と言ってくれた人。彼の信頼に応えるためにも、この舞台は失敗できない。


 翌日、ジェニファーは完成した原稿とデザイン画をカサンドラに手渡した。
 カサンドラは内容を一読し、満足げに鼻を鳴らす。

「ふん、まあまあね。特にこのスピーチ。……『私は影の功労者を忘れません』なんて、私が言うと本当に慈悲深く聞こえるわ」

「ええ。お姉様なら、きっと完璧に演じきれますわ」

 ジェニファーは冷めた瞳で、姉が自分の破滅への切符を嬉々として受け取る様を見つめていた。

「ジェニファー、あなたも当日は隅っこで見ていなさい。私が王都の花として咲き誇る瞬間をね。……あなたの平凡な人生では、一生味わえない光景よ」

「楽しみにしておりますわ、お姉様。……本当に、心から」

 ジェニファーの微笑みは、もはや仮面ですらなかった。それは、獲物を罠に追い詰めた狩人の、静かなる歓喜。

 学園の時計塔が、終わりの始まりを告げる鐘を鳴らす。カウントダウンは、すでに始まっていた。
____________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

📢新連載🌹【王太子の賭けに負けた氷の貴公子。クジで選ばれた私への態度は、義務ですか?それとも本気ですか?】

あなたにおすすめの小説

完璧な姉を困らせる不出来な妹は追放されました

mios
恋愛
第一王女の親友で第二王子の婚約者でもある完璧な姉アリシアは、不出来で我儘、嘘つきな妹リリアに手を焼いている。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

愚か者は幸せを捨てた

矢野りと
恋愛
相思相愛で結ばれた二人がある日、分かれることになった。夫を愛しているサラは別れを拒んだが、夫であるマキタは非情な手段でサラとの婚姻関係そのものをなかったことにしてしまった。 だがそれは男の本意ではなかった…。 魅了の呪縛から解き放たれた男が我に返った時、そこに幸せはなかった。 最愛の人を失った男が必死に幸せを取り戻そうとするが…。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

【完結】元サヤに戻りましたが、それが何か?

ノエル
恋愛
王太子の婚約者エレーヌは、完璧な令嬢として誰もが認める存在。 だが、王太子は子爵令嬢マリアンヌと親交を深め、エレーヌを蔑ろにし始める。 自分は不要になったのかもしれないと悩みつつも、エレーヌは誇りを捨てずに、婚約者としての矜持を守り続けた。 やがて起きた事件をきっかけに、王太子は失脚。二人の婚約は解消された。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

妹が婚約者を欲しがり、嫌な予感がしました

南部
恋愛
妹にはまた婚約者がいない。 その妹が婚約者が欲しいと言った。