【完結】「女の子は冷たい男が好き」という幼馴染の嘘を信じた婚約者が、あまりに冷たすぎるので婚約破棄を願い出ます

恋せよ恋

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母アメリアの介入

  ロイド侯爵夫人アメリアは、応接室で深い溜息をついた。
 かつての親友、ナタリー子爵夫人が必死に弁明を並べているが、その声はアメリアの心には届かない。

「アメリア、ジェシカはただ、パトリス様を想うあまりに……」

「ナタリー。それ以上、口を開かないで」

 アメリアの冷徹な一言に、ナタリーは言葉を失った。アメリアは手元の調査書をテーブルに置く。そこには、ジェシカがパトリスに吹き込んだ「歪んだ助言」と、パトリスがスーザンに対して行った冷遇のすべてが記されていた。

「貴方の娘が、我が息子の幼さを利用し、他家の令嬢の心を壊そうとした事実は消えません。友人の娘だと思い目を瞑ってきましたが、もう限界ですわ」

 アメリアは立ち上がり、最後通牒を告げた。

「貴方との縁は今日、この瞬間に切らせていただきます。そして、ジェシカ嬢については、侯爵家の権限で学園へ働きかけ、無期限の登校禁止、実質的な追放処分といたしました。子爵家がこれ以上、社交界で恥をさらしたくないのであれば、賢明な判断をなさい」

 ナタリーは青ざめ、崩れ落ちるように部屋を去った。
 しかし、元凶を排除したところで、アメリアの胸のつかえが取れることはなかった。彼女は、息子の部屋を訪ねた。

 そこには、食事も取らず、スーザンから返送された緑色のドレスを抱きしめて座り込む、廃人のようなパトリスの姿があった。

「パトリス。ジェシカはもう、貴方の前には現れません」

「……母上。ジェシカがいなくなれば、スーザンは戻ってきてくれるかな?」

 パトリスが縋るような目で母親を見上げる。アメリアはその頬を、愛の鞭として、静かに、しかし強く打った。

「馬鹿なことを。ジェシカを追い払ったのは、ロイド侯爵家のケジメです。……スーザンの心が戻るかどうかとは、全く別の問題なのですよ」

「でも、僕は騙されていたんだ! 僕は彼女を愛していて、本当は……」

「貴方が何を思っていたかなど、彼女には関係のないことです。彼女が見たのは、貴方の冷たい瞳と、投げつけられた酷い言葉だけ。……いいですか、パトリス。貴方は毒を盛られたのではない。毒だと知りながら、それを彼女に飲ませることを自ら選んだのです」

 母アメリアの言葉は、鋭い刃となってパトリスの胸を抉った。

「彼女はもう、貴方との未来を見ていません。彼女を救うのは、貴方の謝罪ではなく、貴方のいない平穏な時間なのです」

 パトリスは絶叫したかった。だが、その声は出なかった。
 母の言う通りだ。ジェシカという「理由」を排除しても、スーザンを傷つけた「自分」という事実は消えない。

 パトリスは暗い部屋の中で、一度も袖を通されることのなかったドレスの感触だけを感じながら、底知れない孤独に沈んでいった。
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